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流動りゅうどうせいわな

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流動りゅうどうせいわな(りゅうどうせいのわな、えい: liquidity trap)は、景気けいき刺激しげきさくとして金融きんゆう政策せいさくおこなわれるとき利子りしりついちじるしく低下ていかしている条件じょうけんしたでは、それ以上いじょうマネーサプライやしても、もはや投資とうしやす効果こうかられないことをいう[1]

概要がいよう

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たとえば、ゼロ金利きんり政策せいさくしたにおいて、利子りしりつ名目めいもく金利きんり)は原則げんそくとして0以下いかにならない[注釈ちゅうしゃく 1]ため、さらに利子りしりつげることは困難こんなんである[4]。ここで、債券さいけん価格かかく利子りしりつ相反あいはんするから、債券さいけん価格かかくはもうがらないと容易ようい予想よそうすることができる。一方いっぽうで、債券さいけん値下ねさがりするリスクは依然いぜんとして存在そんざいするので、債券さいけん投資とうしさきとしての魅力みりょくうしなう。流動りゅうどうせい選好せんこうせつによれば、投資とうしによるもうけが期待きたいできないとき人々ひとびと現金げんきんこの傾向けいこうつよまる。よって、ゼロ金利きんり政策せいさくしたでは、マネーサプライをやしたとしても、投資とうしやす効果こうかよわくなる。

解説かいせつ

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流動りゅうどうせいわなとは、ケインズ経済けいざいがく解釈かいしゃくした経済けいざい学者がくしゃジョン・ヒックス発案はつあんしたものであり、金利きんり水準すいじゅん異常いじょうひくいときは、貨幣かへい債券さいけんがほぼ完全かんぜん代替だいたいとなってしまうため、いくら金融きんゆう緩和かんわおこなっても、景気けいき刺激しげきさくにならないという状況じょうきょう[5]。ヒックスの1937ねん論文ろんぶんは、IS-LM分析ぶんせき導入どうにゅうし、きょう状態じょうたいでは金融きんゆう政策せいさくかなくなるかもしれないことをしめした[6]

ジョン・メイナード・ケインズは、「ジョンブル(イギリスじんのこと)は、たいていのことは我慢がまんするが、2ぶん利子りしりつには我慢がまんできない」とべたが、これは、2パーセントの利子りしりつ下回したまわるような債券さいけんは、きが極端きょくたんわるくなるという指摘してきである。その理由りゆうは、投資とうし貨幣かへいたいする取引とりひき需要じゅよう名目めいもく金利きんり下回したまわってしまうためである。2パーセントというたかすぎる債券さいけん価格かかくひくすぎる利子りしりつ水準すいじゅん)のもとでは、人々ひとびと債券さいけん価格かかく下落げらく金利きんり上昇じょうしょう)を予想よそうして貨幣かへい資産しさん保有ほゆうするようになり、貨幣かへい供給きょうきゅうしても貨幣かへい保有ほゆうすだけで、資金しきん債券さいけん購入こうにゅうまわらず、市場いちば利子りしりつはそれ以上いじょう低下ていかしようとはしなくなる[7]

この過程かていにおいては、マネーサプライをいくらやしても、やされた貨幣かへいたん退蔵たいぞうされるだけで、もはや利子りしりつがらず、民間みんかん投資とうし消費しょうひ刺激しげきすることができなくなる。そのため、金融きんゆう政策せいさく効力こうりょく喪失そうしつする。一方いっぽうクラウディングアウト民業みんぎょう圧迫あっぱく)は、発生はっせいせず、財政ざいせい政策せいさく有効ゆうこうせいたかまる。

反論はんろん

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流動りゅうどうせいわなしょうじるのは債券さいけん金利きんりがゼロ(もしくはマイナス)になると債権さいけんよりも貨幣かへいのほうが選好せんこうされるためである[8]。よって、流動りゅうどうせいわなは、ちょう短期たんきにかぎらず、長期ちょうきさいなどの資産しさんがすべて貨幣かへい代替だいたいになってはじめてきるのであり[9]政策せいさく金利きんりがゼロ制約せいやくにあったとしても、長期ちょうきさいれなど金融きんゆう政策せいさくにはまだ余地よちがあることとなる。複数ふくすう資産しさん存在そんざいする世界せかいにおいて、すべての資産しさん価格かかくがゼロの短期たんき金利きんり整合せいごうてき均衡きんこう水準すいじゅんたっしないかぎり、流動りゅうどうせいわなしょうないという指摘してきもある[10]

また、理論りろんじょう上記じょうきのように流動りゅうどうせいわなのもとで金融きんゆう政策せいさく無効むこうになるが、名目めいもく金利きんりがゼロの状態じょうたいで、中央ちゅうおう銀行ぎんこうなにもできないわけではなく、過去かこおこなわれたアメリカのFRBによる量的りょうてき金融きんゆう緩和かんわ政策せいさく市場いちば政策せいさく予想よそうへのはたらきかけが多少たしょう効果こうかがあったという事実じじつから、実際じっさい経済けいざい流動りゅうどうせいわな状態じょうたいおちいるかということについて懐疑かいぎてき経済けいざい学者がくしゃ存在そんざいする[11][12]

対策たいさく

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ケインズ学派がくは対策たいさく

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減税げんぜいてい所得しょとくしゃへの税額ぜいがく控除こうじょ失業しつぎょう給付きゅうふ充実じゅうじつ急務きゅうむとなる。くわえて公共こうきょう事業じぎょう公共こうきょうサービス充実じゅうじつなどだい規模きぼ拡張かくちょうてき財政ざいせい政策せいさく[13]有効ゆうこう需要じゅよう創出そうしゅつすることが政府せいふもとめられる。25ちょうえん相当そうとう財政ざいせい赤字あかじとて経済けいざい底上そこあげには十分じゅうぶん数字すうじとはいえず、さらに大型おおがた政府せいふ支出ししゅつ必要ひつようである。金融きんゆう政策せいさくかないわけではないが、その効果こうかあらわれるまで時間じかんがかかる。とはいえ実際じっさいには短期たんき国債こくさい長期ちょうき国債こくさい完全かんぜん代替だいたいてきとはえず、中央ちゅうおう銀行ぎんこう長期ちょうき国債こくさい購入こうにゅう長期間ちょうきかん継続けいぞくすることを宣言せんげんして市場いちば流動りゅうどうせい供給きょうきゅうつづけることで間接かんせつてき有効ゆうこう需要じゅようしもささえができる[14]

合理ごうりてき期待きたい形成けいせい学派がくは対策たいさく

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インフレターゲットのような期待きたいうったえる金融きんゆう政策せいさくや、為替かわせ介入かいにゅうによる自国じこく通貨つうかげなど伝統でんとうてき金融きんゆう政策せいさく手段しゅだんとして主張しゅちょうされている[15]

ポール・クルーグマンの「流動りゅうどうせいわな」モデルが登場とうじょうした背景はいけいに、ふたつの経済けいざい状況じょうきょうがあり、ひとつは1990年代ねんだいなか以降いこう日本にっぽん経済けいざいにおいて、名目めいもく利子りしりつ徐々じょじょげられほぼゼロ水準すいじゅんいたったこと(ゼロ金利きんり政策せいさく)、そしてもうひとつは度重たびかさなる巨額きょがく財政ざいせい政策せいさくおこなったのに、その効果こうか限定げんていてきであったことである[16]

クルーグマンは「金融きんゆう緩和かんわは、人々ひとびと期待きたいえないかぎり効力こうりょく発揮はっきしない。そして、期待きたいえることは簡単かんたんではない[17]」「短期たんきてき金融きんゆう緩和かんわは、どんなにだい規模きぼなものであっても効果こうか[18]」「しかし、長期ちょうきてきインフレ期待きたいたかめれば、将来しょうらい実質じっしつ金利きんりがるのとおな効果こうかつ。だから(金融きんゆう緩和かんわは)景気けいき刺激しげき効果こうかがある[19]」と指摘してきしている。クルーグマンは「金融きんゆう拡大かくだい恒久こうきゅうてきだとおもわれたら、それは(完全かんぜん雇用こようモデルでは)物価ぶっかげるか、(現在げんざい物価ぶっかがあらかじめまっているなら)算出さんしゅつやす。金融きんゆう政策せいさく機能きのうしないのは、中央ちゅうおう銀行ぎんこういまなにをしようとも、機会きかいさえあればすぐもどして、物価ぶっか現状げんじょう水準すいじゅんちかくに安定あんていさせるだろうと国民こくみん期待きたいしているからだ。もし中央ちゅうおう銀行ぎんこう市場いちばたいして、物価ぶっか十分じゅうぶん上昇じょうしょう本当ほんとうゆるすと約束やくそくできれば、経済けいざい流動りゅうどうせいわなからせる」と指摘してきしている[20]。またクルーグマンは「流動りゅうどうせいわなしたでの財政ざいせい出動しゅつどうは、クラウディングアウトも後世こうせいへのツケものこさない」と指摘してきしている[21]

高橋たかはし洋一よういちは「流動りゅうどうせいわなおちいり、名目めいもく金利きんり限界げんかいまでげられなくなっても、マネーの量的りょうてき拡大かくだいによって『いつかはインフレになる』と民間みんかん予想よそうする。それを利用りようして需要じゅよう創出そうしゅつすることができる」と指摘してきしている[22]原田はらだやすしは「名目めいもく金利きんりひく場合ばあいでも、量的りょうてき金融きんゆう緩和かんわ政策せいさくおこなえば、金融きんゆうはどれだけでも緩和かんわすることができる」と指摘してきしている[23]

歴史れきし

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1990年代ねんだいまつごろ日本にっぽんにおいて流動りゅうどうせいわなちか状況じょうきょうとなった。ゼロ金利きんり政策せいさくにより利子りしりつ歴史れきしじょう最低さいていとなったが、このなかでも民間みんかん投資とうしおもうように回復かいふくせず、通常つうじょう金融きんゆう政策せいさく効力こうりょく喪失そうしつした。その、2002ねんから景気けいき回復かいふくのプロセスにはいるが、輸出ゆしゅつ主導しゅどうされた民間みんかん投資とうし回復かいふくであった。

2006ねん3がつまで量的りょうてき金融きんゆう緩和かんわ政策せいさく実施じっししたが、デフレを脱却だっきゃくさせるとのコミットメントをき、「インフレ期待きたい」を醸成じょうせいする効果こうかうすく、結局けっきょく、「当分とうぶんあいだめない」という時間じかんじく政策せいさく効果こうか中心ちゅうしんとなった[24]。2003ねん9がつから急速きゅうそくすすんだドルやすさいして、2004ねん初頭しょとうだい規模きぼなドル為替かわせ介入かいにゅうおこなわれ、この過程かてい大量たいりょうえん供給きょうきゅうされることになったが、これは外国がいこく為替かわせ市場いちば経由けいゆした資金しきん供給きょうきゅうという経路けいろをたどり、結果けっかとして物価ぶっか安定あんてい一定いってい効果こうか発揮はっきした。

議論ぎろん

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流動りゅうどうせいわな発生はっせいした背景はいけいには、民間みんかん投資とうし成長せいちょう歴史れきしてき鈍化どんか要因よういんがあるとかんがえられており、後手ごて後手ごて金融きんゆう政策せいさくがデフレにいつけず実質じっしつ金利きんりこうまりさせたと政策せいさく批判ひはん矛先ほこさきける論者ろんしゃ[だれ?]もいる。

日本にっぽん

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日本にっぽんは1990年代ねんだいつうじて継続けいぞくして財政ざいせい出動しゅつどうおこなったが、流動りゅうどうせいわなからだっしきれず、「財政ざいせい破綻はたん」が懸念けねんされるほど巨額きょがく国債こくさい発行はっこう残高ざんだかしてしまったと批判ひはんされている[25]

経済けいざい学者がくしゃ田中たなか秀臣ひでおみは「財政ざいせい政策せいさくへの慎重しんちょうなスタンスは財政ざいせい赤字あかじ深刻しんこく懸念けねんへのスタンスであり、財政ざいせい政策せいさくへの効果こうか自体じたい否定ひていするのはむずかしい」としたうえ[26]、「残念ざんねんながら、公共こうきょう事業じぎょう依存いぞんした財政ざいせい政策せいさくは、実施じっししているあいだ有効ゆうこう作用さようするが、それによって流動りゅうどうせいわなから完全かんぜんだっすることは不可能ふかのうであった[25]」「金融きんゆう政策せいさく依存いぞんしない場合ばあいかり経済けいざい完全かんぜん雇用こようたっしたとしても、実質じっしつ金利きんりこうまりは解消かいしょうされず、財政ざいせい出動しゅつどうわれば投資とうし抑制よくせいされ、ふたた流動りゅうどうせいわなおちい[27]」と指摘してきしている。また田中たなかは「過大かだい産出さんしゅつりょうギャップをめるような(財政ざいせい政策せいさく中心ちゅうしんの)公共こうきょう事業じぎょう継続けいぞくしておこなうことは不可能ふかのうである」と指摘してきしている[26]

経済けいざい学者がくしゃ野口のぐちあさひ田中たなか秀臣ひでおみは「小渕おぶち内閣ないかくどき経済けいざい政策せいさく問題もんだいてんは、巨大きょだい産出さんしゅつりょうギャップ財政ざいせい支出ししゅつのみでわせようとしたところにある」と指摘してきしている[28]

エコノミストの村上むらかみ尚己なおみは「デフレと流動りゅうどうせいわなにおいては、政府せいふによる公共こうきょう事業じぎょう拡大かくだいそう需要じゅようやすプラスの効果こうかがある。それが乗数じょうすう効果こうかをともなって経済けいざい全体ぜんたいげに波及はきゅうすることが、理論りろんじょう期待きたいされる。政府せいふによる公共こうきょう事業じぎょうは、おも建設けんせつセクターに景気けいき回復かいふく効果こうか集中しゅうちゅうする問題もんだいがある。公共こうきょう事業じぎょうが、雇用こようふく経済けいざい全体ぜんたい刺激しげきする効果こうかかぎられている。そうかんがえると、だつデフレを後押あとおしするためには、減税げんぜい社会しゃかい保険ほけんりょう削減さくげんがより有効ゆうこう対応たいおうかもしれない」と指摘してきしている[29]

経済けいざい学者がくしゃロバート・シラーは「日本にっぽん政府せいふたいGDP世界せかい最大さいだい債務さいむっているので政府せいふ支出ししゅつ批判ひはんするひとおおいが、ケインズ政策せいさくによって最悪さいあく事態じたいけられてきためんもある」「『流動りゅうどうせいわな』におちいると、金融きんゆう政策せいさく刺激しげきてき効果こうかちえなくなる。現在げんざい(2013ねん)の量的りょうてき金融きんゆう緩和かんわ政策せいさくはこれをえて、長期ちょうき金利きんりげようとする政策せいさくだが、金融きんゆう政策せいさくだけでは効果こうかず、財政ざいせい政策せいさくあわせるべきだということになる。『期待きたい』は、経済けいざいのダイナミクスへの影響えいきょうというてん非常ひじょう重要じゅうようであるが、日本にっぽんで『期待きたい』をえるにはなが年月としつき必要ひつようだ。期待きたいは『実現じつげん』しないとその効果こうか持続じぞくしない。ある程度ていど短期間たんきかんで『期待きたい』の一部いちぶ現実げんじつのものになれば、効果こうかてくる」と指摘してきしている[30]

ポール・クルーグマンは「バブル崩壊ほうかい日本にっぽん財政ざいせい刺激しげきさく継続けいぞくしたが、金融きんゆう政策せいさくでのサポートをしなかった。2000年代ねんだい前半ぜんはん量的りょうてき金融きんゆう緩和かんわ政策せいさく金融きんゆう政策せいさく)ではぎゃくに、財政ざいせいでのサポートが不足ふそくしていた」と指摘してきしている[17]。また、クルーグマンは「人口じんこう構成こうせいなど構造こうぞうてき理由りゆうがミクロ経済けいざいてき効率こうりつこすのはほどけるが、需要じゅよう不足ふそくしていることの説明せつめいにはならない。日本にっぽん直面ちょくめんしている問題もんだいは、需要じゅよう問題もんだいであって供給きょうきゅう問題もんだいではい。供給きょうきゅうりょくだけをげて、需要じゅようをそのままにしておく政策せいさくやくにたず、効率こうりつがって失業しつぎょうえたりすれば、くにとしてはかえってひどくなる。財政ざいせい拡大かくだいはうまくいくかもしれないが、『リカードの等価とうか定理ていり』にしばられているので減税げんぜいなん効果こうかい。公共こうきょう事業じぎょう支出ししゅつは、たしかに経済けいざい需要じゅよう制約せいやくされているため無駄むだ支出ししゅついよりはましである。しかし、政府せいふには予算よさん制約せいやくがある」と指摘してきしている[31]。クルーグマンは著書ちょしょ危機きき突破とっぱ経済けいざいがく』で「日本にっぽん場合ばあい大型おおがた財政ざいせい政策せいさくむずかしく、金融きんゆう政策せいさくとしてのインフレターゲット導入どうにゅうするべきである」と指摘してきしている[32]

経済けいざい学者がくしゃ岩田いわた規久男きくおは「デフレ脱却だっきゃく重要じゅうようなのは、デフレ予想よそうからインフレ予想よそうへの変化へんかであり、予想よそう実質じっしつ金利きんり低下ていか資産しさん価格かかく上昇じょうしょう重要じゅうよう役割やくわりたす。長期ちょうき名目めいもく金利きんり低下ていか余地よちかぎられていることは、デフレ脱却だっきゃく制約せいやくとはならない」と指摘してきしている[33]

経済けいざい学者がくしゃ星岳ほしだけゆうは「『流動りゅうどうせいわな』におちいってしまう場合ばあいは、金融きんゆう緩和かんわのほか、財政ざいせい政策せいさく使つかうなど、拡張かくちょうてきなマクロ経済けいざい政策せいさく重要じゅうようであるが、日本にっぽん国債こくさい残高ざんだかたかさゆえ拡張かくちょうてき財政ざいせい政策せいさくむずかしく、金利きんりもゼロとなっている。そうすると、将来しょうらい期待きたい金利きんりげ、将来しょうらい期待きたいインフレりつたかめることが重要じゅうようとなる」と指摘してきしている[34]

経済けいざい学者がくしゃ浜田はまだ宏一こういちは「長期ちょうき国債こくさい外債がいさい中小ちゅうしょう企業きぎょうローンの債券さいけんといった現金げんきん短期たんき債券さいけん性質せいしつちがうものを大量たいりょう購入こうにゅうし、流動りゅうどうせい供給きょうきゅうおこなわれなければならない」と指摘してきしている[35]浜田はまだは「金融きんゆう緩和かんわに『効果こうかがない』というひとたちは、債券さいけん市場いちばだけをており、株式かぶしき市場いちば不動産ふどうさん市場いちばていない。ジェームズ・トービンの『トービンのq理論りろん』では、株式かぶしき不動産ふどうさんへの投資とうし機運きうんたかまれば、株価かぶか上昇じょうしょう企業きぎょう投資とうしうなが効果こうかがあると指摘してきしている。日本にっぽんでもこの効果こうかが、本多ほんだ祐三ゆうぞうらによってたしかめられている。また、金融きんゆう緩和かんわ担保たんぽとなる不動産ふどうさん価格かかくがるとおかねりやすくなり、リスクをともなっても新規しんき投資とうしおこない利益りえきやそうとかんがえるひとえる。これはベン・バーナンキ主張しゅちょうしている」と指摘してきしている[36]

アメリカ

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バンク・オブ・ニューヨーク・メロン(BNYメロン)が大口おおぐち法人ほうじん顧客こきゃくから預金よきん手数料てすうりょう徴収ちょうしゅうする決断けつだんをした事実じじつからも、2007ねんサブプライムローン問題もんだい発端ほったんとする米国べいこくはつ世界せかい金融きんゆう危機きき米国べいこく経済けいざいが2011ねんにこの流動りゅうどうせいわなおちいったのではないかという指摘してきがある[37]

ポール・クルーグマンは「連邦れんぽう準備じゅんび制度せいど(FRB)は2008ねん以来いらい、マネタリーベースをさんばいにした。それでも経済けいざい停滞ていたいしたままである[38]」「2007ねんから金利きんりはじめて、2008ねんまつにはゼロ金利きんりたっした。残念ざんねんながら、ゼロ金利きんりでもひくさがりなかった。住宅じゅうたくバブルはそれほどの被害ひがいこしていた。消費しょうひ支出ししゅつよわいままで、住宅じゅうたくドン底どんぞこよこばい、事業じぎょう投資とうしひくいまま、そして失業しつぎょう悲惨ひさんなほどたかいままだった。ゼロ金利きんりでもまだたかぎることになる[39]」と指摘してきしている。

クルーグマンは「アメリカの数字すうじると、回復かいふくするにはおそらく10ちょうドルの量的りょうてき緩和かんわ必要ひつようであるが、それはおおくの問題もんだい発生はっせいさせる。できないこともないがそこまですると、FRBが資本しほん市場いちば牛耳ぎゅうじることになりかねないじょう連銀れんぎんをリスクにさらすことになる」「経済けいざい規模きぼかられば、日本にっぽんもアメリカとおなじくらいのことをおこなわなければならないほどひどい状況じょうきょうである」と指摘してきしている[40]

リーマン・ショックとその欧州おうしゅう連合れんごう(EU)などによる緊縮きんしゅく政策せいさくあつりょくによって経済けいざい成長せいちょう阻害そがいされている。やがてユーロけん流動りゅうどうせいわなおちいるリスクがあると、ラーズ・クリステンセンらは指摘してきする[41]デビッド・オーウェンは、欧州おうしゅう中央ちゅうおう銀行ぎんこうがこのまま傍観ぼうかんしているわけにはいかず、やがて本格ほんかくてき量的りょうてき緩和かんわらざるをなくなるだろうとべる。イタリアの首相しゅしょう就任しゅうにんしたエンリコ・レッタは、デフレを悪化あっかさせる増税ぞうぜい反対はんたいする立場たちばをとっている。

脚注きゃくちゅう

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注釈ちゅうしゃく

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  1. ^ これをゼロ金利きんり制約せいやくまたは非負ひふ制約せいやくえい: Zero lower bound, ZLB)という[2][3]

出典しゅってん

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  38. ^ ポール・クルーグマン 『さっさときょうわらせろ』 早川書房はやかわしょぼう、2012ねん、51ぺーじ
  39. ^ ポール・クルーグマン 『さっさときょうわらせろ』 早川書房はやかわしょぼう、2012ねん、53ぺーじ
  40. ^ ポール・クルーグマン 『危機きき突破とっぱ経済けいざいがく』 PHP研究所けんきゅうじょ、2009ねん、55ぺーじ
  41. ^ Eurozone risks Japan-style trap as deflation grinds closer Telegraph, Apr 30, 2013

関連かんれん項目こうもく

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外部がいぶリンク

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経済けいざい分析ぶんせき』(刊行かんこう:内閣ないかく経済けいざい社会しゃかい総合そうごう研究所けんきゅうじょ)における解説かいせつ記事きじ