1500kmの旅たびで出会であったのは…唯ただ月がつふうかが澄すんだ歌声うたごえ響ひびかせる「VIOLET」開幕かいまく

ミュージカル「VIOLET」が、本日ほんじつ9月がつ4日にちに東京とうきょう・東京とうきょう芸術げいじゅつ劇場げきじょう プレイハウスで開幕かいまくした。この記事きじでは、9月2日にちに行おこなわれた唯ただ月がつふうか出演しゅつえん版ばんの舞台ぶたい稽古けいこをレポートする。

藤田ふじた俊太郎しゅんたろうが演出えんしゅつを手てがける本ほん作さくは、大阪おおさか・梅田うめだ芸術げいじゅつ劇場げきじょうとイギリスのチャリングクロス劇場げきじょうによる共同きょうどうプロデュース作品さくひん。日本にっぽんキャスト版ばんは今年ことし4月がつに上演じょうえん予定よていだったが、新型しんがたコロナウイルスの影響えいきょうで中止ちゅうしとなっていた。出演しゅつえん者しゃにはWキャストでヴァイオレット役やくを務つとめる唯ただ月がつ、優ゆう河かわのほか、成なり河かわ、吉原よしはら光夫みつお、spi、横田よこた龍りゅう儀ただし、岡本おかもと悠紀ゆき、エリアンナ、谷口たにぐちゆうな、畠中はたけなか洋ひろし、島田しまだ歌穂かほらが名なを連つらねている。なお本ほん作さくは舞台ぶたいを四方しほうの客席きゃくせきが囲かこむ“シアター・オン・ステージ”形式けいしきでの上演じょうえんが予定よていされていたが、今回こんかいは通常つうじょうの客席きゃくせきのみを使用しようする形かたちとなったほか、一部いちぶ内容ないようが変更へんこうされている。

1964年ねん、アメリカ南部なんぶの片田舎かたいなか。13歳さいの頃ころ、父親ちちおやによる不慮ふりょの事故じこで顔かおに大おおきな傷きずを負おったヴァイオレットは、25歳さいになった現在げんざいまで人目ひとめを避さけて暮くらしていた。しかし彼女かのじょはあらゆる傷きずを治なおす奇跡きせきのテレビ伝道でんどう師しに会あうことを決意けつい。長距離ちょうきょりバスに1人にん乗のり込こんだヴァイオレットは、西にしに向むかって1500kmを移動いどうする旅たびを始はじめ……。

冒頭ぼうとうでは、キング牧師ぼくしの演説えんぜつ「I Have a Dream」の音声おんせいに乗のせて白黒しろくろ映像えいぞうが舞台ぶたい後方こうほうの壁かべに映うつし出だされ、観みる者ものを1964年ねんのアメリカへと誘さそう。舞台ぶたい上部じょうぶには、中央ちゅうおうに穴あなが空あいたドーナツ型がたの装置そうちが吊つるされ、ステージの上手じょうず、下手へた、後方こうほうは階段かいだん状じょうの舞台ぶたい装置そうちに囲かこまれている。デザインもサイズもさまざまな木製もくせいの椅子いすがあちこちに置おかれ、舞台ぶたいの隅すみには「BUS STOP」と書かかれたオレンジ色しょくのバス停ばすてい標識ひょうしきが設置せっちされた。出演しゅつえん者しゃたちが椅子いすと旅行りょこうかばんを手てに回転かいてん盆ぼんの上うえに集あつまり、ハンドルを持もった運転うんてん手しゅを先頭せんとうに2列れつに並ならんで着席ちゃくせきすると、舞台ぶたい上じょうは長距離ちょうきょりバスの車内しゃないへと様相ようそうを変かえた。

作中さくちゅうでは、事故じこで顔かおに傷きずを負おったという被害ひがい者しゃ意識いしきから卑屈ひくつな言動げんどうをしたり、無自覚むじかくに人ひとを傷付きずつけたりしてしまうヴァイオレットが、旅たびの出会であいを通つうじて自分じぶん自身じしんと対話たいわすることで、少すこしずつ変かわっていく様子ようすが描えがかれる。ヴァイオレットの傍かたわらには常つねに、彼女かのじょとおそろいのブラウスとスカートを身みに着つけた稲田いなだほのか扮ふんするヤング・ヴァイオレットが寄より添そう。回想かいそうの場面ばめんにはヤング・ヴァイオレットとspi演えんじるヴァイオレットの亡なき父親ちちおやが登場とうじょうし、彼女かのじょが傷きずを負おった経緯けいいや子供こども時代じだいの思おもい出でが描写びょうしゃされるほか、ヴァイオレットが父ちちに対たいして複雑ふくざつな感情かんじょうを抱だいていることが示しめされた。

傷きずの存在そんざいはメイクではなく、ヴァイオレットが顔かおを背そむける仕草しぐさや、彼女かのじょの顔かおを見みて驚おどろく共演きょうえん者しゃたちの演技えんぎによって表あらわされる。唯ただ月がつ演えんじるヴァイオレットは、周囲しゅういの視線しせんを気きにしておどおどとした態度たいどをとりながらも、黒人こくじんに差別さべつ的てきな言葉ことばを投なげかけたウェイターを制せいする場面ばめんでは、凛りんとした表情ひょうじょうで芯しんの強つよさを見みせる。また澄すんだまっすぐな歌声うたごえや、旅たび仲間なかまの兵士へいしたちの前まえで見みせる屈託くったくのない笑顔えがおからは、ヴァイオレットが持もつ少女しょうじょのような純真じゅんしんさが垣間見かいまみえた。

ヴァイオレットと共ともに旅たびする2人ふたりの兵士へいしを演えんじるのは、成なり河かわと吉原よしはら。成なり河かわは、軽薄けいはくに振ふる舞まう白人はくじん兵士へいし・モンティが、初はじめは遊あそび相手あいてとして扱あつかおうとしていたヴァイオレットに惹ひかれ、心しんを開ひらいていく過程かていを、表情ひょうじょうの変化へんかや細ささやかな仕草しぐさで巧たくみに表現ひょうげんする。また吉原よしはらはヴァイオレットに思おもいを寄よせる黒人こくじん兵士へいし・フリックを、落おち着ついた佇たたずまいで好演こうえん。フリックが「心しんの声こえで歌うたえ」とヴァイオレットを鼓舞こぶして歌うたうシーンでは、ハイトーンを多用たようする楽曲がっきょくを声こえ高たからかに歌唱かしょうし、客席きゃくせきから大おおきな拍手はくしゅを浴あびた。

上演じょうえん時間じかんは約やく2時じ間あいだ。公演こうえんは9月6日にちまでの3日間にちかん限定げんていで、新型しんがたコロナウイルス感染かんせん拡大かくだい対策たいさくを行おこなったうえで実施じっしされる。なおステージナタリーでは、優ゆう河かわがヴァイオレット役やくを務つとめたゲネプロの様子ようすもレポートする。