豊後ぶんご国こく風土記ふどき

『豊後ぶんご国こく風土記ふどき』（ぶんごのくにふどき）は、奈良なら時代じだい初期しょきに編纂へんさんされた豊後ぶんご国こく（ほぼ現在げんざいの大分おおいた県けんに相当そうとう）の風土記ふどきである。現存げんそんする5つの風土記ふどきのうちのひとつ。

概要がいよう

『豊後ぶんご国こく風土記ふどき』の正確せいかくな成立せいりつ年代ねんだいは不ふ詳しょうであるが、『日本書紀にほんしょき』中ちゅうの景けい行ぎょう紀きとほぼ一致いっちする記事きじが含ふくまれること等とうから、720年ねん以降いこうで、遅おそくとも740年ねん頃ごろまでの間あいだであると考かんがえられる。近年きんねんの研究けんきゅうでは、形態けいたいが類似るいじする『出雲いずも国こく風土記ふどき』が天平てんぺい5年ねん（733年ねん）に完成かんせいしたとされることから、『豊後ぶんご国こく風土記ふどき』も同おなじく天平てんぴょう5年ねん頃ごろに成立せいりつしたとの説せつが有力ゆうりょくである。

編者へんしゃも不ふ詳しょうであるが、大宰府だざいふが深ふかく関かかわっていたと推定すいていされる。一説いっせつでは、天平てんぴょう4年ねん（732年ねん）に西海にしうみ道みち節度せつど使しとして大宰府だざいふに着任ちゃくにんした藤原ふじわら宇合が、九州きゅうしゅうの他ほかの国くにの風土記ふどきと合あわせてわずか10か月げつほどで完成かんせいさせたともいわれる。

文献ぶんけんとしての体裁ていさいを保たもつ数少かずすくない風土記ふどきの1つであり、その存在そんざいは『出雲いずも国こく風土記ふどき』とともに近世きんせい以降いこう確認かくにんされていた。しかし、現存げんそんする写本しゃほんは、巻首かんしゅと各かく郡ぐん首くびはそろっているものの、他たは欠落けつらくした部分ぶぶんが多おおい。そのため、主おもに抄本しょうほんと考かんがえられ、文ぶんの量りょうも現存げんそんする5つのうちでは最もっとも少すくない。また、抄本しょうほんであること、『日本書紀にほんしょき』の記述きじゅつと一致いっちする記事きじが含ふくまれること等とうから、後世こうせいの偽にせ撰せんとする説せつがある。

『豊後ぶんご国こく風土記ふどき』には現在げんざいまでに100種しゅ以上いじょうの写本しゃほんが確認かくにんされているが、その祖そ本ほんは1980年ねんに存在そんざいが確認かくにんされた冷泉れいせん家かに伝つたわる書写しょしゃ本ほんであるとされる。この書写しょしゃ本ほんには永えい仁ひとし5年ねん（1297年ねん）の奥書おくがきがある。『豊後ぶんご国こく風土記ふどき』が広ひろく世よに流布るふされるようになったのは、寛政かんせい12年ねん（1800年ねん）に刊行かんこうされた荒木田あらきだ久老ひさおゆによる板本はんぽんと、文化ぶんか元年がんねん（1804年ねん）に刊行かんこうされた岡おか藩はんで『豊後ぶんご国こく志こころざし』の編者へんしゃとして知しられる唐橋からはし君くん山やま（唐橋からはし世よ済ずみ）による注釈ちゅうしゃく本ほん『箋釈豊後ぶんご風土記ふどき』に拠よるところが大おおきいとされる。

構成こうせいと内容ないよう

巻首かんしゅには国名こくめいの由来ゆらいが記載きさいされ、それに続つづいて、日田ひた、玖珠くす、直入なおいり、大野おおの、海部かいふ、大分おおいた、速見はやみ、国くに埼の各かく郡ぐんの名前なまえの由来ゆらい及および各地かくちの伝承でんしょう等とうが記載きさいされている。地名ちめいはその由来ゆらいを景けい行ぎょう天皇てんのうの九州きゅうしゅう巡幸じゅんこうに求もとめたものが多おおい。また土蜘蛛つちぐもの記述きじゅつを多おおく含ふくむことも大おおきな特徴とくちょうと言いえる。

国名こくめいの由来ゆらい

景けい行ぎょう天皇てんのうの命いのちで国くにを治おさめていた菟うさぎ名手めいしゅ（うなで）が豊前ぶぜん国こく仲なか津つ郡ぐん（なかつぐん）（現在げんざいの福岡ふくおか県けん行橋ゆくはし市し、みやこ町まちの一部いちぶ）を訪おとずれたところ、白鳥はくちょうが飛来ひらいし、はじめは餅もちに化かし、その後ご、冬ふゆにもかかわらず何なん千せん株かぶもの芋いも草そう（里芋さといも）に化かして茂しげった。菟うさぎ名手めいしゅがこれを天皇てんのうに報告ほうこくしたところ、天皇てんのうは「天てんの瑞みず物ぶつ、土どの豊ゆたか草くさなり」と喜よろこび、この地ちを「豊国ほうこく」と名付なづけた。これが後のちに二ふたつの国くにに分わかれて豊後ぶんごとなった。

郡ぐんとその名前なまえの由来ゆらい

• 日田にった郡ぐん（ひたのこおり） - 景けい行ぎょう天皇てんのうが巡幸じゅんこうした際さいに、この地ちで久津ひさつ媛ひめ（ひさつひめ）という神かみが人ひとと化かして迎むかえたことから久津ひさつ媛ひめ郡ぐんと名付なづけられたのが訛なまった。
• 球たま珠たま郡ぐん（くすのこおり） - 昔むかし、大おおきな樟くすのきがあったことから名付なづけられた。
• 直入なおいり郡ぐん（なおりのこおり） - 昔むかし、真まっ直すぐに伸のびた大おおきな桑くわの樹きがあったことから直ちょく桑くわ（なほくは）といったのが訛なまった。
• 大野おおの郡ぐん（おおののこおり） - 大だい部分ぶぶんが原野げんやであったことから名付なづけられた。
• 海部かいふ郡ぐん （あまのこおり） - 海人あまが多おおく住すんでいたことから名付なづけられた。
• 大分おおいた郡ぐん（おおいたのこおり） - 景けい行ぎょう天皇てんのうが巡幸じゅんこうした際さいに、地形ちけいを見みて、広ひろく大おおきいので碩田せきでん国こく（おほきたのくに）と名付なづけたのが訛なまった。
• 速見はやみ郡ぐん（はやみのこおり） - 景けい行ぎょう天皇てんのうが巡幸じゅんこうした際さいに、この地ちで女王じょおうの速はや津つ媛ひめ（はやつひめ）に迎むかえられたことから名付なづけられた。
• 国くに埼郡（くにさきのこおり） - 景けい行ぎょう天皇てんのうが海路かいろで巡幸じゅんこうした際さいに、「彼かれ（そ）の見みゆるは、若わか（けだ）し、国くにの埼（さき）ならむ」と言いったことに因ちなんで名付なづけられた。

なお、各かく郡ぐんの読よみは、『和名わみょう類聚るいじゅう抄しょう』に記載きさいされた読よみを現代げんだい仮名遣かなづかいで表記ひょうきしたものである。

その他たの主おもな記事きじ

• 五ご馬山まやまの五ご馬うま姫ひめ（いつまひめ）、禰宜ねぎ野のの打だ猴（うちさる）・八田はった（やた）・國くに摩ま侶、網あみ磯野いその（あみしの）の小竹こだけ鹿しか奥おく（しのかおさ）・小竹こだけ鹿しか臣しん（しのかおみ）、鼠ねずみの磐いわ窟くつ（いわや）の青あお・白しろ等とうの土蜘蛛つちぐも征伐せいばつの記事きじが多数たすう見みられる。
• 現在げんざいの別府べっぷ温泉おんせんの「赤湯あかゆの泉いずみ（赤湯あかゆ泉いずみ）」（現在げんざいの血ちの池いけ地獄じごく）、「玖倍理り（くべり）湯ゆの井い」（現在げんざいの鉄輪てつりん温泉おんせんの辺あたりを指さすと考かんがえられている。）をはじめとする温泉おんせんについての記載きさいが多おおく見みられる。

外部がいぶリンク

• 筒井つつい延のべ年ねん本ほん「豊後ぶんご国こく風土記ふどき」の翻刻ほんこくと若干じゃっかんの問題もんだい (PDF) 西別府にしべっぷ元日がんじつ、広島大学ひろしまだいがく文学部ぶんがくぶ内海うつみ文化ぶんか研究けんきゅう施設しせつ「内海うつみ文化ぶんか研究けんきゅう紀要きよう」第だい28号ごう31-60ページ - 筒井つつい延のべ年ねん本ほん『豊後ぶんご国こく風土記ふどき』全文ぜんぶんが収録しゅうろくされている。
• 『豊後ぶんご国こく志こころざし：附ふ・箋釈豊後ぶんご風土記ふどき』 - 国立こくりつ国会図書館こっかいとしょかんデジタルコレクション（二に豊ゆたか文献ぶんけん刊行かんこう会かい版ばん、1931年ねん） - 唐橋からはし君くん山やまによる注釈ちゅうしゃく本ほん『箋釈豊後ぶんご風土記ふどき』及および『豊後ぶんご国こく風土記ふどき』和訓わくん全文ぜんぶんを収録しゅうろくする。