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　今春こんしゅん、文部もんぶ科学かがく省しょうの職員しょくいんになった藤井ふじい健けん人じんさん（30）は、小中学校しょうちゅうがっこう時代じだいに不ふ登校とうこうを経験けいけんしました。定時ていじ制せい高校こうこうを経へて大学だいがく、大学院だいがくいんに進すすみ、定時ていじ制せい高校こうこうの教諭きょうゆから文科ぶんか省しょうに転てんじた藤井ふじいさん。「『普通ふつう』になりたいのになれないという葛藤かっとうをずっと抱だいていた」と語かたります。

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　埼玉さいたま県けんの公立こうりつ小学校しょうがっこうに通かよっていました。学校がっこうを休やすみがちになったのは4年生ねんせいのときです。

　当時とうじ、祖父母そふぼと両親りょうしんは持病じびょうを抱かかえて通院つういんや療養りょうようが必要ひつようで、仕事しごとをやめた父ちちは常つねに家いえにいる状態じょうたいでした。親おやが健康けんこうで仕事しごとをもっているという「普通ふつう」の家庭かてい環境かんきょうにいる同級生どうきゅうせいたちと、自分じぶんとの違ちがいが徐々じょじょに違和感いわかんとして強つよくなり、小しょう5からほとんど学校がっこうに行いかなくなりました。不ふ登校とうこうは中学ちゅうがく卒業そつぎょうまで続つづきました。

　直面ちょくめんした壁かべの一ひとつに高校こうこう受験じゅけんがあります。不ふ登校とうこうだった私わたしは各かく教科きょうかの評定ひょうじょうがオール1。学力がくりょくの積つみ重かさねもなく、漠然ばくぜんとあこがれていた地元じもとの公立こうりつ高校こうこうに合格ごうかくするのは不可能ふかのうだという現実げんじつを突つきつけられました。

　進学しんがく先さきは夜間やかんの定時ていじ制せい高校こうこう。一般いっぱん的てきな定時ていじ制せいと異ことなり、制服せいふくや校則こうそくがあり、「普通ふつう」の全ぜん日にち制せい高校こうこうと雰囲気ふんいきが遠とおくないと思おもわせてくれる学校がっこうを選えらびました。それでも、「不ふ登校とうこうになっていなければ当あたり前まえのように全日ぜんじつ制せいに通かよっていたはずだ」という気持きもちは、今いまでも消きえてはいません。

「人生じんせい変かえるため」　定時ていじ制せい高校こうこうから早大そうだいへ

　高校こうこうでは勉強べんきょうに打うち込こみました。原動力げんどうりょくになったのは「普通ふつう」に戻もどりたいという強つよい思おもいです。全ぜん日にち制せいの生徒せいとですら相当そうとうの努力どりょくが求もとめられるような大学だいがくに行いけば、自分じぶんの人生じんせいが変かわるんじゃないかという気持きもちでした。

　もちろん、大学だいがく進学しんがくが人生じんせいのゴールではないことは間違まちがいありません。ただ当時とうじの私わたしにとっては、自分じぶんと家族かぞくの将来しょうらいのために大学だいがく進学しんがくという目標もくひょうが必要ひつようでした。

　授業じゅぎょうの予習よしゅう復習ふくしゅうを徹底てっていし、午後ごご9時じに授業じゅぎょうが終おわると、職員しょくいん室しつで先生せんせいに疑問ぎもん点てんや次回じかい扱あつかう内容ないようを確認かくにんしてから帰かえる日々ひびでした。成績せいせきは上向うわむき、ほとんどの科目かもくで5をもらいました。

　高校こうこう卒業そつぎょう後ごに予備校よびこうに通かよい、希望きぼうする早稲田大学わせだだいがくに合格ごうかくしました。「普通ふつう」を目指めざして、努力どりょくの末すえにようやく手てに入いれた環境かんきょうでした。

　ところが、最初さいしょの1週間しゅうかんで同級生どうきゅうせいと話はなしが合あわないことに気付きづきました。どんな部ぶ活動かつどうをしてきたのか、高校こうこう時代じだいに放課後ほうかごをどう過すごしたか、みたいな話題わだいについていけない。非常ひじょうにつらかった。

　大学だいがくの人間にんげん関係かんけいを避さけて、バイトをするか大学だいがくの図書館としょかんにいることが多おおかったのですが、自分じぶんの経験けいけんを教育きょういく学がくの視点してんで言語げんご化かする教育きょういく社会しゃかい学がくに関心かんしんを持もつようになり、東京大学とうきょうだいがくの大学院だいがくいんに進学しんがくしました。

定時ていじ制せい高校こうこう教諭きょうゆから文科ぶんか省しょう職員しょくいんに

　周囲しゅういは文科ぶんか省しょうの官僚かんりょうを志こころざす人ひとが多おおかったので、そのまま文科ぶんか省しょうを目指めざすことも考かんがえました。ただ、自分じぶんだからこそできることは何なにだろうと考かんがえ、埼玉さいたま県けんの定時ていじ制せい高校こうこうの教諭きょうゆになりました。

　自分じぶんの経験けいけんを生いかして生徒せいとと向むき合あうことができて、とてもやりがいがありました。一方いっぽうで、実際じっさいに働はたらいてみて残業ざんぎょうや部活ぶかつ指導しどうの重おもい負担ふたんなど、教員きょういんの働はたらき方かたの問題もんだいに直面ちょくめんしました。この現状げんじょうは学校がっこう現場げんばの力ちからだけでは変かえられないのではと思おもい、現場げんばを知しる自分じぶんが教育きょういく行政ぎょうせいの中なかに行いく意味いみがあると思おもうようになり、教員きょういんを4年ねん務つとめた後のち、文科ぶんか省しょうに入はいりました。

あのとき抱だいていた葛藤かっとう

　不ふ登校とうこうだったころ、周囲しゅういから「人ひとと比くらべる必要ひつようはない」「ありのままの自分じぶんを大切たいせつに」というような言葉ことばをかけられることがありました。ただ、現状げんじょうを変かえて「普通ふつう」になりたいと願ねがっていた私わたしは、それらの言葉ことばをうれしいとは感かんじなかった。

　私わたし自身じしんの経験けいけんから、「ありのままでいい」という優やさしい言葉ことばは、場合ばあいによっては、当事とうじ者しゃが内うちに抱かかえている「現状げんじょうを変かえよう」という意欲いよくを損そこなうことにもなりかねないと感かんじています。

　当時とうじ、「不ふ登校とうこうも個性こせいや多様たよう性せいなんだよ」という言葉ことばをかけられることもありましたが、こうした言葉ことばにも抵抗ていこう感かんがありました。そういった言葉ことばは不ふ登校とうこう支援しえんの現場げんばで今いまも聞きかれるのが現状げんじょうですが、私わたしは望のぞんでその「個性こせい」を得えたわけではなく、「普通ふつうになりたいのに、なれない」という葛藤かっとうをずっと抱だいていた。今いまも、不ふ登校とうこうでなければ得えられただろう様々さまざまな機会きかいを取とり戻もどせたとは思おもっていません。

　だから、いま不ふ登校とうこうで悩なやんでいる子こ、定時ていじ制せい高校こうこうに進すすんで人生じんせいの選択せんたくに悩なやんでいる人ひとに、私わたしから「ありのままでいい」とメッセージを発はっすることは不誠実ふせいじつになってしまいます。ただ、現状げんじょうを変かえるためにもがいた、私わたしのような歩あゆみ方かたもあるということは、一ひとつの生いき方かたの例れいとして参考さんこうになるのではないかと思おもっています。（き手きて・高嶋たかしま将之まさゆき）

■略歴りゃくれき

　ふじい・けんと　1992年ねん、埼玉さいたま県けん生うまれ。中学ちゅうがく卒業そつぎょうまでの約やく5年間ねんかん、不ふ登校とうこうに。定時ていじ制せいの埼玉さいたま県立けんりつ戸田とだ翔しょう陽ひ高校こうこうを卒業そつぎょう後ご、早稲田大わせだだいに進学しんがく。東大とうだい院いん修士しゅうし課程かてい修了しゅうりょう。2019年ねんに埼玉さいたま県立けんりつ大宮おおみや商業しょうぎょう高校こうこう（定時ていじ制せい）の教諭きょうゆに。国家こっか公務員こうむいん総合そうごう職しょく試験しけんに合格ごうかくし、23年ねんから文部もんぶ科学かがく省しょう職員しょくいん。現在げんざいは大臣だいじん官房かんぼう総務そうむ課かに所属しょぞく。

■不ふ登校とうこうの児童じどう生徒せいと数すう

　文部もんぶ科学かがく省しょうの調査ちょうさでは、2021年度ねんどの不ふ登校とうこうの小中学生しょうちゅうがくせいは24万まん4940人にん（前年度ぜんねんど比ひ24・9%増ぞう）。9年ねん連続れんぞくで増加ぞうかし、過去かこ最多さいただった。

　同省どうしょうは、19年度ねんどに不ふ登校とうこうを経験けいけんした小しょう6と中なか2の計けい約やく2万まん2千せん人にんを対象たいしょうに20年度ねんどに実態じったい調査ちょうさを実施じっし。「学校がっこうを多おおく休やすんだことについて今いまどう思おもうか」との問といへの回答かいとうで最もっとも多おおかったのは「もっと登校とうこうすればよかった」で、中ちゅう2で30%、小しょう6で25%。「（休やすんだことは）しかたがなかった」は小しょう6で17%、中ちゅう2で15%、「登校とうこうしなかったことは、自分じぶんにとってよかったと思おもう」は小しょう6で13%、中ちゅう2で10%。欠席けっせき期間きかんの受うけ止とめ方かたは様々さまざまだ。調査ちょうさでは、休やすんでいる間あいだの気持きもちも聞きいた。進路しんろ・進学しんがくに対たいする不安ふあんがあるか尋たずねると、中ちゅう2の69%、小しょう6の47%が「あてはまる」または「少すこしあてはまる」と回答かいとう。勉強べんきょうの遅おくれに対たいする不安ふあんも中ちゅう2は74%、小しょう6も64%が抱かかえていた。

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