医い心しん方かた

医い心しん方かた第だい22巻かん。医い心しん方かたの中なかでも唯一ゆいいつ図ずを持もつ巻まき

『医い心しん方かた』（いしんぽう、いしんほう）は、平安へいあん時代じだいに宮中きゅうちゅう医い官かんを務つとめた鍼博士はかせ・丹波たんば康かん頼よりゆきが撰せんした、日本にっぽんに現存げんそんする最古さいこの医学いがく書しょである。撰者せんじゃ丹波たんば康かん頼よりゆきにより984年ねん、朝廷ちょうていに献上けんじょうされた。

概要がいよう

全ぜん30巻かん、医師いしの倫理りんり・医学いがく総論そうろん・各種かくしゅ疾患しっかんに対たいする療法りょうほう・保健ほけん衛生えいせい・養生ようじょう法ほう・医療いりょう技術ぎじゅつ・医学いがく思想しそう・房ぼう中ちゅう術じゅつなどから構成こうせいされる。27巻かん分ぶんは12世紀せいきの平安へいあん時代じだいに、1巻かんは鎌倉かまくら時代ときよに書写しょしゃされ、2巻かんと1冊さつは江戸えど時代じだいの後のち補ほである。本文ほんぶんはすべて漢文かんぶんで書かかれており、唐とう代だいに存在そんざいした膨大ぼうだいな医学いがく書しょを引用いんようしてあり、現在げんざいでは地上ちじょうから失うしなわれた多おおくの佚書いっしょを、この医い心しん方かたから復元ふくげんすることができることから、文献ぶんけん学がく上うえ非常ひじょうに重要じゅうような書物しょもつとされる。漢方かんぽう医学いがくのみならず、平安へいあん・鎌倉かまくら時代じだいの送おくりカナ・ヲコト点てんがついているため、国語こくご学がく史ふみ・書道しょどう史し上うえからも重要じゅうよう視しされている。

東ひがしアジア（特とくに漢字かんじ文化ぶんか圏けん）における所謂いわゆる「古典こてん」というものの扱あつかいは、新あたらしい書物しょもつを為なす場合ばあいの引用いんよう源げんとして使用しようされる。つまり、新あたらしい書物しょもつは、古ふるい書しょ群ぐんから本文ほんぶんを抜ぬき出だしてきて、編あみ直なおしたものであるわけである。

鍼灸しんきゅう医学いがくの書しょは、明あきら清きよしに至いたるまで、その殆ほとんどが内うち経けいなどの編あみ直なおしと言いってもよい。つまり、由来ゆらいのわからない文ぶんを為なすことを忌いむのが、東ひがしアジアにおける古典こてんの扱あつかいであった。医い心しん方かたは、この点てんで非常ひじょうに優等生ゆうとうせい的てきな書しょと言いえる。

医い心しん方かたは、撰者せんじゃ丹波たんば康かん頼よりゆきにより984年ねん、朝廷ちょうていに献上けんじょうされた。これは宮中きゅうちゅうに納おさめられていたが、1554年ねんに至いたり正親町おおぎまち天皇てんのうにより典薬てんやく頭あたま半井なからい（なからい）家かに下賜かしされた。また丹波たんば家かにおいても秘蔵ひぞうされていたとされるが、これは少すくなくとも丹波たんば家かの末裔まつえいである多紀たき家か（半井なからい家かと並ならぶ江戸えど幕府ばくふの最高さいこう医い官かん）においては、幕末ばくまつまでに多おおくが失うしなわれていたとされ、多た紀元きげん堅けんが復元ふくげんし刷ずらせている。幕末ばくまつに、江戸えど幕府ばくふが多紀たきに校勘こうかんさせた「医い心しん方かた」の元本がんぽんには、半井なからい家かに伝つたわっていたものが使用しようされた。この半井なからい本ほんは、1982年ねん、同家どうけより文化庁ぶんかちょうに買かい上あげがあり、1984年ねん、国宝こくほうとなっている。現在げんざいは東京とうきょう国立こくりつ博物館はくぶつかんが所蔵しょぞうしている。

2018年ねん10月がつ16日にちに、国宝こくほう「医い心しん方かた」のユネスコ「世界せかいの記憶きおく」登録とうろくを推進すいしんする議員ぎいん連盟れんめい（会長かいちょう：鴨下かもした一郎いちろう）が設立せつりつされ、ユネスコ「世界せかいの記憶きおく」への登録とうろくを目指めざしている。

訳注やくちゅう一覧いちらん

槇まき佐知子さちこ訳わけ・注解ちゅうかい 『全訳ぜんやく精せい解かい 医い心しん方かた』（全ぜん30巻かん、筑摩書房ちくましょぼう、1993年ねん-2012年ねん）

• 『巻一けんいち A 医学いがく概論がいろん篇へん』 ※巻一けんいち・巻まき二に・巻かん二に十じゅう五ごは2分冊ぶんさつ
• 『巻一けんいち B 薬くすり名めい考こう』
• 『巻まき二に A 鍼灸しんきゅう篇へんI 孔あな穴あな主治しゅじ』
• 『巻まき二に B 鍼灸しんきゅう篇へんII 施療せりょう』
• 『巻まき三さん 風ふう病びょう篇へん』
• 『巻まき四よん 美容びよう篇へん』
• 『巻まき五ご 耳鼻咽喉じびいんこう眼め歯ぱ篇へん』
• 『巻まき六ろく 五臓六腑ごぞうろっぷ』
• 『巻まき七なな 性病せいびょう・諸しょ痔じ・寄生虫きせいちゅう篇へん』
• 『巻まき八はち 脚きゃく病びょう篇へん』
• 『巻まき九きゅう 咳嗽がいそう篇へん』
• 『巻まき十じゅう 積せき聚・疝か・水腫すいしゅ篇へん』
• 『巻まき十じゅう一いち 痢病篇へん』
• 『巻まき十じゅう二に 泌尿器ひにょうき』
• 『巻まき十じゅう三さん 虚きょ労ろう篇へん』
• 『巻まき十じゅう四よん 蘇生そせい・傷寒しょうかん篇へん』
• 『巻まき十じゅう五ご 癰よう疽篇 悪性あくせい腫瘍しゅよう・壊疽えそ』
• 『巻まき十じゅう六ろく 腫しゅ瘤こぶ篇へん』
• 『巻まき十じゅう七なな 皮膚ひふ病びょう篇へん』
• 『巻まき十じゅう八はち 外傷がいしょう篇へん』
• 『巻まき十じゅう九きゅう 服ふく石せき篇へん1』
• 『巻まき二に十じゅう 服ふく石せき篇へん2』
• 『巻まき二に十じゅう一いち 婦人ふじん諸しょ病やまい篇へん』
• 『巻まき二に十じゅう二に 胎教たいきょう篇へん』
• 『巻まき二に十じゅう三さん 産科さんか治療ちりょう・儀礼ぎれい篇へん』
• 『巻まき二に十じゅう四よん 占うらない相しょう篇へん』
• 『巻まき二に十じゅう五ご A 小児しょうに篇へんI』
• 『巻まき二に十じゅう五ご B 小児しょうに篇へんII』
• 『巻まき二に十じゅう六ろく 仙道せんどう篇へん』
• 『巻まき二に十じゅう七なな 養生ようじょう篇へん』
• 『巻まき二に十じゅう八はち 房内ぼうない篇へん』
• 『巻まき二に十じゅう九きゅう 中毒ちゅうどく篇へん』
• 『巻まき三さん十じゅう 食しょく養よう篇へん』

外部がいぶリンク

• 東京とうきょう国立こくりつ博物館はくぶつかん所蔵しょぞう『医い心しん方かた』 - e国宝こくほう（国立こくりつ文化財ぶんかざい機構きこう）