陪審ばいしんいん選任せんにん

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陪審ばいしんいん選任せんにん(ばいしんいんのせんにん)とは、陪審ばいしんせいもとで、陪審ばいしんいんとなるものえら手続てつづきをいう。

概要がいよう[編集へんしゅう]

まず、地域ちいきなかから、無作為むさくい方法ほうほうにより陪審ばいしんいん候補者こうほしゃだんえらばれる。陪審ばいしんいん候補者こうほしゃは、つぎに、法廷ほうてい裁判官さいばんかんまた代理人だいりにん弁護士べんごし検察官けんさつかん)から、あるいはその双方そうほうからの質問しつもんける。法域ほういきこくないししゅう[注釈ちゅうしゃく 1]によっては、代理人だいりにんが「理由りゆう忌避きひ」をもうてたり、かぎられたかず範囲はんいないで「理由りゆうなし忌避きひ」をおこなったりすることができる。死刑しけい制度せいどのある法域ほういきでは、死刑しけい制度せいど反対はんたいもの除外じょがいすること (death-qualification) が必要ひつようなところがある。代理人だいりにんは、計画けいかくてき戦略せんりゃくてき陪審ばいしんいんえらぶために専門せんもん援助えんじょもとめることがある。それ以外いがい陪審ばいしん研究けんきゅう (jury research) の利用りよう一般いっぱんてきになりつつある。

陪審ばいしんいん候補者こうほしゃだん構成こうせい[編集へんしゅう]

アメリカ連邦れんぽう地方裁判所ちほうさいばんしょにおける陪審ばいしんいん召喚しょうかんじょう
United State District Court Western Division Jury Summons June 2015

法域ほういきにもよるが、陪審ばいしんいん選任せんにん手続てつづきだい1段階だんかいは、陪審ばいしんいん候補者こうほしゃだん (jury pool, or venire) を構成こうせいすることである。陪審ばいしんいん候補者こうほしゃだんとは、陪審ばいしん任務にんむのためにえらばれた人々ひとびとあつまりであり、ここから陪審ばいしんいんえらばれる。陪審ばいしんいん候補者こうほしゃえら方法ほうほうは、選挙せんきょじん名簿めいぼ運転うんてん免許めんきょしゃリスト、そのその地域ちいき住民じゅうみんひろっている名簿めいぼ納税のうぜいしゃ名簿めいぼ電気でんき水道すいどうとう利用りようしゃなど)からの作為さくい抽出ちゅうしゅつである。最近さいきんでは、裁判所さいばんしょ複数ふくすう名簿めいぼわせて陪審ばいしんいんしんリストを作成さくせいしているところもだんだんえている。アメリカ合衆国あめりかがっしゅうこくもっともよく使つかわれている名簿めいぼわせは、選挙せんきょじん名簿めいぼ運転うんてん免許めんきょしゃリストであり、19しゅう採用さいようされている。

陪審ばいしんいんとなる資格しかくがあれば、かなら陪審ばいしんいん職務しょくむけなければならないというわけではない。ほとんどの法域ほういきで、陪審ばいしんいん職務しょくむからの免除めんじょ事由じゆう限定げんていてきさだめており、免除めんじょ事由じゆうがあれば陪審ばいしんいん職務しょくむ辞退じたいすることができる。もっと一般いっぱんてき免除めんじょ事由じゆうは、職業しょくぎょうによるものである(たとえば、医師いし消防しょうぼう政治せいじ警察官けいさつかんふく刑事けいじ司法しほうたずさわる職業しょくぎょうひとなど)。伝統でんとうてきに、職業しょくぎょうによる免除めんじょ事由じゆうは、そのひと独自どくじ技術ぎじゅつ仕事しごと地域ちいき社会しゃかいにとって不可欠ふかけつなものであり、長期間ちょうきかんそのひとがいないと地域ちいき社会しゃかい難渋なんじゅうするという場合ばあいかぎられてきた。その一般いっぱんてき免除めんじょ事由じゆうは、過去かこ一定いってい期間きかん(12かげつから24かげつのことがおおい)ない陪審ばいしんいんしょう陪審ばいしんまただい陪審ばいしん)をつとめたひとたち、自分じぶんしか幼児ようじ世話せわをするじんがいないひと成人せいじん無能力むのうりょくしゃなどである。宗教しゅうきょうてき主義しゅぎてき理由りゆうから免除めんじょけることもできる(宗教しゅうきょうてき信条しんじょうにより宣誓せんせいおよ陪審ばいしん職務しょくむきんじられているエホバの証人しょうにんなど)。また、宗教しゅうきょうてきまた道徳どうとくてき理由りゆうから他人たにんたいする裁判さいばん参加さんかすることは間違まちがいであるとの信条しんじょうっているひとも、免除めんじょけることができる。アメリカのいくつかの法域ほういきでは、まえ法律ほうりつ教育きょういくけたことがあるひと弁護士べんごしも、法律ほうりつ専門せんもん陪審ばいしんいん影響えいきょうあたえすぎるおそれがあるとのかんがえから、免除めんじょ対象たいしょうとなることがあるが、近年きんねんでは、おおくの法域ほういきでこの免除めんじょ事由じゆう削除さくじょされている。裁判所さいばんしょは、このほか、病気びょうきやけが、経済けいざいてき困窮こんきゅうや、きわめて不都合ふつごう事情じじょうがあるといった場合ばあい陪審ばいしん任務にんむ免除めんじょすることができる。

つぎに、選任せんにん手続てつづきにより陪審ばいしんいんえらばれる。すべての陪審ばいしんいんえらまえ陪審ばいしんいん候補者こうほしゃだんきてしまった場合ばあいは、裁判所さいばんしょ書記官しょきかんは、陪審ばいしんいん候補者こうほしゃ集合しゅうごう場所ばしょからさら候補者こうほしゃおくってもらわなければならない。もし、追加ついか候補者こうほしゃ集合しゅうごう場所ばしょですぐにはいらないときは、ほとんどの法域ほういきで、裁判所さいばんしょ補欠ほけつ陪審ばいしん (tales jury) をえらすことがみとめられている。補欠ほけつ陪審ばいしんは、裁判所さいばんしょから執行しっこう機関きかん警察けいさつひとし)にたいする、その地域ちいきのどこか公共こうきょう場所ばしょ陪審ばいしん資格しかくのある個人こじん見付みつしてくるようにとの命令めいれいもとづいて、裁判所さいばんしょれてこられた陪審ばいしんいん補欠ほけつ陪審ばいしんいんという)により構成こうせいされるものである。これは、広範囲こうはんい名簿めいぼから無作為むさくい陪審ばいしんいん選出せんしゅつするという、より一般いっぱんてき手続てつづきからは、はずれたやりかたである。

おおくの法域ほういきで、被告人ひこくにんには、より公平こうへい裁判さいばんけられるとおもわれる場所ばしょへの法廷ほうてい (venue) の変更へんこうもとめることがみとめられている。法廷ほうてい変更へんこうは、陪審ばいしんいん候補者こうほしゃだん事件じけんひろわたっていることによる影響えいきょうがあるときに、必要ひつようになる場合ばあいがある。

連邦れんぽう裁判さいばんにおいては、不適切ふてきせつ管轄かんかつ理由りゆうとする移送いそう申立もうしたて(Motion to transfer for improper venue)[1]法的ほうてき公正こうせい理由りゆうとする移送いそう申立もうしたて(Motion to transfer for interest of justice)[2]みとめられて法廷ほうてい(または管轄かんかつ裁判所さいばんしょ)が変更へんこうされる場合ばあいがある。

予備よび尋問じんもん[編集へんしゅう]

陪審ばいしんいん選任せんにん手続てつづきちゅう尋問じんもんをする代理人だいりにん

えらばれた陪審ばいしんいんは、通常つうじょう尋問じんもん手続てつづきにさらされる。これは、検察けんさつがわ民事みんじ事件じけんでは原告げんこくがわ)と被告人ひこくにんがわ被告ひこくがわ)が陪審ばいしんいんたい異議いぎべることができる手続てつづきである。コモン・ローくにでは、これは予備よび尋問じんもん(ヴワー・ディア:voir dire[注釈ちゅうしゃく 2]ばれている。予備よび尋問じんもんには、陪審ばいしんいん候補者こうほしゃ全体ぜんたいかれ、挙手きょしゅなどのかたちこたえる一般いっぱんてき質問しつもんと、個々ここ陪審ばいしんいん候補者こうほしゃかれ、言葉ことばこたえさせる質問しつもん両方りょうほうがある。双方そうほう代理人だいりにん検察官けんさつかん弁護士べんごし)が陪審ばいしんいん候補者こうほしゃたい質問しつもんできる法域ほういきもあるが、裁判官さいばんかん予備よび尋問じんもんおこな法域ほういきもある。

どのような方法ほうほうで、またどの範囲はんい陪審ばいしんいん候補者こうほしゃ拒絶きょぜつできるかは、くにによってことなる。

イングランドでは、異議いぎみとめられるためには、被告人ひこくにんがその陪審ばいしんいん候補者こうほしゃっているというような、十分じゅうぶん根拠こんきょがなければならない。

一方いっぽうオーストラリアカナダフランスニュージーランドきたアイルランドアイルランドアメリカ合衆国あめりかがっしゅうこくなどでは、被告人ひこくにん検察けんさつがわに、まったかず無条件むじょうけんの「理由りゆうなし忌避きひ」(peremptory challenge) がみとめられている。ある陪審ばいしんいん排除はいじょするのに、なん理由りゆうけも必要ひつようないというものである。一般いっぱんてきに、弁護人べんごにん被害ひがいしゃおなじような職業しょくぎょう生活せいかつ環境かんきょうにあり、そのために被害ひがいしゃがわ感情かんじょう移入いにゅうしやすい陪審ばいしんいん排除はいじょし、一方いっぽう検察官けんさつかん被告人ひこくにん類似るいじてんのありそうな陪審ばいしんいん排除はいじょする。ただし、アメリカでは、検察けんさつがわがマイノリティの構成こうせいいん排除はいじょし、これに被告人ひこくにんがわ異議いぎべたときは、バトソンたいケンタッキーしゅう事件じけん判決はんけつ[3]により、検察けんさつがわ排除はいじょ人種じんしゅ中立ちゅうりつてき理由りゆうであることを説明せつめいしなければならない(のち判例はんれいによりせい中立ちゅうりつてき理由りゆう説明せつめいについても同様どうようとされた[4]。)。

代理人だいりにん裁判官さいばんかんに「理由りゆう忌避きひ」(challenge for cause) をもうてることができる法域ほういきもある。これは、陪審ばいしんいん生育せいいく環境かんきょう信条しんじょうにより、偏見へんけんがあり、陪審ばいしん職務しょくむには適当てきとうであるという主張しゅちょうである。アメリカでは(おそらくくにでも)、これを利用りようしてわざと(たとえば法律ほうりつ概念がいねん知識ちしきがあることをしめすなどして)陪審ばいしん義務ぎむまぬかれようとする市民しみんもいることがられている。

アメリカ合衆国あめりかがっしゅうこく[編集へんしゅう]

アメリカ合衆国あめりかがっしゅうこくでは、予備よび尋問じんもん手続てつづきくによりも徹底的てっていてきおこなわれるのが通常つうじょうであり、そのために、実際じっさい運用うんようのありかた議論ぎろんんでいる。質問しつもんけるさい陪審ばいしんいん候補者こうほしゃたいするプライバシーはどの程度ていど保障ほしょうされるのかという問題もんだいは、「公平こうへい陪審ばいしん」とはなにかという問題もんだいにつながる。陪審ばいしんいん候補者こうほしゃたいする徹底的てっていてき質問しつもんは、たんにそのひとっている偏見へんけんをききだすためではなく、そのひと感情かんじょう左右さゆうされやすいかどうかをもききだそうとしているのではないかとうたがひともいる。これにたいし、この方法ほうほう双方そうほう当事とうじしゃ評決ひょうけつたいする信頼しんらいたせると反論はんろんするひともいる。

イギリス[編集へんしゅう]

イングランドおよウェールズでの予備よび尋問じんもん手続てつづきは、「あなたは、国王こくおう被告人ひこくにん双方そうほうたい公平こうへい審理しんりをすることができますか」という単純たんじゅん質問しつもんだけである。質問しつもんに「はい」とこたえた陪審ばいしんいん候補者こうほしゃであれば、だれでも陪審ばいしんいんとなる。

被告人ひこくにん陪審ばいしんいん忌避きひする権利けんりは、かぎられている。以前いぜんは、理由りゆうなし忌避きひ権利けんりがあり、被告人ひこくにん理由りゆうげずに陪審ばいしんいん候補者こうほしゃたいする異議いぎべることができたが、その当時とうじ忌避きひできる人数にんずうかぎられていた。もうひとつの忌避きひ理由りゆう忌避きひであり、その場合ばあい被告人ひこくにんはその陪審ばいしんいん候補者こうほしゃ偏見へんけんっているとしんじる根拠こんきょ明示めいじしなければならなかった。以前いぜん陪審ばいしんいん候補者こうほしゃたいする忌避きひは、陪審ばいしんいん(そのための特別とくべつ宣誓せんせいおこなった陪審ばいしんいん)によって審理しんりされていた。現在げんざいでは、理由りゆう忌避きひ裁判官さいばんかんによって審理しんりされる。訴追そついがわ理由りゆうなし忌避きひ権利けんりはないが、そのわりに陪審ばいしんいんに「待機たいき (stand by)」をもとめることができ、その陪審ばいしんいん陪審ばいしんいん候補者こうほしゃ名簿めいぼ最後さいごまわされ、したがってその事件じけんでは審理しんり参加さんかする可能かのうせいひくくなる。

死刑しけい反対はんたい主義しゅぎしゃ排除はいじょ[編集へんしゅう]

アメリカの死刑しけい事件じけん検察官けんさつかん死刑しけい求刑きゅうけいしている事件じけん)では、陪審ばいしんから、死刑しけい反対はんたい主義しゅぎしゃ排除はいじょ (death-qualification) がおこなわれることがしばしばある。これは、陪審ばいしんいん候補者こうほしゃだんのうち、死刑しけい無条件むじょうけん反対はんたいするひと全員ぜんいん排除はいじょするものである。これによって、陪審ばいしんは、その犯罪はんざい死刑しけいにふさわしいとかんがえる場合ばあいには死刑しけい判決はんけつ答申とうしんするのを保証ほしょうする効果こうかがある。同時どうじに、これによって有罪ゆうざいとなる可能かのうせいたかまる効果こうかもあるとひともおり、そのため論争ろんそうんできた。連邦れんぽう最高裁さいこうさいは、この慣行かんこう合憲ごうけんであると判断はんだんした。

専門せんもん協力きょうりょく[編集へんしゅう]

1970年代ねんだいから1980年代ねんだいにかけて、アメリカでは、理由りゆうなし忌避きひをより有効ゆうこう利用りようするために専門せんもん協力きょうりょくもとめる、陪審ばいしん科学かがくてき選別せんべつ (scientific jury selection) が一般いっぱんてきになった。これは、弁護士べんごし陪審ばいしん都合つごうよくめてしまうちからあたえ、かねちからによるゆがみを増大ぞうだいさせることになるのではないかとのおそれから、議論ぎろんんできた。とはいうものの、この選別せんべつがどれだけ有効ゆうこうかという根拠こんきょは、せいぜい「よくからない」という程度ていどとどまっている。

おおきな利害りがいのからんだ事件じけん裁判さいばんのぞんだ弁護士べんごしは、裁判さいばんぜん過程かていつうじての支援しえんもとめるため、今日きょうでは、より包括ほうかつてき陪審ばいしんコンサルティング (jury consulting) や陪審ばいしん研究けんきゅう (jury research) が、ますます一般いっぱんてきになりつつある。なかでもより一層いっそう包括ほうかつてき分野ぶんやである陪審ばいしんコンサルティングには、直接ちょくせつ陪審ばいしん関係かんけいしない多種たしゅ多様たよう手段しゅだん・テクニックもふくまれている。

脚注きゃくちゅう[編集へんしゅう]

注釈ちゅうしゃく[編集へんしゅう]

  1. ^ jurisdictionを「法域ほういき(ほういき)」とやくれいとして、浅香あさかよしみき『アメリカ民事みんじ手続てつづきほう弘文こうぶんどう〈アメリカほうベーシックス〉、2000ねん12月30にち 
    連邦れんぽう国家こっかであるアメリカでは連邦れんぽうおよ各州かくしゅうがそれぞれ独立どくりつした法体ほうたいけい形成けいせいしており、それを法域ほういきぶ(同書どうしょ3ぺーじ)。ここではアメリカ以外いがいくにす。
  2. ^ リーダーズ英和えいわ辞典じてん、ランダムハウス英和大えいわだい辞典じてん、ジーニアス英和大えいわだい辞典じてんは、いずれも、voir direの訳語やくごとして「予備よび尋問じんもん」、およびそのさいおこなわれる宣誓せんせいである「予備よび尋問じんもん宣誓せんせい」をげる。voirは「真実しんじつ (truth)」、direは「う (to say)」を意味いみするいにしえフランス語ふらんすごである(ランダムハウス英和大えいわだい辞典じてん、リーダーズ英和えいわ辞典じてん、オックスフォードしんえいえい辞典じてん)。

出典しゅってん[編集へんしゅう]

  1. ^ 28 U.S.C. §1406
  2. ^ 28 U.S.C. §1404
  3. ^ Batson v. Kentucky, U.S. Reports 476かん79ぺーじ連邦れんぽう最高裁さいこうさい・1986ねん)。
  4. ^ J.E.B. v. Alabama ex rel. T.B., U.S. Reports 511かん127ぺーじ連邦れんぽう最高裁さいこうさい・1994ねん)。

参考さんこう文献ぶんけん[編集へんしゅう]

  • Fukurai, Hiroshi (1996). “Race, social class, and jury participation: New dimensions for evaluating discrimination in jury service and jury selection”. Journal of Criminal Justice 24 (1): 71-88. doi:10.1016/0047-2352(95)00053-4. 

関連かんれん項目こうもく[編集へんしゅう]