火葬かそう

火葬かそう（かそう）とは、葬送そうそうの一いち手段しゅだんとして遺体いたいを焼却しょうきゃくすることである。また、遺体いたいの焼却しょうきゃくを伴ともなう葬儀そうぎのことも指さす。

火葬かそうを行おこなう施設しせつを火葬かそう場じょうと呼よぶ。

各かく文化ぶんか圏けんにおける火葬かそう

日本にっぽんにおける火葬かそう

江戸えど時代じだいの火葬かそう（1867年刊ねんかん『日本にっぽんの礼儀れいぎと習慣しゅうかんのスケッチ』より）

火葬かそうは、日本にっぽんでは最もっとも一般いっぱん的てきな葬そう法ほうである。

歴史れきし

仏教ぶっきょう伝来でんらい前まえの火葬かそう例れいも確認かくにんされており、縄文じょうもん時代じだいの遺跡いせきからも、火葬かそう骨こつが出土しゅつどしている。

弥生やよい時代じだい以降いこうの古墳こふんの様式ようしきの一ひとつに「かまど塚づか」「横穴よこあな式しき木き芯しん粘土ねんど室しつ」などと呼よばれる様式ようしきのものがあり、その中なかには火葬かそうが行おこなわれた痕跡こんせきがあるものが認みとめられている。それらは6世紀せいき後半こうはんから出現しゅつげんしており、最古さいこのものは九州きゅうしゅうで590年ねん±75年ねんの火葬かそうが確認かくにんされている。2014年ねん（平成へいせい26年ねん）2月がつ、長崎ながさき県けん大村おおむら市しの弥生やよい時代じだい後期こうき（2世紀せいき頃ころ）の竹松たけまつ遺跡いせきにおける長崎ながさき県けん教育きょういく委員いいん会かいの発掘はっくつ調査ちょうさにより、火葬かそうによる埋葬まいそうと見みられる人骨じんこつが発見はっけんされている。

古墳こふん時代じだいにかけて古墳こふんの造営ぞうえいがピークを迎むかえたが、仏教ぶっきょうの受容じゅようと大化たいかの改新かいしんにより火葬かそうへの切きり替かえが進すすむ。大化たいか2年ねん（646年ねん）には薄葬令はくそうれいが発布はっぷされた。文献ぶんけん記録きろく上じょう、日本にっぽんで最初さいしょに火葬かそうされた人物じんぶつは仏教ぶっきょう僧そうの道昭みちあき（元興寺がんこうじの開祖かいそ）で、文武ぶんぶ天皇てんのう4年ねん（700年ねん）に火葬かそうされた。これについては『続ぞく日本にっぽん紀き』にやや長ながい記事きじがあり（wikisouce）、72歳さいで没ぼっした際さいに遺言ゆいごんによって粟原あわばら寺てらで火葬かそうされたという。『続ぞく日本にっぽん紀き』には「天下てんかの火葬かそうこれよりして始はじまる」と記述きじゅつされている。浅香あさか勝まさる輔は先行せんこうする火葬かそう事例じれいを確認かくにんしながらも「8世紀せいき以降いこう、仏教ぶっきょう文化ぶんかとともに、わが国くにの火葬かそう習俗しゅうぞくは始はじまったとするのが穏当おんとう」としている。現代げんだいでも「火葬かそうにする」の意味いみで用もちいられる言葉ことばとして「荼毘だびに付ふす」がある。この荼毘だび（だび。荼毗とも）は火葬かそうを意味いみするインドの言葉ことば（パーリ語ご: jhāpeti「燃もやす」）に由来ゆらいし、仏教ぶっきょう用語ようごである。

『続ぞく日本にっぽん紀き』によると、最初さいしょに火葬かそうされた天皇てんのうは、大宝たいほう2年ねん（702年ねん）に崩御ほうぎょし、殯（もがり）の儀礼ぎれいの後のち、大宝たいほう3年ねん（703年ねん）に火葬かそうされた持もち統すべ天皇てんのうである。

一般いっぱん的てきには火葬かそうの習俗しゅうぞくはまず天皇てんのうや貴族きぞく、地方ちほう豪族ごうぞくなどの上層じょうそう階級かいきゅうから広ひろがっていった、と説明せつめいされている。なお、大宝たいほう元年がんねん（701年ねん）編纂へんさんの『大宝たいほう律令りつりょう』には、行軍こうぐん中ちゅうの兵士へいしや防人さきもりが死亡しぼうした際さいには火葬かそうするという規定きていが含ふくまれている。

『万葉集まんようしゅう』には

隠かくれ口こうの 泊はく瀬せの山やまの 山際やまぎわに いさよふ雲くもは 妹いもうとにかもあらむ — 柿本人麻呂かきのもとのひとまろ

と短歌たんかで詠よまれ、最愛さいあいの人ひとを送おくる、最後さいごの別わかれの煙けむりが「いさよふ雲くも」であり、それはとりもなおさず妹いもうとと認識にんしきできると歌うたわれており、万葉まんよう人じん特有とくゆうのゆかしさと優やさしさが感かんじられると、日本にっぽんでの近代きんだい火葬かそう炉ろ開発かいはつの元祖がんそである鳴海なるみ徳いさお直ただしは述のべている。

一方いっぽう、土葬どそうも廃すたれたわけではなく、平安へいあん時代じだい以降いこう、皇族こうぞく、貴族きぞく、僧侶そうりょなどに火葬かそうが広ひろまった後のちも、土葬どそうが広ひろく用もちいられていた。仏教徒ぶっきょうとも含ふくめて、近世きんせいまでの主流しゅりゅうは火葬かそうよりも死体したいを棺桶かんおけに収おさめて土中どちゅうに埋うめる土葬どそうであった。儒教じゅきょうの価値かち観かんでは身体しんたいを傷きずつけるのは大おおきな罪つみであったほか、人口じんこうの急増きゅうぞうで埋葬まいそう地ちの確保かくほが難むずかしくなる明治めいじ期きに到いたるまでは、少すくなくとも一般いっぱん庶民しょみんにとっては土葬どそうの方ほうが安上やすあがりだったためとの説せつがある。比熱ひねつの高たかい（＝温度おんどが上あがりにくい）水分すいぶんや分子ぶんし構造こうぞうが巨大きょだいで複雑ふくざつなタンパク質たんぱくしつを多量たりょうに含ふくんだ遺体いたいという物質ぶっしつを焼やき骨こつに変かえるまで燃もやすには、生活せいかつ必需ひつじゅ品ひんとしても貴重きちょうだった薪たきぎを大量たいりょうに用もちいる必要ひつようがある。また、効率こうりつよく焼やくための高度こうどに専門せんもん的てきな技術ぎじゅつが求もとめられるため、火葬かそうは費用ひようがかかる葬儀そうぎ様式ようしきであった。

明治めいじ時代じだいに入はいると、東京とうきょうの市街地しがいちに近接きんせつする火葬かそう場じょうの臭気しゅうきや煤煙ばいえんが近隣きんりん住民じゅうみんの健康けんこうを害がいしている事ことが問題もんだいになり、警保寮りょう（警視庁けいしちょうの前身ぜんしん）が司法省しほうしょうへ火葬かそう場じょう移転いてん伺うかがいを出だした。この問題もんだいに際さいし明治めいじ政府せいふは神道しんとう派はが主張しゅちょうする「火葬かそう場じょう移転いてんを検討けんとうするのは浮屠ふと（仏教ぶっきょう僧そう）が推進すいしんする火葬かそうを認みとめたことになる。火葬かそうは仏教ぶっきょう葬そう法ほうであり廃止はいしすべき」との主張しゅちょうを採とり、東京とうきょう府ふ、京都きょうと府ふ、大阪おおさか府ふに土葬どそう用よう墓地ぼちは十分じゅうぶんに確保かくほ可能かのうか調査ちょうさするよう命めいじた。土葬どそう用よう墓地ぼち枯渇こかつの虞おそれは低ひくいとの報告ほうこくを受うけた直後ちょくごの明治めいじ6年ねん（1873年ねん）7月がつ18日にちに国家こっか神道しんとうによる挙国一致きょこくいっちを目指めざした神仏しんぶつ分離ぶんり令れいに関連かんれんして火葬かそう禁止きんし令れい（太政官だじょうかん布告ふこく第だい253号ごう）を布告ふこくした。

だが、都市とし部ぶでは間まもなく土葬どそう用よう墓地ぼちが枯渇こかつし始はじめて、埋葬まいそう料りょうが高騰こうとうしたり埋葬まいそう受うけ入いれが不可能ふかのうとなる墓地ぼちも出でてきたりして混乱こんらんを招まねいた。仏教徒ぶっきょうとや大学だいがく者しゃからは、火葬かそう再開さいかいを求もとめる建白けんぱく書しょが相次あいつぎ、政府せいふ内部ないぶからも火葬かそう禁止きんし令れいに反対はんたいする意見いけんが出でて、明治めいじ8年ねん（1875年ねん）5月がつ23日にちには禁止きんし令れいを廃止はいししている。

その後ご、明治めいじ政府せいふは火葬かそう場じょう問題もんだいから宗教しゅうきょう的てき視点してんを排はいして、公衆こうしゅう衛生えいせい的てき観点かんてんから火葬かそうを扱あつかうようになった。伝染でんせん病びょう死体したいの火葬かそう義務ぎむ化かに加くわえて、土葬どそう用よう墓地ぼちの新設しんせつや拡張かくちょうに厳きびしい規制きせいを掛かけ、人口じんこう密集みっしゅう度どの高たかい地域ちいきには、土葬どそう禁止きんし区域くいきを設定せっていするなどの政策せいさくを取とった。1896（明治めいじ29）年ねんのデータでは火葬かそう率りつは26.8％で、大都市だいとし部ぶと浄土真宗じょうどしんしゅう門徒もんとの多おおい北陸ほくりく地方ちほうで火葬かそうが多おおい。大正たいしょう時代じだいより地方ちほう公共こうきょう団体だんたいが火葬かそう場じょう設営せつえいに積極せっきょく的てきになり、土葬どそうより火葬かそうの方ほうが費用ひようや人手ひとでが少すくなくて済すむようになったこともあり、現代げんだいの日本にっぽんでは火葬かそうが飛躍ひやく的てきに普及ふきゅうし、ほぼ100%の火葬かそう率りつである。

背景はいけい

高たかい煙突えんとつを持もたない近代きんだい的てきな火葬かそう場じょう（1993年ねん 宮本工業所みやもとこうぎょうしょ製せい）

土葬どそう習慣しゅうかんが根強ねづよい一部いちぶ地区ちくの住民じゅうみん、火葬かそうを禁忌きんきする宗教しゅうきょう宗派しゅうはの者もの、大だい規模きぼ災害さいがいにより火葬かそう場じょうが使つかえない場合ばあいを除のぞいて、ほとんど全すべての遺体いたいは火葬かそうされる。その理由りゆうとしては以下いかの点てんが挙あげられる。

• 公衆こうしゅう衛生えいせいの観点かんてんから土葬どそうよりも衛生えいせい的てきであるため。伝染病でんせんびょう等とうで死しんだ場合ばあいはもちろんだが、通常つうじょうの死亡しぼう原因げんいんによる埋葬まいそうであっても、土中どちゅうの微生物びせいぶつによる腐敗ふはいが進すすんでも社会しゃかいに影響えいきょうを与あたえないためには衛生えいせい上じょう、広域こういきな墓域ぼいきを必要ひつようとする。
• 強つよい信仰しんこうを持もたない人ひとが多おおく、埋葬まいそうの方法ほうほうにこだわりがない。現代げんだいの日本にっぽんでは、火葬かそうがごく普遍ふへん的てきなものとなっており、世間体せけんていにも無難ぶなんなものとして受うけ入いれられる。
• 日本にっぽんの葬儀そうぎの8割わり以上いじょうが仏式ぶっしきであること。
• 都市としに人口じんこうが集中しゅうちゅうしており、その都市とし部ぶでは遺体いたいそのまま埋葬まいそう（土葬どそう）が条例じょうれいにより禁止きんしされているか、土葬どそうを許可きょかされている墓地ぼちを確保かくほすることが極きわめて困難こんなんであること。
• 墓はかは家族かぞくを単位たんいとして考かんがえる人ひとが多おおい。将来しょうらい的てきには子こや孫まごなど、後世こうせいに続つづく子孫しそんたち（結婚けっこんして他家たけに嫁とついだ女性じょせいは、嫁とつぎ先さきの墓はかに納骨のうこつされる）も同おなじ墓ぼに入はいるので、先祖せんぞと同おなじ墓ぼに入いれるように体積たいせきを減へらすため火葬かそうする。

しかし日本にっぽんにおいても火葬かそうを忌いむ場合ばあいはある。

• 神道しんとう家いえの一部いちぶには火葬かそうを仏教徒ぶっきょうとの残虐ざんぎゃくな葬儀そうぎ法ほうとして禁忌きんきする思想しそうがある。
• 琉球りゅうきゅう諸島しょとうは風葬ふうそうと洗あらい骨こつ葬そうの文化ぶんかがあったため火葬かそう率りつが低ひくかった。20世紀せいきに火葬かそうが定着ていちゃくし現代げんだいではほぼ火葬かそうである。

世界せかい的てきにみて、イスラム教いすらむきょうやキリスト教きりすときょうに、火葬かそうを禁忌きんきとする戒律かいりつを有ゆうする文化ぶんかが少すくなくない（後述こうじゅつ）。近年きんねんでは日本にっぽん国内こくないの日本人にっぽんじん・外国がいこく人じんの中なかでムスリムの人口じんこうが増加ぞうかしており、火葬かそうが主流しゅりゅうの日本にっぽん国内こくないで暮くらす彼かれらは、山梨やまなし県けん甲州こうしゅう市しと北海道ほっかいどう余市よいち町まちの2箇所かしょしかない土葬どそうが可能かのうな施設しせつにあたらなければならない。

なお、ムスリムは死後しご24時間じかん以内いないに埋葬まいそうを終おえなければならないが、日本にっぽん国内こくないでは下記かきするように墓地ぼち、埋葬まいそう等とうに関かんする法律ほうりつで、一部いちぶの例外れいがいに該当がいとうしない限かぎり、死亡しぼう後ご24時じ間あいだは埋葬まいそうができない。ましてや土葬どそう可能かのうな施設しせつが遠隔えんかく地ちにあることが殆ほとんどなので、埋葬まいそうまでに死後しご数日すうじつ、墓地ぼちを確保かくほできていない場合ばあいは、それ以上いじょうをどうしても要ようしてしまう状況じょうきょうにある。

手続てつづき

日本にっぽんでは、墓地ぼち、埋葬まいそう等とうに関かんする法律ほうりつ（墓はか埋うめ法ほう）第だい3条じょうの規定きていにより、死体したいもしくは妊娠にんしん7か月げつ以上いじょうの胎児たいじは、原則げんそくとして死後しごもしくは死産しざん後ご24時間じかん以内いないは、火葬かそうおよび土葬どそうしてはならない。

但ただし、妊娠にんしん6ヶ月かげつ以下いかの胎児たいじは対象たいしょう外がいであるほか、感染かんせん症しょう法ほう30条じょうの規定きていにより、同どう法ほうで定さだめられている一類いちるいから三さん類るいまでの感染かんせん症しょうや、新型しんがたインフルエンザ・新型しんがたコロナウイルス等ひとしの感染かんせん症しょうによる死亡しぼうの場合ばあいは遺体いたいからの感染かんせんを防止ぼうしする観点かんてんから、24時間じかん以内いないの火葬かそうが許可きょかされている。この場合ばあいは火葬かそう終了しゅうりょう後ごに葬儀そうぎを行おこなうなど、通常つうじょうの葬儀そうぎとは逆ぎゃくの順序じゅんじょになる。（感染かんせん症しょうの予防よぼう及および感染かんせん症しょうの患者かんじゃに対たいする医療いりょうに関かんする法律ほうりつの項こうおよび関連かんれん法令ほうれい条文じょうぶんを参照さんしょう）。

また、火葬かそうを行おこなう場合ばあいには、当該とうがい死体したいに係かかる死亡しぼう届とどけ等ひとしを受理じゅりした市町村しちょうそん長ちょうの許可きょかが必要ひつようである（墓はか埋うめ法ほう第だい5条じょう）。この許可きょかを受うけずに火葬かそうした場合ばあいには、墓はか埋うめ法ほう違反いはんとなるほか（「罰則ばっそく」規定きてい同どう法ほう第だい21条じょう）、刑法けいほう第だい190条じょう「死体したい遺棄いき・死体したい損壊そんかい罪つみ」の刑罰けいばつに問とわれる行為こういである。このため、火葬かそう許可きょか証しょうは火葬かそう場じょうに提出ていしゅつする必要ひつようがあり、これがないと火葬かそうを拒否きょひされる。火葬かそう終了しゅうりょう後ごは火葬かそう証明しょうめい書しょとして扱あつかわれ、納骨のうこつの際さいにも必要ひつようとなる。

仏式ぶっしきでは、火葬かそうの後のちの「焼やき骨こつ」は骨壷こつつぼに収おさむ（拾じつ）骨ほねして、土中どちゅうに埋蔵まいぞう（日本にっぽんの法律ほうりつでは火葬かそう後ごの焼しょう骨ほねを土中どちゅうに安置あんちすることを「焼やき骨こつの埋蔵まいぞう」と定義ていぎしている）するか、納骨のうこつ堂どう等ひとしに収蔵しゅうぞうされることになる（墓地ぼち、埋葬まいそう等とうに関かんする法律ほうりつ第だい2条じょう）。したがって火葬かそうは「葬儀そうぎの手段しゅだんの一ひとつ」というよりも、葬儀そうぎの一いち過程かていであるという考かんがえ方かたもある。または、死体したいの減げん容よう化か処理しょり、安定あんてい化かの一方いっぽう法ほうと言いうことも出来できる。なお、墓はか埋うめ法ほうでは土葬どそうなど、火葬かそう以外いがいの方法ほうほうを禁きんじてはいないが、環境かんきょう衛生えいせい面めんから行政ぎょうせいは火葬かそうを奨励しょうれいしている。特とくに東京とうきょう都と（島嶼とうしょ部ぶ以外いがいでは八王子はちおうじ市し、町田まちだ市し、国立こくりつ市しなど10市し2町まち1村むらを除のぞく）や大阪おおさか府ふなどでは、条例じょうれいで土葬どそうを禁止きんししている。

散骨さんこつされる場合ばあいもあるが、北海道ほっかいどう長沼ながぬま町まちなど、都道府県とどうふけんまたは市町村しちょうそんの条例じょうれいにより禁止きんし・規制きせいしている地域ちいきもある。

皇族こうぞくの火葬かそう

平安へいあん時代じだい前期ぜんきから近世きんせい前期ぜんきにかけては、天皇てんのう、皇族こうぞくの埋葬まいそう方法ほうほうは仏教ぶっきょうの影響えいきょうから火葬かそうが主流しゅりゅうであった。近世きんせい後期こうき以降いこう、皇族こうぞくの埋葬まいそう方法ほうほうは土葬どそうとされた。1617年ねんに崩御ほうぎょした後こう陽成ようぜい天皇てんのうを最後さいごに火葬かそうの制せいは（一旦いったん）取とりやめとなった。巨大きょだいな陵りょう（墓はか）を築きずき土葬どそうする古代こだい様式ようしきに復ふくされたのは奥おく八兵衛はちべえの逸話いつわに見みて取とれるように、幕末ばくまつ期きの1867年ねん（慶応けいおう2年ねん）に崩御ほうぎょした孝明天皇こうめいてんのう以降いこうである。

その後ご、明治めいじ以降いこうから昭和しょうわ前期ぜんきまでは皇族こうぞくの埋葬まいそう方法ほうほうは基本きほん的てきに土葬どそうで、天皇てんのうも後水尾天皇ごみずのおてんのう以降いこうは昭和しょうわ天皇てんのうに至いたるまで土葬どそうが続つづいた。しかし昭和中しょうわなか期き以降いこう、陵りょうに葬ほうむられる天皇てんのう皇后こうごうを除のぞく皇族こうぞくは、本人ほんにん（もしくは遺族いぞく）の希望きぼう等とうで火葬かそうされる例れいが増ふえていき、その最初さいしょの例れいとなった秩父宮雍仁親王ちちぶのみややすひとしんのう以降いこう、皇族こうぞくの身分みぶんのまま薨去こうきょした者もの（親王しんのう妃ひ含ふくむ）は最新さいしんの事例じれいである2016年ねん10月がつに薨去こうきょした三笠みかさ宮みや崇たかし仁じん親王しんのうに至いたるまで全員ぜんいんが火葬かそうされている。秩父宮ちちぶのみや夫妻ふさいや高松宮たかまつのみや夫妻ふさいについては夫婦ふうふ合ごう葬そうされている。

天皇てんのう皇后こうごうについては土葬どそうとされていたが、2012年ねん4月がつ26日にち、宮内庁くないちょうは天皇てんのうや皇后こうごうが崩御ほうぎょした際さいの埋葬まいそう方法ほうほうを、当時とうじの天皇てんのうだった明仁あきひとおよび皇后こうごうだった美智子みちこの意向いこうにより、旧来きゅうらいの土葬どそうから火葬かそうに変かえる方針ほうしんで検討けんとうすると発表はっぴょう、儀式ぎしき面めんの変更へんこうについて検討けんとうに入はいった。

宮内庁くないちょうの説明せつめいによれば、この検討けんとう開始かいしは前年ぜんねん秋あきの上うえ皇后こうごう美智子みちこの誕生たんじょう日びにおける、記者きしゃ団だんからの質問しつもんをきっかけとしたものであった。上うえ皇后こうごうは即答そくとうすることは避さけたものの、前々まえまえから自分じぶんたちの葬そう制せいについては話はなし合あいを持もっており、上皇じょうこうはこれを機会きかいとして宮内庁くないちょうに検討けんとうを要請ようせいしたという。

上皇じょうこうはいずれ自みずからが葬ほうむられることになる武蔵むさし陵墓りょうぼ地ちに、自分じぶんたちを含ふくめて少すこしでも多おおくの被葬ひそう者しゃを収容しゅうようできればとの意向いこうをもっていた。しかし敷地しきちは限かぎられており、火葬かそうであれば陵りょうの用地ようちを縮小しゅくしょうできるので、被葬ひそう者しゃ数すうの増加ぞうかが実現じつげんできるのではないかと考かんがえたという。

そして2013年ねん11月14日にち、検討けんとうを終おえた宮内庁くないちょうは、上皇じょうこうと上うえ皇后こうごうの葬儀そうぎを火葬かそうとすることを発表はっぴょうした。皇太子こうたいしだった徳とく仁ひとしや秋篠宮あきしののみや文ぶん仁じん親王しんのうなどの皇室こうしつ関係かんけい者しゃの了承りょうしょうも得えている。火葬かそうは武蔵むさし陵墓りょうぼ地ちに設置せっちされる専用せんようの設備せつびを使つかって行おこなわれることとされた。同時どうじに両者りょうしゃの陵りょうの予定よてい地ちも大正たいしょう天皇陵てんのうりょうの多摩たま陵りょうの西側にしがわに定さだめられた。

上うえ皇后こうごうとの合ごう葬そうも上皇じょうこうは希望きぼうしていたが、上うえ皇后こうごうが恐おそれ多おおいとして辞退じたいを申もうし出でたことに加くわえ、先立さきだった方ほうの祭祀さいしが後こうから崩御ほうぎょした方ほうの葬儀そうぎ行事ぎょうじ中ちゅうには行おこなえないという技術ぎじゅつ的てき理由りゆうもあって、取とりやめとなった。しかし陵りょうは完全かんぜんに隣となり合あわせに造営ぞうえいされることとなり、皇族こうぞく拝はい所しょなどの設備せつびは別々べつべつに設置せっちされるものの、一般いっぱん拝はい所しょについては境界きょうかいは設もうけられず、一体いったい的てきに整備せいびされる。これらの変更へんこうにより、当初とうしょの意向いこう通どおり、陵りょうのサイズ及および兆ちょう域いきが大おおきく縮小しゅくしょうされることとなった。

多た死し社会しゃかいの到来とうらい

団塊だんかいの世代せだい全すべてが75歳さい以上いじょうになる2025年ねんには、年間ねんかん死亡しぼう者しゃ数すうは140万まん人にんを超こえると推測すいそくされる。このため火葬かそう場じょう不足ふそくが深刻しんこく化かし、葬儀そうぎ・火葬かそう・埋葬まいそうができない、いわゆる“葬儀そうぎ難民なんみん”問題もんだいが到来とうらいすることが懸念けねんされている。

1988年ねんには全国ぜんこくに1900以上いじょうあった火葬かそう場じょうが2016年ねん時点じてんには統合とうごう・大型おおがた化かの影響えいきょうなどで1500に減少げんしょうし、死者ししゃの数かずがピークに達たっする2025年ねんには、東京とうきょう近郊きんこうなどの都心としん部ぶを中心ちゅうしんに、火葬かそう能力のうりょくが追おい付つかない事態じたいが想定そうていされ、首都しゅと圏けんでは火葬かそうまで1週間しゅうかん待まちなどの事態じたいも生しょうじている。

しかしながら、火葬かそう場じょうの新設しんせつに対たいしては周辺しゅうへん住民じゅうみんの反対はんたい運動うんどうが多おおく、建設けんせつがスムーズには進すすみにくい。一方いっぽう、火葬かそう場じょう不足ふそくをチャンスととらえた「遺体いたいホテル」などの新しんビジネスが生うまれている。埋葬まいそう場所ばしょの不足ふそくも深刻しんこくで、東京とうきょう都とでは8ヵ所かしょの都立とりつ霊園れいえんの申もうし込こみ倍率ばいりつは20-30倍ばいとなっている。

生活せいかつ困窮こんきゅう者しゃが死亡しぼうした際さいの火葬かそう代だいなどとして厚生こうせい労働省ろうどうしょうが支給しきゅうする葬祭そうさい扶助ふじょ費ひの総額そうがくが、2021年ねん度どには全国ぜんこくで約やく104億おく円えんに及およぶことが明あきらかになっている。困窮こんきゅうする独居どっきょ高齢こうれい者しゃの増加ぞうかのほか、故人こじんの引びき取とりを拒否きょひする親族しんぞくの増加ぞうかが背景はいけいにあるとされ、多た死し社会しゃかいにおける公的こうてき支援しえんのあり方かたが問とわれている。

中国ちゅうごくにおける火葬かそう

中国共産党ちゅうごくきょうさんとうは火葬かそうを奨励しょうれいし、人口じんこうの少すくない地域ちいきや一部いちぶの少数しょうすう民族みんぞくを除のぞいて土葬どそうを禁きんずる条例じょうれいがある。勝手かってに土葬どそうをした場合ばあいの罰則ばっそくもあるが、十分じゅうぶんに守まもられているとは言いえない。土葬どそうを禁きんじた地域ちいきでの2013年ねんの火葬かそう率りつは 64.88% であった。

台湾たいわんにおける火葬かそう

台湾たいわんでは火葬かそう率りつが2003年ねんには 77.19% だったのに対たいし、2013年ねんには 93.66% に増加ぞうかしている。

朝鮮ちょうせんにおける火葬かそう

朝鮮ちょうせんでは儒教じゅきょう思想しそうと風水ふうすい地理ちり思想しそう、抑そもそも仏ふつ政策せいさくが支配しはい的てきだった李り氏し朝鮮ちょうせん時代じだいの成なり宗むね治世ちせい下かで仏教ぶっきょうの葬儀そうぎ形態けいたいである火葬かそうが禁止きんしされて以降いこう、土葬どそうが主流しゅりゅうとなり、一人ひとりずつ土どを盛もり封ふう墳ふんをつくって埋葬まいそうし、碑石ひせきを建たてる慣習かんしゅうがあった。

日本にっぽん統治とうち時代じだいには土地とちの活用かつようのため土葬どそうが禁止きんしされたが、火葬かそうはなかなか定着ていちゃくしなかった。独立どくりつ後ごの韓国かんこくでも火葬かそうは貧まずしい人ひとのするものというイメージがあった。

しかし、土葬どそうするための土地とちの不足ふそくから、火葬かそうを奨励しょうれいする市民しみん運動うんどうなども起おこり、火葬かそうをする人ひとが徐々じょじょに増加ぞうかした。これは、日本にっぽん同様どうよう狭せまい国土こくどに人口じんこうが急増きゅうぞうし、ソウル首都しゅと圏けんなど大都市だいとしで土葬どそうを行おこなうための土地とちを、確保かくほできなくなっていることが理由りゆうとなっている。このため、大都市だいとし部ぶでの土葬どそうは、宗教しゅうきょう指導しどう者しゃなど一部いちぶの人ひとに限かぎられており、近年きんねんでは2009年ねん2月がつに死去しきょした韓国かんこく人じん初はつのキリスト教きりすときょう枢機卿すうききょうであった金寿煥きんじゅかん、同年どうねん8月がつに死去しきょした元もと大統領だいとうりょうの金きむ大中でじゅんの例れいがあるくらいである。1994年ねんでは、火葬かそうされるのは20.5%の割合わりあいであったが、2005年ねんには52.6%と半数はんすうを超こえ、2015年ねんには火葬かそう率りつも80.5%となった。火葬かそうの増加ぞうかに伴ともない土饅頭どまんじゅうを模もした納骨のうこつ堂どうや家族かぞく納骨のうこつ堂どうなど新あたらしい形かたちの葬礼そうれい施設しせつが出現しゅつげんしている。

アメリカにおける火葬かそう

アメリカ合衆国あめりかがっしゅうこくでの火葬かそう率りつは、2012年ねんの時点じてんでミシシッピ州しゅうの10%台たいからネバダ州しゅうの70%超ちょうまであり、州しゅうによって様々さまざまである。政治せいじ的てきにもリベラルな気風きふうを持もつとされる西部せいぶでは火葬かそう率りつが高たかく、対たいして保守ほしゅ的てきな価値かち観かんが優勢ゆうせいであると言いわれる中なか南部なんぶでは低ひくい傾向けいこうにある。合衆国がっしゅうこく全体ぜんたいでは43%であり、今後こんごも上昇じょうしょうすると予想よそうされている。ネイティブ・アメリカンは土葬どそうや樹き上じょうに遺体いたいを乗のせる形式けいしきが多おおく、火葬かそうは一般いっぱん的てきではない。

西にしヨーロッパにおける火葬かそう

イギリスやカナダでは70%程度ていど、フランスでは農村のうそんで土葬どそうの傾向けいこうが強つよく火葬かそうは40%程度ていどである。昔むかしに比くらべれば近年きんねんは火葬かそうに対たいする忌避きひ感かんは薄うすれており、また前ぜん近代きんだいよりも圧倒的あっとうてきに多数たすうの人口じんこうを抱かかえる現代げんだいでは埋葬まいそう地ちの確保かくほが困難こんなんなことから、教会きょうかいに火葬かそう場じょうが併設へいせつされている事例じれいも増ふえている。

火葬かそう時じには、棺かんを使用しようすることにはとらわれず、遺体いたい袋ぶくろ（ボディバッグ）やケースを使用しようする場合ばあいが見みられる。また、葬儀そうぎを行おこなわずに直接ちょくせつ火葬かそうを行おこなう事例じれいはダイレクト火葬かそうと呼よばれており、このケースでは遺体いたい袋ぶくろすら使用しようしない場合ばあいも多おおい。

ロシア連邦れんぽうにおける火葬かそう

ソビエト連邦れんぽうの崩壊ほうかい後ごのロシア連邦れんぽうにおいて、伝統でんとう的てきに土葬どそうを行おこなってきた正せい教徒きょうとであっても経済けいざい的てきな理由りゆうから火葬かそうにするケースがある。これに示しめされているように、（ロシア正教会せいきょうかいに限かぎらず全ぜん世界せかいの）正教会せいきょうかいでも火葬かそうが禁止きんしされている訳わけではない。ただし土葬どそうに比くらべて火葬かそうの比率ひりつは低ひくいものにとどまっている。

ギリシャにおける火葬かそう

ギリシャ正教会せいきょうかいは火葬かそうを認みとめるのは虚無きょむ主義しゅぎであり、また宗教しゅうきょう弾圧だんあつであるとして反対はんたい、火葬かそうを希望きぼうする人ひとの葬儀そうぎは執とり行おこなわないと宣言せんげんしている。ギリシャにおいては、2006年ねんに火葬かそうを認みとめる法律ほうりつができたものの、2014年ねん時点じてんでも火葬かそう施設しせつが国内こくないに無ない状態じょうたいである。

諸しょ宗教しゅうきょうにおける火葬かそう

キリスト教きりすときょう

キリスト教きりすときょうは「死者ししゃの復活ふっかつ」の教義きょうぎを持もち、伝統でんとう的てきに火葬かそうに否定ひてい的てきな見解けんかいがある。異端いたんとされたジョン・ウィクリフは、遺体いたいが掘ほり起おこされて火葬かそうされた。

一方いっぽう、日本にっぽんにおいては必かならずしも採用さいようされている見解けんかいではない。

正教会せいきょうかい、カトリック教会きょうかい、聖せい公会こうかい、プロテスタントのいずれの教派きょうはの信徒しんとも、他国たこくでは通常つうじょう土葬どそうされることが多おおいが、日本にっぽんにおいては火葬かそうされることが一般いっぱん的てきである。

ローレン・ベットナーは『不死ふし』で、聖書せいしょ『ヨシュア記き』7:25-26、第だい一いちサムエル31:10-13から火葬かそうが「のろわれた者もの」に対たいするものであったとして火葬かそうに反対はんたいしているが、この本ほんを日本語にほんごに翻訳ほんやくした尾山おやま令れい仁ひとしは、異ことなる見解けんかいを採とっている。

ユダヤ教きょう、イスラム教いすらむきょう

ユダヤ教きょう、イスラームでは、死者ししゃの復活ふっかつの教義きょうぎを持もち、この際さいに元もとの肉体にくたいが必要ひつようと考かんがえられているため、火葬かそうへの禁忌きんきが強つよい。

イスラム教いすらむきょうでは火葬かそうを晒さらし首くびなどと同おなじ処刑しょけい後ごの死者ししゃへの追加ついか刑罰けいばつと考かんがえることもあり、イランなどでは処刑しょけいされた犯罪はんざい者しゃは火葬かそうされる。

ユダヤ教きょうでは火葬かそうを冒涜ぼうとくとみなしているため基本きほん的てきに土葬どそうであるが、2019新型しんがたコロナウイルスの感染かんせん拡大かくだいでは衛生えいせいとの兼かね合あいから、イスラエルの超ちょう正統せいとう派は指導しどう者しゃが火葬かそうを認みとめる見解けんかいを発表はっぴょう。欧州おうしゅうのユダヤ教きょうに対たいし「政府せいふが求もとめるならば受うけ入いれるべきだ。死後しごもウイルスと戦たたかったミツヴァとみなされる」と呼よびかけた。

ヒンドゥー教きょう

バリ・ヒンドゥーの火葬かそう

ヒンドゥー教きょうでも、最もっとも多おおい葬送そうそう手段しゅだんは火葬かそうである。通常つうじょう、遺体いたいは棺桶かんおけに入いれず、布ぬのでくるまれる。火葬かそうは火葬かそう場じょうか墓地ぼちで行おこなわれるが、いずれにしても屋外おくがいで、薪たきぎ火葬かそう用ようの薪たきぎで焼やかれる。遺骨いこつは川かわに散骨さんこつする（水葬すいそう同様どうよう、ガンジス川がわの人気にんきが高たかい）ことから、火葬かそう場じょうの多おおくは河原かわらにある。火葬かそうは、遺骸いがいを火ひによって速すみやかに毀損きそんせしめることで、死しんだ直後ちょくごの霊魂れいこんによる自みずからの肉体にくたいへの未練みれんを断たち切きるとともに、立たち昇のぼる煙けむりとともに霊魂れいこんを天上てんじょう界かいに送おくることで成仏じょうぶつを促うながす行為こういであるといい、この点てんはユダヤ教きょう、キリスト教きょう、イスラーム教きょうの教義きょうぎとは対照たいしょうをなす。このため、死後しごできるだけ速すみやかに火葬かそうをするのがよいと考かんがえられている。

インドでは変死へんし人じん（病死びょうし、交通こうつう事故じこ死しなどを含ふくむ）と幼児ようじは水葬すいそうにする。「変死へんし人じんと幼児ようじは、己おのれの生命せいめいを全まっとうしなかったために回生かいせいの機会きかいを与あたえられない」という理由りゆうによる。このため火葬かそう者しゃの遺族いぞくは死者ししゃをあまり嘆なげかないが、焼やかずに川かわに流ながされるものの遺族いぞくは、しばしば狂くるったように泣なくという。火葬かそうに要ようする時間じかんはおよそ30分ふんである。骨ほねを拾ひろう習慣しゅうかんはなく、灰はいとなった遺骸いがいはそのまま川かわへ流ながされる。

儒教じゅきょう

儒教じゅきょうでは火葬かそうは身体しんたいの毀損きそん行為こういであり、中国ちゅうごくの歴代れきだい王朝おうちょうの法典ほうてんにおいても禁止きんしが明記めいきされている。しかし唐とう中ちゅう後期こうきに仏教ぶっきょう僧侶そうりょの火葬かそうが盛さかんになり、宋そう以降いこうは土地とちや費用ひようがないなどの理由りゆうで一般いっぱんにも火葬かそうが多おおく行おこなわれた。明あきらでは復古ふっこ的てき政策せいさくを取とって火葬かそうを厳禁げんきんしたが、それでも火葬かそうはなくならなかった。

戦争せんそう（紛争ふんそう）などで起おきる火葬かそうに関かんする問題もんだい

ホロコースト

ユダヤ教きょうでは戒律かいりつとして土葬どそうが行おこなわれていたが、ナチス・ドイツのホロコーストに際さいして、アウシュビッツ強制きょうせい収容しゅうよう所しょで多数たすうの犠牲ぎせい者しゃらは遺体いたいを焼却しょうきゃくされた。

シリア内戦ないせん

2020年代ねんだい前半ぜんはん、シリア内戦ないせんで反はん体制たいせいに対たいする処刑しょけいが行おこなわれたあと遺体いたいが秘密裏ひみつりに火葬かそうされている実態じったい（火葬かそう場じょうの建設けんせつ画像がぞう）がGoogle Earthなどの画像がぞうを用もちいて明あかされる。シリア国民こくみんの多数たすう派はであるイスラム教徒きょうとは土葬どそうが基本きほんである。

ロシアのウクライナ侵攻しんこう

キリスト教きりすときょうロシア正教会せいきょうかいの影響えいきょうで土葬どそうが多おおいロシアでは、2022年ねんロシアのウクライナ侵攻しんこうで多数たすうの戦死せんし者しゃを出だしており、クリミア半島くりみあはんとうがロシア兵士へいしの火葬かそう場じょうとして使つかわれている。ウクライナの首都しゅとキーウ（キエフ）在住ざいじゅうでクリミア選出せんしゅつの元もとウクライナ国会こっかい議員ぎいんのレファット・チェバロフの証言しょうげんとして2022年ねん3月がつ18日にち伝つたえられたところによると、ロシアはロシアによるクリミアの併合へいごうしたクリミアで若わかい男性だんせいをロシア連邦れんぽう軍ぐんに動員どういんしてウクライナ本土ほんどの戦場せんじょうに送おくり込こんでいるだけでなく、侵攻しんこう開始かいしの数すう年ねん前まえに近代きんだい的てきな大おおきな火葬かそう場じょうが建設けんせつし、ロシア本国ほんごくでの反戦はんせん運動うんどうを恐おそれて戦死せんし者しゃを遺体いたいのままロシアに持もち帰かえらないよう、24時じ間あいだ態勢たいせいで死しんだ兵士へいしを火葬かそうにしている。

3月20日にち付づけの英紙えいしサンデー・テレグラフは、ロシア軍ぐんが被害ひがいの実態じったいを秘匿ひとくするため、ウクライナで戦死せんしした自国じこく兵へい（ロシア兵へい）の遺体いたいを極秘ごくひ裏うらにベラルーシに移送いそうしている可能かのう性せいがあると報ほうじた。これに先立さきだち、米べい政府せいふ系けい放送ほうそう局きょく「ラジオ自由じゆう欧州おうしゅう・ラジオ自由じゆう」は、ベラルーシ南東なんとう部ぶに夜間やかん、次々つぎつぎと到着とうちゃくするロシア軍ぐん車両しゃりょうだとする映像えいぞうを公開こうかい。公開こうかいされた映像えいぞうの車両しゃりょうの窓まどは中なかが見みえないよう白しろいカーテンで覆おおわれ、側面そくめんに赤十字せきじゅうじが記しるされていた。

ウクライナの大統領だいとうりょうウォロディミル・ゼレンスキーは、3月27日にち発行はっこうの英えいエコノミスト誌しのインタビューの中なかで「プーチン大統領だいとうりょうは自国じこく（ロシア）の兵士へいしたちの遺体いたいを放置ほうちしている」と非難ひなん。ウクライナ軍ぐんの複数ふくすうの兵士へいしによれば、一部いちぶの戦場せんじょうではロシア兵へいの遺体いたいの腐敗ふはい臭しゅうがひどく、息いきもできないほどであるという。

今回こんかいの「特別とくべつ軍事ぐんじ作戦さくせん」で死亡しぼうした兵士へいしの家族かぞくには一時いちじ金きんとして500万まんルーブル、保険ほけん金きん、補償ほしょう金きんとして742万まんルーブル、計けい1242万まんルーブルが支払しはらわれることになっている。しかし実際じっさいには多おおくの兵士へいしは「行方ゆくえ不明ふめい」として処理しょりされている。

火葬かそうに伴ともなう問題もんだい

火葬かそうのにおい

人ひとが焼やける時ときのにおいには、その個体こたいにより強弱きょうじゃくがあるという。インドで神かみのように崇あがめられた賢者けんじゃが火葬かそうにされた際さいには、村中むらなかに悪臭あくしゅうが漂ただよって何なん日にちも消きえなかったという伝説でんせつがある。また、人ひとの心理しんり的てきな原因げんいんにより火葬かそうのにおいに対たいする感かんじ方かたは大おおきく左右さゆうされる。インドやネパールのように露天ろてんで薪たきぎを使つかった火葬かそうでは、実際じっさいには木きが焼やけるにおいのほうが強つよく、人体じんたいが焼やける臭においは隠蔽いんぺいされるのが普通ふつうだが、人ひとを焼やくという非ひ日常にちじょう的てきな印象いんしょうや死しに対たいする嫌悪けんお感かんなどから、それをいやなにおいと錯覚さっかくする場合ばあいが多おおい。

遺のこ灰はいの処理しょりと貴金属ききんぞくの回収かいしゅう

日本にっぽんにおいて、火葬かそうされた後のちに残のこる遺骨いこつ、遺のこ灰はいをどうするかは、遺族いぞくの考かんがえや地域ちいきにより差さがある。骨ほね上あげで、関東かんとうでは遺骨いこつ全すべてを骨ほね壺つぼに納おさめる傾向けいこうが強つよいのに対たいして、関西かんさいでは喉仏のどぼとけなど一部いちぶを拾ひろうに留とめることが多おおい。遺のこ灰はいには歯はの治療ちりょうや人工じんこう骨こつなどで使つかわれた貴金属ききんぞく（金きむ、銀ぎん、パラジウムなど）が含ふくまれており、都市とし鉱山こうざんとしても着目ちゃくもくされている。

拾ひろえ骨こつ時じに遺族いぞくが持もち帰かえらなかった「残ざん骨灰こっかい」に対たいする自治体じちたいの対応たいおうには全国ぜんこく統一とういつの基準きじゅんはなく、厚生こうせい労働省ろうどうしょうが2018年ねんに初はつの調査ちょうさを実施じっしした。調査ちょうさ対象たいしょう141自治体じちたいのうち94自治体じちたいから回答かいとうがあり、約やく2割わりは有価ゆうか物ぶつを自みずから回収かいしゅうして売却ばいきゃく収入しゅうにゅうを歳入さいにゅうに繰くり入いれている。他たは、売却ばいきゃく収入しゅうにゅうを当あて込こんだ業者ぎょうしゃに0円えんや1円えんなどで処理しょりを委託いたくしているケースが多おおいが、複数ふくすう回答かいとうや明確めいかくな回答かいとうを避さけた自治体じちたいもあった。厚生こうせい労働省ろうどうしょうによる2010年ねんの自治体じちたいへの通知つうちでは、貴金属ききんぞくを含ふくむ残ざん骨灰こっかいは「宗教しゅうきょう的てき感情かんじょうの対象たいしょうとして扱あつかわれる限かぎりにおいて、廃棄はいき物ぶつ処理しょり法ほうに基もとづく廃棄はいき物ぶつに該当がいとうしない」とする一方いっぽうで、そうでない場合ばあいは「廃棄はいき物ぶつに該当がいとうする」としており、実際じっさい、貴金属ききんぞくを含ふくめて残ざん骨灰こっかい全すべての処理しょりを業者ぎょうしゃに委ゆだねたり、貴金属ききんぞくのみを自治体じちたいに返還へんかんさせたり、貴金属ききんぞくを売却ばいきゃくさせて返金へんきんさせたり、複数ふくすうの方式ほうしきに分わかれている。自治体じちたいでは貴金属ききんぞくの回収かいしゅうにより得えた収益しゅうえきを火葬かそう場じょうの改修かいしゅう費ひに充あてるなどしているが、死体したいを換金かんきんするのは不敬ふけいであるという意見いけんもある。

参考さんこう文献ぶんけん

• 勝田かつた至いたる『死者ししゃたちの中世ちゅうせい』吉川弘文館よしかわこうぶんかん、2003年ねん7月がつ、ISBN 4-642-07920-3。
• 上高津かみたかつ貝塚かいづかふるさと歴史れきしの広場ひろば編へん『火葬かそうと古代こだい社会しゃかい－死しをめぐる文化ぶんかの受容じゅよう（上高津かみたかつ貝塚かいづかふるさと歴史れきしの広場ひろば第だい11回かい特別とくべつ展てん）』上高津かみたかつ貝塚かいづかふるさと歴史れきしの広場ひろば、2006年ねん3月がつ。
• 島崎しまざき昭あきら『火葬かそう概論がいろん』5訂てい版ばん、日本にっぽん環境かんきょう斎とき苑えん協会きょうかい、2007年ねん4月がつ、全国ぜんこく書誌しょし番号ばんごう:21237761。
• 横田よこた睦あつし『お骨ほねのゆくえ : 火葬かそう大国たいこくニッポンの技術ぎじゅつ』平凡社へいぼんしゃ〈平凡社へいぼんしゃ新書しんしょ〉、2000年ねん、ISBN 4-582-85051-0。
• 長谷川はせがわ章あきら「ドイツ近代きんだい建築けんちくの研究けんきゅう : 近代きんだいにおける火葬かそうの歴史れきしとクレマトリウム建築けんちくの成立せいりつ（建築けんちく歴史れきし・意匠いしょう）」『日本にっぽん建築けんちく学界がっかい関東かんとう支部しぶ研究けんきゅう報告ほうこく集しゅう2』2007年ねん

関連かんれん項目こうもく

• メイラード反応はんのう
• 遺のこ灰はいダイアモンド
• 死生しせい観かん
• 墓地ぼち - 自然しぜん葬そう
• 洗あらい骨こつ
• 火葬かそう場じょう
  • 日本にっぽんの火葬かそう場じょう一覧いちらん
• 火刑かけい

外部がいぶリンク

• 一般いっぱん社団しゃだん法人ほうじん 火葬かそう研けん
• 特定とくてい非ひ営利えいり活動かつどう法人ほうじん 日本にっぽん環境かんきょう斎とき苑えん協会きょうかい
• 風ふうのあしあと 火葬かそうについて