小島慶子 「素っ気なさ」からも他者への寛容は生まれる
空港の手荷物検査でもたついている私に若い女性が放った「正義の言葉」。その姿に、「小さなムラのクイーン」だったかつての自分が重なった
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日本で働き、オーストラリアで家族と過ごす「往復生活」をしている小島慶子さん。子育ても終盤にさしかかり、「これまでとは違う一歩」を踏み出しつつある小島さんが、新たな気づきや挑戦を語っていきます。今回のARIAな一歩は、「若者の正義」。
「そこで止まると、後ろの人が進めないんですけど!!」
出張先で、ブヨに刺されたらしい。気づいたら左脚のすねに2カ所刺し傷があり、かなり腫れている。そこで帰る日の朝に強めの抗ヒスタミン剤を飲んだ。これはかなり眠くなるがまあ、あとは飛ぶだけだ。すると空港で、パニック発作の兆候が現れた。私はアレルギー体質で、異物に強めに反応するとたいてい発作が起きる。ああ来たなと思い、パニック発作を抑える薬を飲んだ。
おかげで発作は起きずに済んだが、2つの薬の作用でかなりぼうっとする。気づけば搭乗時刻ぎりぎりであった。地方の小さな空港だから、手荷物検査を終えればすぐ搭乗口だ……が、結構な列である。やばい、時間がない。
しかも私は、PCをリュックではなくキャリーケースに入れてしまっていた。たいていの空港では、手荷物検査でPCをトレーに出さねばならない。だが、最新機器を導入している一部の空港では、大きなトレーにバッグを丸ごと置いてベルトコンベヤーに載せ、機械に通せばいいだけになっている。このところはそっちに慣れてしまい、つい、PCをリュックではなくキャリーケースに入れていた。
うああしまったと思ったが、時間がない。とりあえず荷物台の空いた所にキャリーケースを置いて、速攻でPCを取り出しにかかった。すると
「そこで止まると、後ろの人が進めないんですけど!!」
と、隣にいた若い女性が私に忠告した。
ここにもトラップがあった。私がよく使う海外の空港では、利用客は荷物台の空いている場所を見つけてバッグを置き、トレーに中身を出して目の前のベルトコンベヤーに流す仕組みになっている。つまり列の並び順とは関係なく通過できるようになっているのだ。荷物をトレーに出すのに時間のかかる人も急ぐ人もいるのでこの仕組みは合理的である。
だが、この地方空港はベルトコンベヤー式ではなかった。利用者は列の順番通りに荷物台にバッグを置き、目の前に積まれたトレーを手に取って、バッグの中身をトレーに出しながら、止まることなく自ら荷物ごと横方向に移動しなければならない。流れを乱すまいとする全員の強い同調意志がなければ、効率的に機能しない仕組みになっているのだ。
私はついベルトコンベヤー式のやり方で、空きスペースにキャリーケースを置いてしまった。さらにファスナーを開けてPCを取り出してトレーに載せファスナーを閉じる10秒余りの作業の間、流れを止めることになった。だから注意されたのだ。ブヨに刺されてぼうっとしていたことはい訳にならない。
20代の頃はまるで関心のなかった縄文土器や古墳の良さに気づいたのは最近。時を超えて古代の人が隣人のように感じられるようになりました。今は飛鳥時代にはまっています