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妖虫

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妖虫』(ようちゅう)は、江戸川えどがわ乱歩らんぽさく長編ちょうへんスリラー探偵たんてい小説しょうせつである。発表はっぴょう1933ねんから1934ねん本格ほんかくてきなぞきよりも耽美たんび怪奇かいきしょくい。ここでう「妖虫」は、昆虫こんちゅうではなくあかサソリ[1]ことである。

あらすじ[編集へんしゅう]

大学生だいがくせい相川あいかわまもるはあるばん、レストランでいもうと珠子たまことその家庭かてい教師きょうし殿村とのむら京子きょうこさんにん会食かいしょくちゅう殿村とのむら読唇術どくしんじゅつ[2]かいのせきの「青眼せいがんきょうおとこ」と相棒あいぼう秘密ひみつ会話かいわぬすむ。かれらは、明晩みょうばんおこなわれる犯罪はんざいわせをしていたのだった。殿村とのむらからそれをき、つぎ深夜しんや会話かいわにあった空家あきやたずねたまもりは、そこで5にちまえ行方ゆくえ不明ふめいとなった有名ゆうめい美人びじん女優じょゆう春川はるかわ月子げっし無残むざんころされる現場げんばたりにすることとなる。そのぞくは「あかサソリ」と名乗なの兇悪きょうあく犯罪はんざいしゃであり、現場げんばには「悪魔あくま紋章もんしょう」として、あかいサソリのえがかれていた。警察けいさつでの調しらべがみ、帰路きろについたまもりは、れい青眼せいがんきょうおとこつけ、尾行びこうするが、ぎゃく拳銃けんじゅうおどされる。青眼せいがんきょうおとこは「あかサソリ」の主犯しゅはんかくであり、うつくしいむすめ惨殺ざんさつするのが目的もくてきらしいのだ。「あかサソリ」のつぎ標的ひょうてきは、なに東京とうきょう屈指くっし美少女びしょうじょ学生がくせいとして評判ひょうばんの、まもりいもうと珠子たまこであった。

相川あいかわでは、「あかサソリ」の予告よこく裏付うらづけるように珠子たまこ身辺しんぺん青眼せいがんきょうぞくび、いえなかからサソリの死骸しがい次々つぎつぎ人々ひとびとふるがらせる。警察けいさつたよりにならないとまもりは、めい探偵たんてい三笠みかさ竜介りゅうすけ助力じょりょくもとめようとするのだが、ぞくたくみなわなにかかり、まもりばかりか三笠みかさまでもがとしあなめられてしまう。そして、偽者にせものさんかさ相川あいかわから珠子たまこし、餌食えじきにしかかったところを、間一髪かんいっぱつさんかさまもり青眼せいがんきょううらをかいて彼女かのじょ救出きゅうしゅつ成功せいこうしかけた。ところが、三笠みかさ正体しょうたい不明ふめい伏兵ふくへいされ、珠子たまこふたた拉致らちされてしまう。そして、銀座ぎんざ有名ゆうめいてんでマネキン人形にんぎょうわりに珠子たまこ遺骸いがいかざられた。

おし惨殺ざんさつされて失意しつい殿村とのむら京子きょうこ相川あいかわり、相川あいかわともしたしかった桜井さくらいうつくしいむすめである品子しなこ家庭かてい教師きょうしとなるが、なんと「あかサソリ」の魔手ましゅは、今度こんど美人びじんヴァイオリニストとしてもられる品子しなこびてた。珠子たまこときおなじように、人々ひとびとおどかしてたのしむようにサソリの死骸しがいる。そして、警官けいかんりすましたぞくはやすやすと品子しなこ誘拐ゆうかいしてしまったのである。まもり負傷ふしょうして入院にゅういんちゅう三笠みかさ探偵たんていたずねるが、かれ衰弱すいじゃくしており、ぞく毒殺どくさつされかけたとのことであった。まもり絶望ぜつぼうしそうになるが、じつはそれは、てきあざむくためのたくみな計略けいりゃくであったのだ。三笠みかさはすでにきずえ、ひそかに病院びょういんして捜査そうさつづけていたのである。かれ元気げんき様子ようすせて、今度こんどこそいのちをかけてでも品子しなこたすけ、事件じけん解決かいけつする、と断言だんげんしてまもり安心あんしんさせた。

しかし、品子しなこ行方ゆくえ皆目かいもくわからぬまま、「あかサソリ」が指定していした殺害さつがい時間じかん刻々こくこくせまる。三笠みかさ探偵たんていは、どうやってこの難事件なんじけん解決かいけつしようとうのか?そして「あかサソリ」の、青眼せいがんきょうおとこ正体しょうたいは?

解説かいせつ[編集へんしゅう]

1933ねん昭和しょうわ8ねん)、雑誌ざっしキング』の12月ごうからよく1934ねん昭和しょうわ9ねん)の10がつごうまで連載れんさいされ[3]、このとしの12月に新潮社しんちょうしゃから単行本たんこうぼんされた。乱歩らんぽ作品さくひん常連じょうれん探偵たんてい明智あけち小五郎こごろう」とはべつ私立しりつ探偵たんてい三笠みかさ竜介りゅうすけ」が登場とうじょうする作品さくひんである。

作者さくしゃ江戸川えどがわ乱歩らんぽは、ほんさく前年ぜんねん1932ねん昭和しょうわ7ねん)の3がつから度目どめきゅうひつおこない、翌年よくねん1933ねん昭和しょうわ8ねん)の11月まで経営けいえいしていた下宿げしゅくみどりかん」の売却ばいきゃく自宅じたく転居てんきょ各地かくちへの放浪ほうろう旅行りょこうなどについやしている。ほんさく連載れんさい開始かいし先駆さきがけ、11月からは『しん青年せいねんでも『悪霊あくりょう』を開始かいししていたが、時期じきてきにはちょうどスランプはいはじめたころであった。『妖虫』はいち年間ねんかん連載れんさい無事ぶじえたが、どう時期じき連載れんさい開始かいしした『悪霊あくりょう』は展開てんかいまって、さんかい中絶ちゅうぜつしてしまっている。結局けっきょく1933ねんは、乱歩らんぽは『悪霊あくりょう』と『妖虫』のさくいたのみだった。

冒頭ぼうとうからだい女優じょゆうのバラバラ殺人さつじんはじまり、見世物みせもの小屋こやおんな一寸法師いっすんぼうし少女しょうじょ誘拐ゆうかい悪人あくにん探偵たんてい変装へんそう合戦かっせん銀座ぎんざ街頭がいとうショーウインドウへの死体したい陳列ちんれつなど、美醜びしゅうしょうまみえる「らん歩調ほちょう」とばれるエロ・グロ路線ろせん横溢おういつした作品さくひんとなっている。連載れんさい挿絵さしえ岩田いわた専太郎せんたろう担当たんとうし、中途ちゅうと岩田いわた病気びょうきになったため、連載れんさいだい8かいから小林こばやし秀恒ひでつね交代こうたいした。

乱歩らんぽ本人ほんにんは「註自かい」として、「相変あいかわらずの荒唐無稽こうとうむけい小説しょうせつだが、真犯人しんはんにんとその動機どうきはちょっとめずらしい着想ちゃくそうであった」とべている。この小説しょうせつはじめてあいだもなく、乱歩らんぽたく満州まんしゅう読者どくしゃからかさばった封書ふうしょとどいた。乱歩らんぽが「なんだろう」とけてみると、「当地とうちのサソリの現物げんぶつをおにかけます」とのしょとともに、「なかから本物ほんもののサソリの死骸しがいあらわれて、ギョッとさせられた」という。

物語ものがたり冒頭ぼうとうで、家庭かてい教師きょうし殿村とのむらによる読唇術どくしんじゅつ犯罪はんざい露見ろけんのきっかけとなるが、このシチュエーションは、乱歩らんぽしたしい横溝よこみぞ正史せいし戦後せんご発表はっぴょうした短編たんぺんかがみなかおんな』におなじものがられる。乱歩らんぽほんさくで、私設しせつ電話でんわ交換こうかんによる通話つうわのすりえ、ぬいぐるみによる誘拐ゆうかいのトリックを投入とうにゅうしている。

主要しゅよう登場とうじょう人物じんぶつ[編集へんしゅう]

相川あいかわ まもる(あいかわ まもる)
主人公しゅじんこう法学部ほうがくぶかよ大学生だいがくせい探偵たんてい小説しょうせつ愛読あいどくしゃで、探偵たんていあこがれている。いもうと危機ききって私立しりつ探偵たんてい三笠みかさ竜介りゅうすけたすけをもとめ、かれ協力きょうりょくしながら事件じけん解決かいけついどむ。
相川あいかわ 珠子たまこ(あいかわ たまこ)
まもりいもうと。18さい[4]女学生じょがくせい美少女びしょうじょとして評判ひょうばんたかい。あかサソリに誘拐ゆうかいされ殺害さつがいされる。そのうつくしく着飾きかざられた遺骸いがい銀座ぎんざ有名ゆうめいてんのショーウインドーにさらされた。
殿村とのむら 京子きょうこ(とのむら きょうこ)
珠子たまこ家庭かてい教師きょうし容貌ようぼうみにくいが教養きょうようゆたかで信仰しんこうしんあつく、相川あいかわ人々ひとびと信頼しんらいふかい。じゅうすうねんまえおっとわかれたが、いまでも「殿村とのむら夫人ふじん」とばれている。読唇術どくしんじゅつ心得こころえている。
相川あいかわ 操一そういち(あいかわ そういち)
おおくの会社かいしゃ重役じゅうやくつとめる、まもり珠子たまこちち
春川はるかわ 月子げっし(はるかわ つきこ)
美貌びぼう映画えいが女優じょゆうあかサソリの最初さいしょ犠牲ぎせいしゃ殺害さつがいされてバラバラ死体したいとなって発見はっけんされる。
桜井さくらい 品子しなこ(さくらい しなこ)
20さい[4] になる美人びじんヴァイオリニスト。ちち裕福ゆうふく代議士だいぎし珠子たまこ学校がっこう先輩せんぱいまもりともしたしい。あかサソリにねらわれ、誘拐ゆうかいされる。
三笠みかさ 竜介りゅうすけ(みかさ りゅうすけ)
すで老人ろうじんだが、めい探偵たんていばれている。冒頭ぼうとう部分ぶぶんあかサソリ一味いちみのためとしあなとされる。相川あいかわ珠子たまこふせげなかったが、すぐれた知略ちりゃく最後さいご桜井さくらい品子しなこ無事ぶじ救出きゅうしゅつし、あかサソリの正体しょうたいあばく。
青眼せいがんきょうおとこ
あかサソリ一味いちみ首領しゅりょうつねおおきな青眼せいがんきょうをかけている。美女びじょ次々つぎつぎ誘拐ゆうかいしては惨殺ざんさつする凶悪きょうあく犯罪はんざい主導しゅどうする。立派りっぱくちひげがあるが小柄こがら華奢きゃしゃ体格たいかくであり、三笠みかさ竜介りゅうすけ探偵たんていがそこに着目ちゃくもくして正体しょうたい見抜みぬく。

改作かいさくばん[編集へんしゅう]

『妖虫』は、戦後せんご小林こばやし少年しょうねん明智あけち小五郎こごろう探偵たんてい活躍かつやくする少年しょうねんけの『少年しょうねん探偵たんていシリーズ』のいちへんとして改作かいさくされ、さらにてんじて映画えいがもされている。

1954ねん昭和しょうわ29ねん)、雑誌ざっし少年しょうねん』(光文社こうぶんしゃ)1がつごうから12がつごうまで連載れんさいされた。犯人はんにん怪人かいじんじゅう面相めんそうえられていて、「妖虫」の正体しょうたいは、サソリではなく少年しょうねん読者どくしゃ馴染なじふかいカブトムシに変更へんこうされ、猟奇りょうきてき残酷ざんこく描写びょうしゃ削除さくじょされている。誘拐ゆうかいされるのも美少女びしょうじょではなく富豪ふごう息子むすこ男児だんじで、じゅう面相めんそう要求ようきゅうする鉄塔てっとう王国おうこく建設けんせつための献金けんきん拒否きょひしたことへの報復ほうふくと、少年しょうねんたちをカブトムシ軍団ぐんだん兵士へいしにするのが目的もくてきであった。小林こばやし少年しょうねんだい活躍かつやくじゅう面相めんそう野望やぼうくだかれ、結末けつまつでその最期さいご(?)がえがかれている。ポプラ社ぽぷらしゃから刊行かんこうされた『少年しょうねん探偵たんていシリーズ』では『鉄塔てっとう王国おうこく恐怖きょうふ』と改題かいだい
  • あかい妖虫
1956ねん昭和しょうわ31ねん)2がつポプラ社ぽぷらしゃから単行本たんこうぼんされ、『少年しょうねん探偵たんていシリーズ』にも収録しゅうろくされて1970ねん昭和しょうわ45ねん)に刊行かんこう武田たけだ武彦たけひこ[5]代作だいさくしゃとして『妖虫』を子供こどもけにいたものであるが、原作げんさくをほぼそのまま踏襲とうしゅうしたため、美少女びしょうじょころされるなどの残酷ざんこく場面ばめんも、幾分いくぶん残虐ざんぎゃくせいよわめつつもちいられている。
ストーリーじょうおおきなちがいは相川あいかわまもる青年せいねんから中学生ちゅうがくせいになっており小林こばやし少年しょうねん友人ゆうじんであること、珠子たまこいもうとからあね変更へんこうされていること、三笠みかさ探偵たんてい明智あけち小五郎こごろうえられていること[6] などである。
  • 少年しょうねん探偵たんていだん かぶとむしの妖奇』・『少年しょうねん探偵たんていだん 鉄塔てっとう怪人かいじん
『妖虫』そのものの映画えいがではないが、1957ねん昭和しょうわ32ねん)に、『鉄塔てっとう怪人かいじんばんもと東映とうえい映画えいが公開こうかいした。関川せきかわ秀雄ひでお監督かんとく明智あけち小五郎こごろうやく岡田おかだ英次えいじ怪人かいじんじゅう面相めんそうやく加藤かとうよしみ

出版しゅっぱん[編集へんしゅう]

参考さんこう文献ぶんけん[編集へんしゅう]

  • 『妖虫』(そうもと推理すいり文庫ぶんこ乱歩らんぽ註自かい」、および解説かいせつ
  • 平井ひらい隆太郎りゅうたろう中島なかじま河太郎かわたろう監修かんしゅう 『江戸川えどがわ乱歩らんぽ執筆しっぴつ年譜ねんぷ』 名張なばり市立しりつ図書館としょかん 1998ねん

脚注きゃくちゅう[編集へんしゅう]

  1. ^ サソリは昆虫こんちゅうおな節足動物せっそくどうぶつではあるが、作品さくひん冒頭ぼうとう乱歩らんぽ解説かいせつしているように、クモの仲間なかまである。
  2. ^ くちびるうごきから他人たにんはっする言葉ことば方法ほうほう殿村とのむらは、かつてみみ言葉ことば不自由ふじゆうおんな世話せわしていて、そのときにこの技術ぎじゅつ習得しゅうとくしたとっている。
  3. ^ 『キング』1934ねん3がつごうでは休載きゅうさいしており、結局けっきょく34ねん10がつごうまで10かい連載れんさいとなった(平井ひらい隆太郎りゅうたろう中島なかじま河太郎かわたろう監修かんしゅう 『江戸川えどがわ乱歩らんぽ執筆しっぴつ年譜ねんぷ』 名張なばり市立しりつ図書館としょかん 1998ねん)。なお、はじめもと推理すいり文庫ぶんこ『妖虫』におさめられた江戸川えどがわ乱歩らんぽの「註自かい」では、連載れんさいは33ねん12がつごうから34ねん11がつごうまでとしるされているが、はじめもと推理すいり文庫ぶんこ『妖虫』に復刻ふっこくされた連載れんさい当時とうじ挿絵さしえに、題字だいじふくむものが10てんであることや、前記ぜんき江戸川えどがわ乱歩らんぽ執筆しっぴつ年譜ねんぷ』の記述きじゅつから、34ねん10がつごうで10かい連載れんさい終了しゅうりょうしたとかんがえられる。
  4. ^ a b 当時とうじは、法的ほうてきには満年齢まんねんれい採用さいようされていたが、民間みんかんではかぞどしもちいられており、彼女かのじょ年齢ねんれいがどちらかは作中さくちゅう明記めいきされていない。
  5. ^ 雑誌ざっし宝石ほうせき』を創刊そうかんし、編集へんしゅうちょうつとめた。乱歩らんぽ一般いっぱん作品さくひん子供こどもけリライト(なおし)もおこなっている。
  6. ^ この関係かんけい明智めいち探偵たんていてき術中じゅっちゅうにはまってとしあなとされ、また不意ふいかれて短刀たんとうられたりするなど、乱歩らんぽ本来ほんらいの『少年しょうねん探偵たんていシリーズ』にえがかれるちょう人的じんてきめい探偵たんてい明智あけち小五郎こごろう齟齬そごしょうじている。

外部がいぶリンク[編集へんしゅう]