鳥とり葬そう

鳥とり葬そう（ちょうそう）とは葬儀そうぎ、または死体したいの処理しょり方法ほうほうのひとつであり、肉食にくしょくの鳥類ちょうるいに死体したいを処理しょりさせるものである。

概要がいよう

チベット仏教ぶっきょうにて行おこなわれるのが有名ゆうめいである。またパールスィーと呼よばれるインドのゾロアスター教徒きょうとも鳥とり葬そうを行おこなう。国くにや地域ちいきによっては、法律ほうりつなどにより違法いほう行為こういとなる。日本にっぽんでは、鳥とり葬そうの習慣しゅうかんはないが、もし行いった場合ばあい刑法けいほう190条じょうの死体したい損壊そんかい罪ざいに抵触ていしょくする恐おそれがある。

チベットの鳥とり葬そうはムスタン王国おうこく建国けんこくの数すう百ひゃく年ねん後ごに始はじまったと考かんがえられ、現在げんざいも続つづいている。

ゾロアスターは古代こだいペルシア（現在げんざいのイラン）にルーツを持もち、死者ししゃの肉にくを削そぎ動物どうぶつに与あたえる風習ふうしゅうがあった。

カリフォルニア大学だいがくマーセド校こうの考古こうこ学者がくしゃマーク・アルデンダーファー（Mark Aldenderfer）は、「ゾロアスター教きょうの葬儀そうぎをアッパームスタンの古代こだい人じんが取とり入いれ、その後ごにチベットの鳥とり葬そうへと形かたちを変かえた可能かのう性せいがある」という仮説かせつを提示ていじしている。

チベットの鳥とり葬そう

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チベットの鳥とり葬そう - 遺体いたいを解体かいたいし、鳥とりが食たべやすくする

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チベットの鳥とり葬そう - 遺体いたいを解体かいたいしていないため、骨格こっかくはほぼ原型げんけいを保たもっている

チベットの葬儀そうぎは5種類しゅるいあるとされる。すなわち塔とう葬そう・火葬かそう・鳥とり葬そう・水葬すいそう・土葬どそうである。このうち塔とう葬そうはダライ・ラマやパンチェン・ラマなどの活仏かつぶつに対たいして行おこなわれる方法ほうほうであり、一般人いっぱんじんは残のこりの4つの方法ほうほうが採とられる。チベット高地こうちに住すむチベット人じんにとって、最もっとも一般いっぱん的てきな方法ほうほうが鳥とり葬そうである。葬儀そうぎに相当そうとうする儀式ぎしきにより、魂たましいが解放かいほうされた後のちの肉体にくたいはチベット人じんにとっては肉にくの抜ぬけ殻がらに過すぎない。その死体したいを郊外こうがいの荒地あれちに設置せっちされた鳥とり葬そう台だいに運はこぶ。それを裁断さいだんし断片だんぺん化かしてハゲワシなどの鳥類ちょうるいに食たべさせる。これは、死体したいを断片だんぺん化かする事ことで血ちの臭においを漂ただよわせ、鳥類ちょうるいが食たべやすいようにし、骨ほねなどの食たべ残のこしがないようにするために行おこなうものである。

宗教しゅうきょう上じょうは、魂たましいの抜ぬけ出でた遺体いたいを「天てんへと送おくり届とどける」ための方法ほうほうとして行おこなわれており、鳥とりに食たべさせるのはその手段しゅだんに過すぎない。日本にっぽんでは鳥とり葬そうという訳語やくごが採用さいようされているが、中国ちゅうごく語ごでは天てん葬そうなどと呼よぶ。また、多おおくの生命せいめいを奪うばってそれを食たべることによって生いきてきた人間にんげんが、せめて死後しごの魂たましいが抜ぬけ出でた肉体にくたいを、他たの生命せいめいのために布施ふせしようという思想しそうもある。死体したいの処理しょりは、鳥とり葬そうを執とり行おこなう専せん門もんの職人しょくにんが行おこない、骨ほねも石いしで細こまかく砕くだいて鳥とりに食たべさせ、あとにはほとんど何なにも残のこらない。ただし、地域ちいきによっては解体かいたい・断片だんぺん化かをほとんど行おこなわないため、骨ほねが残のこされる場合ばあいもある。その場合ばあいは骨ほねは決きまった場所ばしょに放置ほうちされる。職人しょくにんを充分じゅうぶん雇やとえない貧まずしい人達ひとたちで大おおきな川かわが近ちかくにある場合ばあいは水葬すいそうを行おこなう。水葬すいそうもそのまま死体したいを川かわに流ながすのではなく、体からだを切断せつだんしたうえで実施じっしされる。

鳥とり葬そうはチベット仏教ぶっきょうの伝播でんぱしている地域ちいきで広ひろく行おこなわれ、中国ちゅうごくのチベット文化ぶんか圏けんだけでなくブータン・ネパール北部ほくぶ・インドのチベット文化ぶんか圏けんの一部いちぶ・モンゴルのごく一部いちぶでも行おこなわれる。ただ、他たの国くにのチベット人じんには別べつの葬儀そうぎ方法ほうほうが広ひろまりつつある。

チベット高地こうちで鳥とり葬そうが一般いっぱん的てきになった理由りゆうのひとつに、火葬かそうや土葬どそうは環境かんきょうに対たいする負荷ふかが大おおきすぎることもある。大おおきな木きがほとんど生はえないチベット高地こうちで火葬かそうを行おこなうためには、薪たきぎの確保かくほが困難こんなんである。しかし、森林しんりんの豊富ほうふな四川しせん省しょうのチベット人じんは火葬かそうが一般いっぱん的てきである。土葬どそうも、寒冷かんれいなチベットにおいては微生物びせいぶつによる分解ぶんかいが完全かんぜんに行おこなわれず、かつ土どが固かたくて穴あな掘ほりが困難こんなんなこともあり、伝染でんせん病びょうの死者ししゃに対たいし行おこなわれる方法ほうほうである。伝染病でんせんびょう患者かんじゃを鳥とり葬そう・水葬すいそうにすると病原びょうげん体たいの拡散かくさんが起おこりうるからである。

中国ちゅうごくの西蔵にしくら自治じち区く当局とうきょくは鳥とり葬そうは非ひ衛生えいせい的てきだとして火葬かそうを奨励しょうれいしていたが、2006年ねんに鳥とり葬そうについて撮影さつえいや報道ほうどうを禁きんずる条例じょうれいを公布こうふし、伝統でんとう文化ぶんかを保護ほごすることになった。チベットには約やく1000箇所かしょの鳥とり葬そう用石もちいし台だいがあるが、関係かんけい者しゃ以外いがいによる撮影さつえいや見物けんぶつ、および鳥とり葬そう用石もちいし台だい近ちかくの採石さいせきなど開発かいはつ行為こういも禁きんじた。

ゾロアスター教きょうの鳥とり葬そう

ゾロアスター教きょうでは、死体したいは悪魔あくまの住処すみかとされる。葬式そうしきは悪魔あくまによる汚濁おだくの源みなもとを浄化じょうかするための儀礼ぎれいであった。

ゾロアスター教きょうにおいては、火ひを善ぜん神しんの象徴しょうちょうとして崇拝すうはいしており、悪魔あくまの住すみ処しょたる死体したいによって火ひが穢けがされるのを避さける。そのため火葬かそうは行おこなわれず、同様どうようの理由りゆうで土葬どそうや水葬すいそうもない。 サーサーン朝あさペルシア時代じだいのゾロアスター教きょう社会しゃかいでは、死体したいは路傍ろぼうに放置ほうちされハゲワシに食くわれるか、直射ちょくしゃ日光にっこうで乾燥かんそうして骨ほねだけになった後のちにダフマと呼よばれる磨すり崖がけ穴あなに入いれられる曝葬（ばくそう、風葬ふうそうと同おなじ）が行おこなわれていた。

インドに流入りゅうにゅうしたゾロアスター教きょうの教徒きょうと（パールスィー）もその伝統でんとうを受うけ継ついだが、イラン高原こうげんと異ことなり湿潤しつじゅんなインドでは死体したいが乾燥かんそうする前まえに腐乱ふらんしてしまうため、磨すり崖がけ穴あなにちなんでダフマと名付なづけられた鳥とり葬そう専用せんようの施設しせつを使用しようしている。

英語えいごで沈黙ちんもくの塔とうと呼よばれるタワー型がたのダフマは、古代こだいローマのコロッセウムにも似にた開口かいこう部ぶのある円筒えんとう状じょうの塔とうであり、その上うえに置おかれた死体したいは鳥とりがついばんで骨ほねとなり、骨ほねは陽光ようこうによって漂白ひょうはくされる。そして最終さいしゅう的てきには土どに還かえるというわけである。その際さい、すみやかに骨ほねのみになるとよいとされる。

葬儀そうぎは亡なくなったその日ひに行おこなわれるのが良よいとされるが、日没にちぼつ後ごには行おこなわれない。遺体いたいは金属きんぞく製せいの台だいに乗のせられ、ダフマの近ちかくまで葬列そうれつを組くんで送おくられる。遺族いぞくはダフマの近ちかくで最後さいごの別わかれを行おこない、遺体いたい運搬うんぱん人じんによるダフマへの行進こうしんを見届みとどけた後のち、身みを清きよめて没後ぼつご3日間にちかん死者ししゃのための儀式ぎしきを行おこなう。

ダフマはインドのムンバイに2基き、ナヴサーリーに2基きあるほか、インド亜あ大陸たいりくのパールスィー居住きょじゅう区くでは数多かずおおく見みることが出来できる。