過料かりょう

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過料かりょうかりょうとは、日本にっぽんにおいて金銭きんせん徴収ちょうしゅうする制裁せいさいひとつ。くにまたは公共こうきょう団体だんたい行政ぎょうせいじょう義務ぎむ違反いはんたいして金銭きんせんばつのうち、刑法けいほううえ刑罰けいばつ以外いがいのものをす。刑罰けいばつである科料かりょう同音どうおん異義いぎになるため、過料かりょうを「あやまちりょう」、科料かりょうを「とがりょう」とそれぞれんで区別くべつすることがある[1]

ただし、明治維新めいじいしんのち近代きんだいてき刑法けいほうてん確立かくりつする以前いぜんにおいて、軽微けいび財産ざいさんけいを「過料かりょう」としょうしていた(「科料かりょう」という言葉ことば存在そんざいしていなかった)事例じれいがあるため[2]注意ちゅうい必要ひつようとする。

概要がいよう[編集へんしゅう]

過料かりょうさだめはおおいが、その性質せいしつ一様いちようでなく、適用てきようされる法理ほうり手続てつづき数多かずおおくある。おおきくつぎの3しゅけられる[1][3]

  1. 秩序ちつじょばつとしての過料かりょう
  2. 執行しっこうばつとしての過料かりょう
  3. 懲戒ちょうかいばつとしての過料かりょう

いずれにしろ、過料かりょう刑罰けいばつではないので、刑法けいほう総則そうそく刑事けいじ訴訟そしょうほう直接ちょくせつ適用てきようされず、過料かりょうせられた事実じじつ前科ぜんかにはならない[3][4]。よって、納付のうふしない場合ばあいかわけい処分しょぶんろう役場やくば留置りゅうち)も当然とうぜんなく、財産ざいさん差押さしおさえがなされる場合ばあいがあるのみである。ばつ手続てつづき一般いっぱんほうとしては、事件じけん手続てつづきほう規定きていと、地方ちほう自治じちほう255じょうの3規定きていがあり[1]、ほかにも個別こべつ法令ほうれいにより独自どくじ手続てつづきさだめられていることもおおい。また、裁判所さいばんしょ手続てつづき関与かんよしてすこともおおい。

事件じけん手続てつづきほう平成へいせい23ねん5がつ25にち法律ほうりつだい51ごう

  • だい119じょう  過料かりょう事件じけん過料かりょうについての裁判さいばん手続てつづきかか事件じけんをいう。)は、法令ほうれい特別とくべつさだめがある場合ばあいのぞき、当事とうじしゃ過料かりょう裁判さいばんがされた場合ばあいにおいて、その裁判さいばんけるものとなるものをいう。以下いかこのへんにおいておなじ。)の普通ふつう裁判さいばんせき所在地しょざいち管轄かんかつする地方裁判所ちほうさいばんしょ管轄かんかつぞくする。

徴収ちょうしゅうされた金銭きんせん過料かりょうした地方自治体ちほうじちたいもしくはくに機関きかん法務省ほうむしょう)の収入しゅうにゅう歳入さいにゅう)となる。

秩序ちつじょばつとしての過料かりょう[編集へんしゅう]

秩序ちつじょばつとしての過料かりょうには、民事みんじじょう義務ぎむ違反いはんたいするもの、民事みんじ訴訟そしょうじょう義務ぎむ違反いはんたいするもの、行政ぎょうせいじょう義務ぎむ違反いはんたいするもの、地方ちほう公共こうきょう団体だんたい条例じょうれい規則きそく違反いはんたいするものがある。くにまたは地方ちほう公共こうきょう団体だんたい行政ぎょうせいじょうかる禁令きんれいおかしたものたいしてする金銭きんせんばつ[5]

執行しっこうばつとしての過料かりょう[編集へんしゅう]

執行しっこうばつとは、代替だいたいてき作為さくい義務ぎむまた作為さくい義務ぎむ履行りこうたいして、一定いっていがく過料かりょうすことを予告よこくして心理しんりてき強制きょうせいくわえ、間接かんせつてき義務ぎむ履行りこううながすものである[1]予告よこくしてもなお義務ぎむ履行りこうがなされないときは、決議けつぎしょ交付こうふして納付のうふめいじ、これにしたがわないときは国税こくぜい滞納たいのう処分しょぶんれいにより、当該とうがい過料かりょう強制きょうせい徴収ちょうしゅうすることとなる。

この執行しっこうばつは、刑事けいじばつ比較ひかくして実効じっこうせい抑止よくし効果こうかうすいとされ、現行げんこう法律ほうりつにおいて規定きていされているれいは、砂防さぼうほう36じょうのみである。

砂防さぼうほう明治めいじ30ねん3がつ30にち法律ほうりつだい29ごう

  • だいさんじゅうろくじょう  私人しじんニ於テ此ノ法律ほうりつわかハ此ノ法律ほうりつもとキテはつスル命令めいれい義務ぎむだるルトキハ国土こくど交通こうつう大臣だいじんわか都道府県とどうふけん知事ちじ一定いってい期限きげんしめせわか期限きげんない履行りこうセサルトキわか履行りこうスルモ不充分ふじゅうぶんナルトキハひゃくえん以内いないニ於テ指定していシタル過料かりょうしょスルコトヲ予告よこくシテ其ノ履行りこういのちスルコトヲとく

きゅう河川かせんほう53じょうには、1965ねん昭和しょうわ40ねん)4がつ1にち廃止はいしまで執行しっこうばつのこされていた。

懲戒ちょうかいばつとしての過料かりょう[編集へんしゅう]

懲戒ちょうかいとは、規律きりつ維持いじのため、義務ぎむ違反いはんたい制裁せいさいすことをいう。そのれいとしては、裁判官さいばんかん分限ぶげんほう2じょう公証こうしょうじんほう80じょう2ごうなどがげられる。なお、裁判さいばんいん制度せいどにおいて裁判さいばんいんまた裁判さいばんいん候補者こうほしゃ)の虚偽きょぎ記載きさい出頭しゅっとう義務ぎむ違反いはんとうされる過料かりょう裁判さいばんいん参加さんかする刑事けいじ裁判さいばんかんする法律ほうりつ111じょう、112じょう)は、この懲戒ちょうかいばつとしての過料かりょうたるとほぐされる。

前者ぜんしゃは30まんえん以下いか後者こうしゃは10まんえん以下いか過料かりょう規定きていしている。

法制ほうせいにおける過料かりょう[編集へんしゅう]

ところが、中世ちゅうせい近世きんせい日本にっぽんでは軽微けいび財産ざいさんけいして「過料かりょう」と呼称こしょうしている。これは現在げんざい科料かりょう罰金ばっきん相当そうとうする処分しょぶん刑罰けいばつふくんでおり、刑罰けいばつの1しゅにあたるものである。

律令りつりょうほうにおいて罰金ばっきんする贖銅制度せいど存在そんざいしていたが、律令りつりょうほう衰退すいたいして刑罰けいばつゆるやかになると軽微けいび犯罪はんざいを「過怠かたい」としょうして実刑じっけいわりに金銭きんせんなどを徴収ちょうしゅうして神社じんじゃ寺院じいん道路どうろ橋梁きょうりょうなどの修繕しゅうぜん費用ひよう一部いちぶとすることで神仏しんぶつ社会しゃかいたいする反省はんせいあかしとした。このさい支払しはらわれた金銭きんせんを「過怠かたいぜに」「過怠かたいりょう」などとしょうし、のちにこれをりゃくして「ぜに」「過料かりょう」ともんだ。成敗せいばい式目しきもくだい15じょうにおいて裁判さいばん虚偽きょぎ証言しょうげんしたことが発覚はっかくしたものたいして寺社じしゃ修理しゅうりめいじており、これをおぎなうためにされた追加ついかほうにおいても、「代物しろもの」(ひろしもと2ねん1244ねんだい231じょう)・「過料かりょう」(けんちょう5ねん1253ねんだい292じょう)の名称めいしょうもちいられている。「過料かりょう」や「過怠かたいぜに」またはそれにるいする内容ないよう財産ざいさんけい荘園しょうえんにおける本所ほんじょほう戦国せんごく大名だいみょうにおけるぶん国法こくほう、あるいは民間みんかんにおけるほう慣習かんしゅうとしてもおこなわれていた。

江戸えど幕府ばくふにおいては『じょうるいてん』にとおる3ねん1718ねん)に白紙はくし手形てがた引換ひきかえとした借金しゃっきん契約けいやくむすばせた貸主かしぬしはじめて過料かりょうしたという記述きじゅつがあることから、徳川とくがわ吉宗よしむねとおる改革かいかく一環いっかんとして過料かりょう導入どうにゅうされたという学説がくせつ存在そんざいしていたが、元和がんわ2ねん10月13にち1616ねんづけされた煙草たばこかんする禁令きんれいにはすで煙草たばこ栽培さいばいおこなった農民のうみんおよ同地どうち代官だいかん過料かりょうしており(『東武とうぶ実録じつろく』)、江戸えど幕府ばくふ初期しょきから過料かりょう個別こべつ法令ほうれいおこなわれていた。もっとも、徳川とくがわ吉宗よしむねさだめた『公事こうじかたじょうしょ』によって過料かりょう体系たいけいおこなわれたのも事実じじつである。どうほうによれば過料かりょうには3かんぶんもしくは5かんぶんの(一般いっぱんてきな)「過料かりょう」、10かんぶんの「おも過料かりょう」、本人ほんにん財力ざいりょくおうじた「身上しんじょうおう過料かりょう」、本人ほんにんいえ規模きぼ財力ざいりょくじゅんじる)におうじた「しょうあいだおう過料かりょう」、地域ちいき単位たんいばっする場合ばあい石高いしたかおうじた「むらだかおう過料かりょう」の5つの事例じれい整理せいりされ、賭博とばく売春ばいしゅんをはじめ軽微けいび犯罪はんざいたいする刑罰けいばつとしてもちいられた。なお、納付のうふ期限きげん原則げんそくとしていいわたされてから3にち以内いないとされ、その期間きかんない納付のうふされない場合ばあいには代替だいたいとして手鎖てじょうけいされた。さら謹慎きんしん)などと過料かりょうあわせてされる場合ばあいもあった。『公事こうじかたじょうしょ以後いご従来じゅうらい過酷かこく刑罰けいばつ緩和かんわする意味いみ実刑じっけい代替だいたいとして過料かりょうまたはけいとのじゅう仕置しおきされる事例じれい増加ぞうかしていくようになった。また、はんほうむらほうなどにおいても過料かりょうおこなわれており江戸えど時代じだいつうじてひろおこなわれていた。

刑罰けいばつ財産ざいさんほう)としての過料かりょう明治めいじ2ねん1869ねん)に明治めいじ政府せいふさだめた『しんりつ綱領こうりょう』によって一旦いったん廃止はいしされてきゅう律令りつりょうほうの贖銅制度せいどもとづく罰金ばっきん制度せいど変更へんこうされたが、明治めいじ13ねん1880ねん)のきゅう刑法けいほうによって刑罰けいばつである科料かりょう分離ぶんりされた現行げんこう過料かりょうあらためて設置せっちされることとなった。

脚注きゃくちゅう[編集へんしゅう]

  1. ^ a b c d "過料かりょう". 日本にっぽんだい百科全書ひゃっかぜんしょ. コトバンクより2022ねん4がつ20日はつか閲覧えつらん
  2. ^ "過料かりょう". 世界せかいだい百科ひゃっか事典じてん. コトバンクより2022ねん4がつ20日はつか閲覧えつらん
  3. ^ a b c "過料かりょう". 知恵ちえぞうmini. コトバンクより2022ねん4がつ20日はつか閲覧えつらん
  4. ^ 過料かりょう決定けっていについてのQ&Aきゅーあんどえー”. www.courts.go.jp. 裁判所さいばんしょ. 2022ねん4がつ20日はつか閲覧えつらん。 “過料かりょうとは,行政ぎょうせいじょう秩序ちつじょ維持いじのために違反いはんしゃ制裁せいさいとして金銭きんせんてき負担ふたんすものです。刑事けいじ事件じけん罰金ばっきんとはことなり,過料かりょうせられた事実じじつは,前科ぜんかにはなりません。”
  5. ^ 過料かりょう(かりょう)- はじめてでもわかりやすい用語ようごしゅう SMBC日興証券にっこうしょうけん
  6. ^ 時短じたん違反いはんで30まんえん以下いか過料かりょう だて刑事けいじばつ削除さくじょ合意ごうい”. 日経新聞にっけいしんぶん (2021ねん1がつ28にち). 2021ねん2がつ1にち閲覧えつらん

参考さんこう文献ぶんけん[編集へんしゅう]

  • まき英正ひでまさ過料かりょう」(『国史こくしだい辞典じてん 3』(1983ねん吉川弘文館よしかわこうぶんかんISBN 978-4-642-00503-6
  • 新田にった一郎いちろう/加藤かとう英明ひであき過料かりょう」(『日本にっぽんだい事典じてん 2』(1993ねん平凡社へいぼんしゃISBN 978-4-582-13102-4

関連かんれん項目こうもく[編集へんしゅう]

外部がいぶリンク[編集へんしゅう]