饗宴
『
構成
登場 人物
後代 話者
回想 部 話者
- アリストデモス - アテナイのキュダテナイオン
区 出身 のソクラテスの友人 。回想 (物語 の進行 役 )はこの人物 による。 - ソクラテス - 53
歳 頃 。 - アガトン -
悲劇 詩人 。ゴルギアスの弟子 。饗宴 の主催 者 。 - パウサニアス - アテナイのケラメス
区 出身 。アガトンの恋人 。プロディコスの生徒 。 - パイドロス - アテナイのミュリノス
区 出身 。弁論 作家 リュシアスの心酔 者 。彼 を冠 した対話 篇 もある。 - エリュクシマコス -
医者 。 - アリストパネス -
喜劇 詩人 。『雲 』によって、ソクラテスに対 する大衆 の偏見 を広 めた(『ソクラテスの弁明 』)。 - アルキビアデス -
容姿 端麗 な名家 の子息 にして、政治 ・軍事 指導 者 。ペロポネソス戦争 では主戦 論 を展開 し、ちょうど本 作 回想 部 の設定 年代 (紀元前 416年 [4])の翌年 である紀元前 415年 、ニキアスの和 約 を破 り戦争 再開 、その後 亡命 生活 を繰 り返 すなど波乱 の人生 を送 る。彼 の師 と看做 されていたことが、ソクラテスが告発 される一因 となった(『ソクラテスの弁明 』)。初期 対話 篇 『プロタゴラス』にも登場 。
時代 ・場面 設定
アポロドロスは、ついこの
内容
- エロース
賛美 の演説 - エリュクシマコスの提案 で、愛 の神 エロースを賛美 する演説 を行 うこととなる。パイドロス、他 の数 人 (省略 )、パウサニアス、エリュクシマコス、アリストパネス、アガトンが順 に演説 を行 う。 - ソクラテスの
演説 - ソクラテスは自分 の説 ではなく、マンティネイア出身 の婦人 ディオティマに聞 いた説 として、愛 の教 説 を語 る。愛 (エロース)とは欠乏 と富裕 から生 まれ、その両方 の性質 を備 えている。ゆえに不死 のものではないが、神 的 な性質 を備 え、不死 を欲求 する。すなわち愛 は自身 の存在 を永遠 なものにしようとする欲求 である。これは自 らに似 たものに自 らを刻印 し、再 生産 することによって行 われる。このような生産 的 な性質 をもつ愛 には幾 つかの段階 があり、生物 的 な再 生産 から、他者 への教育 による再 生産 へと向 かう。愛 は真 によいものである知 (ソピアー)に向 かうものであるから、愛知 者 (ピロソポス)である。愛 がもとめるべきもっとも美 しいものは、永遠 なる美 のイデアであり、美 のイデアを求 めることが最 も優 れている。美 の大海 に出 たものは、イデアを見 、驚異 に満 たされる。これを求 めることこそがもっとも高次 の愛 である。(以上 、ディオティマの説 ) - アルキビアデスの
乱入 - ソクラテスの信奉 者 である若 いアルキビアデスが登場 する。アルキビアデスはすでに酔 っており、ソクラテスが自分 をいかに愛 さなかったか、自分 がソクラテスを愛 者 [5]にしようとしていかに拒 まれたか、また戦場 でソクラテスの態度 がいかに立派 なものであったかを語 る。これはいままで抽象 的 に展開 されてきた愛 を体現 した人 として、プラトンが師 の肖像 を描 こうとした部分 といえる。
アルキビアデスの
導入
回想 部 導入
アガトンの
エリュクシマコスは、パイドロスからよく
パイドロスの演説
パイドロスは、
- エロースは、カオスの
中 からガイアと共 に出現 した、原初 神 ・最古 の神 々である。 - エロースは、
我々 人間 を突 き動 かす最大 福祉 の源泉 である。特 に、パイデラスティア(少年 愛 )に関 わる双方 にとって、美 しく生 きる源泉 となる。
結論 、エロースは、神 々の最年長 者 であり、人類 にとって最 も権威 のある指導 者 である。
といった
パウサニアスの演説
パウサニアスは、
- パイドロスが「エロース」を
無差別 に、一緒 くたにして扱 ってしまっているのはよくない、そこには区別 がある。- 「エロース」と「アプロディーテー」(
愛 の神 )は一体 的 な関係 。 - 「アプロディーテー」には、「ウーラニアー」(
天 の女 )[6]という異名 ・性格 と、「パンデーモス」(万 人 向 けの神 )[7]という異名 ・性格 の区別 がある。- 「パンデーモス」(
万 人 向 けの神 )としての愛 は、「万 人 向 け」の名 の通 り、またゼウスとディオーネーという男女 両性 から生 まれ、もう一方 の「ウーラニアー」より遅 く生 まれた年少 であるその出自 ・性格 を反映 して、凡俗 な「肉体 に対 する愛 」(肉欲 )であり、魂 をかえりみず、少年 にも、婦人 にも向 けられる。 - 「ウーラニアー」(
天 の女 )としての愛 は、ウーラノスの男根 から生 まれた年長 としてのその出自 ・性格 を反映 して、男性 のみに、その強 さと理性 のみに向 けられる。- パイデラスティア(
少年 愛 )においても、この区別 (「肉体 」を愛 するか、「魂 」を愛 するか)がある。 - この
関係 が、「魂 」のために、その「徳 」「智慧 」のために結 ばれる時 、アテナイではノモス(慣習 )においても、誉 とされる。 - したがって、「
徳 」を促 す「ウーラニアー」(天 の女 )としてのエロースは、美 しく、価値 があり、他 の「パンデーモス」(万 人 向 けの神 )としてのエロースとは区別 されつつ、特権 的 に賛美 されるべきである。
- パイデラスティア(
- 「パンデーモス」(
- 「エロース」と「アプロディーテー」(
といった
エリュクシマコスの演説
エリュクシマコスは、
- パウサニアスのエロースには
二 種類 ある(「ウーラニアー」(天 の女 )と「パンデーモス」(万 人 向 けの神 ))という意見 に同意 する。 前者 は節制 ・調和 をもたらし、後者 は放縦 ・不和 をもたらす。- エロースは
人間 の魂 の内 にのみ存在 するものではなく、その他 あらゆる事物 の内 に存在 する。 医術 、体育 、農業 、音楽 、季 節 、天体 、占 術 など、あらゆることにエロースは最大 の威力 を持 っている。
という
アリストパネスの演説
世人 はエロースの威力 を全 く理解 していない、エロースは人間 の最大 の友 、助力 者 、苦悩 の医者 である。原始時代 の人間 は男 と女 と男女 (両性 具有 )の三種 があり、それらはいずれも背中合 わせで二 体 一身 (男 男 、女 女 、男女 )だった。彼 らは力 も気概 も強 く神 々に挑戦 したので、ゼウスによって半分 に切 られ、顔 の向 きも反対 にされた、その切断 面 の絞 り痕 (あと)がヘソである。- こうして
半身 としての我々 人間 は互 いに求 め合 うようになり、そのかつての完全 体 に対 する憧憬 と追求 がエロースと呼 ばれているものである。 - したがって、この
神 に従 っていれば、本来 の自分 に戻 れる最良 の愛人 を見出 すことができる。
という
アガトンの演説
- これまでの
演説 者 はエロースがもたらす副次的 な福利 ばかりを讃 美 し、エロースの性質 自体 を語 らなかったので、まずそちらを先 に行 う。 第 一 にエロースは全 ての神 の内 で最 も美 しい。- エロースは
神 々の中 で最年少 者 。常 に青年 と共 にいるし、もし太古 より彼 がいたなら古 い神話 の神 々の争 いは生 じていないはずだから。 - またエロースは
柔軟 である。神 々と人間 の心情 と魂 、それも比較的 柔和 なそれに宿 るから。 - またエロースはしなやかである。いずれの
魂 の中 にも忍 び込 み出 で去 るし、優雅 な物腰 をしているから。
- エロースは
第 二 にエロースは全 ての神 の内 で最 も優 れている(徳 を持 っている)。なぜなら強制 によらず、万 人 が万事 において進 んでエロースに奉仕 するから。- このようにエロースは
自 ら美 しく優 れた者 であり、他 の者 にもまた同 じような長所 をもたらす。 - エロースは
平和 、静 けさ、休息 、熟寝 、親 しみをもたらし、会合 や祝祭 ・円舞 ・供 牲を先導 する。柔和 、好意 、慈悲 、歓喜 、温柔 、華麗 、優雅 、憧憬 、欲求 をもたらす美 しく優 れた指導 者 。
という
ソクラテスとアガトンの問答
ソクラテスはアガトンと
- エロースの
性質 は「あるもの」へと向 かう愛 ・欲求 である。 - その「あるもの」とは、「
自分 が持 たないもの、自分 に欠 けているもの」である。 他方 で、エロースは「美 」に対 する愛 である。- ゆえにエロースは「
美 を欠 いていて、それを持 っていない」。 - また、「
善 きもの」は「美 しい」。 - ゆえにエロースは「
善 きものも欠 いている」。
ソクラテスの演説
- エロースの
性質 について- エロースは
美 しくも善 くもなく、また醜 くも悪 くもない中 間 的 なもの。 - ゆえにエロースは
神 ではなく神霊 (ダイモーン)である。 - エロースは
人間 と神 々の間 に介在 し、通訳 ・伝達 ・結合 を担 う数 多 くの神霊 の一 つ。 - エロースは
父 ポロス(術策 の神 )と母 ペニヤ(窮乏 )の間 に生 まれ、アプロディーテーの随伴 者 ・僕 となった。 - エロースは
両親 の性質 を受 け継 ぎ、貧乏 で武 骨 で汚 く家 無 しであり、また美 しい者 ・善 い者 を待 ち伏 せする勇敢 ・猪突 的 ・豪 強 ・非凡 な狩人 であり、常 に策 をめぐらし、知見 (プロネーシス)の追求 に熱心 であり、生涯 を通 じて愛知 者 (ピロソポス)であると同時 に比類 なき魔術 師 ・毒薬 調合 者 ・ソフィストである。 - またエロースは
死 なき者 (神 々)でも滅 ぶべき者 (人間 ・動物 )のようでもなく、時 には一 月 の内 に花 咲 き・生 き・死 ぬが、術策 が成功 すれば再 び生 まれ返 る、しかし取得 したものは絶 えず消 え失 せてしまうので、困窮 することもなければ富裕 になることもなく、(満足 した)智者 でも(満足 した)無知 者 でもなく、智慧 と無知 の中間 にいる。
- エロースは
- エロースがもたらす
利益 について美 しいもの善 いものを愛 することは、それが自分 のものになり、幸福 (エウダイモーン)となることを欲求 している。- これは
万 人 に当 てはまることであり、人間 は「善 きものを永久 に所有 すること」を愛 求 していると言 える。 - そうしたエロース(
愛 )を熱心 に追求 し、熾烈 な努力 を示 す者 が「進 む道 ・採 る行動 」は、「肉体 上 も心霊 上 も美 しいものの中 に、生産 すること」である。- あらゆる
人間 は肉体 にも心霊 にも胚 種 を持 っていて、一定 の年頃 になると生産 することを欲求 する。 生殖 ・懐胎 ・出産 もその一種 であり、生産 欲 と胚 種 に満 ち溢 れている者 は、美 しい者 に対 して強烈 な昂奮 を感 じる。- そうした
営 みは滅 ぶべき者 (人間 ・動物 )にとっての滅 びざるもの、一種 の永劫 なるもの、不滅 なるものとなるのであり、愛 の目的 は不死 であるとも言 える。 生殖 とは古 い者 の代 わりに他 の新 しい者 を残 して行 くことであり、それは同 一 個体 の新陳代謝 と同様 である。- これは
肉体 のみならず心霊 においても同様 であり、気質 ・性格 ・意見 ・欲情 ・歓楽 ・悲哀 ・恐怖 も個人 の中 で生 じては滅 するを繰 り返 すし、知識 もまた忘却 (消失 )と復習 (再生 )によって保持 される。 - このようにして
一切 の滅 ぶべき者 (人間 ・動物 )は維持 されて行 くが、それは同 一 不変 ということではなく、自分 と同種 の他 の若者 を後 に残 して行 くということであり、そういう仕方 によって滅 ぶべき者 (人間 ・動物 )は不死 に与 (あず)かる。
- あらゆる
肉体 の上 に旺盛 な生産 欲 を持 つ者 は婦人 に向 かい、子 をこしらえることで不死 ・思 い出 ・幸福 を未来永劫 確保 しようとするが、知見 (プロネーシス)やその他 あらゆる種類 の徳 に満 ち溢 れた、心霊 に生産 欲 を持 つ者 は、それを生産 ・継承 できるような美 しい者 を求 める。肉体 のみならず魂 も美 しい者 を非常 に歓迎 し、徳 や行 いについての弁舌 を滔々 と浴 びせてこれを教育 しようとする。- その
結果 、この「より美 しくより不死 な子供 (徳 )」を共有 する両者 は、肉親 よりもはるかに親密 な共同 の念 と強固 な友情 によって結 び付 けられる。
愛 現象 の秘 義 - この
目的 に向 かって正 しい道 を進 もうとする者 は、まず最初 に一 つの美 しい肉体 を愛 し、その中 に美 しい思想 を産 みつけなくてはならない。 - しかし
次 には、一 つの肉体 の美 は他 の肉体 の美 と姉妹 関係 にあり、あらゆる肉体 の美 が同 一 不二 であることを悟 り、ある一人 に対 する熱烈 な情熱 は見下 すべき取 るに足 らないものとして冷 ますようにしなくてはならない。 - その
次 には、心霊 上 の美 を肉体 上 の美 よりも価値 の高 いものと考 えるようになることが必要 。そして職業 活動 や制度 の内 にも美 を見出 し、それら全 ての美 は互 いに親類 として結 びついていること、肉体 上 の美 には僅 かな価値 しかないことを認 めなくてはならない。 - その
次 には、学問 的 認識 に向 かい、認識 上 の美 をも看取 することができ、一人 の人間 や一 つの職業 活動 とかに愛着 ・隷従 し狭量 な人 となることがなくなるようにしなくてはならない。 - そして
愛 の道 の極致 に近 づく時 、突如 として生 ずることも滅 することも増 すことも減 ることもない独立 自存 して永久 に独特 無二 の「美 そのもの」を観 得 する。 - そこに
到達 してこそ人生 に生 き甲斐 があるのであり、「真 の徳 」を産出 するに成功 したと言 えるし、神 (不死 なる者 )の友 となり、不死 となる特権 が賦与 されるにふさわしい。
- この
以上 のディオティマの話 を聞 いて、ソクラテスは説得 された。そしてこの宝 を得 るために、エロース以上 の助力 者 を見出 すことは難 しいし、人 は皆 エロースを尊重 せねばならない。ソクラテス自身 も愛 の道 を尊 び熱心 に練習 しているし、他人 にもその勧告 をしている。またいつまでもエロースの偉力 と勇気 を微力 の及 ぶ限 り讃 美 する。
アルキビアデスの乱入 と演説
するとそこにアガトンを
アルキビアデスはソクラテスにもリボンを
アルキビアデスは、
終幕
「
ソクラテスは
論点
「エロース」と「美 のイデア」
- ソクラテスに
先行 する演説
- パイドロスは、エロースを「パイデラスティア(
少年 愛 )」と関連付 けた。 - パウサニアスは、エロースを「
魂 への愛 」と「肉体 への愛 」に分 けた。 - エリュクシマコスは、エロースを「
様々 な技術 ・職業 」と関連付 けた。 - アリストパネスは、エロースを「
真 のパートナー」を見出 す力 とした。 - アガトンは、エロースを「
世界 ・万事 に善 ・秩序 ・内的 な欲求 をもたらした、最 も美 しく優 れた神 」とした。
- ソクラテスの
演説
まずソクラテスは、エロースを「
そんなエロース(
そしてそれは、エロース(
こうした「エロース」と「
(ちなみに、なぜ、
補足
人間 の起源
エロースに
『ヒュペリオーン』への影響
ソクラテスが
主 な日本語 訳
脚注
- ^
下 薗 勇 磨 「プラトン『饗宴 』の考察 : ガリソンのデューイ主義 を手引 きに」『創価大学 人文 論集 』第 26号 、創価大学 人文 学会 、2014年 、41-71頁 、ISSN 0915-3365、NAID 120005820107。 - ^
意訳 的 に「恋 について」(角川 ・山本 訳 など)や「愛 について」(新潮 ・森 訳 など)と訳 される場合 もある。 - ^ プラトンの
次兄 で、『国家 』『パルメニデス』にも登場 する、グラウコンか。 - ^ a b c 『
饗宴 』久保 勉 訳 岩波 文庫 p45 - ^
当時 のアテナイでは、パイデラスティアー(paiderastia少年 愛 )という年齢 が上 のものが下 のものを愛人 とし、さまざまな庇護 や社会 についての知識 を与 えるのが通例 であった。 - ^ ヘシオドスの『
神 統 記 』を典拠 とした、「天空 神 ウーラノスの陰茎 から生 まれた」という説 。 - ^ ゼウスとディオーネーの
娘 として生 まれたという説 の場合 。
関連 項目
- プラトニック・ラブ
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著作 の現代 ギリシア語 訳 にも携 わった作家 、詩人 であり『饗宴 』という作品 がある