赤染あかぞめ衛門えもん

赤染あかぞめ衛門えもん　『前賢ぜんけん故実こじつ』より

赤染あかぞめ衛門えもん
(小倉おぐら百ひゃく人にん一いち首しゅより)

『やすらはで寝ねなましものを　小夜さよふけて　かたふく迄までの月つきを見みしかな』（月岡つきおか芳年よしとし『月つき百ひゃく姿すがた』）

赤染あかぞめ衛門えもん（あかぞめえもん、天てん暦れき10年ねん（956年ねん）ごろ? - 長久ながひさ2年ねん（1041年ねん）以後いご）は、平安へいあん時代じだい中期ちゅうきの女流じょりゅう歌人かじん。大隅おおすみ守まもる・赤染あかぞめ時じ用ようの娘むすめ。中古ちゅうこ三さん十じゅう六歌仙ろっかせん・女房にょうぼう三さん十じゅう六歌仙ろっかせんの一人ひとり。

経歴けいれき

赤染あかぞめ衛門えもんは赤染あかぞめ時じ用ようの娘むすめとされる。しかし『袋ふくろ草紙ぞうし』には、赤染あかぞめ衛門えもんの母親ははおやは前夫ぜんふの平兼盛たいらのかねもりの子こどもを宿やどした状態じょうたいで時どき用ようと再婚さいこんし、赤染あかぞめ衛門えもんを出産しゅっさんしたとする記述きじゅつがある。その後ご、平兼盛たいらのかねもりは娘むすめの親権しんけんを巡めぐり、裁判さいばんを起おこしたと伝つたわる。兼けん盛もりは敗訴はいそしたという。

赤染あかぞめ衛門えもんは文章ぶんしょう博士はかせ・大江匡衡おおえのまさひらと貞元さだもと年中ねんじゅう（976-978）に結婚けっこんする。大江匡衡おおえのまさひらと赤染あかぞめ衛門えもんはおしどり夫婦ふうふとして知しられており、仲なか睦あつしましい夫婦ふうふ仲なかより、匡ただし衡衛門もんと呼よばれたという。大江匡衡おおえのまさひらとの間あいだに大江おおえ挙きょ周しゅう・江こう侍従じじゅうなどをもうけた。藤原ふじわら教きょう通どおりとの間あいだにも娘むすめがいたとされる。赤染あかぞめ衛門えもんは源みなもと雅信まさのぶ邸やしきに出仕しゅっしし、藤原ふじわら道長みちながの正妻せいさいである源みなもと倫子ともことその娘むすめの藤原ふじわら彰子あきこに仕つかえており、紫式部むらさきしきぶ・和泉式部いずみしきぶ・清少納言せいしょうなごん・伊勢大輔いせのたいふらとも親交しんこうがあった。匡ただし衡の尾張おわり赴任ふにんにも共ともに下向げこうし、夫おっとを支ささえた。また、子この挙きょ周しゅうの和泉いずみ守もりへの任官にんかんに尽力じんりょくして成功せいこうさせ、任期にんきを終おえた挙きょ周しゅうが病やまいに罹かかった際さいには住吉すみよし明神みょうじんに和歌わかを奉納ほうのうし病びょうを平癒へいゆに導みちびいた話はなしなど、母ははとしての像ぞうも鮮あざやかである。長和ながわ元年がんねん（1012年ねん）に夫おっと・大江匡衡おおえのまさひらが逝去せいきょした後のちは、信仰しんこうと子女しじょの育成いくせいに尽つくしたという。

長ちょう元はじめ8年ねん（1035年ねん）関白かんぱく左大臣さだいじん頼通よりみち歌合うたあわせ出で詠えい。長久ながひさ2年ねん（1041年ねん）弘ひろし徽殿女御にょうご生子おいご歌合うたあわせ出で詠えい。同年どうねん、曾孫そうそんの誕生たんじょうを言祝ことほぐ和歌わかを詠よんだ後のち、消息しょうそくが途絶とだえる。晩年ばんねん、藤原ふじわら頼通よりみちの求もとめに応おうじて、自撰じせん歌集かしゅうを献上けんじょうしたことが知しられる。

歌うた風ふう

『拾遺しゅうい和歌集わかしゅう』以下いかの勅撰ちょくせん和歌集わかしゅうに93首しゅが入いれ集しゅう。その歌うた風ふうは『古今ここん和歌集わかしゅう』の歌うた風ふうを忠実ちゅうじつに継承けいしょうし、理知的りちてきで優美ゆうびな詠えい風ふうを示しめす。

平安へいあん時代じだい中期ちゅうきにおいて活躍かつやくした女流じょりゅう歌人かじんとして、和泉式部いずみしきぶと並ならんで称しょうされている（『俊しゅん頼よりゆき髄ずい脳のう』では赤染あかぞめ衛門えもんよりも和泉式部いずみしきぶが高たかく評価ひょうかされたが、鴨長明かものちょうめい『無名むめい抄しょう』では赤染あかぞめ衛門えもんの方ほうが高たかく評価ひょうかされた）。

文学ぶんがく作品さくひん

• 文献ぶんけん『栄花物語えいがものがたり正編せいへん三さん十じゅう巻かん』 - 作者さくしゃとして有力ゆうりょく視しされる。
• 歌集かしゅう『赤染あかぞめ衛門えもん集しゅう』

和歌わか

• 小倉おぐら百ひゃく人にん一いち首しゅ
  • 五ご十じゅう九きゅう番ばん やすらはで 寝ねなましものを さ夜よふけて かたぶくまでの 月つきを見みしかな　（『後こう拾遺しゅうい和歌集わかしゅう』恋こい680）

姉妹しまいのもとに通かよっていた藤原ふじわら道隆みちたかが訪おとずれなかったため、姉妹しまいのため、和歌わかを代作だいさくした。

• 下記かき説話せつわに関連かんれんする歌うた
  • 代だいはらむと　祈いのる命いのちは　をしからで　さてもわかれむことぞ悲かなしき　（『詞花しか和歌集わかしゅう』雑ざつ下か362）

【現代げんだい語ご訳やく】（息子むすこに）代かわり、死しんであげたい、と祈いのる私わたしの命いのちは惜おしくはないけれど、その祈いのりが叶かなうなら（息子むすこの大江おおえ挙きょ周しゅうと）別わかれることになるのは、悲かなしい。

• 今昔こんじゃく秀歌しゅうか百ひゃく撰せん三さん十じゅう二に番ばんに選えらばれている。選者せんじゃ：高橋たかはし秀しげる（御茶おちゃの水みず女子じょし大學だいがく大學院だいがくいん）
  • 今宵こよいこそよにある人ひとはゆかしけれいづこもかくや月つきをみるらん (『後こう拾遺しゅうい和歌集わかしゅう巻まき四よん』)

説話せつわ

息子むすこの大江おおえ挙きょ周しゅうが重病じゅうびょうを患わずらっていた際さい、「大江おおえ挙きょ周しゅうの重病じゅうびょうの原因げんいんは住吉すみよし神社じんじゃによる祟たたりではないか」との話はなしを見聞けんぶんしたことから、赤染あかぞめ衛門えもんは挙きょ周しゅうの快方かいほうを祈願きがんして、「代かわらむと 祈いのる命いのちは をしからで さてもわかれんことぞ悲かなしき」との和歌わかを住吉すみよし神社じんじゃの祭殿さいでんに奉納ほうのうした。赤染あかぞめ衛門えもんの挙きょ周しゅうへの祈念きねんが、住吉すみよし神社じんじゃの祭神さいじんにき入きいれられ、挙きょ周しゅうの重病じゅうびょうは根治こんじしたという。

関連かんれん作品さくひん

• 映画えいが『紫式部むらさきしきぶ』（1939年ねん、演えんじ：雲井くもい八重子やえこ）
• NHK大河たいがドラマ『光ひかる君きみへ』（2024年ねん、演えんじ：凰稀かなめ）

参考さんこう文献ぶんけん

• 桶谷おけたに秀昭ひであき 『今昔こんじゃく秀歌しゅうか百ひゃく撰せん』（コンジヤクシウカヒヤクセン）不出ふしゅつ售（フシユツシウ）特定とくてい非ひ営利えいり活動かつどう法人ほうじん文字もじ文化ぶんか協會きょうかい 2012年ねん ISBN 978-49905312-25

外部がいぶリンク

• 赤染あかぞめ衛門えもん集しゅう（日にち文ぶん研けんデータベース）
• 今昔こんじゃく秀歌しゅうか百ひゃく撰せん- 研究けんきゅう者しゃサイト