崩御ほうぎょ

崩御ほうぎょ（ほうぎょ、旧きゅう字体じたい：崩くずし󠄁御お）は、天皇てんのう、皇帝こうてい、国王こくおう（女王じょおう）等とうの君主くんしゅや、太皇太后たいこうたいこう（太ふとし王おう太ふとし后きさき）、皇太后こうたいごう（王おう太ふとし后きさき）、皇后こうごう、上皇じょうこう、上うえ皇后こうごう、王妃おうひなどの死亡しぼうを表あらわす最高さいこう敬語けいご。

中国ちゅうごくにおいては、主おもに『礼れい記き』等とうにも見みられる「駕が崩くずし」（がほう）の語かたりが用もちいられる。

本ほん項こうでは、これらに準じゅんじる「薨去こうきょ」（こうきょ）などについても扱あつかっている。

解説かいせつ

元々もともとは中国ちゅうごく起源きげんの語かたりであり、『礼れい記き』曲きょく礼れい下か篇へんに「天子てんしの死しは崩くずれ（ほう）と曰（い）ひ、諸侯しょこうは薨（こう）と曰ひ、大夫たいふ（たいふ）は卒そつ（そつ）と曰ひ、士しは不ふ禄ろく（ふろく）と曰ひ、庶人は死しと曰ふ」とある。中国ちゅうごく歴代れきだい史書ししょでは、この死因しいんの敬語けいごはその人物じんぶつの生前せいぜんの功績こうせきを表あらわすものとして重おもんじられ、 皇后こうごうや大夫たいふの身分みぶんにあるものでも、不忠ふちゅうの臣しんであれば、庶人の礼れいとして死しを用もちいることもあった。例たとえば資し治ち通どおり鑑かんでは晋すすむの恵めぐみ帝みかどの皇后こうごう賈南風ふうは生前せいぜん淫乱いんらんで悪事あくじをなしたということから、「賜たまもの賈后死し于金墉城」（賈后に死しを金きむ墉城に賜たまう）と表現ひょうげんしている。新聞しんぶん記事きじ等とうでは日本にっぽん国外こくがいの君主くんしゅの死亡しぼうにも使つかうことがあった。

日本にっぽんのマスメディアでは、一いち例れいとして香こう淳じゅん皇后こうごう崩御ほうぎょ（2000年ねん〈平成へいせい12年ねん〉6月16日にち）の際さいに読売新聞よみうりしんぶん・産経新聞さんけいしんぶんを除のぞき「ご逝去せいきょ」と表あらわされた。天皇てんのうの死し以外いがいには崩御ほうぎょの語かたりを用もちいない場合ばあいもある。

また「お隠かくれになる」（おかくれになる）とも表現ひょうげんする。この表現ひょうげんが天皇てんのうについてのみ用もちいられる理由りゆうとしては、以下いかの2説せつがある（これに限定げんていしないかもしれないが未み詳しょう）。

• 日本にっぽん神話しんわにおいて天皇てんのうは神かみの末裔まつえいであり、一般いっぱんの人間にんげんとは異ことなる存在そんざいという思想しそう背景はいけいがあったためと解釈かいしゃくする説せつ
• 天皇てんのうが太陽たいよう神しんの子孫しそんであるという思想しそう、即すなわち「天皇てんのうの死亡しぼう=太陽たいようが雲くもに隠かくれる」から来きている説せつ

「雲隠くもがくれ」についても、現在げんざいでは単たんに姿すがたをくらますという意味合いみあいで用もちいられるが、元々もともとは2番目ばんめの説せつに由来ゆらいする語かたりである。

現在げんざい

皇室こうしつ典範てんぱん第だい四よん條じょう 　

天皇てんのうが崩くずれじたときは、皇嗣こうしが、直ただちに即位そくいする。

概説がいせつ

天皇てんのうの崩御ほうぎょに際さいしては、「大喪たいそう儀ぎ」が行おこなわれ、その内うち一ひとつに、国くにの行事ぎょうじである事実じじつ上じょうの国葬こくそうとして「大喪たいそうの礼れい」（国事こくじ行為こうい）が営いとなまれる。天皇てんのうの崩御ほうぎょから追号ついごうが決きめられるまでの期間きかんの天皇てんのうについては、「大行天皇たいこうてんのう」（たいこうてんのう）と呼よばれる。

また、先帝せんてい祭さいは先帝せんてい崩御ほうぎょ日びに毎年まいとし斎とき行ぎょうされる大祭たいさいのことである。

なお、前述ぜんじゅつ『礼れい記き』が示しめす語義ごぎから、古代こだい中国ちゅうごくにおいては用もちいる語かたりによって執筆しっぴつ者しゃの正統せいとう観かんを表現ひょうげんするという筆法ひっぽうが見みられる。具体ぐたい的てきには、「崩御ほうぎょ」と称しょうせば「その人物じんぶつが正統せいとうな天皇てんのう・皇帝こうていであると認みとめた」ことを意味いみする、などである。たとえば西にし晋すすむの陳ちん寿ひさしは『三国志さんごくし』を著あらわした際さい、魏たかし・蜀しょく漢かん・呉ごのうち魏ぎの君主くんしゅのみに「崩くずし」の語かたりを用もちいることで、正統せいとうが魏ぎにあることを示しめした。司馬しば光ひかりはそれを改あらためて、三さん国こくすべての君主くんしゅの死しを「殂」とした。

外務省がいむしょう・日本にっぽん政府せいふにおける用法ようほう

• 外国がいこくの国王こくおう・女王じょおう、退位たいいした国王こくおう及および三后さんこう、教皇きょうこうの死しに用もちいる。

外国がいこく政府せいふ・外国がいこく報道ほうどう機関きかんの使用しよう例れい

2016年ねん、タイ王国おうこくの国王こくおうラーマ9世せい死去しきょの際さいはタイ王室おうしつ庁ちょうの文書ぶんしょの非公式ひこうしき日本語にほんご訳やくでは「崩御ほうぎょ」が、大使館たいしかんのウェブサイトでは「ご逝去せいきょ」が使用しようされた。

2022年ねん、イギリス・英えい連邦れんぽう王国おうこくの女王じょおうエリザベス2世せい死去しきょの際さいは駐ちゅう日にち英国えいこく大使館たいしかんは「崩御ほうぎょ」を使用しようした。

2022年ねん、前まえローマ教皇きょうこう（名誉めいよ教皇きょうこう）のベネディクト16世せい帰かえり天てんの際さいはBBCニュースでは「死去しきょ」を使用しようしたが、バチカンニュースでは「帰かえり天てん」と「逝去せいきょ」が用もちいられ、日本にっぽんの外務省がいむしょう（内閣ないかく総理そうり大臣だいじん及および外務がいむ大臣だいじんによる弔慰ちょうい書簡しょかん）では台下だいか「崩御ほうぎょ」が用もちいられた。

その他たの皇族こうぞく・高位こういの者ものなど

律令制りつりょうせい下かにおいては、貴人きじんの死しを指さし、「崩御ほうぎょ」の他ほか、皇太子こうたいしや大臣だいじんなどの死しを意味いみする「薨御（こうぎょ）」、親王しんのうや三さん位い以上いじょうの死しを意味いみする「薨去こうきょ（こうきょ）」、王おうや女王じょおう、四よん位い・五ご位い以上いじょうの死しを意味いみする「卒去そっきょ（しゅっきょ、そっきょ）」などの尊敬そんけい語ごが用もちいられた。

死しに関かんする敬語けいごとしては他ほかにも、「殂（そ）」・「殂落（そらく）」や「逝去せいきょ（せいきょ）」などがある。「殂」「殂落」は崩御ほうぎょと同義どうぎの語かたりだが、現代げんだいでほとんど使つかわれない。

「逝去せいきょ」も、本来ほんらいは崩御ほうぎょや薨去こうきょに近ちかい表現ひょうげんではあるが、第だい二に次じ世界せかい大戦たいせん後ご、人ひとを敬うやまってその死しを表現ひょうげんする語かたりとして、この表現ひょうげんが広ひろく一般いっぱんに普及ふきゅうし定着ていちゃくしたことから、今日きょうの報道ほうどうでは皇族こうぞくの死しに対たいしても、便宜上べんぎじょうこちらを「ご逝去せいきょ」という形かたちで使用しようしている。貴人きじんでない一般人いっぱんじんの死しに対たいする尊敬そんけい語ご・謙譲けんじょう語ごである「死去しきょ」や、単たんに死しの概念がいねんのみを表あらわす「死亡しぼう」は使つかわれない。

薨御

皇太子こうたいしや大臣だいじんの死しについては、「薨御（こうぎょ）」の語かたりを用もちいた。

日本にっぽん政府せいふでは、海外かいがいの王おう太子たいしなど、皇太子こうたいし相当そうとうの身み位いの場合ばあいは、後述こうじゅつの「薨去こうきょ（こうきょ）」が用もちいられる場合ばあいがある。

薨去こうきょ

律令制りつりょうせい下か、皇族こうぞくのうちの皇太子こうたいし妃ひや親王しんのう・内親王ないしんのう、或あるいは、位階いかいが三さん位い（正せい三さん位い・従したがえ三さん位い）以上いじょうの者ものの死しについては、「薨去こうきょ（こうきょ）」の語かたりを用もちいた。外国がいこくの皇太子こうたいし等とう元首げんしゅに近ちかい者ものの死しについても同様どうようの表記ひょうきを用もちいる場合ばあいがある。明治めいじの皇室こうしつ典範てんぱん制定せいてい以降いこうは、三后さんこうを除のぞいたすべての皇族こうぞくの死しに「薨去こうきょ」を用もちいている（それ以前いぜんは親王しんのう宣下せんげのない皇族こうぞくの死しは天皇てんのうの子こといえども「御ご逝去せいきょ」と表現ひょうげんされた）。

また明治めいじ時代じだい以降いこう、現職げんしょくの首相しゅしょうが死亡しぼうした際さいにも薨去こうきょが使つかわれることがある。1945年ねん（昭和しょうわ20年ねん）の朝日新聞あさひしんぶんでは、アドルフ・ヒトラーの訃報ふほうに「ヒ総統そうとう薨去こうきょ」の見出みだしを用もちいた。

「薨去こうきょ」は公文書こうぶんしょにおいても皇族こうぞくや外国がいこくの王族おうぞくに対たいして使用しようされる正式せいしきな表現ひょうげんであり、2011年ねん（平成へいせい23年ねん）10月がつ22日にちの玄葉げんば光一郎こういちろう外務がいむ大臣だいじんによる声明せいめい「スルタン・サウジアラビア王国おうこく皇太子こうたいし薨去こうきょに際さいしての弔意ちょういメッセージ」や、2021年ねん（令れい和わ3年ねん）4月がつ9日にちの「エディンバラ公こうフィリップ殿下でんか薨去こうきょに際さいしての菅かん総理そうり大臣だいじん及および茂木もき外務がいむ大臣だいじんによる弔意ちょうい書簡しょかんの発出はっしゅつ」において薨去こうきょの語かたりを用もちいている。しかし、日本にっぽんマスコミ上じょうでは皇族こうぞくが死去しきょされた場合ばあいでも「ご逝去せいきょ」などの表現ひょうげんが用もちいられることが多おおい。

また、外国がいこく君主くんしゅであっても王おうより下したの称号しょうごうに対たいしては「薨去こうきょ」が使つかわれる。2020年ねん（令れい和わ2年ねん）9月がつ30日にちの「サバーハ・アル・アハマド・アル・ジャービル・アル・サバーハ・クウェート国こく首長しゅちょう殿下でんかの御ご薨去こうきょに関かんする菅かん内閣ないかく総理そうり大臣だいじんの談話だんわ」や、2022年ねん（令れい和わ4年ねん）5月がつ19日にちの「ハリーファ・アラブ首長しゅちょう国こく連邦れんぽう大統領だいとうりょう薨去こうきょを受うけた岸田きしだ内閣ないかく総理そうり大臣だいじんによる弔意ちょういの記帳きちょう」は、首長しゅちょう（アミール）号ごうを持もつ君主くんしゅに対たいして「薨去こうきょ」の語かたりを用もちいている。

卒去そっきょ

皇族こうぞくの内うちの王おうや女王じょおう、或あるいは、位階いかいが四よん位い（正せい四よん位い・従したがえ四よん位い）・五ご位い（正せい五ご位い・従したがえ五ご位い）以上いじょうの者ものの死しについては、「卒去そっきょ（そっきょ、しゅっきょ）」の語かたりを用もちいた。（律令制りつりょうせい下した）

現代げんだい以降いこうの皇室こうしつの崩御ほうぎょ・薨去こうきょ一覧いちらん

名な	日ひ	没ぼつ年齢ねんれい	続柄つづきがら	陵墓りょうぼ	土葬どそう・火葬かそうの別べつ
貞明皇后ていめいこうごう	1951年ねん（昭和しょうわ26年ねん）5月17日にち	満みつる066歳さい11か月げつ	1/大正天皇たいしょうてんのう后きさき	多摩たま東陵とうりょう	土葬どそう
秩父宮雍仁親王ちちぶのみややすひとしんのう	1953年ねん（昭和しょうわ28年ねん）1月がつ4日にち	満みつる050歳さい	1/大正天皇たいしょうてんのう第だい2皇すめらぎ男子だんし	豊島としま岡おか墓地ぼち	火葬かそう
高松宮たかまつのみや宣仁のぶひと親王しんのう	1987年ねん（昭和しょうわ62年ねん）2月がつ3日にち	満みつる082歳さい	1/大正天皇たいしょうてんのう第だい3皇すめらぎ男子だんし	豊島としま岡おか墓地ぼち	火葬かそう
昭和しょうわ天皇てんのう	1989年ねん（昭和しょうわ64年ねん）1月がつ7日にち	満みつる087歳さい	1/大正天皇たいしょうてんのう第だい1皇すめらぎ男子だんし	武蔵野むさしの陵りょう	土葬どそう
雍仁親王やすひとしんのう妃ひ勢津子せつこ	1995年ねん（平成へいせい7年ねん）8月がつ25日にち	満みつる085歳さい	秩父宮雍仁親王ちちぶのみややすひとしんのう妃ひ	豊島としま岡おか墓地ぼち	火葬かそう
香こう淳じゅん皇后こうごう	2000年ねん（平成へいせい12年ねん）6月16日にち	満みつる097歳さい	2/昭和しょうわ天皇てんのう后きさき	武蔵野むさしの東陵とうりょう	土葬どそう
高円宮たかまどのみや憲仁のりひと親王しんのう	2002年ねん（平成へいせい14年ねん）11月21日にち	満みつる047歳さい010か月げつ	三笠みかさ宮みや崇たかし仁じん親王しんのう第だい3男子だんし	豊島としま岡おか墓地ぼち	火葬かそう
宣仁のぶひと親王しんのう妃ひ喜久子きくこ	2004年ねん（平成へいせい16年ねん）12月18日にち	満みつる092歳さい011か月げつ	高松宮たかまつのみや宣仁のぶひと親王しんのう妃ひ	豊島としま岡おか墓地ぼち	火葬かそう
寬仁かんじん親王しんのう	2012年ねん（平成へいせい24年ねん）6月6日にち	満みつる066歳さい05か月げつ	三笠宮崇仁親王第1男子だんし	豊島としま岡おか墓地ぼち	火葬かそう
桂かつら宮みや宜むべ仁ひとし親王しんのう	2014年ねん（平成へいせい26年ねん）6月8日にち	満みつる066歳さい04か月げつ	三笠宮崇仁親王第2男子だんし	豊島としま岡おか墓地ぼち	火葬かそう
三笠みかさ宮みや崇たかし仁じん親王しんのう	2016年ねん（平成へいせい28年ねん）10月27日にち	満まん100歳さい010か月げつ	1/大正天皇たいしょうてんのう第だい4皇すめらぎ男子だんし	豊島としま岡おか墓地ぼち	火葬かそう

その他た

• 『日本書紀にほんしょき』斉ひとし明天めいてん皇すめらぎ5年ねん条じょう（是ぜ歳とし）には、「犬いぬが死人しにんの腕うでをくわえて言げん屋や（いふや）の社しゃ（島根しまね県けん八束やつか郡ぐん揖屋いや神社じんじゃ）に置おいた。天子てんしが崩御ほうぎょする前兆ぜんちょうである」と記述きじゅつされ、付近ふきんには伊い賦ふ夜よる（いふや）坂さかがあり、『古事記こじき』にはこの坂さかを黄泉よみ国こくとこの世よをつなぐ「黄泉よみツ比良びら坂ざか」のことと説明せつめいされる。

関連かんれん項目こうもく

• 諒闇りょうあん
• 国くに忌き
• 大喪たいそう儀ぎ
• 国葬こくそう儀ぎ