野口のぐち小しょう蘋

野口のぐち小しょう蘋肖像ぞう

野口のぐち 小しょう蘋（のぐち しょうひん、弘ひろし化か4年ねん1月がつ11日にち（1847年ねん2月がつ25日にち） - 大正たいしょう6年ねん（1917年ねん）2月がつ17日にち）は、明治めいじ期きから大正たいしょう期きに活躍かつやくした南画なんが家か、日本にっぽん画家がか。奥原おくはら晴湖せいことともに明治めいじの女流じょりゅう南画なんが家かの双璧そうへきといわれた。

名なは親子おやこ（ちかこ）、字じは清婉せいえん。同おなじく南画なんが家かの野口のぐち小しょう蕙は娘むすめ。

略歴りゃくれき

「青あお緑みどり春山はるやま僊陰山水さんすい図ず」 絹本けんぽん著ちょ色しょく 嘯月美術館びじゅつかん蔵くら 明治めいじ30年ねん（1897年ねん）

美人びじん図ず

弘ひろし化か4年ねん（1847年ねん）、徳島とくしま出身しゅっしんの古こ医方いほう松まつ邨春岱（まつむらしゅんたい）の長女ちょうじょとして大坂おおさか難波なんばに生うまれる。幕末ばくまつ期きにあたる幼少ようしょう時じから詩し・書しょ・画がに親したしみ才能さいのうを示しめす。両親りょうしんは小しょう蘋を画業がぎょうに就つかせるため安政あんせい元年がんねん（1854年ねん）、8歳さいのときに四条しじょう派はの石垣いしがき東山とうざんに入門にゅうもんさせた。文久ぶんきゅう2年ねん（1862年ねん）、16歳さいで画がの修行しゅぎょうのため父ちちと北陸ほくりくを数すうヶ月かげつにわたり巡遊じゅんゆう。このとき福井ふくい藩はんの絵師えし島田しまだ雪谷ゆきたにから画がの手解てほどきを受うけている。この北陸ほくりくの旅たびの途次とじ、父ちちの春はる岱が客死かくし。残のこされた母ははを養やしなうために慶応けいおう元年がんねん（1865年ねん）に近江八幡おうみはちまんへ遊歴ゆうれきし売うれ画かくしている。

慶応けいおう3年ねん（1867年ねん）には京都きょうとへ移うつり、関西かんさい南画なんが壇だんの重鎮じゅうちんである日にち根ね対たい山やまに師事しじし、4年ねんの間あいだに山水さんすい画が・花鳥かちょう画がを学まなんだ。また対たい山やまを通つうじて日下部くさかべ鳴な鶴づる・巖谷いわや一六いちろく・長ちょう三洲さんしゅう・川田かわた甕江おうこう、実業じつぎょう家かで煎茶せんちゃ好事家こうずかの奥おく蘭らん田たなど多おおくの文人ぶんじんと知己ちきとなる。この頃ころから「小しょう蘋」を名乗なのっている。このころ関西かんさい浮世絵うきよえなどにも啓発けいはつを受うけている。画がの修行しゅぎょうの傍かたわらで小林こばやし卓たく斎ときに就ついて経学けいがくを修おさめた。

明治めいじ4年ねん（1871年ねん）に上京じょうきょう、麹こうじ町まちに住すんで画業がぎょうを本格ほんかく化か。美人びじん画がや文人ぶんじんの肖像しょうぞう画がなどの人物じんぶつ画がを多おおく手てがけている。明治めいじ6年ねん（1873年ねん）、皇后こうごう御ご寝殿しんでんに花卉かき図ず8点てんを手てがけている。画業がぎょうの傍かたわらで岡本おかもと黄石こうせきに詩文しぶんを学まなんでいる。1875年ねん（明治めいじ8年ねん）には甲府こうふで小しょう蘋の肖像しょうぞう写真しゃしんが撮影さつえいされており、これは明治めいじ初期しょきの山梨やまなし県けんにおける写真しゃしん撮影さつえいの事例じれいとしても知しられる。

明治めいじ10年ねん（1877年ねん）、31歳さいで野口のぐち正章まさあきと結婚けっこん、翌年よくねんに娘むすめの小しょう蕙が生うまれる。正章まさあきも対たい山やまの門弟もんていであった。野口のぐち家かはいわゆる近江おうみ商人しょうにんの家柄いえがらで滋賀しが県けん蒲生がもう郡ぐん桜川さくらかわ村むら（現げん・東ひがし近江おうみ市し）に本家ほんけを置おく酒造しゅぞう業ぎょう「十一屋じゅういちや」を営いとなみ、甲府こうふ柳やなぎ町まち（現げん・甲府こうふ市し中央ちゅうおう4丁目ちょうめ（大正たいしょう13年ねんに甲府こうふ市し横沢よこさわ町まち（現げん・朝日あさひ3丁目ちょうめ）に移転いてん）に営業えいぎょう所しょと醸造じょうぞう工場こうじょうがあった。義父ぎふの野口のぐち正ただし忠ちゅう（柿かき邨）は自身じしんも漢詩かんしを読よむ文化ぶんか人じんで、大木たいぼく家か当主とうしゅと同おなじく著名ちょめいな文人ぶんじん達たちと交流こうりゅうし、伊藤いとう聴秋ちょうしゅう・依田よだ学海がっかい・杉すぎ聴雨・矢や土ど錦山きんざん・市河いちかわ得とく庵あん・小野おの湖山こざん・谷たに如意にょい・江馬えま天たかし江こう・富岡とみおか鉄斎てっさい・谷口たにぐち藹しげる山さん・瀧たき和かず亭てい・田能たのう村むら直入なおいり・川村かわむら雨あめ谷だに・村田むらた香かおり谷たになど、当代とうだい一流いちりゅうの文人ぶんじんとの交流こうりゅうが生うまれた。

小しょう蘋は明治めいじ8年ねんから野口のぐち家かとも親交しんこうのあった甲府こうふ横よこ近習きんじゅ町まちの商家しょうかである大木たいぼく家かに滞在たいざいしており、明治めいじ11年ねん（1879年ねん）には一家いっかで甲府こうふへ移うつっている。甲府こうふでは奇観きかんで知しられる御岳昇仙峡みたけしょうせんきょうも描えがいた作品さくひんなどを製作せいさくしており、商標しょうひょう図案ずあんや贈答ぞうとう物ぶつの絵付えつけなどを手てがけ野口のぐち家かの商売しょうばいにも携たずさわっている。こうした縁えんで、大木たいぼく家かの美術びじゅつコレクションである大木たいぼく家か資料しりょう（大木たいぼくコレクション）には数すう多おおくの小しょう蘋作品さくひんが含ふくまれている。

夫おっとの正章まさあきは新あたらしい事業じぎょうとしてビール醸造じょうぞうに着手ちゃくしゅしていた事業じぎょうに失敗しっぱいして廃嫡はいちゃくとなり、明治めいじ15年ねん（1882年ねん）には一家いっかで再ふたたび上京じょうきょうする。小しょう蘋の画才がさいは日本にっぽん画がの復興ふっこう運動うんどうに際さいして注目ちゅうもくされ、数々かずかずの博覧はくらん会かいや共進きょうしん会かいで入賞にゅうしょうし関東かんとう南画なんがを代表だいひょうする画家がかと評ひょうされるようになる。

明治めいじ17年ねん（1884年ねん）、東北とうほく地方ちほうを巡遊じゅんゆう。明治めいじ17年ねん（1885年ねん）、上うえ州しゅうへ遊歴ゆうれき。

英えい照あきら皇太后こうたいごうに作品さくひんを献上けんじょうし、皇室こうしつや宮家みやけなど御用達ごようたしの作品さくひんを多おおく手てがけた。明治めいじ22年ねん（1889年ねん）に華族かぞく女学校じょがっこう画が学がく嘱託しょくたく教授きょうじゅを務つとめ、明治めいじ35年ねん（1902年ねん）には恒久こうきゅう王妃おうひ昌子しょうじ内親王ないしんのうや成久なりひさ王妃おうひ房子ふさこ内親王ないしんのうの御用ごよう掛かけを拝命はいめいする。明治めいじ37年ねん（1904年ねん）4月がつ16日にちには女性じょせい初はつの帝室ていしつ技芸ぎげい員いんを拝命はいめいし、翌年よくねんには正せい八はち位いに叙じょせられた。明治めいじ40年ねん（1907年ねん）、文展ぶんてん審査しんさ員いんに選えらばれる。

大正たいしょう期きには山水さんすい画がを多おおく手てがけ、大正天皇たいしょうてんのう即位そくいに際さいしては三河みかわ悠紀ゆき地方ちほうの「風俗ふうぞく歌か屏風びょうぶ」制作せいさくを宮内庁くないちょうから下命かめい、大正たいしょう4年ねん（1915年ねん）には竹内たけうち栖鳳せいほうの「主しゅ基はじめ殿どの屏風びょうぶ」と対たいになる御ご大典たいてん祝しゅく画が屏風びょうぶ「悠紀ゆき殿どの屏風びょうぶ」を献上けんじょうする。大正たいしょう6年ねん（1917年ねん）2月がつ、71歳さいで死去しきょ。墓所はかしょは青山あおやま霊園れいえん(1イ-21-12)

門弟もんていに下平しもだいら霞かすみ舟ふねなど。

代表だいひょう作さく

作品さくひん名めい	技法ぎほう	形状けいじょう・員数いんずう	寸法すんぽう（縦たてx横よこcm）	所有しょゆう者しゃ	年代ねんだい	款記・印章いんしょう	備考びこう
美人びじん雅みやび集しゅう図ず	絹本けんぽん著ちょ色しょく			十一屋じゅういちやコレクション	明治めいじ5年ねん（1872年ねん）		谷たに鉄てつ臣しん旧きゅう蔵ぞう
岡本おかもと黄石こうせき喜寿きじゅ肖像しょうぞう画が	絹本けんぽん著ちょ色しょく	1幅ぶく		世田谷せたがや区立くりつ郷土きょうど資料しりょう館かん寄託きたく	明治めいじ20年ねん（1887年ねん）	款記「丁ちょう亥い晩秋ばんしゅう 小しょう蘋松邨親敬けい寫うつし」
西王母せいおうぼ図ず	絹本けんぽん著ちょ色しょく			十一屋じゅういちやコレクション	明治めいじ23年ねん（1890年ねん）		第だい三さん回かい内国ないこく勧業かんぎょう博覧はくらん会かい妙技みょうぎ2等とう賞しょう
富貴ふうき百ひゃく齢よわい図ず	絹本けんぽん著ちょ色しょく			十一屋じゅういちやコレクション	明治めいじ25年ねん（1892年ねん）
春秋しゅんじゅう山水さんすい図ず屏風びょうぶ	絹本けんぽん著ちょ色しょく	六ろく曲きょく一双いっそう		静嘉堂文庫せいかどうぶんこ美術館びじゅつかん	明治めいじ28年ねん（1895年ねん）		第だい四回内国勧業博覧会妙技2等とう賞しょう
蘭らん亭てい曲きょく水みず図ず屏風びょうぶ（表ひょう）・芦あし雁かり図ず屏風びょうぶ（裏うら）	絹本けんぽん金地きんじ著ちょ色しょく・紙し本ほん銀地ぎんじ墨画ぼくが	六ろく曲きょく一双いっそう	182.5x391（各かく）	シカゴ美術館びじゅつかん	明治めいじ33年ねん（1900年ねん）
青あお緑みどり萬まん松まつ遷館図ず	絹本けんぽん著ちょ色しょく	1幅ぶく	194.5x143.4	講談社こうだんしゃ野間のま記念きねん館かん	明治めいじ35年ねん（1902年ねん）	款記「明治めいじ壬みずのえ寅とら仲秋ちゅうしゅう小しょう蘋女史し親おや寫うつし」	第だい32回かい日本にっぽん美術びじゅつ協会きょうかい展てん
箱根はこね真ま景けい図ず屏風びょうぶ	絹本けんぽん著ちょ色しょく	六ろく曲きょく一双いっそう		山やま種しゅ美術館びじゅつかん	明治めいじ40年ねん（1907年ねん）
春秋しゅんじゅう山水さんすい図ず屏風びょうぶ	絹本けんぽん著ちょ色しょく	六ろく曲きょく一双いっそう	129.1x304.4（各かく）	東京とうきょう国立こくりつ博物館はくぶつかん	明治めいじ後期こうき
溪山けいざん清しん趣おもむき図ず	絹本けんぽん著ちょ色しょく	1幅ぶく	161.5x71.5	東京とうきょう国立こくりつ博物館はくぶつかん	大正たいしょう元年がんねん（1912年ねん）
阿波あわ鳴門なると・小松島こまつしま図ず	絹本けんぽん著ちょ色しょく	六ろく曲きょく一双いっそう		宮内庁くないちょう	大正たいしょう4年ねん（1915年ねん）

参考さんこう文献ぶんけん

書籍しょせき

• 成田山なりたやま書道しょどう美術館びじゅつかん監修かんしゅう 『近代きんだい文人ぶんじんのいとなみ』 淡あわ交社、2006年ねん ISBN 978-4-4730-3374-1
• 原田はらだ平作へいさく 『幕末ばくまつ明治めいじ 京洛きょうらくの画が人じんたち』 京都新聞社きょうとしんぶんしゃ、1985年ねん ISBN 4-7638-0182-1、全国ぜんこく書誌しょし番号ばんごう:85053747、NCID BN00294982

展覧てんらん会かい図録ずろく

• 『野口のぐち小しょう蘋と近代きんだい南画なんが―明治めいじの宮廷きゅうてい画家がか―』山梨やまなし県立けんりつ美術館びじゅつかん、2005年ねん
  • 佐藤さとう道信みちのぶ 「文明ぶんめい論ろんとしての南画なんがと野口のぐち小しょう蘋の歴史れきし的てき位置いち」
  • 平林ひらばやし彰あきら 「野口のぐち小しょう蘋試論ろん」
• 『大木たいぼくコレクションの名品めいひん』 山梨やまなし県立けんりつ美術館びじゅつかん、1992年ねん
  • 守屋もりや正彦まさひこ 「大木おおき喬たかし命いのちと幕末ばくまつ・明治めいじの美術びじゅつ」

• 観峰かんぽう館かん・令れい和わ3年度ねんど秋季しゅうき特別とくべつ企画きかく展てん図録ずろく『文人ぶんじんの行いき交かう街まち～近江おうみ商人しょうにんが紡つむいだネットワーク～』2021年ねん9月がつ

雑誌ざっし記事きじ

• 井土いど霊山れいざん「野口のぐち小しょう蘋女子じょしの蓋ぶた棺かん評ひょう」『書道しょどう及画道どう第だい二に巻かん第だい四よん号ごう』