奉公ほうこう構

奉公ほうこう構（ほうこうかまい、ほうこうかまえ）は、安土あづち桃山ももやま時代じだいおよび江戸えど時代じだいにおいて、武家ぶけが家中いえじゅうの武士ぶし（家臣かしん）に対たいして科かした刑罰けいばつの一ひとつで、将来しょうらいの奉公ほうこうが禁きんぜられることである。

構（かまえ）とは集団しゅうだんからの追放ついほうを意味いみするが、奉公ほうこう構は旧主きゅうしゅからの赦ゆるしがない限かぎりは将来しょうらいの仕官しかん（雇用こよう）が禁止きんしされるため、通常つうじょうの追放ついほう刑けいよりも一層いっそう重おもい罰ばちであった。

概要がいよう

大名だいみょうが、罪つみを犯おかして改易かいえきされた家臣かしん、または主人しゅじんの不興ふきょうを買かって（暇ひまを請こわずに勝手かってに）出奔しゅっぽんした家臣かしんについて、他家たけがこれを召めし抱かかえないように釘くぎを刺さす回状かいじょうを出だすことをいう。武家ぶけ奉公ほうこう構、仕官しかん御構おかまい（しかんおかまい）などとも表現ひょうげんされる。奉公ほうこう構の概念がいねんは、戦国せんごく大名だいみょうの分ぶん国法こくほう（家法かほう）である今川いまがわ仮名がな目録もくろくや甲州こうしゅう法度はっと次第しだい、塵芥じんかい集しゅうなどにすでに見みられる^[1]が、彼かれらの所領しょりょうは限かぎられていたことから、境さかいを越こえてしまえば自由じゆうがあった。しかし、豊臣とよとみ秀吉ひでよしは天下てんかを統一とういつしたことで、奉公ほうこう構を日本にっぽん全国ぜんこくに行いき渡わたらせることを可能かのうにした。

構を申もうし渡わたされた者もの（「構かまわれ者しゃ」という）は、どの家いえでも奉公人ほうこうにんとして置おいてはならないと定さだめられ、例たとえ有能ゆうのうな人材じんざいであっても他家たけが召めし抱かかえることは禁止きんしされた。もし旧主きゅうしゅが求もとめるならば、この者ものを逮捕たいほして旧主きゅうしゅのもとに送還そうかんする必要ひつようもあり、逃にがした場合ばあいには新しん主あるじも咎とがめを負おった^[1]。以後いご、武士ぶし達たちは、戦国せんごく時代じだいのように仕官しかんと出奔しゅっぽんを繰くり返かえして家々いえいえを渡わたり歩あるいて奉公ほうこう替がえによって出世しゅっせしていくことが難むずかしくなり、簡単かんたんに出奔しゅっぽんすることができなくなった。ただし、大だい大名だいみょうの連合れんごう政権せいけんの性格せいかくのある豊臣とよとみ政権せいけん下したでの奉公ほうこう構は（大名だいみょう間あいだの力ちから関係かんけいによって）必かならずしも守まもられておらず、また蒲生がもう氏し郷きょうが会津あいづに転てん封ふうされた際さいには家臣かしんが不足ふそくしたことから、構を受うけた浪人ろうにんの雇用こようが公認こうにんされたこともあり、厳格げんかくには施行しこうされていなかった^[1]。

江戸えど幕府ばくふの活用かつよう

江戸えど幕府ばくふでは大坂おおさかの陣じんの後のちも上方かみがたに多おおく屯たむろしていた浪人ろうにんの抑圧よくあつ策さくの1つとしてこれを採用さいようして、元和がんわ9年ねん（1623年ねん）9月がつ18日にち、京都きょうと所司代しょしだい板倉いたくら重宗しげむねの令れいによって、京都きょうとより牢ろう人じんと（罪つみによって）構かまわれ者しゃとなった者ものを追放ついほうさせた^[2]が、あくまでも罪人ざいにんを追放ついほうするに留とどまっていた。しかし、寛永かんえい9年ねん（1632年ねん）に出だされた諸しょ士し法度はっとの一部いちぶによって「構有_レ之これ奉公人ほうこうにん不ふ_レ可か_二に抱だき置おけ_一いち事こと」として初はじめて構を一般いっぱん的てきに認みとめた^[3]。さらに寛永かんえい12年ねん（1635年ねん）に改正かいせいされた武家ぶけ諸しょ法度はっとおよび諸しょ士し法度はっとによってさらに細こまかい規定きていと設もうけて、幕府ばくふ法ほうとしても有効ゆうこうであると改あらためて確認かくにんした。

幕まく藩はん体制たいせい下したではより厳格げんかくに施行しこうされるようになり、構が出だされると、扶持ふちを没収ぼっしゅうされ、仕つかえた家いえから追放ついほうされて、その土地とちまたは江戸えど・大阪おおさか・京都きょうとなど特定とくていの地域ちいきに住すめなくなるだけでなく、当家とうけでも他家たけでも再さい仕官しかんが出来できなくなるので、浪人ろうにんは武士ぶしとしての生活せいかつを送おくることが不可能ふかのうとなった。このため武士ぶし階級かいきゅうにおいては死刑しけいに次つぐ重刑じゅうけいであったといえる。

条文じょうぶん

甲州こうしゅう法度はっと

天文てんもん16年ねん（1547年ねん）第だい15条じょう

一いち　譜代ふだい被官ひかん他人たにん召仕之の時とき。本ほん主しゅ見合みあい搦（補ほ）_レ之これ事ごと。停止ていし之の畢（おわ）^ンヌ。断だん_二に旨趣ししゅ^ヲ_一いち而可_二に請取うけとり_一いち之これ。兼けん又また主人しゅじん聞傳相しょう届とどけ^ル之これ處しょ^ニ。當主とうしゅ領掌りょうしょう之の上うえ。令れい_二に逐電ちくでん_一いち者もの。以_二に自餘じよ者しゃ^ヲ_一いち壹いち人じん可か_レ辧_レ之これ。奴婢ぬひ雑人ぞうにん之の。事こと者しゃ無な_二に其沙汰さた_一いち過か_二に拾じつヶ年かねん_一いち者もの。任にん^セ_二に式目しきもく_一いち不ふ_レ可か_レ改あらため_レ之これ。

（現代げんだい語ご訳やく）
譜代ふだいの被官ひかんを他人たにんが使役しえきしていた場合ばあい、元もとの主あるじが見みつけ次第しだい拘束こうそくすることを禁止きんしする。事情じじょうを断たって身柄みがらを引ひき取とること。また元もとの主あるじが聞ききつけて今いまの主おもに伝つたえたところ、今いまの主あるじが事情じじょうを知しった上うえで被官ひかんを逃にがしてしまった場合ばあい、他たの者ものを一人ひとり出だして弁償べんしょうすること。（使役しえきされる者ものが）奴婢ぬひ・雑人ぞうにんの身分みぶんである場合ばあいは御ご成敗せいばい式目しきもくに従したがい、元もとの主あるじから連絡れんらくのないまま10年ねん過すぎたあとは（帰属きぞくを）変更へんこうしてはならない。

定じょう書しょ（秀吉ひでよし）

天正てんしょう14年ねん（1586年ねん）正月しょうがつ19日にち（西村にしむら哲あきら尾お文書ぶんしょ）

諸しょ奉公人ほうこうにん侍さむらい事ごとは申さるにおよばず仲間なかまこものあらし子こに至いたるまで、其主にいとまをこはず出で候こう儀ぎ曲事きょくじ候こう間あいだ、相あい抱かかえべからず。

武家ぶけ諸しょ法度はっと（寛永かんえい令れい）

寛永かんえい12年ねん（1635年ねん）

一いち、本ほん主ぬし之の障さわあるもの不ふ_レ可か_レ相そう_二に抱だき之の_一いち、叛逆はんぎゃく殺害さつがい盗賊とうぞく人じんの届とどけあらば、急きゅう度ど可か_レ返かえし_レ之これ、其外かろき咎とがめの者ものに至いたりては、侍さむらいは届とどけ次第しだい可か_レ追おい_二に拂はらい之の_一いち…（後略こうりゃく）

（現代げんだい語ご訳やく）
元もとの主人しゅじんから問題もんだいがあるとされた者ものを家来けらいとして召めし抱かかえてはならない。もし反逆はんぎゃく者しゃ・殺人さつじん者しゃ・泥棒どろぼうとの届出とどけでが出でていれば速すみやかに元もとの主人しゅじんへ返かえすこと。その他た、軽かるい罪つみの者ものに関かんしては、侍さむらいならば届出とどけでを出だした上うえで追放ついほうすること…(後略こうりゃく)