賽銭さいせん

一般いっぱん的てきな賽銭さいせん箱ばこ

賽銭さいせん（さいせん）とは、祈願きがん成就じょうじゅのお礼れいとして神かみや仏ふつに奉納ほうのうする金銭きんせんのこと。元もとは金銭きんせんではなく幣帛へいはく・米べいなどを供そなえた。

「賽さい」は「神かみから福ぶくを受うけたのに感謝かんしゃして祭まつりる」の意味いみ。「祭まつる・祀まつる」の語義ごぎは「飲食いんしょく物ぶつなどを供そなえたりして儀式ぎしきを行おこない、神かみを招まねき、慰なぐさめたり祈願きがんしたりする」。

概要がいよう

散銭ばらせんともいうが、金銭きんせんを供そなえるようになったのは後世こうせいであり、古ふるくは米べいが神仏しんぶつに供そなえられた。その形態けいたいは、神前しんぜんや仏前ぶつぜんに米こめを撒まく「散米さんまい」「散ち供きょう・御お散ち供きょう・打だ撒」や、洗あらった米こめを紙かみに包つつんで供そなえる「おひねり」だった。金銭きんせんが供そなえられるようになったのは中世ちゅうせい以降いこうであり、庶民しょみんに貨幣かへい経済けいざいと社寺しゃじへの参詣さんけいが浸透しんとうし始はじめた時期じきである。そして、参詣さんけいが一般いっぱん化かしたことで都市としの風習ふうしゅうとして、賽銭さいせんをあげることが流行りゅうこうになった。しかし、現在げんざいのように賽銭さいせん箱ばこが置おかれるようになったのは近世きんせい以降いこうである。また、地域ちいきによっては長ながらく米べいが供そなえられていた。

現代げんだいの日本にっぽんにおいては初詣はつもうでで特とくに多おおく納おさめられ、寺社じしゃの維持いじ・運営うんえいの重要じゅうような財源ざいげんとなっている。参拝さんぱい客きゃくにとって経済けいざい的てき負担ふたんが少すくなく少額しょうがく硬貨こうかが入いれられることも多おおいが、近年きんねんでは、寺社じしゃにとっては金融きんゆう機関きかんへの入金にゅうきん手数料てすうりょうが負担ふたんになる問題もんだいが起おきており、却かえって赤字あかじになる場合ばあいもある。特とくに一いち円えん硬貨こうかに関かんしては、金融きんゆう機関きかんに大量たいりょうに入金にゅうきんしようとした場合ばあい、その大量たいりょうの一いち円えん硬貨こうかの総額そうがくが手数料てすうりょうに負まけてしまう場合ばあいが多おおい。そのため2022年ねん頃ころから、神社じんじゃが主おもに商店しょうてん等とうの事業じぎょう者しゃ向むけに金融きんゆう機関きかんを介かいさず無む手数料てすうりょうで賽銭さいせんを利用りようした両替りょうがえサービス（その利用りよう者しゃは紙幣しへい等とうを出だし、釣銭つりせん用よう等とうとして棒ぼう金きんの形かたちで硬貨こうかを受うけ取とる）を行おこなうケースが各地かくちで相次あいついでいる。

各国かっこくの賽銭さいせん

日本にっぽん

日本にっぽんの賽銭さいせん箱ばこ

概要がいよう

参拝さんぱい者しゃは賽銭さいせん箱ばこに金銭きんせんを投入とうにゅうした後のち、神社じんじゃなら2拝はい2拍手はくしゅ1拝はい、仏教ぶっきょう寺院じいんなら合掌がっしょうし、目めを閉とじながら神仏しんぶつへの願ねがい事ごとやお礼れいを心しんの中なかで唱となえる。

賽銭さいせんは願ねがいを聞きいてもらう対価たいかではないとする説せつもあり、『日本書紀にほんしょき』の「罪つみを素す戔嗚尊みことに負おわせ、贖罪しょくざいの品々しなじなを科かして差さし出ださせた」というところから自身じしんの罪つみを金銭きんせんに託たくして祓はらうとする説せつ（浄罪じょうざい箱ばこ）と、賽銭さいせん箱ばこに硬貨こうかを入いれる音おとで罪つみ祓はらう（鈴すずと同おなじ）とする説せつがある。

賽銭さいせん箱ばこが設置せっちされていない、野外やがいや祠ほこらの地蔵じぞうや道祖神どうそじんにも、時ときおり参拝さんぱい者しゃによって賽銭さいせんが置おかれることがある。博物館はくぶつかんでは展示てんじしている仏像ぶつぞう・神像しんぞうに「賽銭さいせんをあげないでください」と注意ちゅうい書がきしてある場合ばあいもある。

歴史れきし

古来こらい神仏しんぶつに祈願きがんする場合ばあい、主おもと米こめを紙かみに包つつみ「紙かみ捻ねじり、おひねり」として奉納ほうのうした。貨幣かへい経済けいざいの進展しんてんに伴ともない米まい・雑穀ざっこくよりも銭ぜに貨が増ふえ、しかもそのまま神前しんぜんに置おかれたので自然しぜん発生はっせい的てきに銭ぜに貨を受うける賽銭さいせん箱ばこが生うまれた。戦国せんごく時代じだいの僧侶そうりょ快かい元もとの日記にっきである『快かい元もと僧都そうず記き』によると、1540年ねん（天文てんもん9年ねん）に散銭ばらせん櫃ひつ（さんせんびつ）なる箱はこが鶴岡つるおか八幡宮はちまんぐうに置おかれたという記述きじゅつがあり、これが賽銭さいせん箱ばこが記録きろくに残のこる日本にっぽん最古さいこのものとされる。室町むろまち時代ときよに伊勢いせ参宮さんぐうや本山もとやま詣まいが庶民しょみんに広ひろがり、賽銭さいせんを奉たてまつる風習ふうしゅうが定着ていちゃくしたといわれる。

賽銭さいせん箱ばこ

元旦がんたん未明みめいの明治めいじ神宮じんぐうの賽銭さいせん箱ばこ。初詣はつもうで時期じきの参拝さんぱい客きゃくに対応たいおうするため、拝殿はいでんの前まえの敷地しきちを区切くぎり賽銭さいせん入いれとしている。

通常つうじょう、賽銭さいせん箱ばこの形状けいじょうは長方形ちょうほうけいで、中央ちゅうおうに向むかって2枚まいの板いたが斜ななめに取とり付つけられた構造こうぞうになっており、多おおくの場合ばあい、上部じょうぶは桟（梯子はしご状じょう）で覆おおわれて中なかの金銭きんせんに手てが届とどかない構造こうぞうになっている。最近さいきんでは鍵かぎ付づけで引ひき出だし式しきのものが多おおい。屋根やね付づけあるいは脚あし付づけのものもある。材質ざいしつは、圧倒的あっとうてきに木製もくせいが多おおい。初詣はつもうでをする人ひとが多おおい社寺しゃじでは、正月しょうがつ期間きかんだけ特大とくだいの賽銭さいせん箱ばこを設もうける。

賽銭さいせん箱ばこの大おおきさや造つくりは様々さまざまで、工芸こうげいとして優すぐれたものもあることに注目ちゅうもくしたインテリアデザイナーの平川ひらかわ義浩よしひろは「賽銭さいせん箱ばこデザイン学会がっかい」を立たち上あげた。

賽銭さいせん箱ばこの上うえは腕うでが入いれられないよう細ほそく区切くぎられていることが多おおいが、無理むりにこじ開あけて金銭きんせんを盗ぬすみ出だしたり、賽銭さいせん箱ばこをそのまま持もち出だしたりする被害ひがい（いわゆる「賽銭さいせん泥棒どろぼう」）もあるため、そういった被害ひがいに遭あわないために金属きんぞく製せいの賽銭さいせん箱ばこなども使用しようされている。

2010年代ねんだい後半こうはんからは、一部いちぶの神社じんじゃや寺院じいんにおいて、賽銭さいせん泥棒どろぼう防止ぼうしや外国がいこく人じん観光かんこう客きゃくへの対応たいおうを目的もくてきとして、電子でんしマネーやQR・バーコード決済けっさいなど、キャッシュレスによる賽銭さいせんが試行しこうされている。この場合ばあいの賽銭さいせん箱ばこは、白木しらきの箱はこに電子でんしマネーの決済けっさい端末たんまつやタブレットが設置せっちされたものとなる。なお、「お布施ふせは財物ざいぶつに託たくして、信者しんじゃの心しんや魂たましいを仏様ほとけさまに捧ささげるものであり、対価たいか取引とりひきの営業えいぎょう行為こういとは根本こんぽん的てきに異ことなるキャッシュレスによるお布施ふせは不適切ふてきせつである」として導入どうにゅうに反対はんたいする意見いけんもある。

賽銭さいせん箱ばこ形がたの貯金ちょきん箱ばこが観光かんこう地ちでよく売うられている。

中国ちゅうごく大陸たいりく、台湾たいわん、香港ほんこん

中国ちゅうごく大陸たいりくや香港ほんこん、台湾たいわんにある仏教ぶっきょうや道教どうきょうの堂どうでもお金かねを入いれる箱はこが置おかれている。「香油こうゆ錢ぜに」と呼よばれ、線香せんこう、蝋燭ろうそく代だいという位置いちづけである。また、実際じっさいに線香せんこう、蝋燭ろうそく、紙かみ銭ぜになどを受うけ取とる代価だいかとして支払しはらうこともある。台湾たいわんでは、日本語にほんごからの借用しゃくよう語ごで「寄付きふ金きん」と呼よばれることもあり、そのための「捐錢箱ばこ」が置おかれていることもある。貯金ちょきん箱ばこのように横よこに細ほそい口くちが上うえに付ついた箱はこがほとんどで、投なげ入いれるものではない。

韓国かんこく

韓国かんこくの寺院じいんには「福田ふくだ函はこ」「佛ふつ錢函ぜにばこ」と呼よばれる賽銭さいせん箱ばこが置おかれている場合ばあいがある。「卍まんじ」だけを書かいている場合ばあいもある。いずれも郵便ゆうびんポストのように横よこから入いれるものが多おおい。

英語えいご圏けん

キリスト教会きょうかいへの寄付きふ（寄進きしん）としての側面そくめんを持もっていることから、英語えいごではdonation、offerなどと訳やくされる。入いれる箱はこは奉献ほうけん箱ばこと呼よばれる。

詳細しょうさいは「en:Offertory」を参照さんしょう

関連かんれん項目こうもく

• トレヴィの泉いずみ#い伝いつたえ：硬貨こうかを投なげ入いれると願ねがいがかなうとされる。日本にっぽんでも観光かんこう客きゃくが水みず場じょうに硬貨こうかを入いれる習慣しゅうかんができているスポットがある。
• 投なげ銭せん