浸潤しんじゅん

浸潤しんじゅん（しんじゅん）とは、「浸ひた」- しみること。「潤じゅん」-潤うるおって水気みずけを帯おびることであり、

1. 液体えきたいが少すこしずつしみ込こみ濡ぬれること。
2. 思想しそうや勢力せいりょくなどが次第しだいに浸透しんとうして拡散かくさんすること。
3. がん細胞さいぼうが周囲しゅういの組織そしきへ広ひろがること。
4. リンパ球だまや白血球はっけっきゅうなどの細胞さいぼうが､炎症えんしょうの起おこっている部位ぶいに集あつまってくる状態じょうたい｡
5. 局所きょくしょ麻酔ますい薬やくなどの薬剤やくざいを生体せいたいの組織そしきに注入ちゅうにゅうして周辺しゅうへんにその効果こうかを及およぼす事こと｡局所きょくしょ浸潤しんじゅん麻酔ますい。
6. 胸部きょうぶX線せん検査けんさ上うえの異常いじょう陰影いんえい。肺浸潤はいしんじゅん。

等ひとしを意味いみする。ここでは、がん細胞さいぼうの浸潤しんじゅんについて説明せつめいする。

概要がいよう

がん細胞さいぼうが周囲しゅういの正常せいじょう細胞さいぼうや組織そしきを壊こわしながら移動いどうすること。がん細胞さいぼうは、遺伝子いでんしの変異へんいにより増殖ぞうしょく能のうを獲得かくとくし異い型かた性せいを示しめし、局所きょくしょで限局げんきょく的てきに増殖ぞうしょくしていきながら、浸潤しんじゅん能のうを獲得かくとくする。この時とき、コラーゲンなどの細胞さいぼう外がい基質きしつ成分せいぶんを分解ぶんかいする酵素こうそを分泌ぶんぴつして正常せいじょうな組織そしき構築こうちくを壊こわし、そこを足あしがかりにして自みずからを牽引けんいんするように移動いどうする。その際さい、がん細胞さいぼうは個別こべつに動うごくこともあれば、集団しゅうだんで動うごくこともある。浸潤しんじゅんした後のち、リンパ管りんぱかん内ないに入はいるとリンパ節ぶし転移てんいを引ひき起おこし、血管けっかんの中なかに入はいると他た臓器ぞうきに「血行けっこう性せいの転移てんい」を起おこす。上皮じょうひ内ないがんの状態じょうたいでは、がん細胞さいぼうがまだ上皮じょうひ細胞さいぼう層そうと結合けつごう組織そしきの間あいだの基底きてい膜まくを越こえていないが、がん細胞さいぼうが基底きてい膜まくを越こえ、上皮じょうひ下かの結合けつごう組織そしきである間あいだ質しつに進展しんてんすることを「浸潤しんじゅん」と呼よぶ。浸潤しんじゅんが認みとめられると、原発げんぱつ巣すから離はなれた組織そしきや臓器ぞうきで非ひ連続れんぞく性せいの腫瘍しゅようを形成けいせいする転移てんいの可能かのう性せいが高たかくなる。胃いがんが浸潤しんじゅんして胃いの最さい外層がいそうの膜まくをも破壊はかいすると、がん細胞さいぼうは腹腔ふくこう内ないにこぼれ落おち、各所かくしょに転移てんい巣すを作つくることがある。浸潤しんじゅんは正常せいじょう組織そしきを壊こわす以外いがいに転移てんいの原動力げんどうりょくになる。

がんは遺伝子いでんしの異常いじょうの蓄積ちくせきにより引ひき起おこされるため、浸潤しんじゅん性せいの高たかいがん細胞さいぼうもその過程かていで生成せいせいされると考かんがえられる。また、浸潤しんじゅん性せいはがん細胞さいぼうを取とり巻まく環境かんきょうからも影響えいきょうを受うける。がん組織そしきはがん細胞さいぼうの他ほかにも線維せんい芽め細胞さいぼうや血管けっかん内皮ないひ細胞さいぼうなど多おおくの正常せいじょう細胞さいぼうによって構成こうせいされる。これらの正常せいじょう細胞さいぼうが産さん生せいする増殖ぞうしょく因子いんしなどによってもがん細胞さいぼうの浸潤しんじゅん性せいが強化きょうかされることもあると考かんがえられる。こうしたがん細胞さいぼうを取とり巻まく微小びしょう環境かんきょうを解明かいめいすることで、浸潤しんじゅんのメカニズムを解明かいめいし、浸潤しんじゅんの阻止そしを目指めざす研究けんきゅうも盛さかんに行おこなわれている。　

「浸潤しんじゅん」という言葉ことばの認知にんち率りつは41.4％と「転移てんい」に比較ひかくし低ひくいため、医師いしが患者かんじゃに説明せつめいする際さいには、この言葉ことばは使つかわず「がんが周まわりに広ひろがっていく」という表現ひょうげんを使つかうことが多おおい。