師弟してい

師弟してい（してい）とは、師匠ししょう（ししょう）と弟子でし（でし）のことを指さす。

概説がいせつ

経験けいけんによって培つちかった知識ちしき・技能ぎのうなどを伝授でんじゅする関係かんけいで、伝授でんじゅする側そくが師し、伝授でんじゅされる側がわが弟子でしとなる。広ひろい分野ぶんやにわたって見みられ、学問がくもんの世界せかいではソクラテス・プラトン・アリストテレスの師弟してい関係かんけいが著名ちょめいであり、宗教しゅうきょうでも直接ちょくせつ教祖きょうその教おしえを受うけた者ものは弟子でしと呼よばれる（十じゅう二に使徒しと、十じゅう大だい弟子でしなど）。経験けいけん豊富ほうふという点てんから年長ねんちょうの立場たちばにある人ひとが師匠ししょうとなることが多おおいが、「（その世界せかいでの）経験けいけんが浅あさい」という尺度しゃくどから必かならずしも年齢ねんれいで判断はんだんできない例れいもある（伊能いのう忠敬ちゅうけいの天文学てんもんがくの師匠ししょうである高橋たかはし至時よしときは伊能いのうより19歳さい年少ねんしょうである。伊能いのうが隠居いんきょしてから天文学てんもんがくを本格ほんかく的てきに始はじめたため）。弟子でしは師しの教おしえを受うけ継つぎ発展はってんさせるが、意見いけんの相違そういなどから別べつの流派りゅうはを立たてることになる例れいもしばしばある。親鸞しんらんは法然ほうねんの弟子でしで、自身じしんでは最後さいごまで「自分じぶんは法然ほうねんの教おしえを説といている」としていたが、それでも親鸞しんらんを祖そとする浄土真宗じょうどしんしゅうは法然ほうねんを祖そとする浄土宗じょうどしゅうとは別べつの宗派しゅうはとして存在そんざいしている。

「弟おとうと」という字じが遣つかわれているが、教おしえを受うける側がわが女性じょせいであっても「弟おとうと子こ」である。ただし、稀まれではあるが、教おしえを受うける側がわが女性じょせいであることを強調きょうちょうする目的もくてきで「娣子こ」と表記ひょうきすることもある。

道場どうじょうや教室きょうしつに入門にゅうもんする場合ばあい、指導しどう役やくのトップの地位ちいにいる人ひとが自分じぶんの師匠ししょうになる｡

また、学校がっこう教育きょういくにおける先生せんせい（教授きょうじゅ・教諭きょうゆ）と生徒せいと（教おしえ子ごとも）の関係かんけいでも、教おしえを受うけた先生せんせいに対たいし後年こうねん「恩師おんし」と呼よぶことがある。

ドイツ文化ぶんかにおける師弟してい関係かんけい

ドイツには12世紀せいきに起源きげんをもつ徒弟とてい制度せいどがあり、現代げんだいまでマイスター（親方おやかた）制度せいどとして継承けいしょうされている。ギルドの徒弟とてい制度せいどは12世紀せいき後半こうはんにまでさかのぼるが、初期しょきには一定いっていの金額きんがくを納おさめれば徒弟とていとなることができた。14世紀せいきから15世紀せいき以降いこうには次第しだいに厳きびしくなり、一般いっぱんには8歳さいから10歳さい頃ごろに弟子でし入いりし、15歳さいから16歳さいまで経験けいけんを積つんで親方おやかたとなった。産業さんぎょう革命かくめいではイギリスに50年ねんほど後おくれをとっていたが、1871年ねんの国家こっか統一とういつ前後ぜんこうからドイツで急速きゅうそくに産業さんぎょうが発展はってんしたのは徒弟とてい制度せいどによる貢献こうけんが大おおきいと考かんがえられている。

ドイツには企業きぎょうと職業しょくぎょう学校がっこうの二に元げんの職業しょくぎょう教育きょういくシステムがあり、近代きんだい的てきな大だい企業きぎょうにも歴史れきし的てきな徒弟とてい制度せいどが職業しょくぎょう教育きょういくという形かたちで組くみ込こまれている。

日本にっぽん文化ぶんかにおける師弟してい関係かんけい

相撲すもう界かいにおける師弟してい関係かんけい

相撲すもう界かいにおける師匠ししょうの定義ていぎは、日本にっぽん相撲すもう協会きょうかいの規定きてい（詳細しょうさいは「相撲すもう部屋へやの新設しんせつ」及および「相撲すもう部屋へや継承けいしょう者しゃ」を参照さんしょうのこと）を満みたし年寄としより名跡みょうせきを取得しゅとくした状態じょうたいで引退いんたいし当該とうがい名跡みょうせきを襲名しゅうめい後ご、日本にっぽん相撲すもう協会きょうかいの承認しょうにんを得えて、特定とくていの住所じゅうしょに自身じしん及および弟子でし（力士りきしとして育成いくせいする目的もくてきの下した、親権しんけん者しゃから身元みもとを預あずかった人物じんぶつ）の生活せいかつ拠点きょてん（相撲すもう部屋へや）を設もうけ、経営けいえいする元もと大相撲おおずもう力士りきしのことを示しめす。部屋へやによっては部屋へやを経営けいえいする年寄としより以外いがいに他たの年寄としよりが在籍ざいせきするケースも多おおいが、部屋へや付つき年寄としよりと定義ていぎされ一般いっぱん的てきには師匠ししょうとは呼よばれない。但ただし上述じょうじゅつの規定きていを満みたした部屋へや付つき年寄としより（もしくは現役げんえき力士りきし）が相撲すもう部屋へや新設しんせつを前提ぜんていに、自身じしんの部屋へやを設もうける前まえに弟子でしを入門にゅうもんさせ、正式せいしきに部屋へやを設もうけた後のちで当該とうがい弟子でしと共ともに移籍いせきするケースもあり、このような形かたちで師匠ししょうになる予定よていの年寄としよりもしくは力士りきしが所属しょぞくする部屋へやに暫定ざんてい的てきに入門にゅうもんした弟子でしを内弟子うちでしと呼よぶ。具体ぐたい例れいとして把わ瑠都凱斗は濱はまノ嶋しま啓あきら志こころざしが新設しんせつを予定よていしていた尾上おがみ部屋へやへの入門にゅうもんを前提ぜんていとしていたが、当初とうしょは増ぞう位山くらいやま太ふとし志郎しろうが師匠ししょうを務つとめていた三保さんぼうヶ関せき部屋へやに入門にゅうもんし、尾上おがみ部屋へやが正式せいしきに開設かいせつされたと同時どうじに移籍いせきして、以降いこうは引退いんたいまで尾上おのえ部屋へやの力士りきしとして活動かつどうした。そのため、三保さんぼうヶ関せき部屋へやに在籍ざいせきしていた時期じきの把わ瑠都の身分みぶんは「年寄としより尾上おのえ（濱はまノ嶋しま）の内弟子うちでし」であったと言いえる。尚なお、師匠ししょうの師匠ししょうのことは大だい師匠ししょうと呼よぶ。たとえば千代ちよ大海おおうみ龍二りゅうじにとって、師匠ししょうは千代ちよの富士ふじ貢みつぐ、千代ちよの富士ふじの師匠ししょうの北きたの富士ふじ勝昭かつあき（あるいは北きたの富士ふじの前まえに千代ちよの富士ふじの師匠ししょうだった千代ちよの山やま雅信まさのぶ）が大だい師匠ししょうとなる。

落語らくご界かいにおける師弟してい関係かんけい

落語らくご界かいでは師匠ししょうは弟子でしについて一切いっさいの生殺与奪せいさつよだつ権けんを持もっている。というよりも弟子でしは師匠ししょうの所有しょゆう物ぶつである。そのため、弟子でしが真打しんうちになる前まえに師匠ししょうを欠かいた場合ばあい（師匠ししょうが死亡しぼうした場合ばあい、師匠ししょう自身じしんが破門はもんされた場合ばあい、師匠ししょうが協会きょうかいから離脱りだつした場合ばあいなど）には、新あらたな師匠ししょう（大抵たいていは兄弟子あにでしだが、一いち門外もんがいの落語らくご家かのもとに移籍いせきする場合ばあいもある）のもとに移籍いせきするが、それでも見みつからない場合ばあいは廃業はいぎょうとなる。また、師匠ししょうの一存いちぞんで、いつでも弟子でしを破門はもんすることができる。その場合ばあい、その瞬間しゅんかんから弟子でしは落語らくご界かいから追放ついほうされ、落語らくご家かでなくなるばかりでなく、芸能げいのう界かい全体ぜんたいから追放ついほうされ、芸能人げいのうじんでもなくなる。放送ほうそうなどのスケジュールがどんなに埋うまっていてもすべてキャンセルしなければならない。また、所属しょぞく事務所じむしょは追放ついほうされた弟子でしとの専属せんぞくマネジメント契約けいやくを即時そくじに解除かいじょする（そのような例れいは過去かこに複数ふくすうある）。

師弟していの人間にんげん関係かんけいは（特とくに弟子でしが前座ぜんざ時代じだいは）極きわめて濃密のうみつなものとなる。この関係かんけいを精神せいしん的てきホモセクシュアルと評ひょうしたのは、小説しょうせつ家かで落語らくご家かの立川たちかわ談だん四よん楼ろうである。前座ぜんざ時代じだいの弟子でしは、寄席よせで下働したばたらきを行おこなうほかに、そのスケジュールが組くまれていても組くまれていなくても、毎日まいにち、朝あさ早はやく師匠ししょうの家いえに行いき掃除そうじなど家事かじ全般ぜんぱんを行おこなわなくてはならず、家事かじも落語らくご修業しゅうぎょうとみなされる。

落語らくご界かいでは上下じょうげ関係かんけいは一門いちもんを越こえて共通きょうつうで、師匠ししょうは「落語らくご界かい全体ぜんたいにとっての師匠ししょう」、弟子でしは「落語らくご界かい全体ぜんたいにとっての弟子でし」という一いち面めんを持もつ。そのため能のうや狂言きょうげんとは異ことなり、弟子でしは自分じぶんの師しではない別べつの一門いちもんの落語らくご家かに落語らくごを指導しどうしてもらっても良よい（ただし事前じぜんに、本来ほんらいの師しからの了承りょうしょうが必要ひつよう）。そのときの条件じょうけんは本来ほんらいの師しから教おしえてもらうときと同様どうよう、つまり無料むりょうである。別べつの一門いちもんの先輩せんぱい落語らくご家かを何なんと呼よぶかは以下いか参照さんしょう。

演芸えんげいでは各種かくしゅの敬称けいしょうは次つぎの通とおり。

• 講談こうだん
  • 講談こうだん界かい内部ないぶでの敬称けいしょう　その講談こうだん師しが入門にゅうもんしたときに、すでに真打しんうちに昇進しょうしんしていた講談こうだん師しに対たいしては「先生せんせい」、そうでなければ「姉ねえさん（あねさん）」「兄にいさん（あにさん）」。
  • 外部がいぶからの敬称けいしょう　真打しんうちに対たいしては「先生せんせい」、それ以外いがいは「××さん」
• 落語らくご
  • 落語らくご界かい内部ないぶでの敬称けいしょう　その落語らくご家かが入門にゅうもんしたときに、すでに真打しんうちに昇進しょうしんしていた落語らくご家かに対たいしては「師匠ししょう」、そうでなければ「兄にいさん（あにさん）お兄にいさん（上方かみがたの場合ばあい）」「姉ねえさん」。（従したがって、「自己じこの入門にゅうもん日び」と「相手あいての真打しんうち昇進しょうしん日び」がいつかを知しることは極きわめて重要じゅうようとなる）　ただし、6代目だいめ春風しゅんぷう亭てい柳橋やなぎばしと柳家やなぎや金かね語ご楼ろうに対たいしてのみ「先生せんせい」
  • 外部がいぶからの敬称けいしょう　真打しんうちに対たいしては「師匠ししょう」、それ以外いがいは「××さん」　ただし、6代目だいめ柳橋やなぎばしと金きん語ご楼ろうに対たいしてのみ「先生せんせい」
• 漫才まんざい・漫談まんだんなど色物いろもの
  • キャリア・年齢ねんれい一切いっさい関係かんけいなく「先生せんせい」。どんな若手わかてでも「先生せんせい」
    • 例れい「林家はやしやペー先生せんせい」
• お囃子はやし
  • 「お師匠ししょうさん」（おししょさん）「お姉ねえさん」。

将棋しょうぎ界かいにおける師弟してい関係かんけい

将棋しょうぎ界かいでは、棋士きしの養成ようせい機関きかんである新進しんしん棋士きし奨励しょうれい会かいに入会にゅうかいする際さい、四よん段だん以上いじょうの棋士きしが師匠ししょうとなることを必要ひつようとする。以前いぜんは師匠ししょうの家いえに住すみ込こんで雑用ざつようをこなしながら修業しゅうぎょうする内弟子うちでし制度せいどが存在そんざいしたが、中原なかはら誠まこと・米長よねなが邦雄くにおらの世代せだいを最後さいごにその習慣しゅうかんは廃すたれている。

一旦いったん四よん段だんになれば将棋しょうぎ界かいでは、同門どうもんはおろか師弟していでも対戦たいせんし、師匠ししょうが稽古けいこ場所ばしょを提供ていきょうするわけでも技術ぎじゅつ指導しどうをするわけでもないため師弟してい関係かんけいは落語らくごや相撲すもうほど強つよいものではないが、それでもやはり棋士きしには師匠ししょうがいなくてはならないことになっている。加藤かとう一二三ひふみが名人めいじんにもなり功こう成なり名めい遂とげた後のちに「わけあって今いまの師匠ししょう（南口みなみぐち繁一しげかず）の門下もんかでいたくない」と言いいだしたときにも、別べつの棋士きし（剱持松二まつじ）を新あらたな師匠ししょうに選えらぶ形かたちとしている。剱持は四よん段だんになったのが加藤かとうより遅おそいのだが、「師匠ししょう不在ふざい」に比くらべれば「後輩こうはいの弟子でし」のほうがより許容きょよう範囲はんい内ないとみなされたようである。

順位じゅんい戦せんでは、A級きゅう・B級きゅう1組くみでは師弟してい戦せんは中盤ちゅうばんで組くむ慣例かんれいとなっている。

弟子でしを取とらない

弟子でしを取とらないことを宣言せんげんする者ものもおり、浄土真宗じょうどしんしゅう開祖かいその親鸞しんらんは「弟子でし一いち人にんももたず」（歎異抄しょう）とし、将棋しょうぎ棋士きしの羽生はぶ善治よしはるは「将棋しょうぎは、『この人ひとについたから絶対ぜったいに強つよくなれる、棋士きしになれる』という保証ほしょうはありません」「弟子でしに選えらばれた・選えらばれなかったということはどこかで影響えいきょうを与あたえてしまうかもしれない。なので受うけていません」、作家さっかの坂口さかぐち安吾あんごは「弟子でしというものが、先生せんせいに似にたら、もう、落第らくだいだ。半人前はんにんまえにもなれやしない。自分じぶんに似にたものを見みるのは、つらい」として弟子でしをとっていない。

芸人げいにんのタモリは「これ(自分じぶんの芸げいは)センスだから。教おしえられるものじゃないから。俺おれそういうことで弟子でしを取とらない」として弟子でしを取とらない主義しゅぎだったが、岩井いわいジョニ男おとこに49日間にちかん粘ねばられて流石さすがに参まいり弟子入でしいりを許ゆるした。

関連かんれん項目こうもく

• 流派りゅうは
• 家元いえもと
• 付つき人びと
• 徒弟とてい
• 部屋へや子こ
• 芸道げいどう
• 免許めんきょ
• 僧侶そうりょ
• 破門はもん
• 史記しき - 孔子こうしの弟子でしを扱あつかった「仲なか尼に弟子でし列伝れつでん」が存在そんざいする。
• 弟子でし (小説しょうせつ)
• グールー
• シク教きょう - サンスクリット語ごで弟子でしを意味いみする「シクシャー」が由来ゆらい。