名取なとり和作わさく

肖像しょうぞう写真しゃしん

名取なとり 和作わさく（なとり わさく、1872年ねん6月3日にち〈明治めいじ5年ねん4月がつ28日にち〉 - 1959年ねん〈昭和しょうわ34年ねん〉6月4日にち）は、大正たいしょうから昭和しょうわにかけて活動かつどうした日本にっぽんの実業じつぎょう家かである。電機でんきメーカー富士電機ふじでんき製造せいぞう（現げん・富士電機ふじでんき）の初代しょだい社長しゃちょうや時事新報じじしんぽう社しゃ社長しゃちょうなどを務つとめ、貴族きぞく院いん廃止はいし直前ちょくぜんの短期間たんきかんだが貴族きぞく院いん勅みことのり選せん議員ぎいんにも在任ざいにんした。子こに写真しゃしん家か・編集へんしゅう者しゃの名取なとり洋之助ようのすけがいる。

経歴けいれき

慶應義塾けいおうぎじゅく時代じだい

名取なとり和作わさくは、明治めいじ5年ねん4月がつ28日にち（新暦しんれき：1872年ねん6月3日にち）、筑摩つかま県けん諏訪すわ郡ぐん上うえ蔦つた木村きむら（現在げんざいの長野ながの県けん諏訪すわ郡ぐん富士見ふじみ町まち）に名取なとり和三郎わさぶろうの長男ちょうなんとして生うまれた。名取なとり家かは「桔梗ききょう屋や」の屋号やごうで造つくり酒屋ざかやを営いとなむ旧家きゅうかで、元もとは裕福ゆうふくな家いえであったものの、明治めいじ時代じだいに入はいってからは松方まつかたデフレの影響えいきょうで没落ぼつらくしていた。

郷里きょうりの学校がっこうを出でたのち上京じょうきょうし、三井みつい財閥ざいばつの中上川なかみがわ彦次郎ひこじろうにあこがれて慶應義塾けいおうぎじゅくに入はいり、1894年ねん（明治めいじ27年ねん）12月、慶應義塾大学けいおうぎじゅくだいがく部ぶ理財りざい科かを卒業そつぎょうした。卒業そつぎょう後ごは古河ふるかわ鉱業こうぎょうへ入社にゅうしゃし、1899年ねん（明治めいじ32年ねん）6月がつまで在勤ざいきん。同年どうねん8月がつ、慶應義塾けいおうぎじゅくの留学りゅうがく制度せいどが創設そうせつされたことからこれを活用かつようしアメリカ合衆国あめりかがっしゅうこくへ渡わたる。アメリカではコロンビア大学ころんびあだいがくに2年間ねんかん在学ざいがくし経済けいざい学がくを学まなんだ。ドイツ・イギリスにも留学りゅうがくしたのち、1902年ねん（明治めいじ35年ねん）11月に帰国きこく。帰国きこく後ごは慶應義塾大学けいおうぎじゅくだいがく部ぶの経済けいざい学がく教授きょうじゅに着任ちゃくにんした。教授きょうじゅ時代じだいに朝吹あさぶき英二えいじ（慶應義塾けいおうぎじゅく出身しゅっしん）の長女ちょうじょふくと結婚けっこんしている。

大学だいがく教授きょうじゅは1908年ねん（明治めいじ41年ねん）4月がつまで続つづけた。辞任じにんの理由りゆうは学者がくしゃに不向ふむきと考かんがえ実業じつぎょう家か転身てんしんを志こころざしたためという。

富士電機ふじでんき製造せいぞう初代しょだい社長しゃちょう

1908年ねん5月がつ、東京とうきょうの電力でんりょく会社かいしゃ東京とうきょう電灯でんとうに入社にゅうしゃし倉庫そうこ課長かちょうとなった。東京とうきょう電灯でんとう入いりは同社どうしゃ社長しゃちょう佐竹さたけ作太郎さくたろうから勧誘かんゆうされたことによる。1909年ねん（明治めいじ42年ねん）、渋沢しぶさわ栄一えいいちを団長だんちょうとする「渡米とべい実業じつぎょう団だん」の一員いちいん（佐竹さたけ作太郎さくたろうの随行ずいこう員いん）となり、9月から11月がつ末まつにかけて再ふたたびアメリカを回まわった。帰国きこく後ごの1910年ねん（明治めいじ43年ねん）1月がつ、倉庫そうこ課長かちょうから営業えいぎょう課長かちょうに転てんじた。しかし同社どうしゃの社風しゃふうになじめず、1916年ねん（大正たいしょう5年ねん）12月に東京とうきょう電灯でんとうから退社たいしゃした。翌よく1917年ねん（大正たいしょう6年ねん）4月がつ、日本にっぽん絹布けんぷ株式会社かぶしきがいしゃの常務じょうむ取締役とりしまりやくに就任しゅうにんする。同社どうしゃは鐘しょう淵ふかし紡績ぼうせき（社長しゃちょう武藤むとう山治やまじ）系列けいれつの新設しんせつ会社かいしゃで、京都きょうとの山科やましなに絹きぬ織物おりもの工場こうじょうを建設けんせつした。1922年ねん（大正たいしょう11年ねん）6月がつ、日本にっぽん絹布けんぷが鐘しょう淵ふかし紡績ぼうせきに吸収きゅうしゅうされると、名取なとりは鐘しょう淵ふかし紡績ぼうせき本体ほんたいの取締役とりしまりやくに転てんじた。鐘しょう淵ふかし紡績ぼうせき取締役とりしまりやくには以後いご1944年ねん（昭和しょうわ19年ねん）1月がつにかけて長ながく在職ざいしょくしている。

第だい一いち次じ世界せかい大戦たいせん終結しゅうけつ後ご、名取なとりの古巣ふるす・古河ふるかわ鉱業こうぎょうでは敗戦はいせん国こくドイツの電機でんきメーカーシーメンスと提携ていけいし合弁ごうべんで電機でんき工場こうじょうを新設しんせつするという計画けいかくが浮上ふじょうしていた。シーメンス関係かんけい者しゃが来日らいにちし1921年ねん（大正たいしょう10年ねん）6月がつに新しん会社かいしゃ設立せつりつに関かんする覚書おぼえがきが交かわされ、翌よく1922年ねん5月がつからは新しん会社かいしゃの創立そうりつ事務じむが始はじまる。ところが古河ふるかわ財閥ざいばつは1921年ねんに発生はっせいした戦後せんご恐慌きょうこうで痛手いたでを受うけて新規しんき事業じぎょうに消極しょうきょく的てきとなっており、新あたらしくできるシーメンスとの合弁ごうべん会社かいしゃの経営けいえいに当あたろうと名乗なのりを上あげる人物じんぶつが財閥ざいばつ内ないにいなかった。そこで古河ふるかわに関係かんけいする人物じんぶつとして鐘しょう淵ふかし紡績ぼうせき取締役とりしまりやく在職ざいしょく中ちゅうの名取なとりが浮上ふじょう、古河ふるかわ合名ごうめい会社かいしゃ社長しゃちょう古河ふるかわ虎之助とらのすけが名取なとりと親交しんこうのあった池田いけだ成彬せいひんを介かいして新しん会社かいしゃ社長しゃちょう就任しゅうにんを要請ようせいする。これに対たいして名取なとりは新しん会社かいしゃの経営けいえい一切いっさいを委ゆだねることなどを条件じょうけんに社長しゃちょう就任しゅうにんを承諾しょうだくした。

1923年ねん（大正たいしょう12年ねん）8月がつ22日にち、古河ふるかわ・シーメンスの合弁ごうべん会社かいしゃとして神奈川かながわ県けん橘たちばな樹いつき郡ぐん田島たじま村むら（現げん・川崎かわさき市し川崎かわさき区く）に富士電機ふじでんき製造せいぞう株式会社かぶしきがいしゃ（現げん・富士電機ふじでんき）が設立せつりつされた。名取なとりは同社どうしゃにおいて初代しょだい取締役とりしまりやく社長しゃちょうと営業えいぎょう部長ぶちょうを兼かねた。富士電機ふじでんき製造せいぞうは1925年ねん（大正たいしょう14年ねん）4月がつより川崎かわさき工場こうじょうの操業そうぎょうを始はじめたが、赤字あかじ経営けいえいが続つづき、年々ねんねん欠損けっそんが累積るいせきしていった。経営けいえい難なんの中なかで名取なとりは会社かいしゃの金融きんゆうに奔走ほんそうしたが、経営けいえいは好転こうてんせず世界せかい恐慌きょうこう下したの1930年ねん（昭和しょうわ5年ねん）5月がつには人員じんいん整理せいりを余儀よぎなくされた。

1931年ねん（昭和しょうわ6年ねん）4月がつ、名取なとりは富士電機ふじでんき製造せいぞう社長しゃちょうからの退任たいにんを発表はっぴょうした。後のちに名取なとり本人ほんにんが語かたった辞任じにんの理由りゆうは、不良ふりょう資産しさんの切きり捨すてや人員じんいん整理せいりが一段落いちだんらくし経営けいえい好転こうてんの兆きざしが見みえてきたところにより経営けいえい状態じょうたいの悪わるい時事新報じじしんぽう社しゃの経営けいえい引ひき受うけを打診だしんされたため、富士電機ふじでんき製造せいぞうからは辞じすることになった、というものである。5月27日にち開催かいさいの株主かぶぬし総会そうかいをもって名取なとりは取締役とりしまりやく吉村よしむら萬治まんじ郎ろうに社長しゃちょう職しょくを譲ゆずり、取締役とりしまりやくからも退しりぞいて相談役そうだんやくに回まわった。

富士電機ふじでんき製造せいぞう社長しゃちょう在任ざいにん中ちゅうには鐘しょう淵ふかし紡績ぼうせき取締役とりしまりやくのほか電力でんりょく会社かいしゃの役員やくいんも兼かねた。まず1922年ねん（大正たいしょう11年ねん）7月がつ、岐阜ぎふ電力でんりょくの取締役とりしまりやくに選えらばれた。同社どうしゃは飛騨川ひだがわ開発かいはつのため大手おおて電力でんりょく会社かいしゃ東邦とうほう電力でんりょくが買収ばいしゅうした発電はつでん会社かいしゃで、1926年ねん（大正たいしょう15年ねん）に親会社おやがいしゃ東邦とうほう電力でんりょくに吸収きゅうしゅうされた。合併がっぺい後ごの1927年ねん（昭和しょうわ2年ねん）5月がつ、名取なとりは東邦とうほう電力でんりょくの取締役とりしまりやくにも就任しゅうにんしている。

電力でんりょく業界ぎょうかいでは郷里きょうり長野ながの県けんの会社かいしゃにも関かかわった。長野ながの県けんの有力ゆうりょく電力でんりょく会社かいしゃ長野ながの電灯でんとうで社長しゃちょうを務つとめる小坂こさか順じゅん造づくりは名取なとりの友人ゆうじんである。その長野ながの電灯でんとうが1924年ねん（大正たいしょう13年ねん）12月に上高井かみたかい郡ぐん須坂すざか町まち（現げん・須坂すざか市し）の信濃電気しなのでんきと共同きょうどうで発電はつでん会社かいしゃ梓川あずさがわ電力でんりょくを設立せつりつした際さいには監査かんさ役やくに就ついた。また1930年ねん4月がつに信濃電気しなのでんきの取締役とりしまりやく社長しゃちょう、同年どうねん7月がつにはその傘下さんかにある石灰せっかい窒素ちっそメーカー信越しんえつ窒素肥料ちっそひりょう（現げん・信越化学工業しんえつかがくこうぎょう）の取締役とりしまりやく社長しゃちょうにそれぞれ就任しゅうにんした。名取なとりの信濃電気しなのでんき・信越しんえつ窒素肥料ちっそひりょう入いりは長年ながねん両社りょうしゃを経営けいえいしてきた越こし寿三郎じゅさぶろうの撤退てったいに伴ともなうもので、越えつから経営けいえいを委譲いじょうされた小坂こさか順じゅん造づくり（当時とうじ拓ひらけ務つとむ政務次官せいむじかん在任ざいにん中ちゅう）の代理だいりであった。名取なとりの社長しゃちょう在任ざいにん期間きかんは短みじかく、翌よく1931年ねん5月がつ政務次官せいむじかんから退しりぞいた小坂こさかと交代こうたいしている。

時事新報じじしんぽう社しゃ社長しゃちょう就任しゅうにん

時事新報じじしんぽう社会しゃかい長ちょう門野もんの幾いく之これ進しん

1928年ねん（昭和しょうわ3年ねん）6月がつ30日にち、名取なとりは門野もんの幾いく之これ進しんや東邦とうほう電力でんりょくの松永まつなが安やすし左ひだりエ門もんらと株式会社かぶしきがいしゃ時事新報じじしんぽう社しゃの取締役とりしまりやくに就任しゅうにんした。同社どうしゃは福澤ふくさわ諭吉ゆきちが創刊そうかんした新聞しんぶん「時事新報じじしんぽう」の発行はっこう元もと（1920年ねん株式会社かぶしきがいしゃ化か）であるが、関東大震災かんとうだいしんさいによる本社ほんしゃ焼失しょうしつやその後ごの販売はんばい競争きょうそうで経営けいえい難なんが続つづいており、経営けいえい再建さいけんのための増資ぞうしが不発ふはつに終おわったことから社長しゃちょう小山こやま完かん吾われと常務じょうむ加藤かとう功いさおが辞任じにんして当時とうじ社長しゃちょう・常務じょうむ不在ふざいであった。同年どうねん7月がつ門野もんのが新設しんせつの会長かいちょう職しょくに就任しゅうにんし、会長かいちょう門野かどの幾いく之これ進しん・常務じょうむ籾山もみやま仁三郎じんざぶろうという新しん経営けいえい陣じんが発足ほっそくする。門野もんのの尽力じんりょくで増資ぞうしが実現じつげんし経営けいえいは一旦いったん改善かいぜんされたが、その後ごも赤字あかじ経営けいえいが続つづいた。

1931年ねんになり、常務じょうむの籾山もみやまが病気びょうきで不在ふざいとなったために空席くうせきであった社長しゃちょう職しょくを置おくことが決きまると、門野もんのや池田いけだ成彬せいひん・加藤かとう武男たけおらの推薦すいせんで名取なとりが時事新報じじしんぽう社しゃの社長しゃちょうに就つくこととなった。名取なとりは1931年ねん3月がつ13日にち付づけで取締役とりしまりやく会かいにて社長しゃちょうに選任せんにんされ、同年どうねん4月がつ9日にちには社長しゃちょう就任しゅうにんの披露ひろう式しきを東京とうきょう劇場げきじょうにて挙行きょこうした。常務じょうむには稲垣いながき平太郎へいたろうを置おいている。しかし名取なとりの社長しゃちょう就任しゅうにん後ごも会社かいしゃの赤字あかじ経営けいえいは続つづき、さらに満まん洲しゅう事変じへん勃発ぼっぱつが経費けいひ高騰こうとうを招まねいて累積るいせき損失そんしつが拡大かくだいしていく。そのような中なか、名取なとりは武藤むとう山治やまじが時事新報じじしんぽう社しゃの経営けいえいに意欲いよくがあると漏もれき、本人ほんにんとの交渉こうしょうの末すえに武藤むとうを取締役とりしまりやく会かいの委任いにんによる「経営けいえい担当たんとう者しゃ」に任にんじて1932年ねん（昭和しょうわ7年ねん）4月がつ25日にち付づけで社長しゃちょうから退しりぞいた。そして同年どうねん9月がつ15日にちの株主かぶぬし総会そうかいをもって取締役とりしまりやくからも辞任じにんした。

時事新報じじしんぽう社しゃ社長しゃちょう辞任じにん後ごは複数ふくすうの企業きぎょうにおいて取締役とりしまりやくや監査かんさ役やくを務つとめた。古巣ふるすの富士電機ふじでんき製造せいぞうでは1934年ねん（昭和しょうわ9年ねん）11月相談役そうだんやくから監査かんさ役やくに転任てんにん。電力でんりょく業界ぎょうかいでは、1927年ねんから在任ざいにんする東邦とうほう電力でんりょくの取締役とりしまりやくを1942年ねん（昭和しょうわ17年ねん）の会社かいしゃ解散かいさんまで務つとめたほか、1934年ねん（昭和しょうわ9年ねん）4月がつに東邦とうほう電力でんりょく傘下さんかの合同ごうどう電気でんきにて取締役とりしまりやくとなる（同社どうしゃは1937年ねん3月がつ東邦とうほう電力でんりょくへ合併がっぺい）。長野ながの方面ほうめんでは1931年ねん5月がつ梓川あずさがわ電力でんりょくの取締役とりしまりやくに就任しゅうにん。小坂こさか順じゅん造づくりに社長しゃちょう職しょくを譲ゆずった信濃電気しなのでんきでも取締役とりしまりやくに留とまり、同社どうしゃが1937年ねん（昭和しょうわ12年ねん）3月がつに長野ながの電灯でんとうと合併がっぺいして長野ながの電気でんきとなるとその取締役とりしまりやくに選えらばれた。長野ながの電気でんきの取締役とりしまりやくは1942年ねんの会社かいしゃ解散かいさん（直前ちょくぜんに梓川あずさがわ電力でんりょくを吸収きゅうしゅう）まで在任ざいにんしている。

社長しゃちょう辞任じにんの翌月よくげつに取締役とりしまりやくからも退しりぞいていた信越しんえつ窒素肥料ちっそひりょうでは、1933年ねん（昭和しょうわ8年ねん）3月がつ取締役とりしまりやくに再任さいにんされた。そのほかには1934年ねん2月がつ千代田生命保険ちよだせいめいほけん監査かんさ役やく（当時とうじの社長しゃちょうは門野もんの幾いく之これ進しん）、1936年ねん（昭和しょうわ11年ねん）12月大だい日本にっぽん製糖せいとう監査かんさ役やく、1941年ねん（昭和しょうわ16年ねん）3月がつ三越みつこし取締役とりしまりやくにそれぞれ就任しゅうにんした。

戦後せんごの貴族きぞく院いん議員ぎいん就任しゅうにん

太平洋戦争たいへいようせんそう終戦しゅうせん後ごの1946年ねん（昭和しょうわ22年ねん）7月がつ8日にち、公職こうしょく追放ついほうによる欠員けついんの第だい1回かい補充ほじゅうとして名取なとりは貴族きぞく院いん勅みことのり選せん議員ぎいんに任命にんめいされた。貴族きぞく院いんでは交友こうゆう倶楽部くらぶに所属しょぞくし、翌よく1947年ねん（昭和しょうわ22年ねん）5月がつ2日にちの貴族きぞく院いん廃止はいしまで在任ざいにんした。

財界ざいかいでは1947年ねん9月がつ三越みつこしの取締役とりしまりやくから監査かんさ役やくへ転任てんにん。同年どうねん10月がつには信越化学工業しんえつかがくこうぎょう（1940年ねん信越しんえつ窒素肥料ちっそひりょうから社名しゃめい変更へんこう）の取締役とりしまりやくと千代田生命保険ちよだせいめいほけん監査かんさ役やくを辞任じにんしたが、このうち信越化学工業しんえつかがくこうぎょう取締役とりしまりやくは1951年ねん（昭和しょうわ26年ねん）7月がつに再任さいにんされた。1950年ねん（昭和しょうわ25年ねん）4月がつ、大だい日本にっぽん製糖せいとう監査かんさ役やくを辞任じにんし、1951年ねん11月には富士電機ふじでんき製造せいぞうの監査かんさ役やくから取締役とりしまりやくへ転てんじた。

1959年ねん（昭和しょうわ34年ねん）6月4日にち、入院にゅういん中ちゅうの富士電機ふじでんき鶴見つるみ病院びょういん（横浜よこはま市し鶴見つるみ区く）にて老衰ろうすいのため死去しきょした。87歳さい没ぼつ。死後しご正せい五ご位い・勲くん三さん等とう瑞宝章ずいほうしょうが追贈ついぞうされた。

人物じんぶつ

三男さんなんの名取なとり洋之助ようのすけ

実家じっかの名取なとり家かは甲州こうしゅう街道かいどうの蔦つた木き宿やどで造つくり酒屋ざかや「桔梗ききょう屋や」を営いとなんだ家いえである。家伝かでんによると先祖せんぞは陸奥みちのく国こく名取なとり郡ぐん（現げん・宮城みやぎ県けん）を領りょうした清和せいわ源はじめ氏しの一族いちぞくで、戦国せんごく時代じだいには甲斐かい武田たけだ氏しに仕つかえていたものの武田たけだ勝頼かつよりの滅亡めつぼうにより甲斐かい国こくから信濃しなの国こくの蔦つた木き宿やどへ移うつり住すんだという。和作わさくの父ちち・和かず三郎さぶろうは名取なとり家かと親戚しんせき関係かんけいにある甲斐かい国こく巨摩こま郡ぐん蔵原くらばら村むら（現げん・北きた杜もり市し）の有賀ありが家かから迎むかえられた養子ようしであった。和かず三郎さぶろうの代だいに名取なとり家かは酒造しゅぞう業ぎょうを廃業はいぎょうし馬車ばしゃ宿業しゅくごうに転業てんぎょうした。和かず三郎さぶろうの子こは三男さんなん二女じじょあり、その長男ちょうなんが和作わさくである。次男じなんの源一げんいちは郷里きょうりに残のこり、三男さんなんの夏なつ司つかさは古河ふるかわ鉱業こうぎょう社員しゃいんから旭電化工業あさひでんかこうぎょう（現げん・ADEKA）取締役とりしまりやく兼けん支配人しはいにんを経へて帝国ていこく生命せいめい保険ほけん（現げん・朝日生命保険あさひせいめいほけん）専務せんむ取締役とりしまりやくとなった。夏なつ司つかさの子こで、和作わさくの甥おいにあたる名取なとり信しん策さくは日本にっぽん生薬きぐすり学会がっかい会長かいちょうを務つとめた。

妻つまのふくは慶應義塾けいおうぎじゅくの先輩せんぱいにあたる朝吹あさぶき英二えいじの長女ちょうじょである。妻つまの大叔父おおおじに福澤ふくさわ諭吉ゆきち、叔父おじに中上川なかみがわ彦次郎ひこじろうがいる。子こは男子だんし3人にんで、富士電機ふじでんきに勤つとめた木き之の助じょ、写真しゃしん家かとなった洋之助ようのすけ、毎日新聞まいにちしんぶんに勤つとめた壌之助すけがいる。

邸宅ていたくは神奈川かながわ県けんの国府津こうづ（現げん・小田原おだわら市し）に構かまえ、家族かぞくを東京とうきょうに残のこして基本きほん的てきに国府津こうづで暮くらした。富士電機ふじでんきの金成かねなり増ぞう彦によると、国府津こうづの邸宅ていたくは7500坪つぼの敷地しきち内ないに山やま・水田すいでん・畑はたけが広ひろがっており、名取なとりはここで趣味しゅみの読書どくしょを楽たのしんでいたという。敷地しきち内ないの離はなれには一時いちじ川田かわた順じゅん・鈴鹿すずか俊子としこ夫妻ふさいや画家がかの河野こうの鷹司たかつかさが住すんでいたが、のちに富士電機ふじでんきの寮りょうになった。

名取なとりは出身しゅっしん校こう慶應義塾けいおうぎじゅくへ多額たがくの寄付きふを続つづけた。塾長じゅくちょうの小泉こいずみ信三しんぞうによると、慶應義塾けいおうぎじゅくの資金しきんで欧米おうべい留学りゅうがくをしたにもかかわらず大学だいがく教授きょうじゅを途中とちゅうで辞やめ、経済けいざい学者がくしゃとしての業績ぎょうせきを何なんら残のこさなかったことに対たいする「償つぐない」として積極せっきょく的てきに寄付きふをしていたという。塾じゅくの調査ちょうさによると、寄付きふ額がくは1945年ねんまでの間あいだに計けい9万まん9490円えん、戦後せんごは1957年ねん（昭和しょうわ32年ねん）の100年ねん記念きねん建設けんせつ資金しきん150万まん円えんを含ふくむ計けい151万まん2090円えんに及およぶ。さらに1936年ねん（昭和しょうわ11年ねん）には三田みたキャンパスに2階かい建だての洋館ようかんを建たてている。この建物たてものは名取なとりの旧宅きゅうたく1棟むねを寄贈きぞう・移設いせつしたもので、塾じゅくでは「名取なとりハウス」とよばれて教職員きょうしょくいんクラブが用もちいていたが、1945年ねん（昭和しょうわ20年ねん）5月がつに空襲くうしゅうで焼失しょうしつした。

参考さんこう文献ぶんけん

• 大阪おおさか屋や商店しょうてん調査ちょうさ部ぶ 編へん『株式かぶしき年鑑ねんかん』 昭和しょうわ17年度ねんど、大同だいどう書院しょいん、1942年ねん。NDLJP:1069958。 
• 鐘紡かねぼう製糸せいし四よん十じゅう年ねん史し編纂へんさん委員いいん会かい 編へん『鐘紡かねぼう製糸せいし四よん十じゅう年ねん史し』鐘しょう淵ふかし紡績ぼうせき・鐘しょう淵ふかし蚕糸さんし、1965年ねん。NDLJP:2509187。 
• 慶應義塾けいおうぎじゅく 編へん『慶應義塾けいおうぎじゅく百ひゃく年ねん史し』上巻じょうかん、慶應義塾けいおうぎじゅく、1958年ねん。 
• 衆議院しゅうぎいん・参議院さんぎいん 編へん『議会ぎかい制度せいど百ひゃく年ねん史し 貴族きぞく院いん・参議院さんぎいん議員ぎいん名鑑めいかん』大蔵省おおくらしょう印刷いんさつ局きょく、1990年ねん。NDLJP:9673684。 
• 信越化学工業しんえつかがくこうぎょう社しゃ史し編纂へんさん室しつ 編へん『信越化学工業しんえつかがくこうぎょう社しゃ史し』信越化学工業しんえつかがくこうぎょう、1992年ねん。 
• 人事じんじ興信所こうしんじょ 編へん『人事じんじ興信録こうしんろく』第だい8版はん、人事じんじ興信所こうしんじょ、1928年ねん。NDLJP:1078684。 
• 須藤すとう常つね 編へん『信用しんよう名鑑めいかん』信用しんよう名鑑めいかん発行はっこう所しょ、1911年ねん。NDLJP:779823。 
• 千代田生命保険相互会社五十年史編纂委員会 編へん『五ご十じゅう年ねん史し 千代田生命保険ちよだせいめいほけん相互そうご会社かいしゃ』千代田生命保険ちよだせいめいほけん、1955年ねん。NDLJP:9524396。 
• 東京とうきょう商業しょうぎょう会議かいぎ所しょ 編へん『渡米とべい実業じつぎょう団だん誌し』東京とうきょう商業しょうぎょう会議かいぎ所しょ、1910年ねん。NDLJP:1904334。 
• 東邦とうほう電力でんりょく史し編纂へんさん委員いいん会かい 編へん『東邦とうほう電力でんりょく史し』東邦とうほう電力でんりょく史し刊行かんこう会かい、1962年ねん。 
• 難波なんば理一郎りいちろう『人間にんげん名取なとり夏なつ司つかさ君くん』氷川ひかわ書院しょいん、1941年ねん。NDLJP:1055560。 
• 早瀬はやせ圭一けいいち『過すぎし愛あいのとき 淑女しゅくじょの履歴りれき書しょ』文藝春秋ぶんげいしゅんじゅう、1990年ねん。ISBN 4163443002。 
• 富士電機ふじでんき製造せいぞう社しゃ史し編纂へんさん委員いいん会かい 編へん『富士電機ふじでんき社しゃ史し』富士電機ふじでんき製造せいぞう、1957年ねん。NDLJP:2486529。 
• 富士電機ふじでんき製造せいぞう「名取なとりさんの思おもひ出で」編纂へんさん委員いいん会かい 編へん『名取なとりさんの思おもひ出で』「名取なとりさんの思おもひ出で」編集へんしゅう委員いいん会かい、1961年ねん。NDLJP:2983348。 
• 三田みた商業しょうぎょう研究けんきゅう会かい 編へん『慶應義塾けいおうぎじゅく出身しゅっしん名流めいりゅう列伝れつでん』実業じつぎょう之の世界せかい社しゃ、1909年ねん。NDLJP:777715。 
• 村田むらた昇司しょうじ『門野もんの幾いく之これ進しん先生せんせい事績じせき・文集ぶんしゅう』門野もんの幾いく之これ進しん先生せんせい懐旧かいきゅう録ろく及論集しゅう刊行かんこう会かい、1939年ねん。NDLJP:1043558。 

外部がいぶリンク

• Bibliographical Database of Keio Economists 名取なとり和作わさく

先代せんだい （会社かいしゃ設立せつりつ）

富士電機ふじでんき製造せいぞう （現げん・富士電機ふじでんき）社長しゃちょう 初代しょだい：1923年ねん - 1931年ねん

次代じだい 吉村よしむら萬治まんじ郎ろう

先代せんだい 越こし寿三郎じゅさぶろう

信濃電気しなのでんき社長しゃちょう 第だい4代だい：1930年ねん - 1931年ねん

次代じだい 小坂こさか順じゅん造づくり

先代せんだい 越こし寿三郎じゅさぶろう

信越しんえつ窒素肥料ちっそひりょう （現げん・信越化学工業しんえつかがくこうぎょう）社長しゃちょう 第だい2代だい：1930年ねん - 1931年ねん

次代じだい 小坂こさか順じゅん造づくり