それでもなぜトランプは熱狂ねっきょう的てきに支持しじされるのか 幸福こうふくな国くには｢怪物かいぶつ｣を大統領だいとうりょうに選えらんだりしない

「幸福こうふくな国くにはトランプを大統領だいとうりょうに選えらんだりしない。絶望ぜつぼうしている国くにだから選えらんだのだ」。トランプ派はとして、主流しゅりゅう派は（すなわち進歩しんぽ派は）メディアから袋叩ふくろだたきにされている元もとFOXニュースの政治せいじコメンテーター、タッカー・カールソンが著書ちょしょ『愚者ぐしゃの船ふね』（2018年ねん、Ship of Fools:未み邦訳ほうやく）に記しるした言葉ことばだ。「人々ひとびとはトランプを選えらぶことで、政治せいじ家かやエリートたちに向むかって『クソ食くらえ』といっているのだ。それは軽蔑けいべつの所作しょさであり、怒いかりの叫さけびであり、何なん十じゅう年ねんにもわたった身勝手みがってで英知えいちもない指導しどう者しゃらの、身勝手みがってで英知えいちもない決定けっていの帰結きけつなのだ」。カールソンはこう述のべたうえで、断固だんこたるトランプ支持しじ者しゃとなった（Tucker Carlson, Ship of Fools, Free Press, 2018, p. 3.）。

このカールソンによるトランプ支持しじの、一種いっしゅのねじれた論理ろんりからも、いまアメリカが抱かかえる困難こんなんな状況じょうきょうが浮うかび上あがってくる。

では、トランプが映うつし出だす「底流ていりゅうで起おきている現象げんしょう」あるいは忘わすれられた人々ひとびとの「絶望ぜつぼう」とは、どのようなものなのか。

それはカールソンがいうように、この何なん十じゅう年ねんかアメリカが歩あゆんで来きた道みちにかかわる。トランプ（元来がんらいは民主党みんしゅとうである）が乗のっ取とってしまった共和党きょうわとう叩はたきをしても、何なにも始はじまらない。なぜ、トランプ支持しじ者しゃらがクリントン夫妻ふさいやバラク・オバマ元もと大統領だいとうりょうを蛇蝎だかつのごとく嫌きらうのか。今日きょうの人々ひとびとの「絶望ぜつぼう」は二に大だい政党せいとうが「共犯きょうはん」となってもたらした結果けっかであるからだろう。

経済けいざい格差かくさがすべての問題もんだいの背景はいけいにある

トランプが繰くり返かえし戻もどってくるアメリカの、人々ひとびとのいまのありさまをみてみよう。

今日きょうのアメリカの民主みんしゅ主義しゅぎが抱かかえる諸しょ課題かだいの根本こんぽん的てきな背景はいけいは、経済けいざい格差かくさである。これがアメリカ知識ちしき社会しゃかいが達たっした結論けつろんである（アメリカ芸術げいじゅつ科学かがくアカデミーが建国けんこく250年ねん［2026年ねん］に向むけて行いっている民主みんしゅ主義しゅぎ再さい構築こうちくのための作業さぎょうが生うんだ2つの報告ほうこく書しょ“Our Common Purpose” ［2020］, “Advancing a People-First Economy” ［2023］参照さんしょう）。

格差かくさは学歴がくれき（大卒だいそつ以上いじょうと高卒こうそつ以下いか）、地域ちいき（大都市だいとし・近郊きんこうとそれ以外いがい、沿岸えんがん部ぶと内陸ないりく）……で広ひろがる一方いっぽうだ。また、かつては親おやの収入しゅうにゅうを超こえていった子この世代せだいが、それを超こえることができなくなっている問題もんだいも起おきている。機会きかいの平等びょうどうや持続じぞく的てき成長せいちょうといった、アメリカンドリームを支ささえる基本きほん的てき要素ようそを享受きょうじゅできる人ひとが限かぎられて、「階級かいきゅう社会しゃかい」が生うまれだしている。それを「封建ほうけん社会しゃかい」とまで呼よぶ学識がくしき者しゃもいる。過去かこ数すう十じゅう年ねんのプロセスを経へて、アメリカはアメリカではなくなりつつあるのだ。