ギルガメシュ叙事詩
『ギルガメシュ
ギルガメシュを
概要 [編集 ]
『ギルガメシュ
成立 [編集 ]
シュメール
また、
研究 [編集 ]
あらすじ[編集 ]
ウルク
エンキドゥははじめは
登場 人物 [編集 ]
この
主要 人物 [編集 ]
- ギルガメシュ〔シュメール
名 :ビルガメス[10]〕(Bilgamesh) 主人公 。母 が女神 (ニンスン)、父 が人間 (ルガルバンダ)。3分 の2が神 、3分 の1が人間 とされるが、不死 の神 ではなく、死 すべき運命 を免 れない人間 として描 かれる。物語 の前半 では、肉体 の死 を怖 れず英雄 としての名声 を求 める生 き方 を希求 。エンキドゥと共 にフンババを討伐 し、またイシュタルの求愛 をつっぱねて怒 りを買 い、イシュタルが差 し向 けた天 の牡 牛 を殺 す。しかしエンキドゥの死 により、自 らの死 に対 する恐怖 におののき、肉体 の不死 を追 い求 めることになる。しかし結局 肉体 の不死 は手 に入 らず、ウルクに帰 ったのち城壁 を建造 し、後世 に名 を残 した。- ウルクの
王 として『シュメール王朝 表 』に、エンメルカル(治世 420年 )、ルガルバンダ(治世 1200年 )、ドゥムジ(治世 100年 )に続 いて記載 される(治世 126年 )が、神 として扱 われ、その存在 は極 めて神話 的 。もっとも、シュメール語 の「ビルガメスとアッカ」に登場 する、アッカ(キシュの王 でビルガメスのライバル)の父親 のエンメバラゲシに言及 する碑文 の断片 が見 つかっているので、エンメバラゲシは紀元前 2650年 頃 に実在 した人物 と考 えられる[11]。したがって、同 じ頃 に、ウルクにギルガメシュという王 がいた可能 性 はあり、ギルガメシュやルガルバンダやその他 の王 達 が生 きたすぐ後 に、吟遊詩人 達 が彼 らを主人公 に物語 を作 ったとも考 えられる。ただしギルガメシュが実在 した証拠 、また叙事詩 で語 られているように、ギルガメシュがウルクの城壁 を建造 した証拠 はない(2002年 、イラク戦争 が始 まる前 、ウルクで発掘 された墓 が、一時 はギルガメシュの墓 ではないかと言 われたが、結局 もっと新 しい時代 のものということが分 かった)。 - エンキドゥ(Enkidu)
- ギルガメシュの
無 二 の親友 。ギルガメッシュの傲慢 を諫めるために神 々によって作 られたが、逆 に彼 の友 となってしまう。ギルガメシュと共 に幾多 の困難 をともにくぐり抜 けた。友 と繰 り広 げた冒険 の果 てに、自身 に降 り注 ぐ運命 を夢 のお告 げで知 ることとなる。 - ルガルバンダ (Lugalbanda)
- ギルガメシュの
父 で牧夫 。ウルク第 1王朝 第 3代 の伝説 的 な王 。ギルガメシュの守護神 であると同時 に[12]、人間 で神官 でもある[13]。 - リマト・ニンスン(Ninsun)
- ギルガメシュの
母 。ルガルバンダの配偶 神 。その名 は「雌牛 の女 主人 」の意 で知恵 と夢 解 きの女神 [14]。全 てに通暁 する偉大 な女王 で、賢母 らしい活躍 を見 せる。シュメール版 では天 の牡 牛 退治 の際 、エアに生贄 を捧 げてギルガメシュを援助 した。 - シャマシュ〔シュメール
名 :ウトゥ[10]〕(Ud) 信仰 地 :シッパル・ラルサ /神殿 :エバッバル[15]正義 を司 る太陽 神 でイシュタルの兄 。ギルガメシュ専属 の守護神 [注 1]。彼 の誕生 祝 いに見目 良 さを授 けて以降 、叙事詩 では大半 の説話 に登場 し、終始 ギルガメシュを気 に掛 け庇護 している。- エア〔シュメール
名 :エンキ[10]〕(Enki) 信仰 地 :エリドゥ /神殿 :エアブズ[15]知恵 を司 る深淵 の水神 。人間 を創 った全知全能 の男神 。エンリルの人類 撲滅 計画 を幾度 となく阻止 してきた救 いの神 で、人間 に対 して好意 的 。ニップル版 ではギルガメシュの守護神 であるとされる[16]。- イシュタル〔シュメール
名 :イナンナ[10]〕(Ishtar) 信仰 地 :ウルク、他 多数 /神殿 :エアンナ[15]金星 を象徴 する愛 と戦争 の女神 。ギルガメシュに求婚 するが断 られ、その腹 いせに天 の牡 牛 (グガランナ)をウルクで暴 れさせた。- アヌ〔シュメール
名 :アン[10]〕(An) 信仰 地 :ウルク /神殿 :白神 殿 [15]- イシュタルの
父 で天空 を司 る最高 神 。エンリルによる天地 分離 を機 に権力 は衰 え失脚 したが、神 々が行 う会議 を主催 するなどその地位 は時代 が下 がっても変 わっていない。イシュタルにせがまれ天 の牡 牛 を造 った。 - エンリル〔シュメール
名 :ヌナムニル[17]〕(Nunamnir) 信仰 地 :ニップル /神殿 :エクル[15]神 々の王 で空 を司 る風 と嵐 の男神 、大気 神 。神 々の会議 で採決 された事項 の執行 権 を持 つ、シュメールにおける事実 上 の最高 神 でエンキドゥの個人 神 [18]。神 としての在 り方 はエアと対照 的 で、安易 に人類 を滅 ぼそうする。杉 の森 にフンババを番人 としておいた。- ウトナピシュティム〔シュメール
名 :ジウスドラ[10]〕(Utnapishtim) 大 洪水 を生 き残 り、妻 とともに不死 の身 となる。不死 を求 めて訪 ねてきたギルガメシュに、不死 は(非常 に例外 的 に)神 に与 えられるものであって、人間 の手 に入 らないものだと諭 すため、洪水 伝説 を物語 る。しかしギルガメシュが諦 めなかったため、6日 7晩 眠 らないという試練 を彼 に課 すが、ギルガメシュはすぐに眠 ってしまい、試練 を乗 り越 えることができなかった。ギルガメシュを憐 れんだ妻 の説得 により、「老 いたる人 が若返 る」という植物 を手 に入 れれば不死 の生命 を見出 すことが出来 ると教 える。首尾 良 くこの植物 を見 つけて手 に入 れたギルガメシュは喜 んで帰途 についたが、水 を浴 びているときに一 匹 の蛇 がこの草 を持 ち去 ってしまい、結局 不死 を手 に入 れることはできなかった。- 『
大 洪水 伝説 』の主人公 。エアの教 えで箱 舟 を作 り、少 しの人類 と動物 たちを乗 せ大 洪水 から逃 れた。この功績 が認 められ神 々から不死 の体 を与 えられる。ウトナピシュティム/ジウスドラという名 は「生命 を見 た者 」[19]、アトラハシスは「賢 き者 」の意 [20]。 - フンババ〔シュメール
名 :フワワ[10]〕(Huwawa) - レバノン
杉 の森 に住 む番人 。2015年 に新 しく見 つかった粘土 板 の解読 により、エンキドゥとは旧知 の仲 だったことが判明 した[21][22]。 - その
叫 び声 は洪水 、その口 は火 、その息 は死 。七 層 の光輝 メラムで身 を武装 した恐怖 と評 される怪人 、巨 人 。前兆 占 い文書 などでは、神 印 (ディンギル)が付 くこともあり、自然 神 として扱 われるが、主 にその異形 が言及 される。フワワの頭 が内臓 占 いの羊 の腸 に現 れる場合 もある。 ギルガメシュ叙事詩 ではエンリルに杉 の森 の番人 として配 されたとされている。 - グガランナ(Gugalanna)
自分 を振 ったギルガメシュを殺害 しウルクごと滅 ぼすため、イシュタルがアヌを脅 して造 らせた「天 の牡 牛 」と呼 ばれる巨大 な獣 。「7年間 の不作 を招 く」「これを殺 したら死刑 」と言 われる聖 なる神 の遣 い。大量 の油 が入 った青玉 石 の角 を2本 持 っている。シュメール語 で言 う「天 の牡 牛 」という呼称 は牡 牛 座 を構成 する星 の名前 に対 しても用 いられており、シュメール名 と言 うこともあってその名 の成立 は叙事詩 よりもごく古 い時代 のものであると言 われているが、牡 牛 が神話 として登場 する例 は叙事詩 の基礎 となったシュメール語 版 の断片 にしかなく、「天 の牡 牛 」が神話 化 するに至 ったプロセスは不 詳 とされている[23]。
その他 の人物 [編集 ]
- シャムハト(Shamhat)
- ギルガメシュによりエンキドゥの
元 へ派遣 された娼婦 。エンキドゥと6日 7晩 交 わり、彼 を導 く存在 として描 かれる。神殿 にて神 に奉仕 をする女官 の類 、その中 でも比較的 下位 の娼婦 であったと推察 されている[24]。→現在 では「神殿 娼婦 」の存在 自体 が疑問 視 されている。 - シドゥリ(Siduri)
- ギルガメシュが
旅 の途中 で出会 った「酌婦 」、つまり酒場 の女性 。アッカド語 で「乙女 」の意 。ヒッタイト語 版 では「酒 の女 」、フルリ語 版 では「若 い女 」と訳 されているが、古 バビロニア版 では女 主人 とだけ書 かれ正式 な名 はない[25]。神 印 が付 いていることから女神 と見 なされイシュタルの化身 説 がある他 、「知恵 の女神 」「生命 の守護 者 」という呼 ばれ方 もある[26]。ギルガメシュの話 を聞 き、最終 的 にウトナピシュティムへの道 を教 える。 - ウルシャナビ(Urshanabi)
- ウトナピシュティムに
仕 える船頭 。ギルガメシュを船 に乗 せ、死 の海 を渡 りウトナピシュティムの元 へ案内 した者 。その帰 りにも船 を出 し、ギルガメシュの帰国 に最後 まで付 き添 った。 - アルル〔シュメール
名 :ニンフルサグ[15]〕(Ninhursag) 粘土 をこねてエンキドゥを造 った女神 。創造 神 でエンリルの妹 (または配偶 神 )。名前 は「山 の女 主人 」の意 [27]。メソポタミアにおける王 たちの守護 女神 [28]。- アルラトゥ〔シュメール
名 :エレシュキガル[15]〕(Ereshkigal) - ギルガメシュが
死後 に行 きついた世界 の女 主人 。イシュタルの姉 で闇 を司 る死 の女神 。姉妹 は闇 と光 、冥界 と天界 の女王 としてライバル同士 であり、犬猿 の仲 。夫 、及 び配偶 神 にネルガルを持 ち、2人 で冥界 を統治 している[29]。 - ウルクの
長老 たち - ギルガメシュに
面 と向 かって異 を唱 え、諌 めることができる立場 の者 。標準 版 では重要 案件 に関 わる長老 会 に属 する助言 者 として、「我 らは王 (ギルガメシュ)を信頼 した。王 も王 として我 らを信頼 してほしい」と語 る場面 がある[30]。彼 らは保守 的 思考 だが、反対 にウルクの若者 たちは進歩 的 思考 。
内容 [編集 ]
発見 年 :1849年 発見 場所 :ニネヴェ:アッシュールバニパル図書館 言語 :バビロニア語 アッカド方言 編纂 者 :神官 シンレキウニンニ(Sîn-lēqi-unninni)発見 者 :オースティン・ヘンリー・レヤード
粘土 版 1[編集 ]
- プロローグ:
語 り手 による「深淵 を覗 き見 た人 」(もしくは「全 てを見 たる人 」)として導入 されるギルガメシュを讃 える叙述 から始 まる。いわく、「彼 はあらゆる国々 を調 べ尽 くし、すべてを知 り尽 くし、知恵 をきわめた。彼 は秘 められたことを見 、隠 されたものを開 き、洪水 前 の事柄 を知 らせたのだった。」「彼 は囲 いの町 ウルクの城壁 を建 てさせた、また清 い宝物殿 、聖 なるエアンナのそれ(周壁 )もまた。」つまり、これから物語 られる物語 がすべて終 わり、ギルガメシュがウルクに帰 って城壁 を建造 した後 から始 まっているわけである。 - つづいて
本文 に入 る。ウルクの暴君 ギルガメシュ。そして神 々によって作 られたエンキドゥがシャムハトとの出会 いにより人間 らしさを獲得 する場面 が描 かれる。
粘土 版 2[編集 ]
シャムハトはエンキドゥに
粘土 版 3[編集 ]
ギルガメシュは
杉 の森 はシャマシュが所轄 しているため、ギルガメシュはシャマシュに遠征 の決意 を述 べて許可 を(或 いは神託 を占 って)もらうシーンがある。また、ギルガメシュは母 ニンスンを訪 ねると、ニンスンは不安 な面立 ちをしながらその決意 を聞 き、シャマシュに「何故 あなたは息子 の気持 ちを動 かすのか」などと不平 不満 を言 いつつ女 祭事 たちと共 に丁寧 に祈祷 を行 い、それが終 わると決心 したようにエンキドゥを養子 に迎 え入 れて護符 を与 えた[31][注 3]。一方 、ウルクの長老 たちはギルガメシュに「年 が若 いから気持 ちがはやっている」と言 って遠征 に反対 したが、シャマシュの加護 があることを祈 って結果 的 に承諾 することとなったようである。
粘土 版 4[編集 ]
- シャマシュはギルガメシュに、
杉森 までの案内 役 として合成 獣 とおぼしき遣 い魔 [33]、または守護 霊 を与 えている[34]。杉森 に向 かう途中 、ギルガメシュは連日 に渡 り夢 を見 ており、エンキドゥはそれらの夢 をシャマシュによる加護 があることを告 げる吉兆 だと解 いて慰 めた。そして現 に事実 となる。
粘土 版 5[編集 ]
- フンババ
征伐 までの流 れは粘土 板 によってバリエーション豊 かだが、シャマシュが介入 していることと、フンババ殺 しを拒否 していたエンキドゥがフンババを殺 すようギルガメシュに忠告 する様子 に大 きな差異 は認 められない。 - エンキドゥがフンババの
命乞 いを却下 したのは、フンババの反撃 、或 いはエンリルに密告 されることを恐 れたためである(ギルガメシュとエンキドゥはフンババを森 の番人 として差 し向 けたのがエンリルだと知 っていたことが、文中 から読 み取 れる)。その実 エンリルを怒 らせないための対策 として、2人 はあらかじめエンリルの住 むニップル市 にユーフラテス川 から杉 を運 び込 み奉納 していたが、エンリルはギルガメシュたちが持 ち帰 ったフンババの首 を見 た途端 、激怒 した。その後 エンリルはフンババが持 つ7層 の光輝 を地上 の各地 に振 り分 けるという処置 を行 い、フンババ征伐 一連 の物語 は締 めくくられる。
粘土 版 6[編集 ]
イシュタルは
その
- シュメール
語 版 での題目 は『ギルガメシュと聖 なる牡 牛 』[35]、古代 の書名 はギルガメシュを指 す主語 『戦闘 の青年 の』[36]。 - イシュタルはギルガメシュ
凱旋 の噂 を聞 きつけ、その様 を見 ようとエアンナからギルガメシュの王宮 へ出向 いたとする説 もある(一目惚 れではなく、元 から知 り合 いだった)。 - イシュタルと
結婚 することは「聖 婚儀 礼 」に連結 し、「神 の座 に就 くこと」を意味 する。物語 はギルガメシュを半 神 と伝 えながら常 に人間 の側 に立 たせており、神 の座 につくことを己 の崩壊 に結 び付 けたのだとしたら、ギルガメシュがイシュタルの求婚 を受 け入 れなかったのは「自身 の神格 化 を拒絶 した」ということに等 しいはずである[37]。 - ギルガメシュは
牡 牛 を始末 した後 、ラピスラズリでできた角 に入 っていた約 250リットルの油 をルガルバンダに贈 り、角 の方 は自身 の寝室 に飾 ったという。シュメール版 では異 なり、ギルガメシュは牡 牛 の肉 を貧 しい子 どもたちに分 け与 え、角 はイシュタルに奉献 された。
粘土 版 7[編集 ]
エンキドゥが
粘土 版 8[編集 ]
粘土 版 9[編集 ]
ギルガメシュは
粘土 版 10[編集 ]
(
そして
粘土 版 11[編集 ]
ギルガメシュは
洪水 物語 [編集 ]
【エア
物語 はウルクへ到着 したギルガメシュの言葉 (第 1の書 版 冒頭 部分 の繰 り返 し)で結 ばれており、不死 希求 の旅 を終 え帰国 したギルガメシュが、ウルクの建設 を果 たしたことが示唆 されている[40]。- ギルガメシュにとって
旅 の成果 はいかなるものであったかに注目 が及 ぶが、不死 を得 た者 が言 うには、永遠 の命 は神 々からの贈 り物 (神 の序列 に加 わっただけ)であってウトナピシュティム自身 があずかり知 ることではなかった。ギルガメシュは若返 りの薬 すら手 に入 れられず、最終 的 に永眠 しているため、旅 の果 てに永遠 の命 を諦 めたとも、最後 には死 の恐怖 を克服 したとも受 け取 れるというが、書 版 によっては旅 の最後 にギルガメシュが「やすらぎを得 た」とあり[41]、旅 の途中 で出会 った人 から「今 ある生 を謳歌 するように」と諭 されていたことからも、何 らかの答 えを見出 したとする説 が有力 視 されている。ただし、そういった感想 は著者 によって表現 、見解 が異 なる傾向 にある。
粘土 版 12[編集 ]
- シュメール
語 版 の現在 よく知 られる題名 は『ギルガメシュとエンキドゥと冥界 』[35]、古代 の書名 を『古 の日々 に』として古 バビロニア時代 (紀元前 2000年 頃 )では学校 の教材 にもなっていた[42]。全文 およそ300行 を越 える興味深 い長編 だが、神話 風 のものとなっていて解釈 が難 しく、前 版 との続 き具合 が不自然 であるために叙事詩 からは完全 に切 り離 されて収録 された。ある意味 では、本編 とは別 の過程 を辿 ったギルガメシュとエンキドゥの別 れの物語 である。
- 『ギルガメシュとエンキドゥと
冥界 』の内容 は以下 の通 りである。天地 が創造 されてしばらく経 ったある時 、ユーフラテス川 のほとりにハラブ(フルップ)[注 14]の木 が生 えていた。木 が南風 により倒 れると、川 の氾濫 が起 きてハラブの木 が流 されていく。これを見 つけたイナンナ(イシュタル)は、椅子 と寝台 にする目的 のため聖 なる園 に植 えた。ところがその木 に蛇 やアンズー、リリトが棲 みついてしまう。イナンナは兄 ウトゥ(シャマシュ)に助 けを求 めるが取 り合 ってもらえず、ギルガメシュを頼 ったところ彼 はすぐさま斧 を持 って蛇 たちを追 いやった。木 は切 り倒 され、イナンナは礼 として木 の根元 からプック(輪 )とメックー(棒 )を作 り、ギルガメシュはこれを受 け取 る[注 15]。ところが、詳細 は不明 だがそれらが大地 の割 れ目 から地下 (=冥界 )に落 ちてしまった。エンキドゥが立候補 して拾 いに向 かうこととなり、ギルガメシュは冥界 におけるあらゆる注意 事項 をい聞 かせるが上手 く伝 わっておらず、エンキドゥはタブーを破 って冥界 から帰 れなくなる。ギルガメシュはエンリルに訴 えたが埒 が明 かず、エンキ(エア)に助 けを求 めると彼 はウトゥを呼 び、最後 は冥界 にいるエンキドゥが、エンキとウトゥの助 けによって地上 に戻 ることができた。その後 はエンキドゥにより冥界 の様子 が語 られるが、プックとメックーについての記述 はない。 文学 性 は「死後 の世界 」と「生死 観 への答 え」であり、第 8版 に見 るエンキドゥの埋葬 儀礼 にその背景 が示 されている。当時 シュメール人 は、人 は死 んだら冥界 に行 くものと考 えていた[42]。死者 が冥界 で歓迎 されることとそこでの暮 らしが難儀 にならないよう、葬儀 は手厚 く執 り行 い、埋葬 後 も死者 へ供物 を捧 げる習慣 があった。そういった故人 を懇 ろに扱 うことの必要 性 を説 いているとされる[42]
叙事詩 に採用 されなかった物語 [編集 ]
『ギルガメシュとアッガ』『ギルガメシュの
ギルガメシュとアッガ[編集 ]
キシュの
ギルガメシュが「
物語 はギルガメシュを讃 えたところで終結 する。『シュルギ王 讃歌 』やシュメール王 名 表 によれば、エンリルが起 こした大 洪水 後 、王権 はキシュに降 りたが、その後 ギルガメシュがアッガに戦勝 したことでウルクに王権 が移 ったと伝 えられている。この背景 を踏 まえて物語 を振 り返 ってみると、『ギルガメシュとアッガ』が史料 的 ・歴史 的 事実 の反映 を伝 えているのは明 らかである。叙事詩 から除外 されたのも、他 の書 版 と比較 して英雄 的 であるというより幾 分 か歴史 的 であるということが影響 した。物語 にはイナンナ(イシュタル)が関与 しており、『ギルガメシュとアッガ』は「論争 詩 」というシュメール文学 の一 分野 に筋立 てされた、論争 的 モチーフで描 かれている。イナンナがギルガメシュとアッガ、どちらが自分 に相応 しいかを軍神 としての視点 から観察 しており、更 にはギルガメシュの手指 が綺麗 であるという観点 から、イナンナが女性 目線 で好 む男性 はギルガメシュの方 ではないだろうか、という彼女 の主観 が示 されている[44]。論争 的 モチーフを介 して都市 と都市 の対立 を語 る作品 であると認 められながらも、『ギルガメシュとアッガ』に安易 に史実 を見出 してはならないとの指摘 もある。ギルガメシュの人間 離 れした英雄 性 を伝 えるという点 では、叙事詩 の枠 を飛 び越 えれば数 あるシュメール文学 の中 で比肩 しても明確 には孤立 しておらず、孤立 していたとしてもそれが史実 の反映 に直結 するとは言 えない。故 に戦争 や征服 に関 する客観 的 な記録 ではなく、ギルガメシュの英雄 的 功業 を讃 えることやイナンナの好意 を競 うことに主題 を見出 すことも可能 である[45]。
ギルガメシュの死 [編集 ]
ギルガメシュは
死者 を弔 うことや副葬品 を用意 することの意味 が間接 的 に伝 えられるが、物語 の主人公 が死 んでしまってはまとまりが悪 いとして、叙事詩 に取 り入 れられることはなかった。代 わりに第 8版 で描 かれたエンキドゥの埋葬 が対応 している[47]。
文学 性 [編集 ]
構成 [編集 ]
- (
前半 )エンキドゥとの出会 い - (
前半 )杉 の森 への遠征 (西方 ):人 は死 すべきものと認識 したうえでの行 い:共同 の旅 ・成功 - (
繋 ぎ)イシュタルの誘惑 ・聖 牛 退治 - (
後半 )エンキドゥとの死別 - (
後半 )不老不死 の追求 (東方 ):人 の死 すべき在 り方 を否定 するための行 い:孤独 な旅 ・失敗
また、
主題 [編集 ]
フンババ
不死 の追究 人生 観 を示 しているという見方 。「人 は死 から免 れることは出来 ない」と認識 すること、すなわち人類 の精神 史 における神話 時代 からの脱却 と理性 の目覚 めを意味 している、というもの[53]。友情 - エンキドゥがギルガメシュの
元 から去 ることで友情 の限界 を描 きたかったわけではなく、友情 の意義 そのものを問 いているという見方 。2人 の友情 が永遠 ではなくとも、異 なる2つの魂 の出会 いという最古 の友情 物語 であった、というもの[54]。 - シャマシュ
信仰 - シャマシュ
信仰 に見 る個人 神 崇拝 の概念 が、叙事詩 に取 り入 れられたとする見方 。ただし後代 になるほど、シャマシュの個人 神 的 性格 は叙事詩 内 で希薄 になっていった[55]。 主人公 の精神 遍歴 - フンババ
征伐 時 の勇敢 な英雄 的 信条 、神格 化 の拒絶 、死 への恐怖 、不死 の追及 と、ギルガメシュの精神 は物語 の進行 とともに変化 するが、最終 的 に何 を感 じ、思 い、学 び、その最期 を迎 えたのか、叙事詩 は答 えない[56]。読者 に残 す教訓 は、上述 のように「人 は死 すべき存在 である」という生死 観 の在 り方 なのかもしれないが、ギルガメシュの不死 希求 が結果 的 に失敗 に終 わったからといって、その旅 が無意味 なものであったとは言 えず、逆 に新 しい人生 観 を得 たことによる日常 への回帰 でもなかった。「あらゆる苦難 の道 を歩 んだ」主人公 自身 の軌跡 こそ『ギルガメシュ叙事詩 』が伝 える事実 であり、ギルガメシュという1人 の英雄 をき上 げた、というもの[56]。
なお、
影響 [編集 ]
ギルガメシュを題材 にした作品 [編集 ]
和書 ・和訳 書 [編集 ]
梅原 猛 /著 『ギルガメシュ』新潮社 、1988年 、ISBN 4-10-303009-7。 -ギルガメシュ伝承 を元 に脚色 された戯曲 文学 (小説 )。矢島 文夫 /訳 『ギルガメシュ叙事詩 』山本 書店 、1965年 。月本 昭男 /訳 『ギルガメシュ叙事詩 』岩波書店 、1996年 、ISBN 4-00-002752-2。矢島 文夫 /訳 『ギルガメシュ叙事詩 』筑摩書房 〈ちくま学芸 文庫 〉、1998年 、ISBN 4-480-08409-6。 -山本 書店 1965年刊 の増 訂 。月本 昭男 /訳 『ギルガメシュ王 の物語 【ラピス・ラズリ版 】』ぶねうま舎 、ISBN 978-4906791019。 -物語 の再 構成 を試 みた原文 からの新編 訳書 。- ゼロからわかるメソポタミア
神話 単行本 かみゆ歴史 編集 部 (著 ) – 2018年 11月17日
マンガ[編集 ]
- ギルガメッシュ (
漫画 )石ノ森 章太郎 :著 1976年
絵本 [編集 ]
- ルドミラ・ゼーマン
著 松野 正子 訳 『ギルガメシュ王 ものがたり』岩波書店 、1993 - ルドミラ・ゼーマン
著 松野 正子 訳 『ギルガメシュ王 のたたかい』岩波書店 、1994 - ルドミラ・ゼーマン
著 松野 正子 訳 『ギルガメシュ王 さいごの旅 』岩波書店 、1995
音楽 作品 [編集 ]
合唱 曲 -
- ボフスラフ・マルティヌー
作曲 : オラトリオ『ギルガメシュ』 (1954 - 1955年 作曲 ) 青島 広志 作曲 : ア・カペラ男声 合唱 とナレーターのための「ギルガメシュ叙事詩 」(1982年 - 1983年 作曲 )[注 18][注 19][注 20]。
- ボフスラフ・マルティヌー
吹奏楽 曲 -
- ベルト・アッペルモント
作曲 :交響 曲 第 1番 『ギルガメシュ』(Symphony No.1 Gilgamesh) - 『ギルガメシュ叙事詩 』を題材 にした交響曲 (2003年 作曲 )。
- ベルト・アッペルモント
テレビゲーム[編集 ]
- バビロニアン・キャッスル・サーガシリーズ
- ナムコ(
後 のバンダイナムコゲームス)から発売 された1986年 のアーケードゲーム『ドルアーガの塔 』を第 1作 とするテレビゲームのシリーズ。世界 観 やキャラクターの名称 、造詣 等 にバビロニア神話 やギルガメシュ叙事詩 の影響 が色濃 い。
脚注 [編集 ]
注釈 [編集 ]
- ^ ルガルバンダのような
祖先 神 としての意味合 いが強 い守護神 とは別 に、個人 を守護 する「個人 神 」。古代 メソポタミアでは、男児 には誕生 と同時 に個人 神 があてがわれた。月本 (1996)pp.194,197,注 p.18) - ^
王 の務 めである神殿 の建設 などによい資材 は欠 かせなかったが、古代 の南部 メソポタミアでは森 が枯渇 していた。 - ^
当時 のシュメール・アッカド地方 の言葉 で「護符 」に当 たる単語 はなく、「アミュレット」と呼 ばれていた。アミュレットは幸運 をもたらしたり厄 を払 うとされる、守護 力 を持 ったいわゆる"魔除 け"のことである。自然 素材 や加工 品 などを用 い、置物 にしたり身 に付 けたりするが、アミュレットとは別 に権力 者 であることを示 す色石 や貴金属 なども護身 に繋 がると信 じられ、身 を飾 ることは身 を守 ることと同義 であった。月本 (2011)pp.16,104 - ^
目的 地 は西方 となっているが、一説 には東方 に位置 するザグロス山脈 にあたる地域 でもあるとされている。岡田 ・小林 (2008)p.239 - ^ または13の
風 。月本 (1996) p.59 - ^ イシュタルの
悪癖 が明 らかにされる貴重 なシーンだが、このときギルガメシュが発 した雑言 の数々 は、ほとんどが推定 的 な訳 となっている。矢島 (1998)p.244 - ^
讃 えられるのはギルガメシュのみであり、それを本人 が望 んだ、という解釈 もあり、そういったことから「友 と平等 に扱 われなかった」としてエンキドゥが嘆 く例 もあるが(月本 p.p80,86 / pp.332-336)、2人 が共 に讃 えられエンキドゥがギルガメシュに嫉妬 するような描写 も特 に見当 たらない書 版 も多 い。 - ^
普通 、シュメールにおける地上 の7大神 は天神 アヌ・風神 エンリル・水神 エアを筆頭 に、月 神 シン・太陽 神 シャマシュ・金星 神 イシュタル・大地 母 神 ニンフルサグを指 すが、本件 で集 まったと確認 できるのはアヌ・エンリル・エア・シャマシュの4名 のみ。 - ^
蜜 (蜂蜜 )はその特性 から、古代 文明 の重要 な儀礼 で頻繁 に使用 されたことが知 られている。 - ^ これは、
大層 な埋葬 儀礼 を施 すことで死者 が迷 わず冥界 へ赴 けるように、の意 。月本 (1996)p.101 - ^ アッカド
語 の「医術 文書 」に皮膚 変色 を患 った者 が快復 した際 の儀礼 として、これと似 たような叙述 がある。曰 く「患者 は包帯 を焼却 し、太陽 神 シャマシュに蜜 とバターの入 った菓子 らを供 え、シャマシュの前 に立 ち、そして感謝 する」。月本 (2011)p.35 - ^ マシュ(またはマーシュ)はアッカド
語 で双生児 の意 。ここではシャマシュが出入 りする日 の出 の山 のこと。矢島 (1998)p.192,月本 (1996)p.328。 - ^ 2つの
山 の間 は太陽 (冥界 を巡 り日 の出 と共 に現 れるシャマシュ)が昇 ってくる場所 、つまり、マシュ山 の麓 が冥界 に達 していることを示 している。月本 (1996)p.107 - ^
樫 の一種 (月本 1996 p.295) - ^ この、
楽器 (太鼓 と撥 )或 いは遊具 (フープ・ローリング)とされる(アッシリア学者 ベンノ・ランズベルガーによる仮説 )、エルラグ(プック)とエキドマ(メックー)は、ギルガメシュが作 ったとも言 われる。岡田 ・小林 (2008)p.244(器具 名 は月本 1996 p.295による) - ^ ギルガメシュは「(ウルクの
守護神 であり軍神 でもある)イシュタルを信頼 し、キシュに立 ち向 かう」ことを決心 した。杉 (1978)p.40 - ^ ギルガメシュはかつて
庇護 を求 めてアッガの元 へ亡命 し、アッガはそれを受 け入 れたという。杉 (1978)p.42 - ^
歌 の部分 は矢島 文夫 の訳詩 (筑摩 世界 文学 大系 Ⅰ古代 オリエント集 )に、語 りの部分 は山室 静 の著書 (児童 世界 文学 全集 世界 神話 物語 集 )に基 づいた作品 。 - ^ 1982
年 に「出発 の巻 」が、1983年 に「帰郷 の巻 」が、それぞれ関西学院 グリークラブにより初演 されたが、当時 はそれぞれ「前編 」「後編 」と題 されていた。 - ^ 1992
年 に、合唱 /関西学院 グリークラブ指揮 /北村 協 一 ナレーション/青島 広志 にて、東芝 EMIよりCDが発売 されている。
出典 [編集 ]
- ^ a b c d
矢島 (1998)p.10 - ^
月本 (1996)p.3 - ^ “ギルガメシュ
叙事詩 研究 の第一人者 に本当 のギルガメシュ像 について聞 いてみた”. Pokke (2019年 ). 2020年 4月 12日 閲覧 。 - ^ Hay, Noelle. "Evolution of a sidekick," SFFWorld.com (2002).
- ^ George (2003). The Babylonian Gilgamesh Epic. Oxford University Press
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参考 文献 [編集 ]
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