肥満の原因に腸内細菌?日本人特有のデブ菌とヤセ菌とは
腸内細菌と肥満の関係【前編】
腸内細菌をうまくコントロールすることができれば、肥満やそれに伴う疾患や老化が防げる可能性があるのだそうです。日本人の肥満と腸内細菌についてどこまで分かってきたのか、京都府立医科大学教授の内藤裕二さんに聞きました。
国によってデブ菌・ヤセ菌は異なる
肥満は腸内細菌と密接な関係にある。デブ菌、ヤセ菌という言葉を耳にしたことがある人もいるだろう。
肥満と腸内細菌の関係が明らかになったのは2006年、米・ワシントン大学のジェフリー・ゴードン博士らの研究報告がきっかけだ(*1)。
無菌マウスに通常のマウスの菌を移植しても太らないが、肥満マウスや肥満の人の腸内細菌を移植すると同じエサを食べても太ることから、腸内細菌が太りやすさを決定する要因だと結論付けた。この報告を機に腸内細菌研究は急激に加速した。
その後、ヒトの腸内細菌データの解析から、肥満の人の腸にはそうでない人に比べてバクテロイデス門に属する腸内細菌が少なく、ファーミキューテス門に属する腸内細菌が多いと報告され、その二つの菌の比率が肥満度を示すと注目を集めるように。日本国内でもファーミキューテス門を「デブ菌」、バクテロイデス門を「ヤセ菌」と呼んだり、その比率を調べる腸内細菌検査サービスなども登場した。
「バクテロイデスというのは、代謝物として短鎖脂肪酸を作る菌です。短鎖脂肪酸の中には脂肪の蓄積を抑えたり、脂肪の燃焼を促すシグナルになるものがあるので、大腸内にそういった菌が多いことが肥満抑制につながる可能性はあります。ただし、その後の調査から、ファーミキューテス/バクテロイデス比は日本人の肥満度に必ずしも当てはまらないことが分かってきました(*2)」と、腸内細菌の研究に詳しい京都府立医科大学教授の内藤裕二さんは説明する。
肥満抑制に働く特定の菌の探索も進められている。今、注目されているのは、アッカーマンシア菌(Akkermansia Muciniphila)だ。欧米人の腸によく見られる菌で、体重やBMI(体格指数)、血糖値や血中コレステロール値が高い人ではこの菌が少ない。また、この菌が少ない肥満の人がカロリー制限を試しても、本来カロリー制限で期待できるはずの代謝異常の改善効果が得られにくいと報告されている(*3)。
すでに数社からサプリメントとして販売されていて、日本国内でも近々健康食品として販売されるという話もあるが、この菌に関しても、日本人でも効果が得られるかは分からない。日本人では沖縄の一部を除き、腸内細菌叢にアッカーマンシアはほとんど見られないからだ。
「腸の中では腸内細菌がお互いに影響してバランスを保っていて、その菌の種類や構成バランスは欧米人のそれとはまったく異なります。欧米人の腸内細菌マトリックスにおいては、アッカーマンシアが多く存在することが肥満を改善しやすい腸内環境を作っているのかもしれませんが、日本人の腸内細菌叢の中にアッカーマンシアを入れたとしても期待できる効果をもたらすかは分かりません」
実感できるような変化が起きない可能性もあるし、場合によっては期待に反する結果をもたらすこともあるかもしれない。
世界で進むデブ菌とヤセ菌の研究の経緯
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1.肥満者の菌をマウスに移植したら太った
腸内細菌と肥満の関係を明らかにした研究。肥満マウスの腸内細菌と肥満者の腸内細菌どちらを移植しても無菌マウスが太ることが確認され、腸内細菌が宿主であるヒトや動物の体質や病気に影響することを印象付けた。
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2.2つの腸内細菌の比「F/B比」が関係?
海外の複数の研究から、BMIが高い人は腸内細菌叢のファーミキューテス門(F)の占有率がバクテロイデス門(B)に比べて高いと報告されている。ただし、日本人においては、必ずしも当てはまらないことが分かってきた。
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3.アッカーマンシアが関与している?
アッカーマンシア菌は、欧米人を対象とした試験で、肥満やメタボを改善する効果が確認されている。欧州食品安全機関(EFSA)にその安全性も認められ、体重コントロールに役立つ食品としてサプリメントが販売されている。
➡ しかし、日本人には少ない菌
*1 Nature. 2006 Dec 21;444(7122):1027-31.
*2 J Gastroenterol 2019, 54(1): 53-63.
*3 Gut.2016 Mar;65(3):426-36.