危険きけんな虫歯むしばや口内こうない感染かんせん症しょうが、心筋梗塞しんきんこうそくや脳卒中のうそっちゅうなど万病まんびょうの原因げんいん？歯は周しゅう病びょうがアルツハイマー病びょうを起おこす？

「Thinkstock」より

「芸能人げいのうじんは“歯はが命いのち”」というコマーシャル。流行りゅうこう語ごにもなったので、ご記憶きおくの方ほうは多おおいだろう。白しろいきれいな歯はを持もっているのは、芸能人げいのうじんにとって大事だいじな条件じょうけんである。確たしかに、テレビに出でてくる芸能人げいのうじんの多おおくはきれいな歯はを見みせて話はなすし、笑わらう。なかには口元くちもとを隠かくす人ひともいるが、多おおくは少すこしご高齢こうれいの方かたたちである。歯はを出だして笑わらってはいけないといわれて育そだった人ひとたちだ。

　歯はを見みせたくないもうひとつの理由りゆうは、おそらく入いれ歯ばだからだろう。入いれ歯ばと知しられたくないという人ひとがまだまだいる。なかには入いれ歯ばが合あっていないと思おもわれるが、語尾ごびがはっきりしないご高齢こうれいのタレントもいる。

　それにしても、「歯はが命いのち」というのは少すこしオーバーなのでは、と思おもわれた方ほうもいるはず。しかし、口くちの中なかの病気びょうき、特とくに歯は周しゅう病びょうとさまざまな病気びょうきが密接みっせつに関係かんけいする論文ろんぶんが次々つぎつぎと発表はっぴょうされ、「歯はが命いのち」は単たんなるコマーシャルのコピーではなくなってきている。

　たとえば、歯は周しゅう病びょうとアルツハイマー病びょうの関係かんけいである。世界せかい各国かっこくからアルツハイマー病びょうに関かんする研究けんきゅう成果せいかなどを収集しゅうしゅうし、信頼しんらいできるものを発表はっぴょうしている「ジャーナル・オブ・アルツハイマーズ・ディジーズ」という論文ろんぶん誌しがある。昨年さくねん、アルツハイマー病びょうで亡なくなった人ひとの脳のうから歯は周しゅう病菌びょうきんが見みつかったという論文ろんぶんが発表はっぴょうされた。被験者ひけんしゃ数すうは20人にん。アルツハイマー病びょうで亡なくなった10人にんのうち4人にんの方ほうの脳のうから歯は周しゅう病菌びょうきんが見みつかった。一方いっぽう、アルツハイマー病びょう以外いがいの病気びょうきで亡なくなった10人にんの脳のうからは歯は周しゅう病菌びょうきんは見みつからなかった。

　論文ろんぶんの発表はっぴょう者しゃは、アルツハイマー病びょう以外いがいの病気びょうきで亡なくなった人ひとの脳のうから歯は周しゅう病菌びょうきんが見みつからなかったことから、「歯は周しゅう病菌びょうきんとアルツハイマー病びょうの発生はっせいには無視むしできない関係かんけいがある」としている。

　歯は周しゅう病びょうといえば、歯はと歯茎はぐきの間あいだで起おこる病気びょうきである。その原因げんいんとなる歯は周しゅう病菌びょうきんがどうして脳のうにまで入はいり込こむのか。口くちの中なかの細菌さいきんと虫歯むしばや歯は周しゅう病びょうの関係かんけいを研究けんきゅうし、日本にっぽんではじめて除菌じょきん外来がいらいを設立せつりつした鶴見大学つるみだいがく歯学部しがくぶの花田はなた信弘のぶひろ教授きょうじゅは、次つぎのようにいう。

「アルツハイマー病びょうの人ひとの脳のうから歯は周しゅう病菌びょうきんが見みつかったのですが、正確せいかくにいえば歯は周しゅう病菌びょうきんの痕跡こんせきが見みつかったということです。菌きんそのものではなく、歯は周しゅう病菌びょうきんがいた痕跡こんせきです。脳のうに歯は周しゅう病菌びょうきんが侵入しんにゅうしていることは確たしかです。じつは、歯は周しゅう病びょうが進すすんでくると、歯は周しゅう病菌びょうきんが噛かむたびに血液けつえきの中なかに侵入しんにゅうすることがわかっています。これは歯は原ばら性せい菌きん血ち症しょうといいます。その一部いちぶが脳のうに入はいったのです」

　歯は原ばら性せいとは、口くちの中なかの細菌さいきんが原因げんいんとなるという意味いみで、菌きん血ち症しょうとは血液けつえきの中なかに細菌さいきんが入はいり込こんだ状態じょうたいで、さまざまな病気びょうきを引ひき起おこす。心筋梗塞しんきんこうそく、動脈どうみゃく硬化こうか、脳卒中のうそっちゅう、リウマチ、早産そうざんなどを起おこすことがすでにわかっている。虫歯むしば、歯は周しゅう病びょうはもちろんだが、これらの病気びょうきを予防よぼうする上じょうでも、重要じゅうようなことは元もととなっている細菌さいきんを殺ころすか、少すくなくとも少すくなくすることだ。

どぶの中なかで治療ちりょう

　虫歯むしばにしても歯は周しゅう病びょうにしても、虫歯むしば菌きんや歯は周しゅう病菌びょうきんによる感染かんせん症しょうなのに、「除菌じょきんしましょう」「殺菌さっきんしましょう」などと歯科しか医いからいわれたことがあるだろうか。医科いかでは、細菌さいきんの感染かんせんに関かんして、殺菌さっきんだけでなく抗菌こうきん、除菌じょきんなどの対策たいさくがとられているのに、歯科しかの世界せかいでそれがあまり行おこなわれていない。

　口腔こうくうの細菌さいきんに注目ちゅうもくしている歯科しか医いの中なかには、虫歯むしば菌きん、歯は周しゅう病菌びょうきんがどのくらいいるのか、それを調しらべないで治療ちりょうをするのは「どぶの中なかで治療ちりょうしているようなもの」だと主張しゅちょうする人ひともいる。患者かんじゃに対たいし、治療ちりょうの前まえに口くちの中なかをきれいにしてからでないと虫歯むしばの治療ちりょうをしないという歯科しか医いもいる。歯はが虫歯むしばに侵おかされているなら、それだけ虫歯むしば菌きんが口中くちじゅうにいるという証拠しょうこである。プロフェッショナル・メカニカル・トゥース・クリーニング（PMTC）という、歯科しか衛生えいせい士しがおもに行おこなう歯はのクリーンニング法ほうがあるが、これを行おこない、さらに正ただしい歯磨はみがき法ほうによって虫歯むしば菌きんを減へらしてから治療ちりょうをするのだ。

　患者かんじゃからすぐに治療ちりょうしてくれないというクレームがくるが、感染かんせん症しょうであることを説明せつめいし、理解りかいを求もとめる。しかし、こうした歯科しか医いはまだまだ少すくない。

口くちの中なかの細菌さいきんを調しらべることが重要じゅうよう

　ところで、「虫歯むしば菌きん、歯は周しゅう病菌びょうきんを歯科しか医いで調しらべてくれるのか」と疑問ぎもんを持もたれそうだが、すでに虫歯むしば菌きん、歯は周しゅう病菌びょうきんがどのくらいいるのかをチェックするキットがあり、使つかっている歯科しか医いも出でてきている。ちなみに保険ほけんが効きかないので、患者かんじゃの全額ぜんがく自己じこ負担ふたんとなる。

　医科いかでは、血液けつえき検査けんさをはじめさまざまな検査けんさが行おこなわれる。より正確せいかくな診断しんだんを行おこなうためだが、歯科しかではレントゲンという画像がぞう診断しんだんは行おこなうが、血液けつえき検査けんさに相当そうとうするような検査けんさは行おこなわれてこなかった。歯科しかにおいて、血液けつえき検査けんさに相当そうとうするのは唾液だえき検査けんさである。唾液だえき検査けんさは、虫歯むしば菌きんなどの細菌さいきんの量りょう、唾液だえきの量りょう、pHなどがわかる。虫歯むしばや歯は周しゅう病びょうにかかるリスクが確認かくにんできる。さらに、虫歯むしば菌きんなどの除菌じょきんの成果せいかを知しることができる。歯科しかにおいても、口くちの中なかの細菌さいきんの量りょうがわかる検査けんさが進すすむことが望のぞまれる。これが一般いっぱんに行おこなわれるようになれば、保険ほけん適用てきようの道みちも開あけていくだろう。

　筆者ひっしゃは『歯はは磨みがくだけでいいのか』（文春ぶんしゅん新書しんしょ）を上梓じょうしした際さい、読者どくしゃの方々かたがたからいい歯医者はいしゃさんを紹介しょうかいしてほしいといわれたが、先さきほど紹介しょうかいしたPMTCをルーティンにしていること、できれば検査けんさを取とり入いれていること、感染かんせん症しょうの対策たいさくをしているところ（治療ちりょうが個室こしつであるなど）をあげて、まずそれを確たしかめることをお勧すすめしている。ぜひ参考さんこうにしてください。
（文ぶん＝蒲谷かばや茂しげる／医療いりょうジャーナリスト）