物語ものがたり詩し

物語ものがたり詩し（ものがたりうた、ものがたりし、英語えいご：Narrative poetry）は、物語ものがたりを語かたる詩しのこと。長ながさは短みじかいものも長ながいものもあり、内容ないようも単純たんじゅんなものもあれば複雑ふくざつなものもある。通常つうじょう、劇的げきてきではなく、客観きゃっかん的てきな詩形しけいと規則きそく的てきな押韻おういんの配置はいちと韻律いんりつを持もっている。物語ものがたり詩しには叙事詩じょじし、バラッド、アイディルが含ふくまれる。

最古さいこの物語ものがたり詩形しけい式しき

物語ものがたり詩しは最もっとも古ふるい詩しのジャンルかも知しれない。『ギルガメシュ叙事詩じょじし』、ホメロス、アングロ・サクソン文学ぶんがく（en:Anglo-Saxon literature）、古こノルド語ご詩し（en:Old Norse poetry）、サンスクリットの詩し『マハーバーラタ』は物語ものがたり詩しから成なっているからである。スミュルナのコイントス以降いこう、何人なんにんかのホメロス研究けんきゅう家かは、『イリアス』や『オデュッセイア』は、個別こべつのエピソードを扱あつかった、夕ゆうべの余興よきょうに適てきした短みじかい物語ものがたり詩しを編纂へんさんしたものではないかもと言いってきた。

物語ものがたり詩しのいくつかは詩し小説しょうせつ（en:Verse novel）の形式けいしきを採とっている。その一いち例れいがロバート・ブラウニングの『指輪ゆびわと本ほん』（en:The Ring and the Book）である。『薔薇ばら物語ものがたり』やアルフレッド・テニスンの『国王こくおう牧歌ぼっか』といったロマンス（en:Romance (genre)）もまた、騎士きし道どう物語ものがたりを語かたる物語ものがたり詩しである。ロマンスは中世ちゅうせいやアーサー王おうを題材だいざいとしてはいるが、古代こだいギリシア・ローマの神話しんわ（Classical mythology）からの話はなしを語かたる場合ばあいもある。

短みじかい物語ものがたり詩しは短編たんぺん小説しょうせつの形式けいしきに類似るいじすることが多おおい。チョーサーの『カンタベリー物語ものがたり』同様どうように、短みじかい物語ものがたり詩しは関連かんれんするグループで集あつめられることが時々ときどきある。詩しや詩的してきな幕間まくあいを含ふくむ散文さんぶん物語ものがたり体たいから成なる文学ぶんがくもある。古ふるいアイルランドの詩し（en:Irish poetry）の多おおくは散文さんぶんの物語ものがたり体たいの中なかにあり、古こノルド語ごのサガは付随ふずい的てきな詩しおよび詩人しじんの伝記でんきを含ふくんでいる。

口承こうしょう

物語ものがたり詩しの多おおくは、Performance poetry（en:Performance poetry）で、その起源きげんを口承こうしょうの中なかに持もっている。スコットランドやイングランドのバラッド、ロビン・フッドやイスカンダルの物語ものがたり、さまざまなバルト語ご派はやスラヴ語ご派はの英雄えいゆう詩しはどれも、元々もともとは朗読ろうどくするためというより、むしろ暗唱あんしょうすることを意図いとしていた。多おおくの文化ぶんかの中なかに、伝説でんせつを韻文いんぶんの形式けいしきで暗唱あんしょうする伝統でんとうは残のこっている。そのことから次つぎのような示唆しさがなされた。つまり、韻律いんりつ、頭韻とういん法ほう、代だい称しょう（en:Kenning）といった、散文さんぶんと詩しを区別くべつする特徴とくちょうのいくつかは、そのたびごとの記憶きおく術じゅつに都合つごうが良よく、それによってバード（古代こだいケルトの吟遊詩人ぎんゆうしじん、en:Bard）は暗唱あんしょうすることで、記憶きおくから物語ものがたりを再さい構成こうせいするのを可能かのうにしたというのである。

代表だいひょう的てきな物語ものがたり詩し

• 作者さくしゃ不ふ詳しょう『古こエッダ』（9世紀せいき - 13世紀せいき）
• 作者さくしゃ不ふ詳しょう『タム・リン』（en:Tam Lin）
• ダンテ・アリギエーリ『神かみ曲きょく』（14世紀せいき）
• ジェフリー・チョーサー『公爵こうしゃく夫人ふじんの書しょ』（14世紀せいき、en:The Book of the Duchess）
• ジェフリー・チョーサー『カンタベリー物語ものがたり』（14世紀せいき）
• ウィリアム・ラングランド（en:William Langland）『農夫のうふピアズの夢ゆめ』（1360年ねん頃ごろ - 1399年ねん、en:Piers Plowman）
• ウィリアム・シェイクスピア『ルークリース凌辱りょうじょく』（1594年ねん、en:The Rape of Lucrece）
• ロバート・バーンズ『シャンタのタム（タモシャンター）』（1790年ねん、en:Tam o' Shanter (Burns poem)）
• サミュエル・テイラー・コールリッジ『老ろう水夫すいふ行ぎょう』（1797年ねん - 1799年ねん、en:The Rime of the Ancient Mariner）
• アダム・ミツキェヴィチ『パン・タデウシュ』（1834年ねん出版しゅっぱん、en:Pan Tadeusz）
• エドガー・アラン・ポー『大だい鴉からす』（1845年ねん）
• アルフレッド・テニスン『The Charge of the Light Brigade（軽けい騎兵きへい突撃とつげき）』（1854年ねん、en:The Charge of the Light Brigade (poem)）
• ヘンリー・ワズワース・ロングフェロー『ハイアワサの歌うた』（1855年ねん）
• ヘンリック・イプセン『タリエ・ヴィーゲン』（1862年ねん、en:Terje Vigen）
• E・J・プラット（en:E. J. Pratt）『The Truant]』
• レオ・コネラン（en:Leo Connellan）『Crossing America』（1976年ねん）
• リチャード・アダムス『女王じょおう陛下へいかの船乗ふなのり猫ねこ』（1977年ねん、en:The Adventures & Brave Deeds Of The Ship's Cat On The Spanish Maine: Together With The Most Lamentable Losse Of The Alcestis & Triumphant Firing Of The Port Of Chagres）