ユークリッド原論げんろん

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原論げんろん
古代こだいギリシア: Στοιχεῖαあるふぁ ストイケイア
バースのアデラードによる『原論』のラテン語訳の口絵。1309年-1316年頃。
バースのアデラードによる『原論げんろん』のラテン語らてんごやく口絵くちえ。1309ねん-1316ねんごろ
著者ちょしゃ アレクサンドリアのエウクレイデス(ユークリッド)
訳者やくしゃ 中村なかむら幸四郎こうしろう寺阪てらさか英孝ひでたか伊東いとう俊太郎しゅんたろう池田いけだ美恵みえ斎藤さいとうけん三浦みうら伸夫のぶお
発行はっこう 2011ねん5がつ25にち、2008ねん1がつ28にち
発行はっこうもと 共立きょうりつ出版しゅっぱん東京大学とうきょうだいがく出版しゅっぱんかい
ジャンル 数学すうがくしょ
コード ISBN 978-4-320-01965-2
ISBN 978-4-13-065301-5
ISBN 978-4-13-065302-2
ウィキポータル 数学すうがく
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エジプト中部ちゅうぶオクシュリュンコス発見はっけんされた『ユークリッド原論げんろん』のパピルス写本しゃほん断片だんぺん紀元きげん100ねんごろのさくは『原論げんろんだい2かん命題めいだい5にえられたもの。

数学すうがくしょ原論げんろん』(げんろん、古希こき: Στοιχεῖαあるふぁ, ストイケイアえい: Elements)は、紀元前きげんぜん3世紀せいきごろに古代こだいエジプトアレクサンドリア数学すうがくしゃエウクレイデス(その英語えいごみがユークリッド)によって編纂へんさんされたとわれる数学すうがくしょ幾何きかがく原論げんろんユークリッド『原論げんろんユークリッド『原本げんぽんとも。プラトン学園がくえんアカデメイアられていた数学すうがく成果せいかあつめて体系たいけいしたほんかんがえられており、論証ろんしょうてき学問がくもんとしての数学すうがく地位ちい確立かくりつした古代こだいギリシア数学すうがく集大成しゅうたいせいである。

古代こだい書物しょもつでありながらその影響えいきょう古代こだいまらず、後世こうせい人々ひとびとによって注釈ちゅうしゃくくわえられたり翻訳ほんやくされた多種たしゅ多様たようはんつくられつづけ、20世紀せいき初頭しょとういたるまで標準ひょうじゅんてき数学すうがく教科書きょうかしょひとつとして使つかわれていたため、西洋せいよう書物しょもつでは聖書せいしょいで世界中せかいじゅうまれてきたほんともひょうされる。しかし、著者ちょしゃのユークリッドにかんする資料しりょうとぼしく実在じつざいせいうたがせつもあり、原論げんろん執筆しっぴつがアレクサンドリアであることにたいする明確めいかく根拠こんきょもない。

英語えいご数学すうがく (mathematics) の語源ごげんであるギリシア「マテーマタ」(古希こき: μαθήματα)は「まなばれるべきこと、学問がくもん知識ちしき」という意味いみであり、このマテーマタを集大成しゅうたいせいしたものが『原論げんろん』である[1]

内容ないよう[編集へんしゅう]

構成こうせい[編集へんしゅう]

ユークリッド原論げんろん内容ないよう幾何きかがく比例ひれいろんかずろん無理むりりょうろん無理むりすう)からなる。このうちで幾何きかがくについては、議論ぎろん前提ぜんていひとつである平行へいこうせん公準こうじゅん必要ひつようせい疑問ぎもんされて19世紀せいきユークリッド幾何きかがく成立せいりつしたため、原論げんろんおなじように平行へいこうせん公準こうじゅんただしいとした前提ぜんていからろんじた幾何きかがくは、原論げんろん以後いごられた成果せいかふくめてユークリッド幾何きかがくばれる分野ぶんやになった。

ぜん13かん内容ないよう以下いかとお[2]

巻数かんすう 定義ていぎ 公準こうじゅん 公理こうり 命題めいだい 内容ないよう
だい1かん 23 5 5
(または9)
48 平面へいめん図形ずけい性質せいしつ
だい2かん 2 0 0 14 面積めんせき変形へんけい(いわゆる幾何きかがくてき代数だいすう
だい3かん 11 0 0 37 えん性質せいしつ
だい4かん 7 0 0 16 えん内接ないせつ外接がいせつする多角たかくがた
だい5かん 18 0 0 25 比例ひれいろん
だい6かん 4 0 0 33 比例ひれいろん図形ずけいへの応用おうよう
だい7かん 22 0 0 39 かずろん
だい8かん 0 0 0 27 かずろん
だい9かん 0 0 0 36 かずろん
だい10かん だい1ぐん 4
だい2ぐん 6
だい3ぐん 6
0 0 115 無理むりりょうろん
だい11かん 29 0 0 39 立体りったい図形ずけい
だい12かん 0 0 0 18 面積めんせき体積たいせき
だい13かん 0 0 0 18 せい多面体ためんたい

平面へいめん初等しょとう幾何きかについてべられているのは1234まき6まき。 ただし、この内容ないようはユークリッド本人ほんにん業績ぎょうせきというよりは、それ以前いぜんピタゴラス学派がくはとう貢献こうけんにより、ユークリッドの時代じだいよりまえからすで体系たいけいされていた情報じょうほうさい編纂へんさんしたものである可能かのうせいたかい。

また、5まき12まき当時とうじプラトン学派がくは数学すうがくしゃエウドクソス業績ぎょうせきであるし、10まき13まきおなじくプラトン学派がくはテアイテトス貢献こうけんによりもたらされたものとかんがえられる。 よって、ユークリッド本人ほんにんおも既存きそん知識ちしき最新さいしん学術がくじゅつ成果せいかくわえて、『原論げんろん』を編纂へんさんしたものとかんがえられる。

14まき15まき存在そんざいするが、それらはユークリッドの時代じだいよりのちになってくわえられたものだとかんがえられている。ハイベア・メンゲ編纂へんさんの『エウクレイデス全集ぜんしゅう』ではだい5かん14まき15まきがスコリア(ちゅう)とともに収録しゅうろくされている[3]

定義ていぎ公準こうじゅん公理こうり[編集へんしゅう]

原論げんろん』ではいくつかの定義ていぎからはじまり、5つの公準こうじゅん要請ようせい)と、5つ(また9つ)の公理こうり共通きょうつう概念がいねん)が提示ていじされている。議論ぎろん前提ぜんていとなるてんせん直線ちょくせんめんすみえん中心ちゅうしんなどの概念がいねん定義ていぎされ、つぎのような5つの公準こうじゅんしんであるとしてれることにより、作図さくず問題もんだい基礎きそ明確めいかくにしている。

  1. 任意にんいいちてんからいちてんたいして直線ちょくせんくこと
  2. 有限ゆうげん直線ちょくせん連続れんぞくてきにまっすぐ延長えんちょうすること
  3. 任意にんい中心ちゅうしん半径はんけいえんえがくこと
  4. すべての直角ちょっかくたがいにひとしいこと
  5. 直線ちょくせん2直線ちょくせんまじわるとき、おながわ内角ないかくが2直角ちょっかくよりちいさい場合ばあい、その2直線ちょくせんかぎりなく延長えんちょうされたとき、内角ないかくが2直角ちょっかくよりちいさいがわまじわる。

これらのうち5番目ばんめ公準こうじゅんについては古代こだいより、公理こうり公準こうじゅんして突出とっしゅつして複雑ふくざつであることから、自明じめいとするには疑問ぎもんとされていたが、この疑問ぎもんにより、近代きんだいいたってこの公準こうじゅん成立せいりつしないとする幾何きかがくであるユークリッド幾何きかがく発端ほったんとなる。 さらに公準こうじゅんのちつぎのような公理こうりしめされる。これはあらゆる学問がくもん共通きょうつう真理しんりとしてれられるものであり、研究けんきゅうにおいてつね参照さんしょうすべきものとされている。

  1. おなじものにひとしいものは、たがいにひとしい
  2. おなじものにおなじものをくわえた場合ばあい、その合計ごうけいひとしい
  3. おなじものからおなじものをいた場合ばあいのこりはひとしい
  4. 不等ふとうなものにおなじものをくわえた場合ばあい、その合計ごうけい不等ふとうである]
  5. おなじものの2ばいは、たがいにひとしい]
  6. おなじものの半分はんぶんは、たがいにひとしい]
  7. たがいにかさなりうものは、たがいにひとしい
  8. 全体ぜんたいは、部分ぶぶんよりおおきい
  9. [2線分せんぶん面積めんせきかこまない]

ただし[]でかこまれた公理こうり公理こうりふくめないことがある。だい5公理こうりだい2公理こうりからみちびかれる。まただい9公理こうり現代げんだいてきにいいかえると「ことなる2てんとお直線ちょくせんはただ1ほんだけ存在そんざいする」となる。だい9公理こうり幾何きかがくかんするものなので、本来ほんらい公準こうじゅんふくめられるものとかんがえられる。

原典げんてん翻訳ほんやく[編集へんしゅう]

日本語にほんごやく[編集へんしゅう]

  • 幾何きかがくまき1-3、山田やまだ昌邦まさくにわけ開拓かいたく使、1873ねん6がつNDLJP:828426  - だい1かん英訳えいやく邦訳ほうやく
  • かくひしげかつ(クラーク)じゅつ幾何きか学原がくばらいしずえ』 7さつ首巻しゅかん、1-6かん)、山本やまもとただしいたり川北かわきたちょうわけぶん林堂はやしどう、1875-1878。NDLJP:828479  - かくひしげかつ(クラーク)が静岡しずおか学問がくもんしょ英語えいご口述こうじゅつしただい1-6かん邦訳ほうやく演習えんしゅう問題もんだい追加ついかされている。
  • アイザック・トドハンターなだめかつりつ(ユークリッド)』長澤ながさわ龜之助かめのすけわけ川北かわきたちょう閲、東京とうきょう数理すうり書院しょいん、1884ねん10がつ原著げんちょ1862ねん)。NDLJP:828946  - I. Todhunter, Elements of Euclid for the Use of Schools and Colleges (1862)の邦訳ほうやく原著げんちょは、当時とうじのイギリスの中等ちゅうとう教育きょういくもちいるために『原論げんろん』を編集へんしゅう練習れんしゅう問題もんだいとう加筆かひつしたものである。
  • ハイベアメンゲ へん『ユークリッド原論げんろん中村なかむら幸四郎こうしろう寺阪てらさか英孝ひでたか伊東いとう俊太郎しゅんたろう池田いけだ美恵みえわけ解説かいせつ共立きょうりつ出版しゅっぱん  - ぜん13かん最初さいしょ邦訳ほうやく
    • (ハードカバー)1971ねん7がつISBN 4-320-01072-8
      • 抜粋ばっすい池田いけだ美恵みえ やく世界せかい名著めいちょ 9』中央公論社ちゅうおうこうろんしゃ、1972ねん2がつISBN 978-4-12-400089-4 
      • 抜粋ばっすい池田いけだ美恵みえ やく世界せかい名著めいちょ 9』中央公論社ちゅうおうこうろんしゃ中公ちゅうこうバックス〉、1980ねん3がつISBN 978-4-12-400619-3 
    • 縮刷しゅくさつばん)1996ねん6がつISBN 4-320-01513-4
    • ついばん)2011ねん5がつISBN 978-4-320-01965-2
  • ハイベアメンゲ へん『エウクレイデス全集ぜんしゅう』 (ぜん5かん)、東京大学とうきょうだいがく出版しゅっぱんかい  - 「エウクレイデス全集ぜんしゅう」の世界せかいはつ近代きんだいやく

英訳えいやく[編集へんしゅう]

原典げんてん[編集へんしゅう]

脚注きゃくちゅう[編集へんしゅう]

  1. ^ 高橋たかはし(2008), pp. i-ii.
  2. ^ 中村なかむら(1996), p. 489.より引用いんよう
  3. ^ Heiberg&Menge(1883-1916)

参考さんこう文献ぶんけん[編集へんしゅう]

関連かんれん項目こうもく[編集へんしゅう]

外部がいぶリンク[編集へんしゅう]