索さく餅もち

索さく餅もち（さくべい）とは、唐とう代だいの中国ちゅうごくから奈良なら時代じだいに日本にっぽんに伝つたわった唐から菓子かしの1つで素麺そうめんの祖そとなったとも言いわれている食品しょくひんのこと。縄なわ状じょうの形状けいじょうより麦むぎ縄なわ（むぎなわ）とも呼よぶ。江戸えど時代じだい中期ちゅうきに姿すがたを消けしたともいわれるが、現在げんざいでも奈良ならなど各地かくちで、しんこ菓子かし（しんこ、しんこ団子だんご、しんこ餅もち）に姿すがたを変かえて存続そんぞくしている(※ただし現在げんざいしんこ餅もちと呼よばれるものはほとんどが小麦粉こむぎこではなく上新かみしん粉こを用もちいて作つくられたものである)。現代げんだいのチュロスがその形態けいたいが近ちかい。また中国ちゅうごく大陸たいりくでは大型おおがた化かし油あぶら条じょうという揚あげパンに発展はってんした。

来歴らいれき

後こう漢かん末期まっきの訓詁くんこ書しょ『釈しゃく名めい』に索さく餅もちの項こうがあり、それによれば、索さく餅もちという名なはその形状けいじょうによって名ながついたとある。中国ちゅうごく起源きげんの食品しょくひんであり、実態じったいは諸説しょせつあるが、小麦粉こむぎこと米べい粉こを水みずで練ねり、塩しおを加くわえ縄なわ状じょうにした食品しょくひんで、乾燥かんそうさせて保存ほぞんし、茹ゆでて醤ひしお・未み醤ひしお・酢すを付つけて食たべたとみられている。ひねった形かたちの揚あげ菓子かしの唐から菓子かしの一いち種しゅという説せつもあり、現代げんだいでも各地かくちの神社じんじゃで神饌しんせんとして使つかわれている。『延喜えんぎ式しき』によれば、他たにごま油あぶらを和あえたり、ゆでアズキに付つけて食たべたとみられている。

奈良なら時代じだいには索さく餅もちはコメの端境期はざかいきを乗のり越こえる夏なつの保存ほぞん食しょくであり、季き節ぶし商品しょうひんだった。『正せい倉くら院いん文書ぶんしょ』には平城京へいじょうきょうにおける索さく餅もちの取引とりひききの記録きろくが残のこっている。

平安へいあん時代じだいに入はいり、宇多天皇うだてんのうの頃ころ（在位ざいい887 - 897）七夕たなばたや盂蘭盆うらぼんといった、民間みんかんで行おこなわれていた祭事さいじや風習ふうしゅうが宮中きゅうちゅう行事ぎょうじに取とり入いれられた。七夕たなばたの節供せっくでは中国ちゅうごくの故事こじに倣ならって瘧おこり（おこり）病びょう除のけを祈願きがんして索さく餅もちを食たべた。他ほかにも元旦がんたんの歯は固がための儀ぎ、相撲すもう節ぶし会かいなどハレの日ひのい事わいごとの食品しょくひんとして用もちいられた。宮中きゅうちゅうでは内膳ないぜん司しで作つくられて天皇てんのうに供きょうせられ、臣下しんかにも給きゅうせられた。索さく餅もちは平安京へいあんきょうの東西とうざい市しでも売うられていた。江戸えど時代じだいの七夕たなばたでは索さく餅もちに代かわってそうめんが供そなえられるようになった。

奥村おくむら彪ぴょう生せいは自著じちょにおいて、従来じゅうらい提示ていじされてきた索さく餅もちはうどんや麻あさ花はなのような食品しょくひん・菓子かしといった説明せつめいが多おおいが、索さく餅もちは手てもみ・手て延のべで作つくる細ほそくて長ながい乾麺かんめんで、塩しおと小麦粉こむぎこのみで作つくる上物じょうものと米べい粉こを10 - 20%混まぜた下物おろしもの2種類しゅるいがあり、油あぶらやデンプンではなく、米べい粉こを打うち粉ことして使つかう。今日きょう索さく餅もちを受うけ継ついでいるのは稲庭いなにわうどんである、と述のべている。

奈良なら県けんでは索さく餅もちが「しんこ」と呼よばれる団子だんごになり、昔むかしは、うるち米まいを臼うすで挽ひいて米べい粉こにして各かく家庭かていで作つくられた。現在げんざいも注文ちゅうもんで「しんこ」を作つくる和菓子わがし店みせがいくつかあり、婚礼こんれい、祭礼さいれい、出産しゅっさん祝いわい、仏事ぶつじに供そなえられ、お下さがりが配くばられる。い事わいごとには赤あかと緑みどりの線せん、仏事ぶつじには黄色おうしょくと緑みどりの線せんを色いろづけすることが多おおい。また、奈良なら市しにある大安寺だいあんじの『正せい御影みかげ供きょう（しょうみえく）』で行おこなわれる柴しば灯とう大だい護摩ごまでは、米べいの粉こなを練ねり、花はなや豆まめを形作かたちづくった飾かざりとともに、「しんこ」と呼よばれる供そなえ物ものが作つくられ、参拝さんぱい者しゃに配くばられる。

関連かんれん項目こうもく

• クァベギ
• 麻あさ花はな

参考さんこう文献ぶんけん

• 五島ごしま邦治くにじ「索さく餅もち」『平安へいあん時代じだい史し事典じてん』角川書店かどかわしょてん、1994年ねん、p.1002 ISBN 978-4-04-031700-7
• 奥村おくむら彪ぴょう生せい『日本にっぽんめん食しょく文化ぶんかの一いち三さん〇〇年ねん』（増補ぞうほ版ばん第だい1刷さつ）農のう山やま漁村ぎょそん文化ぶんか協会きょうかい、2014年ねん。ISBN 9784540111730。