ストレリツィ

17世紀せいきの版画はんがに描えがかれたストレレッツ

ストレリツィ（露ろ: стрельцы, 英えい: streltsy）は、火器かきを主おも装備そうびとした16世紀せいきから18世紀せいき初期しょきにかけて存在そんざいしたモスクワ・ロシアの歩兵ほへい隊たい。しばしば銃じゅう兵隊へいたいと訳やくされる。

ストレリツィは名詞めいしストレレッツ（ロシア語ご: стрелец, strelets）の複数ふくすう形がたである。この言葉ことばは元来がんらい射手しゃしゅを意味いみしていたが、火縄銃ひなわじゅうやマスケット銃じゅうが普及ふきゅうしてからは銃じゅう兵へいの意味いみになり、ストレリツィが組織そしきされてからは特とくにその隊員たいいんを指さす語かたりとなった。本稿ほんこうでは和訳わやくの通例つうれいに従したがい、兵士へいしを意味いみするときは複数ふくすう人じんいてもストレレッツの語かたりを用もちい、軍ぐん組織そしきを意味いみするときだけストレリツィの語かたりを用もちいる。

歴史れきし

16世紀せいき

モスクワをパトロールするストレレッツ Andrei Ryabushkin 1897年ねん作さく

1540年代ねんだいから1550年代ねんだいにかけて、ツァーリ・イヴァン4世せいにより、当時とうじロシアに頻繁ひんぱんに侵入しんにゅうしていたタタールなどの外敵がいてきに対抗たいこうする目的もくてきで、皇帝こうてい直属ちょくぞくの近衛このえ銃じゅう兵隊へいたいであるストレリツィが編成へんせいされた。これはロシア史上しじょう初はつの常備じょうび軍ぐんと言いえるもので、制服せいふくを与あたえられ、火器かきを扱あつかうための訓練くんれんを受うけていた。この隊たいに所属しょぞくするストレレッツは終身しゅうしん勤務きんむであり、初期しょきには商人しょうにんや農民のうみんなどの平民へいみんから徴集ちょうしゅうされていたが、次第しだいに世襲せしゅう的てきな軍人ぐんじん階級かいきゅうとなっていった。

当初とうしょの兵力へいりょくは、500名めいのストレレッツで構成こうせいされたpriborと呼よばれる連隊れんたい（後のちにprikaz、polkと改名かいめいされた）が6隊たいであったが、時代じだいとともに増員ぞういんされていき、16世紀せいき末まつにはおよそ20,000人にんから25,000人にん、1681年ねんには55,000人にんのストレレッツが存在そんざいした。このとき、およそ半数はんすうのストレレッツはモスクワの精鋭せいえい軍ぐんに所属しょぞくし、皇帝こうていの勅命ちょくめいにより軍事ぐんじ作戦さくせんに参加さんかするほか、首都しゅとの治安ちあん維持いじにあたる警察官けいさつかんとしての役目やくめを果はたしていた。残のこり半数はんすうは地方ちほう都市としに駐屯ちゅうとんし、その都市としの軍ぐん司令しれい官かん(vaivode)の指揮しき下かで国境こっきょう警備けいびなどを行おこなっていた。

ストレレッツには郊外こうがいに専用せんようの居住きょじゅう区く(slobody)が与あたえられ、俸給ほうきゅうと食糧しょくりょうの支給しきゅうを受うけていた。また地域ちいきによっては、俸給ほうきゅうの代かわりに小ちいさな土地とちを与あたえられることもあった。俸給ほうきゅうは十分じゅうぶんとは言いえず、収入しゅうにゅうを補おぎなうために手工業しゅこうぎょうや交易こうえきなどを営いとなむことが許ゆるされていたが、これが次第しだいにストレレッツ間あいだの財産ざいさんの不平等ふびょうどうや、商人しょうにんとの癒着ゆちゃくなどを生しょうじさせることとなる。

1552年ねんのカザン征服せいふく、リヴォニア戦争せんそう、17世紀せいき初頭しょとうのポーランド・スウェーデンによる侵略しんりゃく（ロシア・ポーランド戦争せんそう、イングリア戦争せんそう）など、数々かずかずの戦闘せんとうでストレリツィはロシア軍ぐんの主力しゅりょく部隊ぶたいとして活躍かつやくした。

17世紀せいき後半こうはん

銃じゅう兵へい処刑しょけいの朝あさ（1698年ねんに反乱はんらんを起おこしたストレレッツがモスクワの赤あかの広場ひろばで処刑しょけいされる場面ばめん） Vasily Ivanovich Surikov 1881年ねん作さく

17世紀せいき後半こうはんには新あたらしく編成へんせいされたロシア正規せいき軍ぐんに比くらべて時代遅じだいおくれとなっていった。また17世紀せいきから18世紀せいきにかけて、農奴のうどや民衆みんしゅうによる暴動ぼうどうが相次あいついだ。このとき、過酷かこくな軍役ぐんえき、度重たびかさなる俸給ほうきゅうの遅延ちえん、地方ちほう官吏かんりなどによる権力けんりょくの濫用らんように不満ふまんを抱だいていたストレレッツ（特とくに貧まずしい者ものたち）も暴動ぼうどうに加くわわることとなった。一方いっぽうモスクワの上位じょうい階級かいきゅうのストレレッツは、政府せいふの権力けんりょく争あらそいに積極せっきょく的てきに関与かんよするようになり、17世紀せいき末まつには政治せいじに対たいしてかなりの影響えいきょう力りょくを及およぼすようになっていた。

1682年ねん、皇帝こうていフョードル3世せいが死去しきょした後のち、その姉あねソフィア・アレクセーエヴナらの扇動せんどうにより一部いちぶのストレレッツが暴動ぼうどうを起おこした（ストレリツィの蜂起ほうき (1682年ねん)）。この政変せいへんにより、病弱びょうじゃくなイヴァン5世せいとまだ幼おさないピョートル1世せいが共同きょうどうで皇帝こうていとなり、彼かれらの代かわりにソフィアが摂政せっしょうとして実権じっけんを握にぎることとなった。この体制たいせいは1689年ねんにピョートル1世せいがクーデターを起おこし、ソフィアを失脚しっきゃくさせるまで続つづくこととなる。

その後ごピョートル1世せいは近代きんだい化か政策せいさくを進すすめるとともにストレレッツの軍事ぐんじ的てき・政治せいじ的てき活動かつどうに対たいして徐々じょじょに制限せいげんをかけていった。これに反発はんぱつするストレレッツにより、1698年ねん7月がつにモスクワで大だい規模きぼなストレリツィの蜂起ほうき (1698年ねん)が起おきたが、ピョートル大帝たいていにより鎮圧ちんあつされ、モスクワのストレリツィの解散かいさん命令めいれいが出だされることとなった。しかしながら、1700年ねんのナルヴァの戦たたかいでの敗北はいぼくを受うけ、政府せいふはストレリツィの解散かいさんをいったん中止ちゅうしし、大だい北方ほっぽう戦争せんそうの重要じゅうような局面きょくめん、特とくに1711年ねんのプルート川がわの戦たたかいなどにストレリツィの精鋭せいえい軍ぐんを投入とうにゅうした。その後ご、ストレリツィはロシア正規せいき軍ぐんに吸収きゅうしゅうされていった。1711年ねんにはモスクワのストレリツィが廃止はいしされ、また1716年ねんまでに地方ちほう都市としのストレリツィも徐々じょじょに解散かいさん・再さい編成へんせいされていき、その歴史れきしに幕まくを下おろした。

装備そうびと戦術せんじゅつ

ストレレッツの主しゅ装備そうびはマッチロック式しき（火縄ひなわ式しき）、もしくはフリントロック式しきマスケット銃じゅうであり、用兵ようへい的てきには同どう時期じきのヨーロッパ諸国しょこくのマスケット銃じゅう兵へいとほぼ同様どうようであった。また、白兵戦はくへいせん用ようにバルディッシュ（三日月みかづき斧おの）と呼よばれる長柄ながえの斧おのを装備そうびしていたが、これは射撃しゃげき時じには銃じゅう架かとしても用もちいた。この他ほか、特とくに指揮しき官かんはサーベル、パイクなどを携行けいこうすることもあった。

関連かんれん項目こうもく

• モスクワ・ロシア
• ロシア帝国ていこく軍ぐんの階級かいきゅう呼称こしょう