「禁書きんしょ」が広ひろがるアメリカ　狙ねらい撃うちされる性せい描写びょうしゃ、辞書じしょや百科ひゃっか事典じてんまで撤去てっきょした例れいも

好このましくない本ほんを公立こうりつ学校がっこうの図書館としょかんから撤去てっきょする運動うんどうが米国べいこくで勢いきおいを増ましている。

言論げんろんの自由じゆうを唱となえるNPO「米国べいこくペンクラブ」が2024年ねん4月がつ16日にちに公表こうひょうした報告ほうこく書しょによれば、2023年ねん7月がつから12月がつまでの半年はんとし間あいだ（学校がっこう年度ねんどの前半ぜんはん）に、全米ぜんべい23州しゅうで4300以上いじょうの本ほんが公立こうりつ学校がっこうで禁書きんしょ扱あつかいになった。この数字すうじは、前年度ぜんねんど（2022年ねん7月がつ～2023年ねん6月がつ）の禁書きんしょの総数そうすうを上回うわまわっている。

近年きんねん、禁書きんしょが増ふえている原因げんいんは、保守ほしゅ主義しゅぎ団体だんたいの動うごきに加くわえて、子こどもが手てにすることができる書籍しょせきを制限せいげんする法律ほうりつや規則きそくが制定せいていされたためである。

米国べいこくペンクラブは2021年ねん夏なつ以降いこう、42の州しゅうで起おきた禁書きんしょの動うごきを追跡ついせきした。それは、学校がっこう区くの教育きょういく委員いいん会かいの実権じっけんを握にぎるのが共和党きょうわとうであるか民主党みんしゅとうであるかに関かかわらず起おきている。

ただこの数字すうじは、禁書きんしょの全容ぜんようを伝つたえるものではないだろう。米国べいこくペンクラブの集あつめた統計とうけいは、報道ほうどうされたものや情報じょうほう公開こうかい請求せいきゅうで開示かいじされたもの、公表こうひょうされたデータに基もとづくもので、報道ほうどうすらされない禁書きんしょは数多かずおおいのだ。

米国べいこくペンクラブの報告ほうこく書しょの主要しゅような調査ちょうさ結果けっかを紹介しょうかいしよう。

禁書きんしょは加速度かそくど的てきに増ふえている

米国べいこくにおいては、禁書きんしょそのものは新あたらしい現象げんしょうではない。子こどもたちがどんなものを読よんでいるのかを心配しんぱいする親おやたちが、学校がっこうや図書館としょかんに苦情くじょうを寄よせることは昔むかしからしばしばあり、そういう場合ばあいの対処たいしょの手続てつづきも存在そんざいしている。

しかし、最近さいきんの禁書きんしょの動うごきは規模きぼが際きわだっている。検閲けんえつの動うごきはますます組織そしき化かされ、政治せいじ化かされ、保守ほしゅ系けい団体だんたいによって強化きょうかされている。「自由じゆうを求もとめる母親ははおやたち」「ユタ州しゅう保護ほご者しゃ連合れんごう」といった団体だんたいが、図書館としょかんの蔵書ぞうしょの中身なかみを規制きせいする法律ほうりつの制定せいていを推進すいしんしている。

米国べいこくペンクラブが禁書きんしょ調査ちょうさを開始かいしして以来いらい、これまでに学校がっこうから撤去てっきょされた本ほんは1万まん冊さつ以上いじょうに上のぼる。標的ひょうてきとされた本ほんの多おおくは、性的せいてき少数しょうすう者しゃ（LGBTQ）が登場とうじょうしたり、人種じんしゅや人種じんしゅ差別さべつをテーマにしたりしているものだ、という。

禁書きんしょが最もっとも多おおいのはフロリダ州しゅう    

2023学校がっこう年度ねんどの上半期かみはんきに学校がっこうでの禁書きんしょが最もっとも多おおかったのはフロリダ州しゅうで、11の学校がっこう区くで3135冊さつが図書館としょかんから撤去てっきょされた。その過半数かはんすうはエスカンビア郡ぐんの公立こうりつ学校がっこうで、1600冊さつ以上いじょうが撤去てっきょされた。性行為せいこういを描えがいたり、性行為せいこういに言及げんきゅうしたりする図書としょを禁止きんしするフロリダ州しゅうの教育きょういく法ほうが理由りゆうである（中なかには、辞書じしょや百科ひゃっか事典じてんまで撤去てっきょした学校がっこうもあった）。

フロリダ州しゅうで本ほんの撤去てっきょが急増きゅうぞうしたのは、子供こどもたちが読よむ図書としょや使つかう教材きょうざいを規制きせいしようとして、州しゅう知事ちじロン・デサンティスと共和党きょうわとうが多数たすうを占しめる州しゅう議会ぎかいが成立せいりつさせたいくつかの州法しゅうほうがあるためである。

米国べいこくペンクラブで「読書どくしょの自由じゆう」プログラムのディレクターを務つとめているケイシー・ミーハンは、フロリダ州しゅうは全米ぜんべい各地かくちの禁書きんしょ戦術せんじゅつの実験じっけん場じょうにもなっていると指摘してきする。

「ある意味いみ、フロリダ州しゅうで禁書きんしょのやり方かたが開発かいはつされ、それが全米ぜんべいに広ひろめられている。フロリダでは、とても有害ゆうがいな法律ほうりつが制定せいていされたために禁書きんしょ問題もんだいをめぐって危機ききが起おきているが、サウスカロライナ、アイオワ、アイダホなどの州しゅうでは、そういう法律ほうりつをそっくりまねた法案ほうあん、あるいは似にたような法案ほうあんが提出ていしゅつされたり立法りっぽう化かされたりしている」

性的せいてき暴行ぼうこうを描えがいた本ほんがどんどん狙ねらい撃うちにされている

セックスに関かんする内容ないようを含ふくんだ本ほんは、こうした本ほんを狙ねらい撃うちにする法律ほうりつの制定せいていや政策せいさくによって学校がっこうの図書館としょかんでどんどん禁書きんしょ扱あつかいにされているが、これに合あわせて、性的せいてき暴行ぼうこうを描えがいた本ほんもますます問題もんだい視しされている。

米国べいこくペンクラブによれば、2021～2022及および2022～2023学校がっこう年度ねんどに禁書きんしょになった本ほんの20％近ちかくは、レイプや性的せいてき暴行ぼうこうを扱あつかった本ほんだった。

アイダホ州しゅうのウェストエイダ学校がっこう区くで2023年ねん、性的せいてき暴行ぼうこうを扱あつかって禁書きんしょにされた本ほんの中なかには、次つぎのような作品さくひんが含ふくまれていた。

マーガレット・アトウッド（訳注やくちゅう＝国際こくさい的てきに有名ゆうめいなカナダの作家さっか）の「侍女じじょの物語ものがたり」のグラフィックノベル版ばん、ルピ・クーア（訳注やくちゅう＝インド出身しゅっしんの詩人しじんで、世界中せかいじゅうに読者どくしゃがいる）の詩集ししゅう「ミルクとはちみつ」、ジェイシー・デュガード（訳注やくちゅう＝性せい犯罪はんざい者しゃに拉致らちされた被害ひがい者しゃ）の回想かいそう録ろく「奪うばわれた人生じんせい」、エイミー・リードの小説しょうせつ「どこにもない少女しょうじょたち」（訳注やくちゅう＝同どう世代せだいの男子だんし生徒せいとからの性的せいてき圧力あつりょくに直面ちょくめんする少女しょうじょたちの苦悩くのうを描えがいている）などだ。

フロリダ州しゅうコリアー郡ぐんでは、性行為せいこういを描えがいた本ほんを禁きんじた新あたらしい州法しゅうほうに従したがって、学校がっこう当局とうきょくが2023年ねんに数すう百ひゃく冊さつの本ほんを禁書きんしょ扱あつかいにした。

その中なかには、ゾラ・ニール・ハーストンによる「彼かれらの目めは神かみを見みていた」（訳注やくちゅう＝黒人こくじん女性じょせいの性せいの目覚めざめを描えがいた作品さくひん）、ジョン・グリシャム（訳注やくちゅう＝現代げんだいアメリカを代表だいひょうするベストセラー作家さっか）の「評決ひょうけつのとき」、トニ・モリスン（訳注やくちゅう＝ノーベル文学ぶんがく賞しょうを受賞じゅしょうした黒人こくじん作家さっか）の「青あおい眼めがほしい」なども含ふくまれている。

禁書きんしょに抵抗ていこうする運動うんどうも広ひろがっている

こうした禁書きんしょの動うごきに反対はんたいしている保護ほご者しゃ、生徒せいと、言論げんろん団体だんたい、図書館としょかん団体だんたい、書店しょてん業界ぎょうかい、作家さっかたちは書籍しょせきの撤去てっきょを止とめるための運動うんどうを組織そしき化かしている。彼かれらの主張しゅちょうは、禁書きんしょという行為こういは言論げんろんの自由じゆうを保障ほしょうする合衆国がっしゅうこく憲法けんぽう修正しゅうせい第だい1条じょうに違反いはんしている、ということだ。

2023年ねん秋あき、アラスカ州しゅう南部なんぶのマタヌスカ・スシトナ郡ぐん学校がっこう区くでは、50冊さつ以上いじょうが禁書きんしょになったことに抗議こうぎして、数すう百ひゃく人にんの生徒せいとがストライキを行おこなった。

2023年ねん10月がつ、ワイオミング州しゅうララミー郡ぐんでは、教育きょういく委員いいん会かいの会議かいぎの場ばで、禁書きんしょに静しずかに抗議こうぎする読書どくしょ会かいを開ひらいた生徒せいとたちがいた。そのほかの場所ばしょでも、生徒せいとたちが禁書きんしょ本ほんクラブを結成けっせいしたり、デモ行進こうしんを行おこなったり、禁書きんしょ本ほんが無料むりょうで読よめる本棚ほんだなを町まちに設置せっちしたりしている。

カリフォルニア州しゅうやイリノイ州しゅうでは、議会ぎかいが禁書きんしょ行為こういを禁きんじる法律ほうりつを制定せいていした。テキサス州しゅう、フロリダ州しゅうなどでは、禁書きんしょを促進そくしんした州法しゅうほうを覆くつがえそうとする訴訟そしょうが始はじまっている。

米国べいこくペンクラブで言論げんろんの自由じゆうに関かんするプログラムを担当たんとうしているジョナサン・フリードマンはこう言いう。「これまで提起ていきされたほぼすべての訴訟そしょうで、裁判官さいばんかんはこうした法律ほうりつは違憲いけんだと判断はんだんしている」。それでも、問題もんだいある州法しゅうほうに異議いぎを申もうし立たてて覆くつがえすには何なん年ねんもかかるし、禁書きんしょを推進すいしんする立法りっぽうの動うごきは拡大かくだいし続つづけるだろう、と言いう。

そして、こう付つけ加くわえた。

「この問題もんだいは解決かいけつしそうな気きがしない」（抄訳しょうやく、敬称けいしょう略りゃく）

（Alexandra Alter）©2024 The New York Times

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