【独占どくせん】グーグルの「Pixel」カメラ用ようラボを見学けんがく（前編ぜんぺん）--イケア風ふうセットの意味いみは

　筆者ひっしゃは今いま、薄暗うすぐらく照てらされたカフェにいる。少すこし離はなれたテーブル席せきにも2人にんいて、コーヒーかワインかカクテルか、と注文ちゅうもんを決きめようとしているところだ。Googleの従業じゅうぎょう員いんが1人ひとり、見みたことのない装置そうちを持もって入はいってくる。装置そうちには2台だいのスマートフォン、「Pixel 8 Pro」と「Pixel 7 Pro」が取とり付つけられている。2人ふたりが座すわっているテーブルは、キャンドルとストリングライトで照てらされており、装置そうちを持もった従業じゅうぎょう員いんはそのテーブルに近ちかづいていくと、2台だいを同時どうじに使つかって撮影さつえいを始はじめた。

Pixelカメラのテストラボ内ないにあるカフェのセット。照明しょうめいは消きえている
提供ていきょう：James Martin/CNET

　残念ざんねんながら、カフェといっても実際じっさいにはカプチーノもカクテルも出でてこない。ここは、Googleが同社どうしゃの「Pixel」シリーズのカメラをテストするために作つくった精巧せいこうな環境かんきょうの一角いっかくだ。「Real World Testing Lab」と呼よばれるこの施設しせつに、Pixelカメラチームが米べいCNETのLexy Savvides記者きしゃと筆者ひっしゃを招待しょうたいしてくれた。同社どうしゃのフラッグシップモデルであるPixelの動画どうが撮影さつえい機能きのうをどのようにして進化しんかさせているか、その一端いったんを披露ひろうする目的もくてきだ。この施設しせつに入室にゅうしつを許可きょかされたのは、メディアでは筆者ひっしゃらが初はじめてとなる。

　大おおきな校正こうせい用ようチャートや産業さんぎょう用よう機械きかいがあるわけではなく、白衣はくいを着きた従業じゅうぎょう員いんもいない。代かわりに、リビングルームのセットや前述ぜんじゅつのカフェのセットがあり、従業じゅうぎょう員いんはレトロな「ジョーダン」スニーカーを履はいている。テストルームというより、IKEAの家具かぐが展示てんじされたルームセットといったところだ。ここ以外いがいの非公開ひこうかいエリアもあるが、そちらへの立たち入いりは許可きょかされなかった。

リビングルームのセット
提供ていきょう：James Martin/CNET

　カフェの天井てんじょうには各種かくしゅの照明しょうめい器具きぐが取とり付つけられていて、いくぶんテレビスタジオのような印象いんしょうもある。照明しょうめいはそれぞれ、色いろ温度おんどと照度しょうどが調整ちょうせいできるので、エンジニアはテストの内容ないように応おうじて望のぞみの雰囲気ふんいきを作つくり出だすことが可能かのうだ。この照明しょうめいとリアルなセット（本物ほんもののペットの代かわりに、おもちゃの犬いぬまで置おいてある）を使つかうと、深夜しんやの光ひかりに照てらされたリビングルームとか、窓まどから日ひの出での光ひかりが差さし込こむカフェなど、さまざまな場面ばめんを再現さいげんできる。

　「実際じっさいのユーザーも、リビングルームやカフェのような場所ばしょで写真しゃしんを撮とっている」と、GoogleのPixelカメラ担当たんとうグループプロダクトマネージャーを務つとめるIsaac Reynolds氏しが話はなしてくれた。

　先さきほどカフェの客きゃくとしてテーブル席せきで撮影さつえいされていたのは、Googleの従業じゅうぎょう員いんであるKenny Sulaimon氏しとKevin Fu氏しで、ともにPixelカメラ担当たんとうのプロダクトマネージャーを務つとめている。両氏りょうしは、Pixel 8 Proと1世代せだい前まえのPixel 7 Proとで撮影さつえいした動画どうがの違ちがいを示しめすために、低てい照度しょうどでの動画どうが撮影さつえいテストを実演じつえんしてくれていたのだ。記事きじ内ないの動画どうがをご覧らんいただければ、2台だいの比較ひかく動画どうがだけでなく、このテスト施設しせつの様子ようすも見みることができる。薄暗うすぐらい照明しょうめい環境かんきょうで行おこなったこのときのテストでも、Pixel 8 Proで撮影さつえいした動画どうがの方ほうが優すぐれているのは、一目瞭然いちもくりょうぜんだ。

Pixel 8 Proと7 Proで同時どうじに動画どうがを撮影さつえいする様子ようす
提供ていきょう：James Martin/CNET

　「われわれには、毎日まいにちいつでもカメラをテストできる環境かんきょうが必要ひつようだ」。Reynolds氏しがこう説明せつめいする。「朝あさでも晩ばんでも、いつでも新しん機能きのうをテストしなければならないが、自宅じたくのリビングルームはいつでも使つかえるとは限かぎらず、照明しょうめいの条件じょうけんも一定いっていではない」

　ラボの制御せいぎょ自在じざいの環境かんきょうであれば、Pixelの写真しゃしんが常つねに一定いっていの出来栄できばえになるように、技術ぎじゅつ者しゃが同おなじシナリオを何なん度どでもテストすることができる。Googleキャンパスのカフェでテストしても、同おなじようにはいかないだろう。光ひかりの具合ぐあいは日ひによって変かわるし、同おなじ場所ばしょに陣取じんどって全まったく同おなじ条件じょうけんでテストを繰くり返かえせるとも限かぎらないからだ。

　カメラチームがこのラボで行おこなう作業さぎょうはすべて、Pixelの動画どうが撮影さつえい機能きのうの向上こうじょうが目的もくてきだ。長ながい間あいだ、Pixelの写真しゃしんはトップクラスだったが、動画どうがとなるとそこまでではなかったため、これは難むずかしいタスクだ。

　スマートフォンのカメラは、今いまやわれわれの生活せいかつに不可欠ふかけつになっている。一人ひとりひとりの大切たいせつな瞬間しゅんかんをとらえ、これから何なん十じゅう年ねんも思おもい出でを振ふり返かえらせてくれる。歴史れきしや最新さいしんの出来事できごとを記録きろくするという重要じゅうような役割やくわりも果はたしており、それはここ数すう年ねんの間あいだに何なん度ども動画どうがで見みせられたとおりだ。George Floydさんの逮捕たいほと死亡しぼうを記録きろくした映像えいぞうもその1つで、その瞬間しゅんかんをスマートフォンに収おさめたDarnella Frazierさんは、2021年ねんにピューリッツァー賞しょうを受賞じゅしょうしている。

　Googleは大おおきな影響えいきょう力りょくを持もつテクノロジー企業きぎょうなので、同社どうしゃが下くだす選択せんたくには重おもみがあり、作つくっている製品せいひん以上いじょうの反響はんきょうを呼よぶ。Pixelのカメラも、このラボのように、現実げんじつ世界せかいの条件じょうけんを忠実ちゅうじつに再現さいげんした環境かんきょうでテストすることが重要じゅうようだ。そうすることで、Googleスマートフォンのユーザーは写真しゃしんでも動画どうがでも、身みの回まわりを確実かくじつに記録きろくできると分わかる。

　Reynolds氏しとチームの一いち行ぎょうは、Pixelのカメラをいかに容赦ようしゃなくテストしているか、そして画質がしつも音質おんしつも向上こうじょうするように動画どうが撮影さつえいの質しつをどう改善かいぜんしたかについて、いろいろと案内あんないしてくれた。ラボで聞きいた話はなしの中なかでも特とくに印象いんしょう的てきだったのは、動画どうがの理想りそう形がたについて、Googleが科学かがく的てきな目標もくひょうを追求ついきゅうしているのではないということだ。Pixelカメラチームにとっては、精度せいどに劣おとらず、感覚かんかくも重要じゅうようなのだという。

　「ただ数値すうち的てきに正ただしい画像がぞうができあがったとしても、それが適切てきせつな画像がぞうだとは限かぎらない。ある瞬間しゅんかんをどう記憶きおくしているかと、どう記憶きおくしたいかは常つねに違ちがうもので、おそらくはカラーチャートで示しめされる結果けっかとも違ちがう。それらのバランスという問題もんだいもある」、とReynolds氏しは言いう。

セットのカフェでGoogleのIsaac Reynolds氏し（写真しゃしん右みぎ）にインタビューする筆者ひっしゃ
提供ていきょう：James Martin/CNET

「動画どうがブースト」と「夜景やけいモード」

　照明しょうめいの暗くらい場所ばしょ、例たとえばレストランなどで写真しゃしんを撮とったり、動画どうがを撮影さつえいしたりしたことはあるだろうか。写真しゃしんの方ほうは、特とくに夜景やけいモードを使つかえば素晴すばらしい出来できになるが、動画どうがは写真しゃしんと比くらべると、合格ごうかく点てん程度ていどにしかならない。これはGoogleに限かぎったことではなく、あらゆるスマートフォンメーカーが抱かかえている問題もんだいだ。何なん年ねんも前まえから、写真しゃしんの見栄みばえを良よくするコンピュテーショナルフォトグラフィーのアルゴリズムが、動画どうがには通用つうようしなかった。

　Pixelシリーズで採用さいようされている「夜景やけい」モードは、複数ふくすうの画像がぞうから取得しゅとくしたデータを組くみ合あわせて1枚まいの写真しゃしんを生成せいせいする。明あかるくなってディテールも上あがり、ノイズはほぼ、あるいは全まったくなくなる。ところが、動画どうがに対たいして同おなじ処理しょりをするとなると、段違だんちがいのスケールが必要ひつようになるのだ。

　突つきつめると、12と200という2つの数字すうじに行いき着つくとReynolds氏しは言いう。

　「最初さいしょに夜景やけいモード機能きのうを導入どうにゅうしたのは何なん年ねんも前まえのことで、目的もくてきは極きわめて照度しょうどの低ひくい場所ばしょで写真しゃしんを撮とれるようにすることだったが、その機能きのうを動画どうがでも使つかえるようにするために、これまでずっと苦労くろうしてきた。原因げんいんは、処理しょり対象たいしょうが12メガピクセルの写真しゃしんを数すう枚まいか、1秒びょうあたり200メガピクセルの動画どうがか、という差さにある」

　低てい照度しょうどで撮影さつえいした1分間ふんかんの動画どうがを処理しょりするのは、1800枚まい（毎秒まいびょう30フレーム×60秒びょう）の写真しゃしんを処理しょりするのに等ひとしい。

　2023年ねん秋あき、GoogleはPixel 8 Proに採用さいようされる新しん機能きのうとして、「動画どうがブースト」を発表はっぴょうした。撮影さつえいした動画どうがのコピーを「Googleフォト」にアップロードし、クラウド上じょうで処理しょりするという機能きのうだ。動画どうがブーストは、写真しゃしんで使つかわれているのと同おなじ「HDR+」アルゴリズムを使用しようして露出ろしゅつを調整ちょうせいし、シャドウを明あかるくして、色いろとディテールも引ひき上あげる。明あかるい場所ばしょで撮影さつえいした動画どうがでも暗くらい場所ばしょで撮影さつえいした動画どうがでも機能きのうする（Googleはこれを「ビデオ夜景やけいモード」と呼よんでいる）。

　筆者ひっしゃの経験けいけんでも動画どうがブーストは、特とくに低てい照度しょうどの状況じょうきょうで威力いりょくを発揮はっきする。注意ちゅういが必要ひつようなのは、処理しょりがすべて後ごから、スマートフォンから離はなれて行おこなわれるということで、結果けっかを見みられるまでに少すこし時間じかんもかかる。夜景やけいモード写真しゃしんほど手軽てがるでないのは明あきらかだ。写真しゃしんの場合ばあい、HDR+アルゴリズムはデバイス上じょうで、数すう秒びょうのうちに適用てきようされる。

薄暗うすぐらい照明しょうめいの下したで色いろがどのように見みえるかにフォーカスした別べつのテスト用ようセット
提供ていきょう：James Martin/CNET

　カフェを使つかった別べつの撮影さつえいでは、2人ふたりの従業じゅうぎょう員いんが、キャンドルの灯あかりのもとで「モノポリー」をプレイする。卓上たくじょうには、ゲーム盤ばんの横よこにカラーチャート、「眠ねむっている」ネコのぬいぐるみ、麦むぎわらでできたボールも載のっている。照明しょうめいが乏とぼしいと、どんなカメラでも、画質がしつがとたんに下さがる。色いろが正確せいかくに再現さいげんされていないように見みえたり、テクスチャー（今回こんかいなら、ぬいぐるみの毛け、ボールのわら、ゲーム盤ばんの文字もじなどだ）もぼやっと甘あまくなって見みえたりしてしまうことがある。

　卓上たくじょうのカラーチャートは校正こうせい済ずみなので、照明しょうめいの条件じょうけんを変かえて撮影さつえいしたときに色いろがどう見みえるべきかを、チームメンバーは把握はあくしている。だが、それもプロセスの半分はんぶんにすぎない。感心かんしんするのは、Reynolds氏しとそのチームが、ある場面ばめんの適切てきせつな雰囲気ふんいきをどう追求ついきゅうしているかという点てんだ。自分じぶんの目めで見みたものと一致いっちしているかどうか、後ごからその瞬間しゅんかんを思おもい出だしたものと一致いっちしているかどうか。スマートフォン上じょうの各種かくしゅツールで次々つぎつぎと、アルゴリズム、機械きかい学習がくしゅう、人工じんこう知能ちのう（AI）が利用りようされるようになった今いま、このプロセスがいかに人間にんげん的てきで主観しゅかん的てきか、新鮮しんせんに感かんじられる。

　後編こうへんに続つづく。