皇后こうごう

皇后こうごう（こうごう、英えい: Empress）、王おう后きさき（おうごう、英えい: Queen）は、皇帝こうてい・天皇てんのう・国王こくおうの正妃せいひ（正妻せいさい）、およびその人物じんぶつに与あたえられる称号しょうごう。

一夫多妻いっぷたさい制せいのもとでは、天皇てんのう・皇帝こうてい・国王こくおうの複数ふくすうの妻つまのうち最さい上位じょういの者ものとなる。

中国ちゅうごくの皇后こうごう

概念がいねん

中国ちゅうごくにおける君主くんしゅ号ごうは、殷いん・周しゅう時代じだいは「王おう」、秦はた代だい以降いこうは「皇帝こうてい」であるが、それ以前いぜんの古ふるい称号しょうごうとして「后きさき」が存在そんざいした。王おう・皇帝こうていに君主くんしゅ号ごうが変遷へんせんして後ご、后きさきはそれに次つぐ称号しょうごうとされた。王おう、皇帝こうていに次つぐ存在そんざいは王おう・皇帝こうていの正妃せいひないし母親ははおやである事ことから、皇帝こうていの正妃せいひを皇后こうごう、皇帝こうていの母親ははおやを皇太后こうたいごうと称しょうするようになった。

語意ごいからは、皇帝こうていが「天てん」の権威けんいに基もとづく称号しょうごうであるのに対たいし、皇后こうごうは后きさき土どというように「地ち」に基もとづく称号しょうごうである。

名称めいしょう・呼称こしょう

正式せいしきな敬称けいしょうは殿下でんか。皇后こうごうの住居じゅうきょから中宮なかみや、長ちょう秋あき宮みや、椒はじかみ房ぼうなどの別称べっしょうもある。口頭こうとう言語げんごについて、娘むすめ娘むすめの敬称けいしょうが使用しようされている。自称じしょう（謙称けんしょう）は小童こわっぱ、小しょう君きみ。皇帝こうていは皇后こうごうに対たいし、梓あずさ童わらわ、子こ童わらわの愛称あいしょうを用もちいたという。

正式せいしき名めいについて、日本にっぽんの皇室こうしつには、そもそも姓せいがなく、名字みょうじも当然とうぜんないが、中国ちゅうごくの歴代れきだい王朝おうちょうの君主くんしゅは姓せいを持もち、皇后こうごうには原則げんそくとして異姓いせいの者ものがなった。中国ちゅうごくの皇后こうごうは従したがって、皇后こうごうが出身しゅっしんした一族いちぞくの姓せいで呼よばれ、唐とう朝あさ第だい3代だいの皇帝こうていである高こう宗はじめの皇后こうごうは「武たけ」の姓せいを持もつ一族いちぞく出身しゅっしんであったので、「武たけ皇后こうごう」が正式せいしき名めいであった。また、皇后こうごうを諡号しごうで呼よぶことも多おおい。

文化ぶんか

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  宋そうの皇后こうごうの翟衣と鳳おおとり冠かんむり
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  現代げんだいに復元ふくげんされた明あきらの皇后こうごう大礼たいれい服ふく（正面しょうめん向むき）
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  現代げんだいに復元ふくげんされた明あきらの皇后こうごう大礼たいれい服ふく（横向よこむき）

古いにしえからの礼服れいふくは翟衣であり、深ふか青色あおいろの衣裳いしょうである。キンケイを含ふくむ鳥とりの文様もんようが配はいされた。礼れい冠かんむりは十じゅう二に花はな樹冠じゅかん（唐とう以前いぜん）、および鳳おおとり冠かんむり（宋そう以降いこう）で、それぞれ皇帝こうていの礼服れいふくである冕服と礼れい冠かんむりである十じゅう二に旒冕冠に対応たいおうしている。皇帝こうていの詔みことのりが「聖旨せいし」と呼よばれているのに対たいして、皇后こうごうの詔みことのりは「懿旨」と呼よばれている。死亡しぼうを表あらわす敬語けいごは皇帝こうていと同どうじ、「崩くずし」と称しょうされている。崩御ほうぎょ後ごは「陵りょう」に葬ほうむられる。皇帝こうていと合ごう葬そうするのが通例つうれいである。

陰陽いんよう五ご行ぎょう説せつでは男おとこは陽ひ、女おんなは陰かげとされ、それぞれの頂点ちょうてんに皇帝こうてい、皇后こうごうがいるということになった。そのため、皇帝こうていが三公みつきみ九きゅう卿きょう以下いかの官僚かんりょう組織そしきを擁ようするのと同様どうよう、後宮こうきゅう制度せいどにおいて皇后こうごうも三さん夫人ふじん、九きゅう嬪、二に十じゅう七なな世せい婦ふ、八はち十じゅう一いち御ご妻つまの3倍ばいずつ増加ぞうかするヒエラルキーを擁ようしていた。

歴史れきし

成人せいじんした皇帝こうていには即位そくい前まえに嫡妻がいるのが普通ふつうで、その嫡妻は基本きほん的てきに皇后こうごうとして立たてられる。ただし側がわ妃ひの位くらいに留とまることもある（許もと平たいら君くん、懿安郭かく皇后こうごうなど）。幼よう帝みかどが即位そくいした場合ばあいに嫡妻が存在そんざいしなくなると、お妃ひ候補こうほは後宮こうきゅうに迎むかえられ、結婚けっこんと立后りっこうを同時どうじに行おこなわれた。その結婚けっこんは「大だい婚こん」と呼よばれる（孝こう哲あきら毅あつし皇后こうごうなど）。

皇帝こうていが前妻ぜんさいとの生別せいべつ、死別しべつ後ごに宮みや外がいから後妻ごさいを新あたらしく迎むかえられた例れい（慈聖光こう献けんじ曹皇后こうごうなど）はありますが、既存きそんの側がわ妃ひから皇后こうごうに上のぼり詰つめたことが主流しゅりゅうである。さらに新あたらしい皇后こうごうを迎むかえることができなかった皇帝こうていも多おおく、つまり継妻けいさいを持もつことがない。唐とうの玄げん宗むねを例れいにとると、玄げん宗むねは王おう皇后こうごうを廃はいした後のちも、寵ちょう妃ひである武たけ恵めぐみ妃ひ、あるいはもう一人ひとりの寵ちょう妃ひである楊貴妃ようきひを皇后こうごうに昇格しょうかくしなかった。

中国ちゅうごくの諸しょ王朝おうちょうでは、実権じっけんを握にぎった皇帝こうていは自分じぶんの気持きもちで立后りっこうする。格式かくしきの高たかい家いえの生うまれから選抜せんばつされて皇后こうごうになることも多おおいが、身分みぶんの低ひくい女性じょせいが皇帝こうていに寵愛ちょうあいされれば、皇后こうごうになる可能かのう性せいもある。庶民しょみん以下いかの人間にんげんにしては、芸妓げいぎ、奴隷どれい、流民りゅうみん出身しゅっしんの女性じょせいが皇后こうごうの座ざに就ついたことも数すう例れいある（趙ちょう飛燕ひえん、潘はん淑よし、神かみ閔敬皇后こうごうなど）。初婚しょこんでない例れいもあり、王おう皇后こうごう（前夫ぜんふは一般人いっぱんじん男性だんせい）、章あきら献けんじ明あきら粛皇后こうごう（前夫ぜんふは一般人いっぱんじん男性だんせい）、武則たけのり天てん（元もとは先帝せんていの側がわ妃ひ）、羊ひつじ献けんじ容よう（元もとは他国たこくの皇后こうごう）など数すう名めいは再婚さいこんを経へて皇后こうごうとなった。

漢かん族ぞく王朝おうちょうの皇后こうごうの定員ていいんは1名めいであった。異い民族みんぞく王朝おうちょうには複数ふくすうの皇后こうごうが存在そんざいしている例れいがある。北きた周あまねの宣せん帝みかどには同時どうじに5人にんの皇后こうごうがいて、遼りょうの世よ宗むねにも同時どうじに2人ふたりの皇后こうごうがいる（甄皇后こうごう、懐ふところ節ぶし蕭しょう皇后こうごう）。

夫おっと帝みかどが崩御ほうぎょした場合ばあい、子この世代せだい（実子じっし、庶子しょし、養子ようし、甥おい）にあたる皇帝こうていが即位そくいすれば、皇太后こうたいごうになった。しかし同どう世代せだいの皇帝こうていが即位そくいした場合ばあい、皇太后こうたいごうになるのではなく、先帝せんていの皇后こうごうとして尊号そんごうを与あたえられた（孝章たかあき皇后こうごう、孝こう静せい夏なつ皇后こうごうなど）。

また、正式せいしきな皇后こうごうとして立たてられたわけではないが、皇后こうごうに贈おくされた例れいもある。礼法れいほう上じょうの地位ちいは一般いっぱん的てきに正式せいしきな皇后こうごうより低ひくい。皇后こうごうに追贈ついぞうできる対象たいしょうは、皇帝こうてい即位そくい前まえに亡なくなった嫡妻、皇帝こうていの生母せいぼ、皇帝こうていの正妻せいさい格かくに相当そうとうする妃ひ（別格べっかくの待遇たいぐうを受うけている寵ちょう妃ひ、後宮こうきゅうのことを取とり仕切しきっていた妃ひなど）である。

最初さいしょの皇后こうごうは前漢ぜんかんの劉邦りゅうほうの后きさき・呂りょ雉である。最後さいごの皇后こうごうは愛あい新しん覚さとし羅ら溥儀ふぎの后きさき・婉容である。皇后こうごうで最長さいちょうの在位ざいいは明あきらの万まん暦れき帝みかどの后きさき・王おう喜き姐あねである（42年ねんと42日にち）。最短さいたんの在位ざいいは清きよしの康かん熙帝の后きさき・孝こう懿仁皇后こうごうである（1日にち）。最さい長寿ちょうじゅの皇后こうごうは前漢ぜんかんの元もと帝みかどの后きさき・王政おうせい君くんである（84歳さい）。

日本にっぽんの皇后こうごう

現代げんだいにおける概要がいよう

日本にっぽん 皇后こうごう
皇后こうごう旗はた
在位ざいい中ちゅうの皇后こうごう
第だい126代だい皇后こうごう 雅子まさこ 2019年ねん（令れい和わ元年がんねん）5月1日にちより
詳細しょうさい
敬称けいしょう	陛下へいか
初代しょだい	光明皇后こうみょうこうごう
成立せいりつ	729年ねん(天平てんぺい元年がんねん）
宮殿きゅうでん	皇居こうきょ （東京とうきょう都と千代田ちよだ区く）
ウェブサイト	宮内庁くないちょう

称号しょうごう：皇后こうごう
敬称けいしょう	陛下へいか Her Majesty the Empress／ Her Imperial Majesty（H.I.M.）

皇室こうしつ典範てんぱんに定さだめられた敬称けいしょうは「陛下へいか」（第だい23条じょう）。現代げんだいのテレビや新聞しんぶん等とうのマスメディアや報道ほうどう機関きかん、書籍しょせき、政府せいふ機関きかんなどでは、正式せいしきな敬称けいしょうをつけた「皇后こうごう陛下へいか（こうごうへいか）」とともに「皇后こうごうさま（こうごうさま）」という表記ひょうきも見みられる。

また、歌会うたかい始はじめでは「皇后こうごう宮みや御歌おうた（きさいのみやのみうた）」と大和言葉やまとことばの「皇后こうごう宮みや（きさいのみや）」が使つかわれる。

また、マスメディアによる報道ほうどうや政府せいふ機関きかん等とうでは夫おっと（配偶はいぐう者しゃ）である天皇てんのうとともに「天皇てんのう皇后こうごう両りょう陛下へいか」（てんのうこうごうりょうへいか）、または単たんに「両りょう陛下へいか」（りょうへいか）という呼称こしょうを用もちいるのが慣例かんれいとなっている。

立后りっこう（りつごう）には皇室こうしつ会議かいぎの議ぎを経へることが必要ひつようである（第だい10条じょう）が、すでに皇嗣こうしの妃ひ（親王しんのう妃ひまたは王妃おうひ）である場合ばあい、夫おっと帝みかど（親王しんのうまたは王おう）の即位そくいに伴ともなって皇后こうごうとなる。内廷ないてい皇族こうぞくに属ぞくする。

摂政せっしょう・国事こくじ行為こうい臨時りんじ代行だいこう・皇室こうしつ会議かいぎ議員ぎいんの就任しゅうにん権けんが認みとめられている。

崩御ほうぎょ後ごは陵りょうに葬ほうむられる（第だい27条じょう）。貞明皇后ていめいこうごう（大正天皇たいしょうてんのう后きさき）以降いこう、皇后こうごうまたは皇太后こうたいごうが崩御ほうぎょした際さいには、「◯◯皇后こうごう」と追号ついごうされるのが慣例かんれいとなっている。

式典しきてん、儀式ぎしきにおいては、常つねに天皇てんのうの左側ひだりがわ（向むかって右みぎ）に位置いちする。古来こらい、向むかって右側みぎがわが上位じょういであったが、近代きんだいになって、西洋せいよう式しきに向むかって左側ひだりがわが上位じょういに改あらためられたことによる。この並ならび順じゅんは、3月3日にちの桃ももの節句せっく（ひなまつり）におけるひな人形にんぎょうの飾かざり方かたにも影響えいきょうを与あたえている。

皇后こうごうの務つとめの一ひとつとして、近きん現代げんだいにおいて代表だいひょう的てきな公務こうむである日本赤十字社にほんせきじゅうじしゃ名誉めいよ総裁そうさい職しょくの他ほかに、養蚕ようさんが挙あげられる。『日本書紀にほんしょき』にも、皇后こうごうが養蚕ようさんを行おこなったという記述きじゅつがあり、近代きんだい・現代げんだいの皇室こうしつにおいて昭憲皇太后しょうけんこうたいごう（明治天皇めいじてんのう后きさき）によって復活ふっかつさせた。以後いご、貞明皇后ていめいこうごう（大正天皇たいしょうてんのう后きさき）、香こう淳じゅん皇后こうごう（昭和しょうわ天皇てんのう后きさき）、美智子みちこ（第だい125代だい天皇てんのう明仁あきひと后きさき）、雅子まさこ（第だい126代だい天皇てんのう徳とく仁ひとし后きさき）と、近代きんだいから現代げんだいに至いたるまで歴代れきだい皇后こうごうに引ひき継つがれている。1914年ねん（大正たいしょう3年ねん）以降いこうは紅葉山もみじやま御ご養蚕ようさん所しょにて行おこなわれている。

語源ごげん

『古事記こじき』・『日本書紀にほんしょき』に従したがえば、古ふるくは大王だいおうの妻妾さいしょうを「キサキ」（后きさき）と呼よび、そのうちで最高さいこう位いにあるものを「オオキサキ」（歴史れきし的てき仮名遣かなづかいで「オホキサキ」）と呼よび、単たんなる「キサキ」である他ほかの妻妾さいしょうと区別くべつした。『古事記こじき』では「大だい后きさき」、『日本書紀にほんしょき』では「皇后こうごう」の漢字かんじを当あてている。「キサキ」の語源ごげんについては“君きみ幸こう”説せつ、“君きみ前まえ”説せつ、“水みずの女おんな”説せつなどの他ほか、多おおくの説せつがあるもののこれといった有力ゆうりょく説せつは今いまのところない。平安へいあん時代じだいは中宮なかみやは皇后こうごうを指さした。

後世こうせい「きさき」が皇后こうごうの意味いみを表あらわすようになり、皇后こうごうを皇后こうごう宮みや、后きさき宮みや（きさいのみや）、一いちの后きさき（いちのきさき）呼よんだ。これにちなみ、皇后こうごうを母ははとする皇子おうじ女おんなを后きさき腹はら・妃ひ腹はら（きさいばら）という。別称べっしょう（唐名とうみょう）として長ちょう秋あき宮みや、秋あき宮みや（あきのみや・しゅうきゅう）、あるいは漢かん代だいの例れいをもって椒はじかみ房ぼう（しょぼう）椒はじかみ庭にわ（しょうてい）椒はじかみ囲かこえ（しょうい）と称しょうした。和名わみょうでは八雲やくも御ご抄しょうや後こう拾遺しゅうい和歌集わかしゅうにみえる「紫むらさきの雲くも」などがある。「おうごう」とも読よんだ。その他たには紫むらさきの宮みや（むらさきのみや）、北きたの宮みや、北きたの方かた（きたのかた）などがある。

旧きゅう現げん皇室こうしつ典範てんぱんのもとでの敬称けいしょうは「陛下へいか」であるが、大宝たいほう律令りつりょうのもとでの敬称けいしょうは「殿下でんか」であった。また、正式せいしきには「太皇太后たいこうたいこう宮みや」「皇太后こうたいごう宮みや」とともに「皇后こうごう宮みや」と呼よばれ、総称そうしょうして三后さんこう（さんごう）という。三后さんこうは天皇てんのうに准じゅんずる存在そんざいとされたため、さらにそれに准じゅんずる存在そんざい、つまり天皇てんのうと三后さんこうを除のぞく皇族こうぞくの最高さいこう位いとして、「准じゅん后きさき」（または准じゅん三さん宮みや）という待遇たいぐう・称号しょうごうが生うまれた。

歴代れきだい皇后こうごう

詳細しょうさいは「日本にっぽんの皇后こうごう一覧いちらん」および「后きさき位い」を参照さんしょう

歴史れきし

古代こだい

光明皇后こうみょうこうごう（菊池きくち契ちぎり月がつ画が）

「皇后こうごう」という称号しょうごうが明文めいぶんで規定きていされたのは、大宝たいほう律令りつりょうの制定せいてい以後いごであり、天平てんぺい元年がんねん（729年ねん）に第だい45代だい聖武天皇しょうむてんのうの妻つまである藤原ふじわら安宿やすやど媛ひめが最初さいしょの皇后こうごうとなった(光明皇后こうみょうこうごう)。ただし『日本書紀にほんしょき』が初代しょだい神武じんむ天皇てんのうの正妃せいひ媛ひめ蹈鞴たたら五十鈴いすず媛ひめ命いのち（ヒメタタライスズヒメ）以後いごすべての「オオキサキ」に対たいしても「皇后こうごう」の字じを当あてたことから、光明皇后こうみょうこうごうよりも前まえの天皇てんのう正妃せいひも「皇后こうごう」と呼よぶ慣行かんこうがある。

大宝たいほう律令りつりょうに皇后こうごうになれる資格しかくを規定きていした条文じょうぶんはないが、皇后こうごうより一いち段だん下位かいの妻つま（天皇てんのうの配偶はいぐう者しゃ）である妃ひの資格しかくが「四よん品ひん以上いじょうの内親王ないしんのう」と規定きていされていることから、「皇后こうごうも当然とうぜん内親王ないしんのうでなければなれないもの」と観念かんねんされていたとする考かんがえ方かたがある。『日本書紀にほんしょき』においても、仁徳天皇にんとくてんのうの「皇后こうごう」磐いわ之の媛ひめを唯一ゆいいつの例外れいがいとして「皇后こうごう」の父ちちは全すべて神かみまたは天皇てんのう・皇族こうぞくである。（但ただし、磐いわ之の媛ひめも血筋ちすじの上うえでは孝こう元もと天皇てんのうの男系だんけい来らい孫まごであり、逆ぎゃくに細ほそ媛ひめ命いのちと春日しゅんじつ娘むすめ子こにはそのような記述きじゅつが無ない。）、古代こだいエジプトのファラオの家系かけいが近親きんしん婚こんによって継承けいしょうされたこと同様どうように、古代こだいにおいて皇后こうごうが内親王ないしんのうに限定げんていされたことは、天皇てんのうに母系ぼけいを通つうじて人臣じんしんの血ちが混こんじることが、天皇てんのうの神聖しんせいさを薄うすれさせる行為こういであると考かんがえられたからであろう。しかし、『日本書紀にほんしょき』の記事きじには後世こうせいにおける天皇てんのうの生母せいぼに対たいする顕彰けんしょうによって贈おくられた「皇后こうごう」号ごうも存在そんざいするとの考かんがえがある。8世紀せいきに、光明皇后こうみょうこうごうが磐いわ之の媛ひめの例れいを先例せんれいとして皇后こうごうに冊立さくりつされてから、このような制約せいやくはなくなり、むしろ皇族こうぞくよりも藤原ふじわら氏しのほうが皇后こうごうの出身しゅっしん氏族しぞくとして多おおく見みられるようになった。

また、皇后こうごうの夫おっと天皇てんのうが崩御ほうぎょして新しん天皇てんのうが即位そくいしても必かならず皇太后こうたいごうとなるとは限かぎらず、そのまま皇后こうごう位いにとどまる例れいも少すくなくない。

初婚しょこんでない例れいもあり、伊香いか色しょく謎なぞ命いのち、中ちゅう磯いそ皇女おうじょ、寶たから女王じょおう（後ごの女性じょせい天皇てんのう、皇すめらぎ極ごく天皇てんのう）の3名めいは、いずれも元々もともと別べつの天皇てんのう・皇族こうぞくの妃ひであり、いずれも子こがあった。

逆ぎゃくに媛ひめ蹈鞴たたら五十鈴いすず媛ひめ命いのち、穴あな穂ほ部ぶ間あいだ人じん皇女おうじょ、藤原ふじわら多子おいごの3名めいは、夫おっと天皇てんのうの崩御ほうぎょ後ご別べつの天皇てんのう・皇族こうぞくと再縁さいえんし、中なかでも穴あな穂ほ部ぶ間あいだ人じん皇女おうじょは子こも儲もうけた。

延喜えんぎ23年ねん（923年ねん）、醍醐天皇だいごてんのうが藤原ふじわら穏子を皇后こうごうに冊立さくりつしたとき、皇后こうごう宮みや職しょくではなく中宮ちゅうぐう職しょくが設置せっちされて穏子に付置ふちされることになった。中宮ちゅうぐう職しょくが皇后こうごうに付置ふちされた最初さいしょの例れいである。このとき初はじめて、皇后こうごうの呼称こしょうとして「中宮なかみや」が用もちいられることになった。

本来ほんらい、皇后こうごうの定員ていいんは1名めいであったが、永えい祚2年ねん（990年ねん）、一条天皇いちじょうてんのうが藤原ふじわら定子さだこを皇后こうごうに冊立さくりつするにあたり、すでに円融天皇えんゆうてんのう（既すでに退位たいいして太上天皇だじょうてんのう）の皇后こうごう（中宮ちゅうぐう）として藤原ふじわら遵子が在位ざいいしていたにかかわらず、先帝せんていの皇后こうごうと今上きんじょうの皇后こうごうは併存へいそんしうるものとして、2人ふたりの皇后こうごうの並立へいりつが強行きょうこうされて以来いらい、皇后こうごうは同時どうじに2人ふたりまで冊立さくりつすることができるようになった。両者りょうしゃを区別くべつするため、遵子には中宮ちゅうぐう職しょくから皇后こうごう宮みや職しょくを付置ふちして遵子を「皇后こうごう宮みや」と称しょうし、定子さだこには中宮ちゅうぐう職しょくを付置ふちして定子さだこを「中宮ちゅうぐう」と称しょうした。さらに長保ながほ2年ねん（1000年ねん）、藤原ふじわら彰子あきこが皇后こうごうとされるに及およんで1人ひとりの天皇てんのうが同時どうじに2人ふたりの皇后こうごうを立たてることができる例れいが開ひらかれた。このときは定子さだこを「皇后こうごう宮みや」と改あらため、彰子あきこを「中宮ちゅうぐう」とした。「皇后こうごう宮みや」も「中宮ちゅうぐう」もともに皇后こうごうであり、互たがいに優劣ゆうれつはないが、「中宮ちゅうぐう」のほうが実質じっしつ的てきに天皇てんのうの正妻せいさいとしての地位ちいを占しめている例れいが多おおい。

後冷泉天皇ごれいぜいてんのうには既すでに中宮ちゅうぐう章子あきこ内親王ないしんのうと皇后こうごう藤原ふじわら寛子ひろこがいたが、治ち暦れき4年ねん（1068年ねん）更さらに藤原ふじわら歓子が立后りっこうされることになり、中宮なかみや章子あきこが皇太后こうたいごう、皇后こうごう寛子ひろこが中宮ちゅうぐうとされ、歓子は皇后こうごうとされた。章子あきこは皇太后こうたいごう位いの皇后こうごうともいうべき立場たちばになり、僅わずか2日にち後ごに後冷泉天皇ごれいぜいてんのうが崩御ほうぎょしたものの、この3日間にちかんだけ1人ひとりの天皇てんのうが同時どうじに3人にんの皇后こうごうを立たてた唯一ゆいいつの例れいとなった。なお、皇后こうごう宮みやから中宮ちゅうぐうとなったのは、寛子ひろこただ一人ひとりである。

その後ご、皇后こうごうのあり方かたは次第しだいに多様たよう化かした。天皇てんのうの母ははがすでに死去しきょしている場合ばあい、または生母せいぼの身分みぶんが低ひくすぎる場合ばあいなどに、母ははに擬ぎして准じゅん母ははを定さだめることが行おこなわれた。その初はつ例れいは、寛治かんじ5年ねん（1091年ねん）に堀河ほりかわ天皇てんのうの准じゅん母ははとなった媞子内親王ないしんのうであるが、彼女かのじょが同時どうじに皇后こうごうとされたことから、天皇てんのうの妻つまではない女性じょせいが皇后こうごうに立たてられる例れいが開ひらかれた。このような皇后こうごうを、学術がくじゅつ的てきには「非ひ妻つま后きさきの皇后こうごう」と呼よび、あわせて11例れいある。宮内庁くないちょうの行政ぎょうせい用語ようごでは「尊称そんしょう皇后こうごう」と呼よんでいる。媞子は「中宮ちゅうぐう」であったが、その後ごの非ひ妻つま后きさきの皇后こうごうはすべて「皇后こうごう宮みや」であった。のちには、准じゅん母ははの経歴けいれきがなくても、単たんに未婚みこんの内親王ないしんのうを優遇ゆうぐうする目的もくてきで「皇后こうごう宮みや」の称号しょうごうが与あたえられた例れいも生しょうじた。准じゅん母ははの尊称そんしょう皇后こうごうの中なかで唯一ゆいいつ、姈子内親王ないしんのうはのちに入内じゅだいした。また、長なが承うけたまわ3年ねん（1134年ねん）には、鳥羽天皇とばてんのうが譲位じょういして上皇じょうこうとなったあとに入内じゅだいさせた妻つまである藤原ふじわら泰子やすこを、治ち天てんの正妻せいさいであることを明示めいじする目的もくてきで皇后こうごう（皇后こうごう宮みや）に立たてた。さらに鳥羽とばは、永治えいじ元年がんねん（1141年ねん）、同年どうねんに即位そくいした自分じぶんの末子まっし近衛天皇このえてんのうの生母せいぼ藤原ふじわら得子とくこを、天皇てんのうの生母せいぼであることを根拠こんきょに皇后こうごう（皇后こうごう宮みや）に立たてている。そのほか、死後しごに皇后こうごうを追贈ついぞうされた者ものが3名めいいる。

中世ちゅうせい・近世きんせい

南北なんぼく朝あさ時代じだい以降いこう、元弘もとひろ3年ねん（1333年ねん）に後醍醐天皇ごだいごてんのうの皇后こうごう（中宮ちゅうぐう）に立たてられた珣子内親王ないしんのうを最後さいごとして（長慶天皇ちょうけいてんのうも建徳けんとく2年ねん（1371年ねん）以降いこう中宮ちゅうぐうを立たてたが、詳細しょうさい不明ふめい）、皇后こうごうの冊立さくりつは途絶とだえた。また同どう時期じきから女御にょうごの入内じゅだいも行おこなわれなくなったため、天皇てんのうが嫡妻を持もつことがない時期じきが続つづいた。天正てんしょう14年ねん（1583年ねん）、近衛このえ前ぜん久ひさの娘むすめ前ぜん子こが豊臣とよとみ秀吉ひでよしの養女ようじょとして後こう陽成ようぜい天皇てんのうに入内じゅだいして女御にょうごとなり、天皇てんのうが嫡妻を持もつことが復活ふっかつした。江戸えど時代じだいでは平安へいあん時代じだいのように天皇てんのうが同時どうじに2人ふたり以上いじょうの嫡妻を持もつことはなく、基本きほん的てきに女御にょうごがその地位ちいにあった。また天皇てんのうが嫡妻との死別しべつ後ごに新あらたな嫡妻を迎むかえるのも一いち例れいのみである。中宮ちゅうぐうが再興さいこうされるのは、寛永かんえい元年がんねん（1624年ねん）冊立さくりつの後水尾天皇ごみずのおてんのうの中宮ちゅうぐう源みなもと和子かずこの時ときであり、近世きんせいを通つうじて中宮ちゅうぐう・皇后こうごうは没後ぼつご追贈ついぞうを含ふくめて5例れいしかない。

近代きんだい・現代げんだい

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  第だい122代だい天皇てんのう・明治天皇めいじてんのうの皇后こうごう
  昭憲皇太后しょうけんこうたいごう（一条いちじょう美子よしこ）
  （1849年ねん - 1914年ねん）
  日本にっぽん史上しじょう初はじめて洋装ようそうをした皇后こうごう。
  （在位ざいい：1869年ねん2月がつ9日にち - 1912年ねん7月がつ30日にち）
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  第だい123代だい天皇てんのう・大正天皇たいしょうてんのうの皇后こうごう
  貞明皇后ていめいこうごう（九条くじょう節子せつこ）
  （1884年ねん - 1951年ねん）
  側室そくしつ制度せいど廃止はいし後ごで初はつの一夫一婦いっぷいっぷ制せいの下したでの皇后こうごう。
  （在位ざいい：1912年ねん7月がつ30日にち - 1926年ねん12月25日にち）
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  第だい124代だい天皇てんのう・昭和しょうわ天皇てんのうの皇后こうごう
  香こう淳じゅん皇后こうごう（良子りょうこ女王じょおう）
  （1903年ねん - 2000年ねん）
  歴代れきだいで最さい長寿ちょうじゅ・最長さいちょう在位ざいいの皇后こうごう。
  （在位ざいい：1926年ねん12月25日にち - 1989年ねん1月がつ7日にち）
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  第だい125代だい天皇てんのう・明仁あきひとの皇后こうごう
  美智子みちこ（正田しょうだ美智子みちこ）
  （1934年ねん - ）
  有史ゆうし以来いらい、初はつの非ひ貴族きぞく出身しゅっしんの皇后こうごう。
  （在位ざいい：1989年ねん1月がつ7日にち - 2019年ねん4月がつ30日にち）
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  第だい126代だい天皇てんのう・徳とく仁ひとしの皇后こうごう
  雅子まさこ（小和田こわだ雅子まさこ）
  （1963年ねん - ）
  （在位ざいい：2019年ねん5月1日にち - ）

関東大震災かんとうだいしんさいの被災ひさい者しゃを慰問いもんする貞明皇后ていめいこうごう
1923年ねん（大正たいしょう12年ねん）9月がつ15日にち

養蚕ようさんする香こう淳じゅん皇后こうごう
1955年ねん（昭和しょうわ30年ねん）6月がつ

明治めいじ元年がんねん（旧暦きゅうれき：1868年ねん、新暦しんれき：1869年ねん）に皇后こうごう（中宮ちゅうぐう）となった明治天皇めいじてんのうの一条いちじょう美子よしこ（昭憲皇太后しょうけんこうたいごう、五摂家ごせっけの一ひとつ一条いちじょう家か出身しゅっしん）が翌年よくねんに「皇后こうごう宮みや」とされて以来いらい、「中宮ちゅうぐう」の称号しょうごうは絶たえ、明治めいじ22年ねん（1889年ねん）の旧きゅう皇室こうしつ典範てんぱんの制定せいていで、皇后こうごうの定員ていいんが1名めいとなるとともに、正式せいしきに「中宮ちゅうぐう」の称号しょうごうは廃止はいしされ、皇后こうごうに統一とういつされた。准じゅん母ははの制度せいども廃止はいしされた。また、皇族こうぞくの父親ちちおやを持もたない皇后こうごうが、皇族こうぞく身分みぶんを認定にんていされたのもこの時とき以来いらいのものである。

なお、皇后こうごう・皇太后こうたいごう・太皇太后たいこうたいこうの3つの身み位いの序列じょれつは、大宝たいほう律令りつりょうでは1.太皇太后たいこうたいこう、2.皇太后こうたいごう、3.皇后こうごうの順じゅんと定さだめられていたが、1910年ねんの皇族こうぞく身み位い令れい（明治めいじ43年ねん皇室こうしつ令れい第だい2号ごう）制定せいていによって1.皇后こうごう、2.太皇太后たいこうたいこう、3.皇太后こうたいごうの順じゅんに改あらためられ、諡号しごう・追号ついごうには生前せいぜん帯おびていた身み位いのうち最高さいこうのものである「皇后こうごう」をつけることになった。

明治めいじ19年ねん（1886年ねん）1月がつ、昭憲皇太后しょうけんこうたいごうによる「婦女ふじょ服ふく制せいの思召おぼしめし書しょ」の布告ふこくによって、洋服ようふく着用ちゃくようが奨励しょうれいされ、宮中きゅうちゅうにおいても日常にちじょう着ぎから洋服ようふくを着用ちゃくようすることとなった。

このため、第だい二に次じ世界せかい大戦たいせん以前いぜん、皇后こうごうの和服わふく（着物きもの）姿すがたの写真しゃしんが公開こうかいされることはなかった。

ただし、久邇くに宮家みやけ出身しゅっしんの香こう淳じゅん皇后こうごうは、和服わふくを所有しょゆうしており、私的してきな写真しゃしんは撮影さつえいされていた。大戦たいせん中ちゅうには、倹約けんやくの奨励しょうれいから「宮中きゅうちゅう服ふく」が考案こうあんされるが、実際じっさいには皇后こうごうしか着用ちゃくようしなかったため「皇后こうごう服ふく」の異称いしょうもある。

敗戦はいせん後ごの占領せんりょう期きが終了しゅうりょうし日本にっぽんが主権しゅけん回復かいふくを迎むかえた昭和しょうわ27年ねん（1952年ねん：4月がつ28日にちの日本にっぽん国こくとの平和へいわ条約じょうやく発効はっこう）になって、香こう淳じゅん皇后こうごうが初はじめて和服わふく（訪問ほうもん着ぎ）を着用ちゃくようして公おおやけの場ばに現あらわれた。以後いご、今日きょうに至いたるまで、日本にっぽんの伝統でんとう衣装いしょうとして皇后こうごうおよびその他た女性じょせい皇族こうぞく（親王しんのう妃ひ、内親王ないしんのう、女王じょおう）が和服わふくを着用ちゃくようする機会きかいも多おおい。

日本にっぽん・中国ちゅうごく以外いがいの皇后こうごう

「皇后こうごう」の称号しょうごうはもともと、中国ちゅうごくの歴代れきだい王朝おうちょうが掲かかげた政治せいじ的てき世界せかい観かんの下したでの世界せかい全体ぜんたいの支配しはい者しゃ天子てんし（皇帝こうてい）の正妃せいひの呼称こしょうであった。従したがって、漢字かんじ文化ぶんか圏けんの国家こっかにおいては、最高さいこう位いの君主くんしゅの称号しょうごうが皇帝こうていあるいはそれと同等どうとうなものである場合ばあい、皇后こうごうも存在そんざいすることになる。「王おう」（国王こくおう・郡ぐん王おうなど）は、皇帝こうていの下したで一いち地域ちいき・一いち民族みんぞくの君主くんしゅであるにとどまる存在そんざいであった。

漢字かんじ文化ぶんか圏けん以外いがいの国家こっかであっても、一いち地域ちいき・一いち民族みんぞくの君主くんしゅであるにとどまる王おうの上位じょういに位置いちし、複数ふくすうの地域ちいき・民族みんぞくを支配しはいする君主くんしゅが存在そんざいする場合ばあい、このような君主くんしゅを、日本語にほんごで「皇帝こうてい」と訳やくす慣習かんしゅうがある。これにともなって「皇帝こうてい」と訳やくされる称号しょうごうを持もつ君主くんしゅの妻つまの称号しょうごうも「皇后こうごう」と訳やくされる。

皇帝こうていと皇后こうごうの訳語やくご

ロろーマ帝国まていこくの君主くんしゅの称号しょうごうの一ひとつである Imperator は、通常つうじょう「皇帝こうてい」と訳やくされ、また Caesar という家名かめいも君主くんしゅの称号しょうごうとなって、東西とうざいロろーマ帝国まていこくの歴史れきしを継承けいしょうする社会しゃかい（神かみ聖きよしロろーマ帝国まていこく・ドイツ帝国ていこく・オーストリア帝国ていこくのカイザー、ロシア帝国ていこくのツァーリなど）の統治とうち者しゃ・君主くんしゅの称号しょうごうとして使つかわれ、これも「皇帝こうてい」と訳やくされる。サーサーン朝あさペルシアやパフラヴィー朝あさイランの「諸王しょおうの王おう（シャーハンシャー）」、オスマン帝国ていこくの「スルタン」あるいは「パーディシャー」、北きたアフリカのエチオピアの「諸王しょおうの王おう（ネグサ・ナガスト）」、インドのムガル帝国ていこくの「パーディシャー」、南みなみアメリカのインカ帝国ていこくの「サパ・インカ」なども「皇帝こうてい」と訳やくされる。これらの君主くんしゅが一夫一婦いっぷいっぷ制せいの婚姻こんいん形態けいたいを採とっていれば、妻つまの称号しょうごうは「皇后こうごう」となるはずであるが、実際じっさいには、世間せけんに通用つうようしている通称つうしょうや研究けんきゅう者しゃによる慣用かんようなどが優先ゆうせんし、一様いちようではない。

西欧せいおうキリスト教きりすときょう社会しゃかいなどの一夫一婦いっぷいっぷ制せい度どを採とる世界せかいでは、皇帝こうていの妻つまは正式せいしきには一人ひとりしか存在そんざいせず「皇后こうごう」または「皇すめらぎ妃ひ」と訳やくされることが一般いっぱん的てきである。一いち例れいとして東ひがしロろーマ帝国まていこく皇帝こうていのユスティニアヌス1世せいの妻つまテオドラがある。彼女かのじょの地位ちいは「皇后こうごう」または「皇すめらぎ妃ひ」と訳やくされる。

皇后こうごうと女帝にょてい

ヨーロッパ諸国しょこくの言語げんごでは、日本語にほんごの「皇后こうごう」に当あたる称号しょうごうは「皇帝こうてい」と訳やくされる称号しょうごうの女性じょせい形がたなのが一般いっぱん的てきである（というより、ほとんどの君主くんしゅ称号しょうごう・爵位しゃくいがそうである）。この場合ばあい、称号しょうごうだけでは、単たんに皇帝こうていの妻つまであるのか、自みずからが帝位ていいにある女性じょせいの皇帝こうていであるのかは、区別くべつできない。日本語にほんごに訳やくす場合ばあいは、前者ぜんしゃは「皇后こうごう」、後者こうしゃは「女帝にょてい」と訳やくし分わける必要ひつようがある。上記じょうきのテオドラはあくまでも「皇后こうごう」である。

ロシア帝国ていこくのエカチェリーナ2世せいは、もとは皇帝こうていピョートル3世せいの妻つまであり、その後ごクーデターにより自みずから帝位ていいについたものであるから、同どう一人物いちじんぶつであり、ロシア語ごでの称号しょうごうは同おなじ単語たんごでありながら、即位そくい以前いぜんと以後いごとで「皇后こうごう」と「女帝にょてい」の使つかい分わけが行おこなわれている。また神聖しんせいローマ皇帝こうていフランツ1世せいの妃ひマリア・テレジアは本来ほんらい「皇后こうごう」であるが、これは女性じょせいに神聖しんせいローマ皇帝こうてい位い継承けいしょう者しゃ資格しかくが無ないための措置そちであり、ハプスブルク家かの支配しはい下かの領域りょういきにおいては、彼女かのじょがオーストリア大公たいこう・ハンガリー王おう・ボヘミア王おうを兼かねる君主くんしゅであり、フランツ1世せいは君主くんしゅの配偶はいぐう者しゃに過すぎない。そのため日本語にほんごでも「女帝にょてい」と表あらわされることが多おおい。

英語えいご圏けんでも、特とくに上記じょうきを区別くべつする語かたりがある。統治とうち権けんを持もつ 英語えいご: empress （女性じょせいの皇帝こうてい） を英語えいご: empress regnant（君臨くんりんする女性じょせいの皇帝こうてい＝女帝にょてい）と呼よび、統治とうち権けんのある男性だんせいの皇帝こうていの配偶はいぐう者しゃを英語えいご: empress consort（妃ひである女性じょせいの皇帝こうてい＝皇后こうごう）と呼よぶ。一いち例れいとして、英語えいご圏けんでは推古天皇すいこてんのうは empress regnant である。

歌人かじん皇后こうごう 

日本にっぽんの皇后こうごうはしばしば優すぐれた歌人かじんでもあり、サロンを形成けいせいして学芸がくげいを振興しんこうした。以下いかは、歌人かじんとして活躍かつやくした故人こじんのみ述のべる。

• 宝たから女王じょおう（斉ひとし明天めいてん皇すめらぎ、594 - 661） - 第だい34代だい天皇てんのう・舒明天皇てんのう皇后こうごう。万葉まんよう歌人かじん。
• 倭やまと姫王ひめおう（? - ?） - 第だい39代だい天皇てんのう・天智天皇てんぢてんのう皇后こうごう。万葉まんよう歌人かじん。
• 鸕野讚たたえ良よ（持もち統すべ天皇てんのう、645 - 703） - 第だい40代だい天皇てんのう・天武天皇てんむてんのう皇后こうごう。勅撰ちょくせん集しゅうに2首しゅが入いれ集しゅう。小倉おぐら百ひゃく人にん一いち首しゅ第だい2番ばん。
• 藤原ふじわら定子さだこ（977 - 1001） - 第だい66代だい天皇てんのう・一条天皇いちじょうてんのう皇后こうごう宮みや。勅撰ちょくせん集しゅうに7首しゅが入いれ集しゅう。サロンに清少納言せいしょうなごんら。
• 藤原ふじわら彰子あきこ（988 - 1074） - 第だい66代だい天皇てんのう・一条天皇いちじょうてんのう中宮ちゅうぐう。勅撰ちょくせん集しゅうに28首しゅが入いれ集しゅう。サロンに紫式部むらさきしきぶ・和泉式部いずみしきぶ・赤染あかぞめ衛門えもん・出羽でわ弁べん・伊勢大輔いせのたいふら。
• 藤原ふじわら妍子（994 - 1027） - 第だい67代だい天皇てんのう・三条さんじょう天皇てんのう中宮ちゅうぐう。勅撰ちょくせん集しゅうに8首しゅが入いれ集しゅう。サロンに大和やまと宣旨せんじら。
• 西園寺さいおんじ鏱子（永福門院えいふくもんいん、1271 - 1342） - 第だい92代だい天皇てんのう・伏見天皇ふしみてんのう中宮ちゅうぐう。京極きょうごく派はを代表だいひょうする同どう時代じだい最大さいだいの歌人かじんの一人ひとり。勅撰ちょくせん集しゅうに151首しゅが入いれ集しゅう。サロンに永福門院えいふくもんいん内侍ないし・永福門院えいふくもんいん右みぎ衛門えもん督とくら。
• 西園寺さいおんじ禧子よしこ（後ご京極きょうごく院いん、? - 1333） - 第だい96代だい天皇てんのう・後醍醐天皇ごだいごてんのう皇太后こうたいごう宮みや。二に条じょう派はの有力ゆうりょく歌人かじん。勅撰ちょくせん集しゅうに14首しゅ、准じゅん勅撰ちょくせん集しゅうに1首しゅが入いれ集しゅう。サロンに二条にじょう藤子とうこ・阿野あの廉れん子こら。
• 長慶天皇ちょうけいてんのう中宮ちゅうぐう（西園寺さいおんじ公こう重じゅう女おんな？、? - ?） - 第だい98代だい天皇てんのう・長慶天皇ちょうけいてんのう中宮ちゅうぐう。准じゅん勅撰ちょくせん集しゅうに15首しゅが入いれ集しゅう。
• 昭憲皇太后しょうけんこうたいごう（1849 - 1914） - 第だい122代だい天皇てんのう・明治天皇めいじてんのう皇后こうごう。家集かしゅうに『昭憲皇太后しょうけんこうたいごう御製ぎょせい大だい全集ぜんしゅう』。
• 貞明皇后ていめいこうごう（1884 - 1951） - 第だい123代だい天皇てんのう・大正天皇たいしょうてんのう皇后こうごう。家集かしゅうに『貞明皇后ていめいこうごう御ご歌集かしゅう』。

参照さんしょう文献ぶんけん

文献ぶんけん資料しりょう

• 片野かたの真佐子まさこ『皇后こうごうの近代きんだい』講談社こうだんしゃ〈講談社こうだんしゃ選書せんしょメチエ〉、2003年ねん11月。ISBN 4-06-258283-X。 
• 久保くぼ貴子たかこ「近世きんせい天皇てんのう家かの女性じょせいたち」『近世きんせいの天皇てんのう・朝廷ちょうてい研究けんきゅう大会たいかい成果せいか報告ほうこく集しゅう / 朝あさ幕まく研究けんきゅう会かい 編へん』第だい2巻かん、学習院大学がくしゅういんだいがく人文じんぶん科学かがく研究所けんきゅうじょ、2009年ねん、5-17頁ぺーじ、CRID 1520572360415357824。 
• 新村しんむら出いずる 編へん『広辞苑こうじえん』（第だい六ろく版はん）岩波書店いわなみしょてん、2008年ねん1月がつ。ISBN 978-4-00-080121-8。 
• 保阪ほさか正ただし康やすし『皇后こうごう四よん代だい 明治めいじから平成へいせいまで』中央公論ちゅうおうこうろん新しん社しゃ〈中公新書ちゅうこうしんしょラクレ〉、2002年ねん10月がつ。ISBN 4-12-150064-4。 
• 松村まつむら明あきら、三省堂さんせいどう編修へんしゅう所しょ 編へん『大辞林だいじりん』（第だい三さん版はん）三省堂さんせいどう、2006年ねん10月がつ。ISBN 4-385-13905-9。 
• 森もり暢とおる平たいら、河西かさい秀哉ひでや 編へん『皇后こうごう四よん代だいの歴史れきし 昭憲皇太后しょうけんこうたいごうから美智子みちこ皇后こうごうまで』吉川弘文館よしかわこうぶんかん、2018年ねん6月がつ。ISBN 978-4-642-08333-1。 

関連かんれん項目こうもく

• 皇帝こうてい
• 女帝にょてい
• 女王じょおう
• 日本にっぽんの皇后こうごう一覧いちらん
• 中宮なかみや
• 准じゅん后きさき
• 国母こくぼ