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アリストパネス - Wikipedia

アリストパネス古希こき: Ἀριστοφάνης, Aristophanēs, 紀元前きげんぜん446ねんごろ - 紀元前きげんぜん385ねんころ)は、古代こだいアテナイ喜劇きげき詩人しじん風刺ふうし詩人しじんである。アリストファネス、あるいはアリストパネースアリストファネースちょう母音ぼいんでも表記ひょうきされる。なお現在げんざいのギリシアではアリストファニスのように発音はつおんされる。

アリストパネス

代表だいひょうさくソクラテス仮託かたくするかたちソフィスト風刺ふうしした『くも』、デマゴーグクレオン痛烈つうれつ面罵めんばした『騎士きし』、アイスキュロスエウリピデスきょくざいり、パロディーなどをぜてすぐれた文芸ぶんげい批評ひひょう仕上しあげた『かえる』など。

生涯しょうがい

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アリストパネスの著作ちょさく以外いがい経歴けいれきはあまり詳細しょうさいにはつたわっていない。かれはアテナイ市内しないまれ、ちちはピリッポスといった。紀元前きげんぜん430ねんから428ころげき作家さっかとしての修行しゅぎょうはじめ、カリストラトスの指導しどうにより最初さいしょの3さく匿名とくめい発表はっぴょうした。44の喜劇きげき作品さくひんいたが、うち現在げんざいまで完全かんぜんつたわっているものは11へんにとどまる。アリストパネスはだいディオニュシアさい競演きょうえんにたびたび入賞にゅうしょうした、当時とうじのアテナイを代表だいひょうする喜劇きげき作家さっかであった。また3にん息子むすこ、ピリッポス(ギリシアじんちち男子だんしける風習ふうしゅうっていた)、アラロス、ニコストラトス喜劇きげき作家さっかとなった。 なおアリストパネスはアテナイにちかアイギナとうに2かい旅行りょこうしている。

作風さくふう

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ペロポネソス戦争せんそうたいしては一貫いっかんして批判ひはんてきであり、『おんな平和へいわ』のような直接ちょくせつ戦争せんそう反対はんたいする内容ないよう作品さくひんもある。アテナイのどう時代じだい実在じつざい人物じんぶつソクラテスエウリピデスなどをげて風刺ふうしすることがおおかった。とくにエウリピデスはなん登場とうじょうし、かれ悲劇ひげき『ヒッポリュトス』でのセリフ「したちかったがしんちかわない」はなんももじって利用りようしている。また、『おんなだけのまつり』では女性じょせい蔑視べっしはなはだしいがため女性じょせいてきされ、なにとかころされることのいように、あれこれさくろうしてまわろうとする人物じんぶつ戯画ぎがされている。ソクラテスは、直接ちょくせつ批判ひはん対象たいしょうというよりは、ソフィスト代表だいひょうとしてあつかわれている。政治せいじなかではデマゴーグクレオンとく標的ひょうてきとし、おもいのたけかぎりをくして痛烈つうれつ諷刺ふうししたため、『バビュロニアじん』を競演きょうえんしたさい紀元前きげんぜん426ねん)には、クレオンによっていいがかりとしかおもえない罪状ざいじょう国家こっか転覆てんぷくざい)でもっ告訴こくそされている。

プラトンの『饗宴きょうえん』において、うたげ[注釈ちゅうしゃく 1]つど人々ひとびとなか一人ひとりとして登場とうじょうしている。このなかでアリストパネスが戯画ぎがされたとおぼしきくだりがあり、それはプラトンがであるソクラテスを揶揄やゆわれたことたいするかたきちとしてアリストパネスを揶揄やゆったともれるが、プラトン自身じしんはアリストパネスを評価ひょうかしており、これははなしながれをかんがえてのことほぐされている[2]。また、あいかみエロース讚美さんびする即席そくせき演説えんぜつにおいて、男女だんじょ両性りょうせいしゃ(アンドロギュノス)について言及げんきゅうしている。これは性愛せいあい同性愛どうせいあい、そして同性どうせい少年しょうねんあい何故なぜ人々ひとびとなかそんしているかにかんして、その由来ゆらいとなるたんかたなかれているものである[3]さらにはアリストデーモスのげんによればとして、アリストパネスとアガトーンがソクラテスと大杯たいはいまわみしつつかたっているとき[注釈ちゅうしゃく 2]、ソクラテスが「どう一人ひとりが、喜劇きげき悲劇ひげきふたつの創作そうさく技術ぎじゅつ修得しゅうとくしうること。および、しかるべき技術ぎじゅつによって悲劇ひげき作者さくしゃ喜劇きげき作者さくしゃでもありうること[5]」を、二人ふたり同意どういさせようとして、二人ふたりこたえにきゅうしてたふりをしてやりごそうとして両人りょうにんども本当ほんとう寝入ねいってしまったとしている[6]

オクシリンコス・パピルス断片だんぺんに「さいげられた」との台詞せりふがあった[注釈ちゅうしゃく 3]

現存げんそんする作品さくひん

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日本語にほんごやく

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注釈ちゅうしゃく

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  1. ^ アガトーンはつ優勝ゆうしょういわため本人ほんにん邸宅ていたくにてもよおされたうたげという設定せっていである。とき紀元前きげんぜん416ねん[1]
  2. ^ この時点じてんよるけて翌朝よくあさになっていて、アリストデーモス自身じしん寝起ねおきなうえに、まだうとうとしていたことと、はなし最初さいしょからっていなかったことから、はなしだい部分ぶぶんおぼえておらず、要点ようてんだけをつまんでつたえたとしている[4]
  3. ^ 「サイコロがげられている。危険きけんおか行動こうどうてしまったということ。」[7]のことか。ただし、これは存疑そんぎのあるフラグメントであるので、かならずしもアリストパネスのきょく一部いちぶだとはれない。
  4. ^ アリストパネスとどう時期じき活躍かつやくした喜劇きげき詩人しじんエウポリスはそのちょ『バプタイ』のなかにおいて、『騎士きし』はアリストパネスと自分じぶんとのともさくだとべている。それにたいしアリストパネスは『くも』のなかでエウポリスを剽窃ひょうせつしゃとしてあざけっている[8]
  5. ^ 原典げんてんにおいて役名やくめいは、デモステネスやニキアス同様どうようたんに“下男げなん”であり、区別くべつをつけるためにそれぞれかぶとおつへいられているだけであるが、便宜上べんぎじょうわかりやすくするため下男げなんかぶとをデモステネス、下男げなんおつをニキアス、下男げなんへいをパプラゴニアじん表記ひょうきしたとしている[10][11]、またギリシアで「パプラゴニアじん」とは馬鹿ばかひたぶる人間にんげん代名詞だいめいしである[12]
  6. ^ ロジャーズの英語えいごやくそくして“パプラゴーン(PAPHLAGON)”とここではあらわした[9]松平まつだいら千秋ちあきわけではパプラゴニアじん[注釈ちゅうしゃく 5]山田やまだ恒人つねとわけではパファルゴニアじん[13]となっている。
  7. ^ クレオンした登場とうじょう人物じんぶつであるパプラゴーン[注釈ちゅうしゃく 6]やく俳優はいゆう報復ほうふくおそえんじるのを拒否きょひしたため、アリストパネス自身じしんがそのやくえんじたとされている[14][15]
  8. ^ 競演きょうえんきょく断片だんぺんのみ現存げんそんしている[16]だいさん(つまり最下位さいかいだった)と評価ひょうかていかたことから、アリストパネスはふたたび『くも』を上演じょうえんして見物けんぶつ非難ひなんしなければならないとかんがえた。しかしあらためにかったものの、さらにひどい「失敗しっぱい」に出会であったので、改訂かいていしたげきうことを中止ちゅうししてしまった[17][18]。それは紀元前きげんぜん418ねん乃至ないし紀元前きげんぜん417ねんちかいものとおもわれる。ただ、このあらためはおりおこなわれたらしく、結果けっか前後ぜんこう矛盾むじゅんなどがしょうじることとなった[19]現存げんそんしているのはこのあらためられただい2稿こうである。
  9. ^ スーダ辞典じてんおよびヒュポテシスなどに現存げんそんしているテクストにはい『平和へいわ』からの引用いんよう解説かいせつられ、それは上演じょうえんされたとされている。また、ラヴェンナほんおよびヴェネチアほんばれる重要じゅうよう写本しゃほんについている解説かいせつにおいてもだいの『平和へいわ』の存在そんざい言及げんきゅうされてはいる。そしてげんだいの『平和へいわ』とされるフラグメントも現存げんそんしている。しかし、それらの引用いんようしゃはいずれもだいの『平和へいわ』には言及げんきゅうせず、たんに『平和へいわ』からの引用いんようとしているうえに、これらの引用いんよう誤記ごききょく題名だいめい脱落だつらくなどによる誤写ごしゃ起因きいんするものともかんがえられる。フラグメントが現存げんそんしているがゆえだいの『平和へいわ』の存在そんざい否定ひていないが、さりとてこのきょくはB.C.421ねん上演じょうえんしてこそ意味いみのあるものであり、さい上演じょうえん実際じっさいおこなわれたのかについては疑念ぎねんたざるをない。そのため現存げんそんしているテクストをだい1稿こう看做みなことには疑義ぎぎ躊躇ためらいはあるものの、他方たほうさい上演じょうえん如何いかかかわらずだいの『平和へいわ』がだいいちの『平和へいわ』を大幅おおはば改作かいさくしたものであるとてこれにかんがみ、フラグメントとして現存げんそんしている作品さくひんだい2稿こうとすることもまた可能かのうえる。[20][21][22]
  10. ^ 2人ふたりのアテネじん地上ちじょう愛想あいそをつかしてとりあつめ、空中くうちゅうしろきずいて「とり王国おうこく」(Cloud cuckoo land)をつくる…。
  11. ^ おなじ『テスモポリアさいいとなおんなたち』とだいするフラグメントが現存げんそんしている。しかしこちらは『テスモポリアさいいわったおんなたち』なるべつだいしめとお続編ぞくへんたる。テスモポリアさい舞台ぶたいであることについては双方そうほうおなじだが、『いとなおんなたち』がその二日ふつか、『いわったおんなたち』その三日みっか主題しゅだいとしており[23][24]、それだい1稿こうだい2稿こう区別くべつはできない。
  12. ^ 現存げんそんしているのはさい上演じょうえん紀元前きげんぜん405ねん乃至ないし紀元前きげんぜん404ねん)にわせてあらためられただい2稿こうである。ただ写本しゃほんあいだ一部いちぶ齟齬そごがある[25][26]
  13. ^ 紀元前きげんぜん408ねんにも『ふくかみ』を競演きょうえんしている。しかし、わずはちへんみじか断片だんぺん現存げんそんしているのみならず、うちよんへんはその真偽しんぎうたがわれてさえいる。それがため紀元前きげんぜん388ねん競演きょうえんされた『ふくかみ』との関係かんけいせい不明ふめいであり(再演さいえんのためになおされた作品さくひんなのか、またまったことなる作品さくひんなのか)、それだい1稿こうだい2稿こう区別くべつはできない[27]

出典しゅってん

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  1. ^ もり新潮しんちょう、2006ねん、p.6 参照さんしょう
  2. ^ もり新潮しんちょう、2006ねん、p.46~47(185C-E)、199~202 参照さんしょう
  3. ^ もり新潮しんちょう、2006ねん、p.57~70 参照さんしょう
  4. ^ もり新潮しんちょう、2006ねん、p.161 参照さんしょう
  5. ^ もり新潮しんちょう、2006ねん、p.161~162 参照さんしょうおよ引用いんよう
  6. ^ もり新潮しんちょう、2006ねん、p.162 参照さんしょう
  7. ^ 全集ぜんしゅう4、岩波いわなみ、2009ねん、p.420 参照さんしょう
  8. ^ 高津たかつ、1957ねん、p.44、130訳註やくちゅう 参照さんしょう
  9. ^ Rogers、Harverd、1924ねん
  10. ^ 全集ぜんしゅう1『騎士きし』、人文じんぶん、1961ねん
  11. ^ げきしゅう騎士きし』、新潮しんちょう、1963ねん
  12. ^ 高津たかつ、1957ねん、p.131訳註やくちゅう 参照さんしょう
  13. ^ ホジャート、平凡社へいぼんしゃ、1970ねん、p.57 参照さんしょう
  14. ^ 全集ぜんしゅう1『騎士きし』、人文じんぶん、1961ねん、p.206 参照さんしょう
  15. ^ ホジャート、平凡社へいぼんしゃ、1970ねん、p.58 参照さんしょう
  16. ^ 全集ぜんしゅう4、岩波いわなみ、2009ねん、p.331~333 参照さんしょう
  17. ^ 全集ぜんしゅう4、岩波いわなみ、2009ねん、p.331 参照さんしょう
  18. ^ 高津たかつ、1957ねん、p.151 参照さんしょう
  19. ^ 高津たかつ、1957ねん、p.151~159 参照さんしょう
  20. ^ 高津たかつ、1956ねん、p.10~11 参照さんしょう
  21. ^ 全集ぜんしゅう2、岩波いわなみ、2008ねん、p.200~203 参照さんしょう
  22. ^ 全集ぜんしゅう4、岩波いわなみ、2009ねん、p.311 参照さんしょう
  23. ^ 、1975ねん、p.141 参照さんしょう
  24. ^ 全集ぜんしゅう4、岩波いわなみ、2009ねん、p.317~324 参照さんしょう
  25. ^ 高津たかつ、1950ねん、p.179~180訳註やくちゅう、p.183 参照さんしょう
  26. ^ 全集ぜんしゅう3、岩波いわなみ、2008ねん、p.380 参照さんしょう
  27. ^ 全集ぜんしゅう4、岩波いわなみ、2009ねん、p.345、p.441 参照さんしょう

参考さんこう文献ぶんけん

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  • 『ギリシア喜劇きげき全集ぜんしゅうだい1かん 人文書院じんぶんしょいん 1961ねん
  • 『ギリシア喜劇きげき全集ぜんしゅうだい2かん 岩波書店いわなみしょてん 2008ねん
  • 『ギリシア喜劇きげき全集ぜんしゅうだい3かん 岩波書店いわなみしょてん 2009ねん
  • 『ギリシア喜劇きげき全集ぜんしゅうだい4かん 岩波書店いわなみしょてん 2009ねん
  • 『ギリシアげきしゅう新潮社しんちょうしゃ 1963ねん
  • かえる高津たかつ春繁はるしげ わけ岩波いわなみ文庫ぶんこ、1950ねん
  • 平和へいわ高津たかつ春繁はるしげ やく岩波いわなみ文庫ぶんこ、1956ねん
  • くも高津たかつ春繁はるしげ やく岩波いわなみ文庫ぶんこ、1957ねん
  • おんなだけのまつり茂一もいち わけ岩波いわなみ文庫ぶんこ、1975ねん
  • 饗宴きょうえんプラトーン しるもり進一しんいち わけ新潮しんちょう文庫ぶんこ、1968ねん、2006ねん[改版かいはん]
    • もとはん饗宴きょうえんもり進一しんいち やく 〈プラトーン名著めいちょしゅう新潮社しんちょうしゃ、1964ねん
  • 諷刺ふうし芸術げいじゅつ』 マシュー・ホジャート ちょ山田やまだ恒人つねと わけ平凡社へいぼんしゃ、1970ねん
  • Benjamin B. Rogers, ARISTOPHANES Ⅰ, "THE ACHARNIANS", "THE CLOUDS","THE KNIGHTS","THE WASPS", Cambridge, Harvard University Press, London, William Heinemann Ltd., 1924(First Printed),1967(Reprinted).

関連かんれん項目こうもく

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