活魚いけうお

生いけ簀す

活魚いけうお（かつぎょ）とは、生いきたまま飲食いんしょく店てんなど調理ちょうりする場ばに輸送ゆそうする魚介ぎょかい類るいをいう。その輸送ゆそう方法ほうほうは活魚いけうお輸送ゆそうという。冷蔵庫れいぞうこ・冷凍れいとう庫くらなど生鮮せいせん食品しょくひんを鮮度せんどを維持いじしたまま輸送ゆそうする技術ぎじゅつは、冷蔵れいぞう車しゃ（鉄道てつどうコンテナや自動車じどうしゃ）の発達はったつ以降いこう、より広ひろい範囲はんいで生なまの食材しょくざいが得えられるまでに発達はったつしている。活魚いけうおはそれを更さらに進すすめ、文字通もじどおり「採とれたて新鮮しんせん」の状態じょうたいを目指めざしている。

活魚いけうおは、寿司すしや刺身さしみといった活いきの良よい食材しょくざいを尊とうとぶ日本にっぽんの食しょく文化ぶんかが産うんだ輸送ゆそう技術ぎじゅつである。魚さかなを生いきたまま輸送ゆそうするために、海水かいすいや水みずなど魚さかなが元々もともと生活せいかつしている環境かんきょうに近ちかづけたタンク（容器ようき）で輸送ゆそうすることが多おおい。

日本にっぽんでこの輸送ゆそうが始はじまったのは1980年代ねんだいのバブル景気けいきの頃ころで、当時とうじは輸送ゆそうコストを掛かけても高級こうきゅう料亭りょうていなどを中心ちゅうしんに採算さいさんが取とれたため盛さかんに利用りようされたが、この中なかで輸送ゆそう技術ぎじゅつも発達はったつしてコストダウンも進すすみ、2000年代ねんだいでは大衆たいしゅう向むけの寿司すし屋やなどでも活魚いけうおを仕入しいれる所ところも見みられる。

当然とうぜん、水揚みずあげされる漁港ぎょこうから遠とおいほど、生いきたまま輸送ゆそうすることが難むずかしくなるが、かつては漁港ぎょこう近隣きんりんでしか見掛みかけられなかった生簀いけすのある料理りょうり店てんも、日本にっぽん各地かくちでしばしば見みかけられるものとなっている。

歴史れきし

活魚いけうおは、その原型げんけいを1930年代ねんだいの北大路魯山人きたおおじろさんじんが主宰しゅさいした星ほしヶ岡おか茶寮さりょうの美食びしょく倶楽部くらぶに求もとめることができる。一流いちりゅう料亭りょうていなどが集あつまる東京とうきょう・赤坂あかさかに存在そんざいしたこの料亭りょうていは、日本にっぽんでも最高さいこうの美食びしょくを求もとめたが、この時ときに魯山人ろさんじんは過去かこに鮎あゆの刺身さしみを食たべ感激かんげきした京都きょうと府ふの和知わち川がわ（由良川ゆらがわ上流じょうりゅう）から鉄道てつどう（蒸気じょうき機関きかん車しゃの牽引けんいん）と自動車じどうしゃとに木製もくせいの水槽すいそうをしつらえた特装車とくそうしゃ両りょうを用意ようい、当時とうじはアクアリウムのような水みず浄化じょうか装置そうちは望のぞむべくも無なかったため、人力じんりきで新鮮しんせんな水みずを継つぎ足たしながら輸送ゆそうしたという話はなしが残のこされている。しかしそれだけの労力ろうりょくを賭としても、大だい部分ぶぶんが輸送ゆそう中ちゅうに死しんでしまったという。

その後ごしばらくは、美食びしょくのためにこれだけの財力ざいりょくを投入とうにゅうするところも無なかったため、このような大だい仕掛しかけの輸送ゆそうが行おこなわれることは無なかった模様もようで、鮮度せんどの高たかい食材しょくざいは現地げんちで食たべた方ほうがより確実かくじつでもあった。

だが、1980年代ねんだいのバブル景気けいきを契機けいきとして始はじまった異常いじょうなまでに贅ぜいを凝こらした高級こうきゅう料亭りょうていの料理りょうりでは、新鮮しんせんな食材しょくざいを求もとめて、この「生いきたまま魚さかなを輸送ゆそうする」という形態けいたいに再ふたたび日ひの目めを当あてた。この中なかでは当初とうしょ、単たんに水槽すいそうに空気くうきを送おくり込こみながら輸送ゆそうするという形態けいたいであったが、やがてアクアリウムなどで培つちかわれた「水槽すいそうで魚さかなを飼育しいくする技術ぎじゅつ」が取とり入いれられ、循環じゅんかん式しきの水槽すいそうなどで生いきた魚さかなが出だす老廃ろうはい物ぶつを処理しょりして水みずを浄化じょうかしたり、あるいは水温すいおんを下さげて魚さかなの活性かっせい度どを低下ていかさせるといった方法ほうほうや、果はては鍼麻酔ますいを使つかって仮死かし状態じょうたいにする（→快眠かいみん活魚いけうお）などの技術ぎじゅつも登場とうじょうしている。

ただ、魚さかなが生いきている以上いじょうは生存せいぞんのために体内たいないに蓄たくわえられた栄養えいようを消費しょうひしているため、長距離ちょうきょりを輸送ゆそうされた活魚いけうおはストレスにより風味ふうみが悪わるいという話はなしも美食びしょく家か筋すじから示しめされており、それを回避かいひするために輸送ゆそうされてきた活魚いけうおをしばらく店内てんないの生簀いけすで飼育しいくして、体力たいりょくの回復かいふくを待まつなどの手法しゅほうを取とり入いれる飲食いんしょく店てんも見みられる。

備考びこう

• かつて江戸えど時代じだいの行商ぎょうしょう人じんにも、水揚みずあげされたばかりの魚さかなを桶おけに水みずを張はって売うり歩あるくものがいた。しかし生類しょうるい憐あわれみの令れいで1700年ねんに禁止きんしされている。
• 鱧はもは生命せいめい力りょくが強つよい海水かいすい魚ぎょで、活魚いけうおの輸送ゆそう技術ぎじゅつが発達はったつする遥はるか以前いぜんより、大阪おおさかで水揚みずあげされたものが京都きょうとまで夏なつ場ばでも生いきたまま輸送ゆそうできたことから、京都きょうとを中心ちゅうしんに鱧はもを珍重ちんちょうし、美食びしょくの域いきまで高たかめた食しょく文化ぶんかが形成けいせいされ、そこから全国ぜんこくに広ひろまった。このため今日きょうでは、鱧はもは高級こうきゅう魚ぎょの地位ちいを築きずいている。

関連かんれん項目こうもく

• 鮮魚せんぎょ
• 魚さかな料理りょうり
  • 寿司すし
  • 刺身さしみ
• 鉄道てつどう
  • 活魚車かつぎょしゃ
  • JR貨物かもつM2A形かたちコンテナ（活魚いけうお輸送ゆそう用ようコンテナ）
• 観賞かんしょう魚ぎょ