LIXIL 新システム導入で社内の「抵抗」に直面、解決のカギは
金澤祐悟CDO 組織づくりの理想は「自分がいなくなっても、チーム全体で価値を出せる働き方が残ること」
2016年からLIXILでCDO(最高デジタル責任者)を務める金澤祐悟さんは、20代のときに商社勤務から思いがけずベンチャーの世界へ。立ち上げから関わったMonotaROで多様な人たちと協働し新しいビジネスをつくっていった経験が、LIXILでも目指すべき方向性の指針になったと話します。そんな金澤さんがCDOとして取り組んできたのが、「デジタルの力を使った顧客体験の向上」。新しいシステム導入を進めるにあたっての「現場の壁」をリーダーとしてどう乗り越えたのかを聞きました。
(上)LIXIL金澤祐悟 多様性ある組織にはシンプルな行動指針が必要
(下)LIXIL 新システム導入で社内の「抵抗」に直面、解決のカギは ←今回はココ
「デジタルを使ってエンドユーザーに近づこう」
編集部(以下、略) 金澤さんはCDOとして、デジタルの側面からはLIXILにどのような改革が必要だと考えたのでしょうか。
金澤祐悟さん(以下、金澤) かつての日本は、高度経済成長でどんどん家が建てられて、トイレを作るとなったらINAXかTOTO、窓だったらトステムかYKKといった感じで、メーカーの数も限られているので、それぞれのシェアの中でみんなが伸びていきました。でも今は人口が縮小して、新築件数もこれから減っていく。そうした社会の変化の中でLIXILの生きる道は、おそらくリフォームしかないと思っています。
リフォームは需要を創造するのが結構大変です。別にリフォームしなくても生きていけるし、住む家はある。どうしても今のままでは嫌だと思わないと行動に移しません。そういう人たちにリフォームしてもらうには、本当はもっと施主に寄り添う必要があります。でも今までは、LIXILのような住宅設備のメーカーが見ていた「お客様」は中間の流通業者なんです。製品を取り扱って売ってもらうことにしか注力していなかった。
今の時代、流通の人たちを見ていても需要は増えません。施主、つまりエンドユーザーにちゃんと目を向けて、その人たちに寄り添うことが需要を創造する唯一の方法です。そのためには、カスタマーエクスペリエンス(CX=顧客体験)をいかに高めていくかが重要で、そこにデジタルを活用していく。単にデジタル化、効率化を推進しようということではなく、僕は「デジタルを使ってエンドユーザーに近づこう」と言い続けています。
リフォームって、お金や時間はどれくらいかかるのか、どんな仕上がりになるのかなど、分からないことがたくさんありますよね。他の消費行動と比べると、旅行はどれくらいの予算でどんなふうに楽しめるかは何となく想像がつくし、車を買うときは試乗で乗り心地を体験できる。リフォームはCXをもっと良くしないと、お金を使ってもらえないのではと思います。
―― 具体的にどのような取り組みを行ったのですか。
金澤 私たちとお客様の主な接点はショールームですが、例えばキッチンのリフォームをするときに、以前はショールームで実物をサンプルとして見てもらうだけでした。それを今はコーディネーターがタブレット端末を使い、3Dシミュレーターで何千万通りのパターンの中から素材や色、コンロの高さなど、お客様の要望に合わせたキッチンをバーチャルに作成。ARも活用しながら検討してもらえるようにしました。まだまだ足りないかもしれませんが、デジタル化によって消費者の体験価値を向上することに注力しています。
とはいえ、こうしたシステムが必要だと説明しても、初めから現場でスムーズに受け入れてもらえたわけではありませんでした。
「これからは、流通ではなくエンドユーザーにきちんと目を向けて寄り添うことが需要を創造する唯一の方法です。『大事なのはカスタマーエクスペリエンスをいかに高めるか。そこにデジタルを使おう』というメッセージを社内に発信し続けています」(LIXIL CDOの金澤祐悟さん)