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実質じっしつ賃金ちんぎん

出典しゅってん: フリー百科ひゃっか事典じてん『ウィキペディア(Wikipedia)』

実質じっしつ賃金ちんぎん(じっしつちんぎん, Real wages)とは、労働ろうどうしゃ労働ろうどうおうじてった賃金ちんぎん実際じっさい社会しゃかいにおいてどれだけの物品ぶっぴん購入こうにゅう使つかえるかをしめである。賃金ちんぎんから消費しょうひしゃ物価ぶっか指数しすうじょすることでもとめられる。このときの賃金ちんぎん、すなわち貨幣かへいった賃金ちんぎんそのもののことを名目めいもく賃金ちんぎん(めいもくちんぎん, Nominal wages)という。

概要がいよう

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米国べいこくにおける労働ろうどうしゃ実質じっしつ平均へいきん時給じきゅうあかせん)および名目めいもく時給じきゅう(グレーのせん)の推移すいい名目めいもく時給じきゅうがりつづけているが、実質じっしつ時給じきゅうがったりがったりしている。

労働ろうどうしゃ賃金ちんぎん貨幣かへいによって支払しはらわれるが、この貨幣かへいによって購買こうばいできるものりょうは、そのとき物価ぶっかによって左右さゆうされる。たとえ労働ろうどうしゃ名目めいもくじょう賃金ちんぎんとして支払しはらわれる貨幣かへい金額きんがくおなじでも、物価ぶっか変動へんどうによって貨幣かへい価値かちがったりがったりしているので、実質じっしつてき賃金ちんぎんえたりったりしているとえる(インフレーションデフレーション)。そのため、労働ろうどうしゃ賃金ちんぎん変化へんか比較ひかくするためには、労働ろうどうしゃ賃金ちんぎんとしてった貨幣かへい金額きんがく(「名目めいもく賃金ちんぎん」)を単純たんじゅん比較ひかくするだけでは駄目だめで、名目めいもく賃金ちんぎんから物価ぶっか上昇じょうしょう下落げらくなどの物価ぶっか変動へんどう部分ぶぶんのぞき、実質じっしつてき賃金ちんぎん(「実質じっしつ賃金ちんぎん」)の数値すうち算出さんしゅつする必要ひつようがある。

労働ろうどうしゃ貨幣かへいとして賃金ちんぎん(「名目めいもく賃金ちんぎん」、いわゆる「げんナマ」)の金額きんがくがったりがったりするほうが、「給料きゅうりょうがった」「給料きゅうりょうがった」という労働ろうどうしゃ実感じっかんちかく、一般いっぱん社会しゃかいで「賃金ちんぎん」とった場合ばあいは「名目めいもく賃金ちんぎん」をすことがおおいが、国家こっか経済けいざい分析ぶんせきするうえにおいては、物価ぶっか変動へんどう考慮こうりょした実質じっしつてき賃金ちんぎん数値すうちもちいないと、そのくにとしごと・がつごとの労働ろうどうしゃ賃金ちんぎん比較ひかくはできず、また2こくあいだ相対そうたいてき労働ろうどうしゃ賃金ちんぎん比較ひかくもできない。そのためこれらの用途ようとには、「賃金ちんぎん」の数値すうちとしては「実質じっしつ賃金ちんぎん」の数値すうちおも使つかわれる。

なお、物価ぶっか変動へんどう考慮こうりょせず、名目めいもくじょう賃金ちんぎんがったりがったりしたことのみをもって「給料きゅうりょうがった」「給料きゅうりょうがった」とかんがえるのは、人間にんげん錯覚さっかくであるが(貨幣かへい錯覚さっかく)、実質じっしつ賃金ちんぎんがっている(名目めいもく賃金ちんぎん上昇じょうしょう以上いじょう物価ぶっかたかくなっている)にもかかわらず散財さんざいしてしまったり、実質じっしつ賃金ちんぎんがっている(名目めいもく賃金ちんぎん下降かこう以上いじょう物価ぶっかやすくなっている)にもかかわらず貯蓄ちょちくしてしまったりして、労働ろうどうしゃ消費しょうひ活動かつどう影響えいきょうあたえるので、経済けいざい指標しひょうとしては「名目めいもく賃金ちんぎん」の重要じゅうようとなっている。

G7各国かっこく実質じっしつ平均へいきん賃金ちんぎん(PPPUSD,年収ねんしゅう

日本にっぽんにおける実質じっしつ賃金ちんぎんあつか

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日本にっぽんこくにおいては、厚生こうせい労働省ろうどうしょうが「毎月まいつき勤労きんろう統計とうけい調査ちょうさ」において毎月まいつき実質じっしつ賃金ちんぎん指数しすう算出さんしゅつしている。経済けいざい指標しひょうとしてだけでなく、雇用こよう保険ほけん労災ろうさい保険ほけん事故じこにあったさい補償ほしょうがく算出さんしゅつするときなどにも使つかわれている。なお、2019ねん現在げんざい公開こうかいされている実質じっしつ賃金ちんぎん指数しすうは、平成へいせい12ねん(2000ねん)の実質じっしつ賃金ちんぎん数値すうちを100としたもの。

日本にっぽんではオイルショックバブル崩壊ほうかい消費しょうひぜいりつ5%へのげなどののち景気けいき後退こうたいには、実質じっしつ賃金ちんぎん上昇じょうしょうりつはマイナスとなっている[1]。ただし2002-2007ねん景気けいき拡大かくだいでは、実質じっしつ賃金ちんぎん上昇じょうしょうりつはマイナスとなっている[2]

経済けいざい学者がくしゃ岩田いわた規久男きくおは「実質じっしつ賃金ちんぎん上昇じょうしょうりつは、景気けいき拡大かくだいにはたかくなる傾向けいこうがあり、景気けいき後退こうたいにはひくくなる傾向けいこうがある。実質じっしつ賃金ちんぎん変化へんか景気けいき連動れんどうしている」と指摘してきしている[3]。また岩田いわたは「実質じっしつ賃金ちんぎん上昇じょうしょうりつ実質じっしつ経済けいざい上昇じょうしょうりつとほぼおな方向ほうこううごいている。ただし、2002ねん以降いこう関係かんけいがはっきりしなくなった。日本にっぽんでは2002ねん、2004ねん、2007ねん実質じっしつ経済けいざい成長せいちょうりつはプラスであったが、実質じっしつ賃金ちんぎん低下ていかしている」とも指摘してきしている[4]

毎月まいつき勤労きんろう統計とうけい調査ちょうさにおける実質じっしつ賃金ちんぎん注意ちゅういてん

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2018ねんまつ発覚はっかくした「毎月まいつき勤労きんろう統計とうけい不正ふせい調査ちょうさ問題もんだい」において、毎月まいつき勤労きんろう統計とうけい調査ちょうさにおける2004ねん以降いこう実質じっしつ賃金ちんぎん不正ふせいであることがあきらかになった(くわしくは毎月まいつき勤労きんろう統計とうけい調査ちょうさ項目こうもく参照さんしょう)。不正ふせい調査ちょうさおこなった厚生こうせい労働省ろうどうしょう自身じしん問題もんだいくわえ、その公表こうひょうされた数値すうち次第しだいでは安倍晋三あべしんぞう首相しゅしょう経済けいざい政策せいさくアベノミクス」の成否せいひかかわるということで、2019ねん前半ぜんはんにおける与野党よやとうおも政争せいそうしていることもあって、不正ふせい調査ちょうさすすんでおらず、統計とうけいほうもとづくくに基幹きかん統計とうけいであるにもかかわらず、2004ねん以降いこう日本にっぽん実質じっしつ賃金ちんぎんかんしては不明ふめいてんおおくなっている。

また、2018ねん1がつより毎月まいつき勤労きんろう統計とうけい調査ちょうさ方式ほうしき変更へんこうされているため、以前いぜん調査ちょうさられたとの単純たんじゅん比較ひかく出来できなくなっている。「アベノミクスの成果せいかをよくせるため、厚生こうせい労働省ろうどうしょう政府せいふ忖度そんたくして、実質じっしつ賃金ちんぎん実勢じっせいよりもうえれするように調査ちょうさ方式ほうしき変更へんこうした」との疑念ぎねん野党やとうやマスコミなどがていしており、「より実勢じっせいちかい」と野党やとうかんがえる調査ちょうさ方法ほうほう算出さんしゅつした場合ばあいでの実質じっしつ賃金ちんぎん公表こうひょうもとめているが、公表こうひょうされていない[5]

2019ねん3がつ現在げんざい、「毎月まいつき勤労きんろう統計とうけい不正ふせい調査ちょうさ問題もんだい」にかんしては「調査ちょうさちゅう」ということになっている。

  • 2004ねんからの2011ねんにかけての不正ふせい

毎月まいつき勤労きんろう統計とうけい調査ちょうさ」においては、厚生こうせい労働省ろうどうしょう統計とうけいほうもとづき、昭和しょうわ30ねん(1955ねん)より毎月まいつき日本にっぽんにおける「現金げんきん給与きゅうよ総額そうがく指数しすう」と「定期ていき給与きゅうよ指数しすう」の調査ちょうさおこなっているはずだった[6]。しかし、2004ねん以降いこう調査ちょうさにおいて、500にん以上いじょうだい規模きぼ事業じぎょうしょたいしては全数ぜんすう調査ちょうさをしないといけなかったところ、実際じっさい一部いちぶ事業じぎょうしょのサンプル調査ちょうさしかしていなかったという不正ふせいが2018ねんまつあきらかになった(毎月まいつき勤労きんろう統計とうけい不正ふせい調査ちょうさ問題もんだい)。

データ補正ほせい可能かのうな2012ねん以降いこうのデータにかんしてはさい集計しゅうけいされ、正確せいかくかんがえられる算出さんしゅつされたが(あくまで補正ほせいされた数値すうちであり、全数ぜんすう調査ちょうさによる本当ほんとう正確せいかく数値すうちではない)、2004ねんから2011ねんにかけてはデータが紛失ふんしつ廃棄はいきされていたため、2004ねんから2011ねんにかけての日本にっぽん正確せいかく実質じっしつ賃金ちんぎん不明ふめいとなった。そのため、日本にっぽんこくにおいては、2004ねんから2017ねん12がつぶん以前いぜんにおける労働ろうどうしゃ賃金ちんぎん変化へんか比較ひかくするさいには、データ補正ほせいをしない「不正ふせい」な数値すうちとの比較ひかくをせざるをなくなっている[7]

2018ねん実質じっしつ賃金ちんぎんさい集計しゅうけいされ、正確せいかく算出さんしゅつされているとされている。

  • 2018ねん1がつより調査ちょうさ方式ほうしき変更へんこう

2018ねん1がつより調査ちょうさ方式ほうしき変更へんこうされている。そのため、2018ねん1がつ以前いぜん以後いご実質じっしつ賃金ちんぎん比較ひかく出来できなくなっているてん注意ちゅうい必要ひつようである。

たとえば、30にん以上いじょう中規模ちゅうきぼ事業じぎょうしょたいする調査ちょうさ方式ほうしきが、調査ちょうさ対象たいしょうを3ねんごとにすべえる従来じゅうらいの「そう方式ほうしき」から、1ねんごとに1/3をえる「部分ぶぶん入替いれか方式ほうしき(ローテーション・サンプリング)」に変更へんこうされた。中規模ちゅうきぼ事業じぎょうしょたいするサンプリング調査ちょうさでは、業績ぎょうせき悪化あっかした企業きぎょう倒産とうさんなどするにつれてサンプルから脱落だつらくするので、業績ぎょうせき企業きぎょうだけがサンプルとしてのこ生存せいぞんバイアスによって、実勢じっせいよりもたか実質じっしつ賃金ちんぎん数値すうちるようになっていく。そのため定期ていきてきにサンプルをえる必要ひつようがあるが、それまでおこなわれていた、2-3ねんごとにすべてのサンプルをえる「そう方式ほうしき」では、すうねんごとの標本ひょうほんそうに、それ以前いぜん実質じっしつ賃金ちんぎんおおきな変動へんどうはばしょうじることが問題もんだいとなっていた。一方いっぽう部分ぶぶん入替いれか方式ほうしき」では変動へんどうはばちいさくなるものの、作業さぎょう予算よさん手間てまえる問題もんだいがあるので、従来じゅうらいは「そう方式ほうしき」が採用さいようされていた。しかし2015ねんそう平均へいきん賃金ちんぎんりつおおきなしたぶれがあったことが契機けいきに、「部分ぶぶん入替いれか方式ほうしき」にあらためられた。ただし、この変更へんこうには有識者ゆうしきしゃあいだにも肯定こうてい意見いけん否定ひてい意見いけんがあった[8]

また、「常用じょうよう労働ろうどうしゃ」の定義ていぎ変更へんこうされ、臨時りんじ日雇ひやといの労働ろうどうしゃ常用じょうよう労働ろうどうしゃから除外じょがいされることになった。日雇ひやと労働ろうどうしゃ一般いっぱん賃金ちんぎんひくいため、これを調査ちょうさ対象たいしょうからはずすことで平均へいきん賃金ちんぎんがる可能かのうせいがあるとの指摘してきがある[9]

また、だい企業きぎょう比率ひりつやし中小ちゅうしょう企業きぎょうらすデータ補正ほせいなどもおこなわれており、これによって2018ねん1がつ調査ちょうさでは、本来ほんらいならサンプルのえによって実質じっしつ賃金ちんぎんしたれするはずにもかかわらず、以前いぜん調査ちょうさ比較ひかくして平均へいきん賃金ちんぎんりつおおきくうえれするという、異様いよう数値すうちることになった。数値すうちは「毎月まいつき勤労きんろう統計とうけい不正ふせい調査ちょうさ問題もんだい」の発覚はっかくさい集計しゅうけいされたが、それでも2018ねん年間ねんかん数値すうちは「0.2%ぞう」との試算しさん政府せいふおこなっている[9]

2019ねん1がつ以降いこう毎月まいつき勤労きんろう統計とうけい調査ちょうさにおける実質じっしつ賃金ちんぎんかんしては、調査ちょうさ形式けいしき変更へんこうされて1ねん以上いじょうっているので、前年ぜんねん同月どうげつとの実質じっしつ賃金ちんぎん指数しすう比較ひかくなどが機能きのうするようになっている。

脚注きゃくちゅう

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  1. ^ 岩田いわた, p. 90.
  2. ^ 岩田いわた, p. 91.
  3. ^ 岩田いわた, pp. 90–91.
  4. ^ 岩田いわた, p. 108.
  5. ^ 不都合ふつごう真実しんじつ疑念ぎねんなお 説明せつめいりぬ「お粗末そまつ調査ちょうさ 勤労きんろう統計とうけい不正ふせい - 西日本にしにほん新聞しんぶん,2019ねん02がつ28にち
  6. ^ 統計とうけいきょくホームページ/だい19しょう 労働ろうどう賃金ちんぎん 解説かいせつ
  7. ^ 昨年さくねん賃金ちんぎんりつ下方かほう修正しゅうせい 不正ふせい統計とうけいさい集計しゅうけい公表こうひょう - 朝日新聞あさひしんぶんデジタル,2019ねん1がつ23にち
  8. ^ 勤労きんろう統計とうけいそうえを」…15ねん有識者ゆうしきしゃ主張しゅちょう : 政治せいじ : 読売新聞よみうりしんぶんオンライン
  9. ^ a b 日雇ひやと除外じょがい 賃金ちんぎんじょうれか 毎月まいつき勤労きんろう統計とうけい 野党やとう指摘してき:経済けいざい - 東京とうきょう新聞しんぶん(TOKYO Web)

参考さんこう文献ぶんけん

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関連かんれん項目こうもく

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外部がいぶリンク

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