自然しぜん葬そう

自然しぜん葬そう （しぜんそう）とは、葬送そうそうの方式ほうしきのうち、従来じゅうらいの形式けいしきの墓はかや骨ほね壺つぼでなく遺骨いこつや遺のこ灰はいを自然しぜんの循環じゅんかんの中なかに回帰かいきさせようとする葬送そうそうの方法ほうほう^[1]

概念がいねん

日本にっぽんにおいてかつては、「自然しぜん葬そう」といえば遺骨いこつを粉砕ふんさいし散骨さんこつすることを指さすことが多おおかったが、土葬どそうの一種いっしゅとして骨壷こつつぼを用もちいず直接ちょくせつ土中どちゅうへ遺骨いこつを埋葬まいそうする（または土どに返かえる骨壷こつつぼを使つかう）方式ほうしきも含ふくめて自然しぜん葬そうと呼よぶようになってきている^[2]。このような「自然しぜん葬そう」が増ふえてきた原因げんいんのひとつとして、核かく家族かぞく化かや少子しょうし化かによりこれまでの家系かけいを重おもんじた墓はかの管理かんり体制たいせいが維持いじできなくなってきていることが考かんがえられる^[3]^[4]。

もともと、「自然しぜん葬そう」という言葉ことばは民俗みんぞく学者がくしゃ五ご来らい重おもが提唱ていしょうした、人ひとの手てがあまりかかっていない葬そう法ほうを指さした概念がいねんだった^[2]。その後ご、市民しみん運動うんどう団体だんたいの「葬送そうそうの自由じゆうをすすめる会かい」（本部ほんぶ・東京とうきょう、安田やすだ睦彦むつひこ会長かいちょう）が1991年ねん2月がつ、発足ほっそくにあたって起草きそうした「会かい結成けっせいの趣旨しゅし」の中なかで、本来ほんらいの文脈ぶんみゃくとは無関係むかんけいに使つかわれた^[2]。

マスコミを通つうじて流布るふされた「自然しぜん葬そう」には社会しゃかい的てきな反響はんきょうがあり、1995年ねんには「大辞林だいじりん」第だい2版はんが、1998年ねんには「広辞苑こうじえん」第だい5版はんが収録しゅうろくするなど、代表だいひょう的てき国語こくご辞典じてんにも載のる一般いっぱん的てきな日本語にほんごになった。

なお、「自然しぜん葬そう」にはNatural Burialの訳わけがあてられることがある。イギリスでは1993年ねんにカーライル市営しえい墓地ぼちでWoodland Burialと呼よばれる葬送そうそう方法ほうほうが生うみ出だされ、これがNatural Burialと呼よばれるようになり、イギリスのほか、北米ほくべい、ニュージーランド、オーストラリア、ドイツ、韓国かんこくなどに普及ふきゅうした^[5]。日本にっぽんでの自然しぜん葬そうと欧米おうべいでの自然しぜん葬そう運動うんどうはそれぞれ直接的ちょくせつてきな影響えいきょうを受うけずに成立せいりつしたものである^[5]。

散骨さんこつ

「散骨さんこつ」を参照さんしょう

火葬かそうという葬そう法ほうは一般いっぱんに、遺体いたいを荼毘だびに付ふす第だい一いち次じ葬そうと焼やき骨こつの処理しょりの第だい二に次じ葬そうからなるが、第だい二に次じ葬そうは社会しゃかい文化ぶんか的てき背景はいけいから国くににより違ちがいがみられる^[1]。

欧米おうべい

欧米おうべいでは火葬かそうの場合ばあい、焼しょう骨ほねを土中どちゅうに直接ちょくせつ埋葬まいそうしたり決きめられた海域かいいきで散骨さんこつすることが一般いっぱん的てきである^[1]。

日本にっぽん

日本にっぽんでは明治めいじ時代じだい以降いこうに焼しょう骨ほねを家いえ墓ぼに納おさめる方法ほうほうが普及ふきゅうし一般いっぱん的てきな葬送そうそう方法ほうほうとなった^[1]。

1948年ねん（昭和しょうわ23年ねん）に制定せいていされた「墓地ぼち、埋葬まいそう等とうに関かんする法律ほうりつ」で「埋葬まいそう又または焼やき骨こつの埋蔵まいぞうは、墓地ぼち以外いがいの区域くいきに、これを行おこなってはならない」と規定きていされ、また刑法けいほうの「遺骨いこつ遺棄いき罪ざい」の規定きていもあって、戦後せんごは長ながく、散骨さんこつは一般いっぱん的てきには違法いほう行為こういと受うけ止とめられていた。

1991年ねん10月がつ、神奈川かながわ県けんの相模灘さがみなだ沖おきで「葬送そうそうの自由じゆうをすすめる会かい」が行おこなった第だい1回かい自然しぜん葬そうは、こうした社会しゃかい的てきな通念つうねんを破やぶる「葬送そうそうの自由じゆう」元年がんねんの行為こういとなった。

同どう会かいは会かい結成けっせいの主旨しゅしで「遺のこ灰はいを海うみ・山やまにまく散ち灰はいは、それが節度せつどある方法ほうほうで行おこなわれるならば法律ほうりつに触ふれることはありません」「私わたしたちは先入観せんにゅうかんとならわしに縛しばられて自みずから葬送そうそうの自由じゆうを失うしなっている」と主張しゅちょうした。第だい1回かいの自然しぜん葬そうのあと、法務省ほうむしょうは「葬送そうそうの一ひとつとして節度せつどをもって行おこなわれる限かぎり、遺骨いこつ遺棄いき罪ざいには当あたらない」、厚生省こうせいしょう（当時とうじ）は「墓はか埋うめ法ほうはもともと土葬どそうを問題もんだいにしていて、遺のこ灰はいを海うみや山やまにまくといった葬そう法ほうは想定そうていしておらず、対象たいしょう外がいである。だからこの法律ほうりつは自然しぜん葬そうを禁きんずる規定きていではない」と、それぞれ新聞しんぶんの取材しゅざいに対たいして、あたかも同どう会かいの考かんがえを追認ついにんする見解けんかいを示しめしたかのような報道ほうどうがなされた（詳細しょうさいについては記事きじ「散骨さんこつ」の墓地ぼち、埋葬まいそう等とうに関かんする日本にっぽんの法律ほうりつとの関係かんけい及および刑法けいほう190条じょうとの関係かんけいを参照さんしょう）。

「葬送そうそうの自由じゆうをすすめる会かい」は、その後ご、全国ぜんこくに12支部しぶ、会員かいいん1万まん2千せん人にんの組織そしきになり、15年ねん後ごの2006年ねん8月がつ現在げんざいで、北海道ほっかいどうから沖縄おきなわまで、海うみや山やまなどで1137回かいの自然しぜん葬そうを行おこない、1945人にんを自然しぜんに還かえしている。ただし、1998年ねん以降いこうは毎年まいとし100回かい前後ぜんこう、200名めい弱じゃくの推移すいいにとどまっていることから、後述こうじゅつの「社会しゃかい的てきな合意ごういの輪わを広ひろげ」という点てんでは疑問ぎもんが残のこる（『生活せいかつと環境かんきょう』（2007年ねん3月がつ号ごう）財団ざいだん法人ほうじん日本にっぽん環境かんきょう衛生えいせいセンター）。

運動うんどうがすすむにつれ、「葬送そうそうの自由じゆう」という考かんがえ方かたも「自然しぜん葬そう」も社会しゃかい的てきな合意ごういの輪わを広ひろげ、日本にっぽん消費しょうひ者しゃ協会きょうかいの葬儀そうぎに関かんするアンケート調査ちょうさ（2003年ねん9月がつ）では、自然しぜん葬そうについて「できれば自分じぶんはそうしたい」が10.1%、「故人こじんの希望きぼうならそうする」が26.9%、「法律ほうりつ的てきに問題もんだいなければそうしたい」が7.8%、「一部いちぶの遺のこ灰はいなら」が11%で、55.8%が肯定こうてい的てきな回答かいとうをし、「自分じぶんは墓地ぼちに葬ほうむってほしい」の25.2%を大おおきく上回うわまわっている（ただし、ここで調査ちょうさの対象たいしょうになったのは、「（調査ちょうさ当時とうじ）過去かこ3年間ねんかんの間あいだに葬儀そうぎの経験けいけんのあった335名めい」と極きわめて限定げんていされたものであることや、自然しぜん葬そうに関かんする質問しつもんについてもかなり「誘導ゆうどう的てき」な設定せってい～「故人こじんが生前せいぜんに希望きぼうしており、身内みうちからの反対はんたいもなく、法的ほうてきに問題もんだいがないとするなら」というような説明せつめいが付記ふきされた上うえでなされたものであることに留意りゅういを要ようする。

樹木じゅもく葬そう

「樹木じゅもく葬そう」を参照さんしょう

自然しぜん志向しこうを持もつ自然しぜん葬そうの一種いっしゅに樹木じゅもく葬そうという形式けいしきがある^[1]。主おもに環境かんきょう問題もんだいの観点かんてんから墓石はかいしを使用しようしない樹木じゅもく葬そうは世界せかい的てきに広ひろがりつつあるが、その背景はいけいは国くにによって違ちがいがある^[6]。

欧米おうべい

イギリスでは1991年ねんにnatural death centreが設立せつりつされたが、この団体だんたいでは推奨すいしょうする樹木じゅもく葬そうの方法ほうほうとして、エンバーミングをしないこと、土葬どそうとすること、棺かんは土どで分解ぶんかいするものにすること、墓標ぼひょうを立たてたり伐採ばっさいや整地せいちをしないことを定さだめている^[6]。

日本にっぽん

日本にっぽんの樹木じゅもく葬そうは火葬かそうした遺骨いこつを、骨壷こつつぼあるいは土どに還かえす方法ほうほうで、散骨さんこつとは異ことなり墓地ぼちとして認可にんかされた場所ばしょにおいて行おこなわれている^[1]^[6]。