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葬式そうしき仏教ぶっきょう

出典しゅってん: フリー百科ひゃっか事典じてん『ウィキペディア(Wikipedia)』
江戸えど時代じだい火葬かそう

葬式そうしき仏教ぶっきょう(そうしき ぶっきょう)とは、本来ほんらい仏教ぶっきょうかたからおおきくへだたった、葬式そうしきさいにしか必要ひつようとされない現在げんざい形骸けいがいした日本にっぽん仏教ぶっきょう姿すがた揶揄やゆした表現ひょうげんである。この言葉ことばだれによってはじめられたかは不明ふめいであるが、1963ねん昭和しょうわ38ねん)に出版しゅっぱんされた明治大学めいじだいがく教授きょうじゅけいむろ たいなり(1902ねん - 1966ねん[1]著書ちょしょ葬式そうしき仏教ぶっきょう』(だい法輪ほうりんかく) がきっかけとなって、巷間こうかんられるようになった。

仏教ぶっきょう

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釈尊しゃくそん葬送そうそうかんする記述きじゅつとしてつぎのようなものがあり、葬儀そうぎ否定ひていろんしゃ根拠こんきょともされる。

Abyāvaṭā tumhe ānanda hotha tathāgatassa sarīrapūjāya. Iṅgha tumhe ānanda sadatthe, ghaṭatha1 sadatthamanuyujjatha, sadatthe 2 appamattā ātāpino pahitattā viharatha, santānanda khattiyapaṇḍitā pi brāhmaṇapaṇḍitā pi gahapatipaṇḍitā pi tathāgate ahippasannā te tathāgatassa sarīrapūjaṃ karissantī"ti.

アーナンダよ。おまえたちは修行しゅぎょう完成かんせいしゃ如来にょらい)の遺骨いこつ供養くようにかかずらうな。どうか、おまえたちは、ただしい目的もくてきのために努力どりょくせよ。ただしい目的もくてき実行じっこうせよ。ただしい目的もくてきかっておこたらずつと専念せんねんしておれ[2]修行しゅぎょう完成かんせいしゃたいしてきよししんじある、かしこクシャトリヤバラモン在家ありいえものがいる、アーナンダよ、かれらが修行しゅぎょう完成かんせいしゃ供養くようをなすだろう。

—  パーリ仏典ぶってん, 長部おさべだい般涅槃経, Sri Lanka Tripitaka Project

釈迦しゃか弟子でし死後しご遺骸いがい処置しょちわれたさいに、比丘びく遺骸いがい供養くようひとしかんがえず真理しんり追求ついきゅう専念せんねんすべきだ、供養くよう在家ありいえ信者しんじゃがしてくれる、とこたえたとされる[2]。 ただし、アーナンダは阿羅漢あらかんはてをまだていなかった状況じょうきょうから、修行しゅぎょう途中とちゅう弟子でしたいしてのいましめであり、葬送そうそう儀礼ぎれいそのものに出家しゅっけしゃがかかわることをきんじたものとはがたい。

また『きよしめしおう般涅槃経』では釈尊しゃくそん父親ちちおやであるきよしめしおう葬儀そうぎおこなったことや、また高弟こうていであるシャーリプトラの遺骨いこつ礼拝れいはいしたなどの釈尊しゃくそん自身じしん葬送そうそう儀礼ぎれいにかかわっていたことをしめ記述きじゅつがある。 『だい般涅槃経』では釈尊しゃくそん自身じしん卒塔婆そとうば建立こんりゅうすることや、葬儀そうぎ方法ほうほうなどをアーナンダにつたえており、その遺命いめいによって在家ありいえ信者しんじゃによっててん聖王せいおう葬儀そうぎじゅんじたかたちざい家信かしんしゃによっておこなわれた。そして重要じゅうよう荼毘だび点火てんかはマハーカッサパがおこなっているとあり、実際じっさい出家しゅっけしゃ葬儀そうぎにかかわっている。また初期しょき仏教ぶっきょう経典きょうてんにも、釈尊しゃくそん地域ちいき風習ふうしゅう道徳どうとくれいへの供養くようたたえる箇所かしょがあり、さき記述きじゅつ単純たんじゅん葬式そうしき否定ひてい根拠こんきょとはいえない。

そもそもバラモン教ばらもんきょうでは手厚てあつ葬儀そうぎ人生じんせい通過つうか儀礼ぎれい重視じゅうししていたので、それにたい仏教ぶっきょう教団きょうだんごう思想しそう背景はいけい火葬かそう土葬どそうなどで簡素かんそ葬儀そうぎおこなっていた。

日本にっぽんにおいて

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インドから中国ちゅうごくへと伝播でんぱ民衆みんしゅうへと教化きょうかおこなわれるうちに、かん民族みんぞく道教どうきょう儒教じゅきょう由来ゆらいする先祖せんぞ供養くよう民間みんかん信仰しんこう習合しゅうごうした、仏教ぶっきょう葬送そうそう儀礼ぎれい日本にっぽんつたわった。たとえば位牌いはいは、儒教じゅきょう葬礼そうれいもちいられる神主かんぬし(しんしゅ)が変化へんかされたものだとかんがえられている。

仏教ぶっきょう日本にっぽん伝来でんらいしたのは6世紀せいきなかばの飛鳥あすか時代ときよことである。仏教ぶっきょう豪族ごうぞくなど上層じょうそう階級かいきゅうしんとらえ、あつ信仰しんこうされるようになった。

平安へいあん時代じだい貴族きぞく葬儀そうぎは、仏教ぶっきょう寺院じいんおこな僧侶そうりょ念仏ねんぶつはか卒塔婆そとうばてるひとしおおきく仏教ぶっきょうてき影響えいきょうけたものになっていた。

鎌倉かまくら時代ときよには庶民しょみんそうにも仏教ぶっきょうひろまり、庶民しょみんあいだにも仏式ぶっしき葬儀そうぎおこなわれるれいられるようになる。

江戸えど時代じだい

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日本にっぽん仏教ぶっきょう葬式そうしき仏教ぶっきょうへとかうおおきな転機てんきは、江戸えど幕府ばくふさだめた檀家だんか制度せいどである。

檀家だんか制度せいどは、民衆みんしゅういずれかの寺院じいん菩提寺ぼだいじとしてその檀家だんかとなること義務付ぎむづけるものであり、カトリック教会きょうかい受不ほどこせたいして禁教きんきょうれい発布はっぷして、信徒しんとたい改宗かいしゅう強制きょうせいした。さらに、この制度せいど神職しんしょく弾圧だんあつ対象たいしょうとなっていた。

それまでの民衆みんしゅう葬式そうしきは、一般いっぱん村社そんしゃかいおこなうものであったが、檀家だんか制度せいど以降いこう僧侶そうりょによる葬式そうしき一般いっぱんした。

また、檀家だんか制度せいどは、寺院じいん一定いってい信徒しんと収入しゅうにゅう保証ほしょうする一方いっぽうで、宗派しゅうは信徒しんとへの布教ふきょうあたらしい寺院じいん建立こんりゅう禁止きんしした。これらにより、かく寺院じいん布教ふきょう必要ひつようくし、みずからの檀家だんか葬儀そうぎ法事ほうじいとなみ、定期ていきてき布施ふせ収入しゅうにゅうるばかりの、変化へんかのない生活せいかつ安住あんじゅうするようになっていった。

明治めいじ時代じだい

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また明治維新めいじいしんとき明治めいじ政府せいふ文明開化ぶんめいかいか政策せいさくによる四民しみん平等びょうどう推進すいしん特権とっけんであった僧侶そうりょ職業しょくぎょう)により、それまでも浄土真宗じょうどしんしゅう修験しゅげんどう以外いがい宗派しゅうはでは、現実げんじつてき破戒はかい常態じょうたいであったのが、妻帯さいたい可能かのうになった。このため、一般いっぱん国民こくみん身分みぶんことなる近世きんせい以前いぜん僧侶そうりょ比丘びく)ではなく、職業しょくぎょうとして自由じゆうてらぐことが可能かのうしている。このことは、ビジネスてき葬式そうしき仏教ぶっきょうへと拍車はくしゃをかけている一因いちいんうんえる。

平成へいせいれい時代じだい

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2000年代ねんだい実際じっさいはそれ以前いぜんからとおもわれる)から、このよう葬儀そうぎ法事ほうじ依存いぞんした日本にっぽん仏教ぶっきょう状況じょうきょう批判ひはんする意味いみで、葬式そうしき仏教ぶっきょうという言葉ことば使つかわれるようになった。

仏教ぶっきょうかい内部ないぶからも、この状況じょうきょう反省はんせいあらためるべきだとする活動かつどう様々さまざまおこなわれている。伝統でんとうてき宗派しゅうはぞくする寺院じいんでも、登校とうこう問題もんだい自殺じさつ防止ぼうしなどにんだり、宗教しゅうきょう立場たちば人々ひとびと相談そうだんったりする寺院じいんとう人々ひとびとしん問題もんだいもうとするうごきが、伝統でんとうてき仏教ぶっきょうかいにもみられている。また、葬式そうしき仏教ぶっきょうてき現状げんじょうらない人々ひとびとなかには、既成きせい宗派しゅうはわくやしきたりをえた活動かつどうや、アジアなど世界せかい仏教ぶっきょう伝播でんぱしようとける人々ひとびともいる。

また、近年きんねんでは、過疎かそひとし進展しんてん地域ちいきだけで葬儀そうぎ遂行すいこうできないことぎゃく都市としやライフスタイルの変化へんか葬儀そうぎかた多様たようとうにより、「葬式そうしき仏教ぶっきょうすらりたない」寺院じいん存在そんざいする。

2017ねん報道ほうどうによると、出稼でかせぎの別院べついんでの仕事しごと本業ほんぎょうとなって、もはや住職じゅうしょく収入しゅうにゅう別院べついん収入しゅうにゅう半分はんぶん程度ていど事実じじつじょう副業ふくぎょうした事例じれいつたえられた。どう報道ほうどうでは、かつてはたりまえおこなわれてきたじゅうさん回忌かいきじゅうなな回忌かいきといった、2けた数字すうじ年忌ねんき法要ほうよう減少げんしょうしているという[3]

水月すいげつ昭道あきみち著書ちょしょ『おてらさん崩壊ほうかい』(新潮社しんちょうしゃ、2016ねん)によると、「自身じしんっている年金ねんきん受給じゅきゅう年齢ねんれいたっしたろう僧侶そうりょ手取てど年収ねんしゅうは100まんえんだいであった」とのこと。すくなくともこの著書ちょしょ出版しゅっぱんされた2016ねんになると、現役げんえき世代せだい僧侶そうりょはアルバイトなどの副業ふくぎょうわせてやりくりし、現役げんえき世代せだいえたろう僧侶そうりょ年金ねんきんわせてやりくりしながら限界げんかいまで老体ろうたいむちつという。

ぼうさん紹介しょうかいサービス

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2010ねん平成へいせい22ねん5がつ10日とおか大手おおて流通りゅうつうぎょうイオンが、曹洞宗そうとうしゅう浄土宗じょうどしゅう真言宗しんごんしゅう天台宗てんだいしゅう浄土真宗じょうどしんしゅう(お西にし、おひがし)・臨済宗りんざいしゅう日蓮宗にちれんしゅうと、おもだった8宗派しゅうはやく600かてら連携れんけいして紹介しょうかい手配てはいおこなぼうさん紹介しょうかいサービス開始かいしした。2009ねん平成へいせい21ねん)9がつからすでに、イオンカード会員かいいん対象たいしょう葬儀そうぎ紹介しょうかいサービス「イオンのお葬式そうしき」を展開てんかい、すでに「」が商品しょうひんされていたにもかかわらず、これまで不透明ふとうめいだった葬儀そうぎ費用ひよう布施ふせ戒名かいみょう料金りょうきん全国ぜんこく統一とういつ価格かかくしめすことで、商品しょうひんとして料金りょうきん明確めいかくする姿勢しせいしめした。

日本にっぽん仏教ぶっきょうかい反発はんぱつ

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これにたいして全日本ぜんにほん仏教ぶっきょうかいは、だい29事務じむ総長そうちょう戸松とまつ義晴よしはるで『料金りょうきん表示ひょうじ削除さくじょ』をもとめた。こうした問題もんだい背後はいごにあるのは、直接的ちょくせつてきには社会しゃかい構造こうぞう変化へんかによる人口じんこう流動りゅうどうで、江戸えど時代じだい以降いこうつづいてきた檀家だんか制度せいど完全かんぜん崩壊ほうかいと、それにともなおおくの寺院じいん拝金はいきん主義しゅぎてき傾向けいこうだが、底流ていりゅうにあるのは、日本人にっぽんじん仏教ぶっきょうたいする意識いしき希薄きはくさであることが、あらためてしめされた。

全日本ぜんにほん仏教ぶっきょうかいは、「本来ほんらい布施ふせとは、いつくしみのしんにもとづいておこなわれるきわめて宗教しゅうきょうてき行為こういで、人々ひとびとくるしみやかなしみにい(かしこほどこせ)、人々ひとびとともかんがほうく(ほうほどこせ)」と位置いちづけ、布施ふせがくかんしては、布施ふせをするひとめるべきものという立場たちばしめした[4][5]

脚注きゃくちゅう

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  1. ^ けいむろたいなり”. だい法輪ほうりんかく. 2017ねん10がつ12にち閲覧えつらん
  2. ^ a b 中村なかむらはじめ『ブッダ最後さいごたび : だいパリニッバーナけい岩波書店いわなみしょてん岩波いわなみ文庫ぶんこ〉、2001ねんISBN 4000071947 だい5しょう10。
  3. ^ 「もはや住職じゅうしょく副業ふくぎょう…」困窮こんきゅうするおてらえている理由りゆう AERAdot. 2017.6.26 11:30 (週刊しゅうかん朝日あさひ2017ねん6がつ30にちごうより、2021ねん3がつ31にち閲覧えつらん)
  4. ^ イオンリテール株式会社かぶしきがいしゃ イオンのおぼうさん紹介しょうかいサービス、全国ぜんこく一斉いっせい本格ほんかく展開てんかい!(葬儀そうぎ紹介しょうかいサービス「イオンのお葬式そうしき」2010ねん5がつ10日とおか 1000ふん) ~ 紹介しょうかい手数料てすうりょう無料むりょう、8宗派しゅうはやく600ヶてら連携れんけい
  5. ^ 全日本ぜんにほん仏教ぶっきょうかい だい29事務じむ総長そうちょう 戸松とまつ義晴よしはる

参考さんこう文献ぶんけん

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関連かんれん項目こうもく

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外部がいぶリンク

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