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文化ぶんか経済けいざいがく

出典しゅってん: フリー百科ひゃっか事典じてん『ウィキペディア(Wikipedia)』

文化ぶんか経済けいざいがく英語えいご:cultural economics、フランス語ふらんすご:Économie de la culture)とは、芸術げいじゅつ文化ぶんか対象たいしょうとする経済けいざいがくである。芸術げいじゅつ政策せいさく文化ぶんか政策せいさく提言ていげんおこなう。

文化ぶんか経済けいざいがく経済けいざいがくいち分野ぶんやであり、芸術げいじゅつ作品さくひん生産せいさん創造そうぞう)、流通りゅうつう消費しょうひ享受きょうじゅ)をあつかう。ながあいだ文化ぶんか経済けいざいがく対象たいしょうは、視覚しかく芸術げいじゅつおよ舞台ぶたい芸術げいじゅつ限定げんていされていた。しかし、1980年代ねんだいはいり、その対象たいしょうは、映画えいが書籍しょせき音楽おんがく出版しゅっぱんなどの文化ぶんか産業さんぎょうひろがった。また、美術館びじゅつかん図書館としょかん歴史れきしてき建造けんぞうぶつのような文化ぶんか施設しせつにも研究けんきゅう対象たいしょうひろがりをせている。『ジャーナル・オブ・エコノミック・リテラチャー』(JEL)の分類ぶんるい体系たいけいでは、文化ぶんか経済けいざいがくはZ1に相当そうとうする。

はじめに

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文化ぶんか経済けいざいがくひろ意味いみでの芸術げいじゅつ対象たいしょうとしている。対象たいしょうとなるざいは、創造そうぞうてき内容ないようふくむものである。ただし、創造そうぞうてき内容ないようつということだけでは、文化ぶんかてきざいとして確定かくていできない。文化ぶんかてきざい価値かちは、象徴しょうちょうてき内容ないようによって規定きていされており、物理ぶつりてき性質せいしつによっては規定きていできない。

経済けいざいがくかんがかたは、汚染おせん汚職おしょく教育きょういくのような問題もんだいにも適用てきようされてきた。芸術げいじゅつ作品さくひん文化ぶんかには特別とくべつ性質せいしつがある。古典こてん経済けいざい学者がくしゃアダム・スミスは、等価とうかぶつがないので、芸術げいじゅつ作品さくひん文化ぶんか価値かちけることはできないとかんがえた。アルフレッド・マーシャルは、あるしゅ文化ぶんかてきざい需要じゅよう消費しょうひ依存いぞんしていることを指摘してきした。たとえば、ある音楽おんがくけばくほど、その音楽おんがくをよりおおくようになる。マーシャルの経済けいざいがく枠組わくぐみのなかで、こうしたざいには、限界げんかい効用こうよう逓減ていげんてはまらない。そのような対象たいしょうあつか文化ぶんか経済けいざいがく主要しゅよう著作ちょさくとしては、ボーモルとボーエンの著作ちょさく舞台ぶたい芸術げいじゅつ芸術げいじゅつ経済けいざいのジレンマ』)や、中毒ちゅうどくざいかんするゲーリー・ベッカー著作ちょさく公共こうきょう選択せんたくかんするアラン・ピーコック著作ちょさくがある。

舞台ぶたい芸術げいじゅつ:ボーモルと文化ぶんか経済けいざいがく

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広島ひろしまけん宮島みやじま厳島いつくしま神社じんじゃでののう

ウィリアム・ボーモルウィリアム・ボーエン画期的かっきてき著作ちょさくによって、ライブ・パフォーマンスの相対そうたいてき費用ひよう上昇じょうしょうかんして、「コストびょう」という概念がいねん導入どうにゅうされた。コストびょう概念がいねんによって、舞台ぶたい芸術げいじゅつ政府せいふ補助ほじょきんへの依存いぞんふかめていくことが理解りかいできる。コストびょうは、消費しょうひざい労働ろうどう自体じたいである場合ばあいしょうじる。モリエールげきタルチュフ』をえんじるには、1664ねんにおいて、2あいだと12にん俳優はいゆうようした。2007ねんにおいてもその事情じじょうわっておらず、やはり2あいだと12にん俳優はいゆうようする。現代げんだいにおいて、芸術げいじゅつぎょうは、おおくの人的じんてき資本しほん投資とうし必要ひつようとしており、それにおうじてよりおお賃金ちんぎん支払しはらわれる必要ひつようがある。芸術げいじゅつ賃金ちんぎんは、一般いっぱん人々ひとびと賃金ちんぎん同様どうよう上昇じょうしょうしていく必要ひつようがある。賃金ちんぎん経済けいざい一般いっぱんてき生産せいさんせいしたがって上昇じょうしょうしていき、演劇えんげき上演じょうえん費用ひよう一般いっぱんてき生産せいさんせいにあわせて上昇じょうしょうしていく。しかし、俳優はいゆう生産せいさんせい上昇じょうしょうする性質せいしつのものではない。

このコストびょう問題もんだいかんして、舞台ぶたい芸術げいじゅつ経済けいざいがくのその研究けんきゅうは、つぎの2つの方向ほうこうすすんだ。

だい1に、生産せいさんのあるしゅ領域りょういきでは生産せいさんせい上昇じょうしょうられることに注意ちゅういけられた。これは、コストびょう妥当だとうせい疑義ぎぎしめすものである。『タルチュフ』のれい説明せつめいすれば、ひとつの『タルチュフ』の上演じょうえんを、技術ぎじゅつ進歩しんぽによって以前いぜんくらべておおくの観客かんきゃくることができるようになった。たとえば、劇場げきじょう建築けんちく改善かいぜんや、マイクやテレビ、録音ろくおん出現しゅつげんによって、そのようなことが可能かのうになったのである。

だい2に、文化ぶんか部門ぶもんへの補助ほじょきん配分はいぶん注意ちゅういけられた。補助ほじょきん一般いっぱん人々ひとびと利益りえきごう ったものでないといけないが、文化ぶんか部門ぶもんへの補助ほじょきん所得しょとく分配ぶんぱい効果こうかっている。たとえば、文化ぶんか部門ぶもんへの補助ほじょきん社会しゃかいなかでも相対そうたいてき富裕ふゆうそうとくをする。補助ほじょきんあたえられるげき観客かんきゃく富裕ふゆうそうかたよっている場合ばあいや、補助ほじょきん少数しょうすうのエリート芸術げいじゅつ家集かしゅうだんあたえられるとき、この所得しょとく分配ぶんぱい効果こうかはたらく。

美術びじゅつひん市場いちば

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ゴッホ「よるのカフェテラス」(1888)

視覚しかく芸術げいじゅつ市場いちばは2つに区分くぶんできる。1つは、歴史れきしがあり、したしまれている、よくられた美術びじゅつひん市場いちばである。もう1つは、流行りゅうこうあたらしい発見はっけんによって影響えいきょうされやすい現代げんだい美術びじゅつ作品さくひん市場いちばである。両方りょうほう市場いちば寡占かせんてきである。つまり、視覚しかく芸術げいじゅつ市場いちばには、かぎられたかずかぎられたかずしかいない。視覚しかく芸術げいじゅつ市場いちばかんしては、2つの主要しゅよう疑問ぎもんがある。だい1の疑問ぎもんは、「いかに価格かかく決定けっていされるか」である。だい2の疑問ぎもんは、「金融きんゆう資産しさんくらべて美術びじゅつひん収益しゅうえきりつはどうなっているか」である。

価格かかく決定けってい

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一般いっぱんてきに、美術びじゅつひん材料ざいりょうとなる石材せきざい自体じたいは、完成かんせいした作品さくひん比較ひかくしてずっと安価あんかである。また、美術びじゅつひん価格かかくおおきくことなることを労働ろうどう投入とうにゅうりょうから説明せつめいすることはできない。美術びじゅつひん価値かちは、潜在せんざいてき専門せんもん評価ひょうか依存いぞんしている。この価値かち評価ひょうかは、3つの要素ようそからる。

  1. 社会しゃかいてき価値かち美術びじゅつひん所有しょゆうすることによってられる社会しゃかいてき地位ちい芸術げいじゅつは、「芸術げいじゅつ資本しほん」をっているといえる。
  2. 芸術げいじゅつてき価値かちどう時代じだいほか作品さくひんなかでの地位ちいや、後世こうせいにおいての重要じゅうようせい
  3. 作品さくひん価格かかく推移すいい作品さくひんふたたりにすことを予定よていした場合ばあい、これまでの取引とりひき価格かかく推移すいい重要じゅうようになる(寡占かせんてき市場いちば構造こうぞう前提ぜんていにしたとき)。

また、3種類しゅるい経済けいざい主体しゅたい価値かち決定けっていかかわる。

  1. 画廊がろう所有しょゆうしゃミュージアム館長かんちょうといった特定とくてい専門せんもん
  2. 美術びじゅついえのような専門せんもん
  3. 投資とうし対象たいしょうとして作品さくひん購入こうにゅうする

美術びじゅつ市場いちば投資とうし

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主要しゅよう金融きんゆう機関きかん銀行ぎんこう保険ほけん会社かいしゃなかには、1990年代ねんだい美術びじゅつひん投資とうしおおきな収益しゅうえきたところがあった。1990年代ねんだいはじめに株式かぶしき収益しゅうえきりつ下落げらくしたときに、美術びじゅつひん収益しゅうえきりつ下落げらくしなかった。そのため、分散ぶんさん投資とうし機会きかいがあるといえる。

また、データが豊富ほうふなために、美術びじゅつ市場いちば研究けんきゅうさかんである。おおくの美術びじゅつひんオークションられている。オークションでの取引とりひき透明とうめいせい大変たいへんたかく、価格かかくデータを作成さくせいすることができる。なかには、1652ねんにまでさかのぼって価格かかくデータを作成さくせいできる作品さくひんもある。

実証じっしょう研究けんきゅうによれば、美術びじゅつひん収益しゅうえきりつ株式かぶしきよりもひくく、価格かかく変動へんどうりつすくなくとも株式かぶしきおなじぐらいたかい。美術びじゅつひん所有しょゆうすることでられる無形むけい利得りとくが、部分ぶぶんてきには収益しゅうえきりつひくさを説明せつめいできるだろう。しかし、美術びじゅつひん収益しゅうえきりつひくさを理解りかいするじょうでは、美術びじゅつひん購入こうにゅう寄付きふにはおおくの種類しゅるい減免げんめんぜいがある(米国べいこく中心ちゅうしん各国かっこくぜい減免げんめんがあるが、日本にっぽんにはてはまらない)事実じじつ重要じゅうようである。

1986ねんおこなわれたウィリアム・ボーモル推定すいていによれば、20年間ねんかん金融きんゆう資産しさん年収ねんしゅうえきりつが2.5%であるのにたいして、美術びじゅつひん年収ねんしゅうえきりつは0.55%である。

文化ぶんか産業さんぎょう

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書籍しょせきや、録音ろくおんぶつ映画えいがは、オリジナルの複製ふくせいぶつ存在そんざいから、その価値かちさだまる。こうした文化ぶんかてきざいは、文化ぶんか産業さんぎょう生産せいさんぶつである。文化ぶんか産業さんぎょう市場いちばは、つぎのように特徴付とくちょうづけられる。

  • 価値かち確実かくじつせいざい需要じゅよう成功せいこう)を予測よそくすることがむずかしい。これは、経験けいけんざい特質とくしつである。
  • 無限むげん多様たようせい自動車じどうしゃのような生産せいさんぶつかんしては、その性質せいしつもとづいて生産せいさんぶつ同士どうし区別くべつすることができる。おおくの生産せいさんぶつは、比較的ひかくてきすくない性質せいしつもとづいて分類ぶんるいすることが可能かのうである。しかし、文化ぶんかてきざい場合ばあいは、性質せいしつ多様たようであり、しばしば主観しゅかんてきである。このため、文化ぶんかてきざいたがいに比較ひかくすることはむずかしい。
  • 取引とりひきされる生産せいさんぶつたか集中しゅうちゅうげの主要しゅよう部分ぶぶんは、ベスト・セラーやちょう大作たいさくといわれるものによる。
  • みじか寿命じゅみょうおおくの製品せいひんは、短期間たんきかんられる。
  • たか固定こてい費用ひよう市場いちばすまでに巨額きょがく費用ひようがかかる。映画えいが製作せいさく費用ひようは、その映画えいが複製ふくせい費用ひようくらべてはるかにたかい。

市場いちば構造こうぞう

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おも文化ぶんか産業さんぎょうは、寡占かせんてき市場いちば構造こうぞうである。市場いちばは、2、3の主要しゅよう会社かいしゃ支配しはいされており、のこりの市場いちばおおくのちいさな会社かいしゃ存在そんざいする。ちいさな会社かいしゃは、芸術げいじゅつ供給きょうきゅう濾過ろか装置そうち役割やくわりたしうる。つまり、成功せいこうおさめた芸術げいじゅつもちいたちいさな会社かいしゃは、主要しゅよう会社かいしゃ一角いっかくのぼりつめることができる。テレビや映画えいが生産せいさん一括いっかつした巨大きょだいふくあい企業きぎょうが、1920年代ねんだいから存在そんざいしている。1990年代ねんだいには、産業さんぎょうわくえた合併がっぺいがいくつかおこなわれた。合併がっぺいによるシナジー効果こうか市場いちば支配しはいりょくは、期待きたいされていた利益りえきをもたらさなかった。2000年代ねんだいはじめには、分野ぶんやごとの組織そしきすすんできた。

文化ぶんか遺産いさん経済けいざいがく

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文化ぶんか遺産いさんは、ざい不動産ふどうさん反映はんえいされている。ミュージアムの運営うんえい規制きせいは、この領域りょういき研究けんきゅうされてきた課題かだいである。

ミュージアム

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ミュージアムには、収蔵しゅうぞうひん保存ほぞん役割やくわり一般いっぱん市民しみんへの展示てんじ役割やくわりとがある。ミュージアムは商業しょうぎょうてき経営けいえいすることも、営利えいり基盤きばん経営けいえいすることも可能かのうである。営利えいりおこな場合ばあい、ミュージアムは公共こうきょうざいにまつわる問題もんだい直面ちょくめんする。つまり、自己じこ資金しきんのみで維持いじするか、あるいは補助ほじょきん交付こうふけるかという問題もんだいがある。

ミュージアム特有とくゆう問題もんだいの1つとして、収蔵しゅうぞうひん莫大ばくだい価値かち予算よさんとの均衡きんこうげられる。また、ミュージアムは地代じだいたか都市とし中心ちゅうしん位置いちしていることがおおいので、展示てんじ場所ばしょ拡張かくちょうすることには限界げんかいがある。米国べいこくのミュージアムでは、収蔵しゅうぞうひんやく半数はんすうしか展示てんじされていない。欧州おうしゅうのミュージアムのなかには、フランスのポンピドゥー・センターのように、収蔵しゅうぞうひんの5%しか展示てんじされていないところもある。

展示てんじ以外いがいにも、ミュージアムは、カタログや複製ふくせいひんのような関連かんれん生産せいさんぶつから収入しゅうにゅうている。収蔵しゅうぞうひんつくしていくという無形むけい生産せいさんもミュージアムはおこなっている。ミュージアムは、なかにあるおおくの作品さくひんなかから専門せんもん知識ちしきもとづいて選択せんたくし、収蔵しゅうぞうひんつくしている。それによって、たんなる作品さくひん存在そんざいにそれ以上いじょう価値かちくわえている。

保存ほぞん展示てんじという2つの目的もくてきあいだで、ミュージアムは選択せんたくしないといけない。一方いっぽうでは、ミュージアムは、保存ほぞんじょう理由りゆうから、できるかぎ少数しょうすう作品さくひんだけを展示てんじすることにし、あまりよくられていない作品さくひんあつめ、専門せんもんてききゃくのみを入館にゅうかんさせ、知識ちしき研究けんきゅう促進そくしんしたい。他方たほうでは、 展示てんじという目的もくてきからは、市民しみんからの需要じゅようたし、おおくのきゃく魅了みりょうするには、様々さまざま種類しゅるい主要しゅよう作品さくひん展示てんじする必要ひつようがある。政府せいふが、保存ほぞん展示てんじという2つの目的もくてきあいだ選択せんたくおこなうとき、経済けいざいがく契約けいやく理論りろんもちいることが役立やくだつ。契約けいやく理論りろんによって、もとめられる結果けっかすために様々さまざまなミュージアム運営うんえいしゃにどのようにインセンティブあたえるかがかる。

不動産ふどうさん

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京都きょうと清水寺きよみずでら

おおくの国々くにぐにに、文化ぶんかてき価値かちのある建物たてもの建造けんぞうぶつ保護ほごのための仕組しくみがある。所有しょゆうしゃ修復しゅうふくのために減税げんぜい補助ほじょきんける。そのわりに、所有しょゆうしゃは、建物たてもの改変かいへんかんして制限せいげんけたり、一般いっぱん市民しみん建物たてものはいることをみとめたりしないといけない。こうした仕組しくみもまた、ミュージアムとおなじく、保存ほぞん展示てんじ選択せんたく問題もんだいかかえている。これにかんしてはまだほとんど研究けんきゅうがなされていない。

芸術げいじゅつ労働ろうどう市場いちば

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とくつぎの4てんによって、芸術げいじゅつ労働ろうどう市場いちば特徴付とくちょうづけることができる。

  1. 極端きょくたん不平等ふびょうどう所得しょとく分布ぶんぷである。ほんのいちにぎりの集団しゅうだん所得しょとく全体ぜんたいうちだい部分ぶぶんかせぐ。
  2. 構造こうぞうてき労働ろうどう過剰かじょう供給きょうきゅう存在そんざいする。需要じゅようわないかず人々ひとびとが、芸術げいじゅつとして所得しょとくたいとねがっている。
  3. 労働ろうどう金銭きんせん以外いがい無形むけい代償だいしょうがある。そのため、人々ひとびと本来ほんらいよりもひく水準すいじゅん賃金ちんぎんでもあまんじてれる。
  4. 芸術げいじゅつ作品さくひんはなせない。生産せいさんぶつ芸術げいじゅつあたえるイメージが、芸術げいじゅつにとって重要じゅうようである。

スター現象げんしょう

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夏目なつめ漱石そうせき(1867-1916)

シャルウィン・ローゼン由来ゆらいするスター現象げんしょうとは、市場いちばいちにぎりの芸術げいじゅつがその分野ぶんや収益しゅうえきのほとんどをかせぐという現象げんしょうである。文化ぶんか産業さんぎょうでは、生産せいさんぶつしつかんする確実かくじつせいが、スター現象げんしょうおおきな役割やくわりたしている。消費しょうひしゃは、生産せいさんぶつがどれほどよいものなのか消費しょうひしてみないとからない(たとえば、映画えいが場合ばあい)。また、文化ぶんか産業さんぎょうにおいて生産せいさんしゃも、典型てんけいてき確実かくじつせい直面ちょくめんしている。消費しょうひしゃは、価格かかくほかに、評判ひょうばんや、カバーやポスターにっている名前なまえ参考さんこうにしている。生産せいさんしゃもそのことを理解りかいしているので、たかしつしるしとなるような著名ちょめいじん(スター)には大金たいきんはらう。アドラーやギンスバーハ(V. Ginsburgh)の研究けんきゅうによれば、スターの地位ちい偶然ぐうぜんによってまる。たとえば、音楽おんがくコンテストの結果けっかは、演奏えんそう順番じゅんばんつよ依存いぞんしている。

このスター現象げんしょう偶然ぐうぜんせいは、芸術げいじゅつ分野ぶんや労働ろうどう過剰かじょう供給きょうきゅう存在そんざいする1つの原因げんいんとされてきた。スターの莫大ばくだい収入しゅうにゅう非合理ひごうりてき行動こうどう、リスク愛好あいこうてき選好せんこうのために、収入しゅうにゅうおおくを仕事しごとからながらでも、成功せいこうしない芸術げいじゅつ挑戦ちょうせんをやめないのである。芸術げいじゅつ分野ぶんや労働ろうどう過剰かじょう供給きょうきゅう存在そんざいするもう1つの原因げんいんは、芸術げいじゅつ労働ろうどうから社会しゃかいてき地位ちいという意味いみでの無形むけい代償だいしょう可能かのうせいがあることである。

生産せいさん構造こうぞう

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文化ぶんかてきざい生産せいさんには、通常つうじょうざいとはことなる構造こうぞうがあるとされてきた。職人しょくにんは、収入しゅうにゅうであるという観点かんてんでのみ、自分じぶん生産せいさんぶつ関心かんしんはらっている。それにたいして、芸術げいじゅつは、生産せいさんぶつ自己じこ表現ひょうげんであるとなすことがおおい。そのため、芸術げいじゅつは、自分じぶん生産せいさんぶつたいして制限せいげんしたいとねがうのだろう。

研究けんきゅう

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  • 1966 William Baumol & William Bowen, Performing Arts: The Economic Dilemma.(邦訳ほうやく渡辺わたなべまもるあきら池上いけがみあつし監訳かんやく舞台ぶたい芸術げいじゅつ芸術げいじゅつ経済けいざいのジレンマ』芸団協げいだんきょう出版しゅっぱん、1994ねん。)
  • 1973 W. ヘンドン教授きょうじゅによりJournal of Cultural Economics創刊そうかんされる。
  • 1979 W. ヘンドン教授きょうじゅだい1かい文化ぶんか経済けいざいがく国際こくさい研究けんきゅう学会がっかいをエジンバラでひらく。
  • 1982 だい2かい文化ぶんか経済けいざいがく国際こくさい学会がっかいがマーストリヒトでひらかれる。
  • 1984 だい3かい文化ぶんか経済けいざいがく国際こくさい学会がっかいがアクロンでひらかれる。
  • 1986 だい4かい文化ぶんか経済けいざいがく国際こくさい学会がっかいがアヴィニョンでひらかれる。
  • 1988 だい5かい文化ぶんか経済けいざいがく国際こくさい学会がっかいがオタワでひらかれる。
  • 1990 だい6かい文化ぶんか経済けいざいがく国際こくさい学会がっかいがスウェーデン、ウメアでひらかれる。
  • 1991 池上いけがみあつし文化ぶんか経済けいざいがくのすすめ』丸善まるぜんライブラリー
  • 1992 文化ぶんか経済けいざい学会がっかい日本にっぽん>(JACE)設立せつりつ
  • 1992 だい7かい文化ぶんか経済けいざいがく国際こくさい学会がっかいがテキサスでひらかれる。
  • 1993 国際こくさい文化ぶんか経済けいざい学会がっかい(ACEI)設立せつりつ
  • 1993 Kluwer Academic PublishersからJournal of Cultural Economics発行はっこうされるようになる。
  • 1993 池上いけがみあつし山田やまだ浩之ひろゆきへん文化ぶんか経済けいざいがくまなひとのために』世界せかい思想しそうしゃ
  • 1993 James Heilbrun, Charles M. Gray, The Economics of Art and Culture.
  • 1994 ACEIが北米ほくべいで3つの学術がくじゅつ学会がっかいひらく。
  • 1995 ACEIが文化ぶんか遺産いさん経済けいざいてき評価ひょうかかんする国際こくさいシンポジウムをシシリーで共催きょうさい
  • 1996 だい9かい文化ぶんか経済けいざいがく国際こくさい学会がっかいがボストンでひらかれる。
  • 1998 文化ぶんか経済けいざい学会がっかい日本にっぽん>によって、『文化ぶんか経済けいざいがく創刊そうかん
  • 1998 池上いけがみあつしへん文化ぶんか経済けいざいがく有斐閣ゆうひかくブックス
  • 1998 だい10かい文化ぶんか経済けいざいがく国際こくさい学会がっかいがバルセロナでひらかれる。
  • 2000 だい11かい文化ぶんか経済けいざいがく国際こくさい学会がっかいがミネアポリスでひらかれる。
  • 2001 David Throsby, Economics and Culture.(邦訳ほうやく中谷なかたに武雄たけお後藤ごとう和子かずこ監訳かんやく文化ぶんか経済けいざいがく入門にゅうもん日本経済新聞社にほんけいざいしんぶんしゃ、2002ねん
  • 2002 だい12かい文化ぶんか経済けいざいがく国際こくさい学会がっかいがロッテルダムでひらかれる。
  • 2004 だい13かい文化ぶんか経済けいざいがく国際こくさい学会がっかいがシカゴでひらかれる。
  • 2006 だい14かい文化ぶんか経済けいざいがく国際こくさい学会がっかいがウィーンでひらかれる。

文化ぶんか経済けいざい学者がくしゃ

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海外かいがい

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  • en:Orley Ashenfelter 労働ろうどう経済けいざい学者がくしゃ美術びじゅつひんやワインのオークションにかんする実証じっしょう研究けんきゅう著名ちょめい
  • en:William J. Baumolウィリアム・ボーモル
  • fr:Françoise Benhamou フランスの文化ぶんか経済けいざい学者がくしゃフランス語ふらんすご文化ぶんか経済けいざいがく入門にゅうもんしょ著者ちょしゃ
  • en:Mark Blaugマーク・ブローグ経済けいざい学説がくせつ研究けんきゅう大家たいか文化ぶんか経済けいざいがく初期しょきからの研究けんきゅうしゃでもある。
  • en:Richard E. Caves ハーバード大学だいがく名誉めいよ教授きょうじゅ国際こくさい貿易ぼうえきせんもん文化ぶんか産業さんぎょう契約けいやく理論りろん分析ぶんせき
  • en:Bruno S. Freyブルーノ・フライ)スイスの応用おうよう経済けいざい学者がくしゃ政治せいじ経済けいざいがく幸福こうふく経済けいざいがく研究けんきゅうでも著名ちょめい芸術げいじゅつ経済けいざいがくかんする論文ろんぶん多数たすうある。
  • en:Victor Ginsburghヴィクター・ギンスバーフ)ベルギーの経済けいざい学者がくしゃ文化ぶんか経済けいざいがく分野ぶんやでは言語げんご研究けんきゅうがある。
  • en:Charles M. Gray アメリカの文化ぶんか経済けいざい学者がくしゃ
  • en:Arjo Klamer オランダの文化ぶんか経済けいざい学者がくしゃ経済けいざいがくのレトリックの研究けんきゅうでも著名ちょめい
  • en:Robert G. Picard メディア経済けいざいがく著名ちょめい
  • en:Michael Rushton 文化ぶんか経済けいざいがくしょ課題かだい思想しそうてき研究けんきゅうしている。
  • en:J. Mark Schuster 故人こじん。MITのもと教授きょうじゅ文化ぶんか政策せいさく研究けんきゅうしゃとして著名ちょめい
  • en:Günther Schulze ドイツの文化ぶんか経済けいざい学者がくしゃ文化ぶんかてきざい国際こくさい貿易ぼうえき研究けんきゅう著名ちょめい
  • en:David Throsbyデヴィッド・スロスビー)オーストラリアの文化ぶんか経済けいざい学者がくしゃ。「文化ぶんか資本しほん」・「文化ぶんかてき価値かち」の概念がいねん提起ていきおこなう。
  • en:Ruth Towse 英国えいこく(オランダ)の文化ぶんか経済けいざい学者がくしゃ芸術げいじゅつ労働ろうどう市場いちば知的ちてき財産ざいさんけん研究けんきゅうおこなう。

日本にっぽん

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関連かんれん文献ぶんけん

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  • Throsby, David. Economics and Culture, Cambridge University Press, 2001. デヴィッド・スロスビーちょ中谷なかたに武雄たけお後藤ごとう和子かずこ監訳かんやく文化ぶんか経済けいざいがく入門にゅうもん創造そうぞうせい探求たんきゅうから都市とし再生さいせいまで』日本経済新聞社にほんけいざいしんぶんしゃ、2002 ねん
  • Towse, Ruth ed., A Handbook of Cultural Economics, Edward Elgar, 2003.
  • Ginsburgh, Victor A. & David Throsby ed., Handbook of the Economics of Art and Culture, Vol.1, (Handbooks in Economics Series), North-Holland, 2006.

関連かんれん項目こうもく

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外部がいぶリンク

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