食事しょくじ

食事しょくじ（しょくじ）とは、基本きほん的てきには生命せいめい維持いじに必要ひつような栄養素えいようそを摂取せっしゅするために、日々ひび習慣しゅうかん的てきに何なにかを食たべること^[1]、そこから転てんじて、その時とき食たべるものを指さすこともある^[1]。「衣食住いしょくじゅう」の「食しょく」にあたる。口語こうごでは「御飯ごはん（ごはん）」と呼よばれる。

概説がいせつ

生命せいめい維持いじに欠かかせない必須ひっすの栄養素えいようそを摂取せっしゅするために食たべ物ものを食たべる行為こういを指さすが、そのためだけではなく、「自身じしんの家族かぞくや仲間なかまと一緒いっしょの時間じかんを和なごやかにすごすため」「『分わかち合あい』を実感じっかん・共有きょうゆうするため」「料理りょうりを作つくってくれた人ひとの愛あいを実感じっかんするため」「味あじを楽たのしむため」など様々さまざまな目的もくてきや意味いみを込こめつつ、人ひとは食事しょくじをする。洋ようの東西とうざいを問とわず、食事しょくじの席せきに誰だれかを招待しょうたいするのは、「歓迎かんげい」の意味いみがある。自みずから調理ちょうりした料理りょうり（手料理てりょうり）を食たべてもらうということは、親したしい関係かんけいにつながる。

鬱うつ病びょうの専門医せんもんい、井出いで雅弘まさひろは自著じちょで次つぎのように解説かいせつしている。

楽たのしみながら、ゆっくりと食事しょくじを味あじわえば、食たべ物ものをよくかむことにもなります。よくかむと、唾液だえきが多量たりょうに分泌ぶんぴつされて味覚みかくが敏感びんかんになり、消化しょうか活動かつどうを促うながします。また、唾液だえきと食たべ物ものが混まざることで食たべ物ものの刺激しげきが緩和かんわされ、胃い壁かべが守まもられます。さらに、口くちの中なかにはさまざまな細菌さいきんがいますが、唾液だえきには殺菌さっきん作用さようもあります。
かむという運動うんどうは、脳のうの満腹まんぷく中枢ちゅうすう^{[注釈ちゅうしゃく 1]}を刺激しげきしますから、たくさん食たべなくても満足まんぞく感かんが得えられ、肥満ひまん予防よぼうにも役立やくだちます。かむ回数かいすうは、食たべ物ものの大おおきさや硬かたさにもよりますが、ひと口くち20～30回かいくらいがよいといわれています。
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食事しょくじの時刻じこく、回数かいすう、食事しょくじの種類しゅるい、調理ちょうり法ほう、食たべ方かたには、文化ぶんか、宗教しゅうきょう、個人こじん的てきな好このみや栄養えいよう学がくに基もとづく知識ちしきも反映はんえいされる。日々ひびの暮くらしの中なかでも、食事しょくじに関かんする事柄ことがら全般ぜんぱんを指さして「食生活しょくせいかつ」と呼よばれる。

宗教しゅうきょうと食事しょくじ

食事しょくじをとる前まえに祈いのる少女しょうじょ（1936年ねん）

宗教しゅうきょうと食事しょくじ・食生活しょくせいかつには大おおきなかかわりがある。だがひとつひとつの宗教しゅうきょうごとに、宗教しゅうきょうと食事しょくじの関係かんけいは異ことなる。

ユダヤ教きょう

ユダヤ人じん青年せいねんらの安息日あんそくびにおける食事しょくじの一いち風景ふうけい

ユダヤ教きょうでは、旧約きゅうやく聖書せいしょに食たべてよいもの、食たべていけないもの、一緒いっしょに食たべてはいけないものの組くみ合あわせ、動物どうぶつの屠ほふり方かた、調理ちょうり法ほうに関かんする規定きていが細こまかく記述きじゅつされており、ユダヤ教きょうのこの食物しょくもつ規定きていを「カシュルート」や「コーシェル」と呼よぶ（とはいえ、ユダヤ教きょうもいくつもの教派きょうはに分わかれていて、厳格げんかくな教派きょうはではそれを厳格げんかくに守まもる一方いっぽう、緩ゆるやかな教派きょうはではあまり守まもられてはいない）。"カシュルートを守まもっているユダヤ教徒きょうとの場合ばあいは"　の話はなしだが、現在げんざいでもさまざまな食たべ物ものを食たべられない。たとえばヘブライ語ご聖書せいしょに「子こヤギの肉にくを、その母ははの乳ちちで煮にてはならない」という規定きていがある（出でエジプト記き23:18，19）ので（また、その規定きていの意図いとは「ある動物どうぶつ種しゅの親おやと子こを同時どうじに食たべてはいけない」という意味いみなのだと、ユダヤ教きょうの指導しどう者しゃやトーラー学者がくしゃなどによって解釈かいしゃく（法ほう解釈かいしゃく）されているので、結果けっかとして）チーズバーガーや親子おやこ丼どんぶりも食たべられない。海老えびや蟹かにのような甲殻こうかく類るい、貝類かいるい・タコ・イカも一切いっさい食たべてはいけない、と教おしえている。レビ記き第だい11章しょう10節せつに『海うみでも川かわでも、水みずに群生ぐんせいするものすべて、また水みずの中なかにいる生いき物もののうち鰭ひれ（ひれ）や鱗うろこのないものはすべて、あなた方かたにとっては忌いむべきものである』と書かかれているからである。

キリスト教きりすときょう

レオナルド・ダ・ヴィンチによる『最後さいごの晩餐ばんさん』。イエスが弟子でしたちとともに食事しょくじをとる様子ようすを描えがいた

新約しんやく聖書せいしょにはイエスと弟子でしたちが食事しょくじをする場面ばめんがある。キリスト教きりすときょうにおける聖餐せいさんは新約しんやく聖書せいしょに「イエスが十字架じゅうじかに架かけられる前まえに、弟子でしたちと食事しょくじし、自分じぶんの記念きねんとしてこの食事しょくじを行おこなうよう命めいじた」と書かかれていることにもとづいて行おこなわれている。キリスト教徒きりすときょうとは聖餐せいさんを行おこなうことで「そこにキリストが確たしかに現存げんそんしている」という信仰しんこうを保持ほじしている。

イエス・キリストは、当時とうじのユダヤ教きょうのファリサイ派は（律りつ法学ほうがく者しゃ）の者ものたちがこまごまとしたルールばかりを持もちだして、人生じんせいのさまざまな分野ぶんやのさまざまなことをこまごまと禁止きんしばかりして、人々ひとびとを苦くるしめてばかりいることを目めにし、「口くちに入はいるものは人ひとを汚けがすことはない。その逆ぎゃくで、口くちから出でるもの（＝人ひとが言いう言葉ことば）が人ひとを汚けがすのである」（『マタイによる福音ふくいん書しょ』15:11）と述のべて、ユダヤ教きょうの食物しょくもつ規定きてい全体ぜんたいを真まっ向こうから否定ひていし、ファリサイ派はや律りつ法ほう学者がくしゃたちの、物質ぶっしつ的てきな面めんばかり重視じゅうしする姿勢しせいや、心しんや言葉ことばのほうをないがしろにする姿勢しせい、その宗教しゅうきょう者しゃとしてのありかたを根本こんぽんから批判ひはんした。キリスト教徒きりすときょうとの多おおくはイエスの言葉ことばにしたがうようになり、トーラー（モーセ五ご書しょ）に書かかれた食物しょくもつ規定きていは全すべて無効むこうとなった、と見みなすようになった。キリスト教きょうはその初期しょき段階だんかいにおいて、ユダヤ教きょうにおける厳格げんかくな食事しょくじ規定きていを大幅おおはばに緩ゆるめた（使徒しと行ぎょう伝でん第だい10章しょう）。これはユダヤ教きょうのこまごました規定きていになじめない人々ひとびとに歓迎かんげいされ、地中海ちちゅうかい世界せかいでキリスト教きりすときょうが広ひろまる遠因えんいんにもなった。キリスト教きょうはユダヤ教きょうとは異ことなり、「（キリスト教徒きりすときょうととして）食たべてはいけない食材しょくざい」は無なく、牛肉ぎゅうにく・豚肉ぶたにく・鶏肉とりにく、魚介ぎょかい類るい、いずれも全すべて食たべることが可能かのうであり、飲酒いんしゅも許可きょかされている。

イスラーム

イスラームには、ハラールがあり、食たべて良よいもの/いけないもの　や、調理ちょうりに関かんする細こまかい規則きそくが定さだめられている。豚ぶたは不浄ふじょうとされ、食たべるのは禁きんじられている。

ラマダーンの月つきには、（日ひが昇のぼってから沈しずむまでの間あいだは）水みずや食たべ物ものをいっさい口くちにしない。そうすることで、「貧まずしくて食たべるものが無なく苦労くろうしている人々ひとびとの状況じょうきょうを体感たいかんし、そういった人々ひとびとの気持きもち、つらさを皆みなで意識いしき的てきに共有きょうゆうする」のを目的もくてきとしている。また、ラマダーンの期間きかんには、恵めぐまれない人々ひとびとへの寄付きふも行おこなわれる。日没にちぼつ後ごには、家族かぞく・親族しんぞくが大勢おおぜい集あつまり、にぎやかに、楽たのしく、一緒いっしょに食事しょくじをする。ムスリムにとってラマダーンは「食たべられることの大おおきな喜よろこび」や「家族かぞく・親族しんぞくやコミュニティとの一体いったい感かん」を共有きょうゆうする時期じきでもある。また、ラマダーンは全ぜん世界せかいにいるムスリムたちが同時どうじに行おこなうものであり、（国境こっきょうを越こえて）全ぜん世界せかいのイスラームとの連帯れんたい感かんを共有きょうゆうする期間きかんでもある。

ヒンドゥー教きょう

ヒンドゥー教きょうでは、牛うしを神聖しんせいなもの（大切たいせつなもの）として、食たべるのを禁きんじている。

仏教ぶっきょう

釈迦しゃか自身じしんは肉食にくしょくを禁止きんししたことは一いち度ども無ない。原始げんし仏教ぶっきょうにおいては、「動物どうぶつが殺ころされるところを見みていない」「自分じぶんに供きょうするために動物どうぶつを殺ころした、とは聞きいていない」「自分じぶんに供きょうするために動物どうぶつを殺ころした、とは知しらない」、これらを満みたしていれば、それが動物どうぶつの肉にくであっても食たべてよい、ということであった（→「三種さんしゅの浄きよし肉にく」）。だが、釈迦しゃかの死後しごからおよそ500年ねん経過けいかしてから生しょうじた大乗だいじょう仏教ぶっきょうにおいては、「肉食にくしょくは厳禁げんきん」となった^[3]^[4]^[5]。

日本にっぽんにおいては、かつて仏教ぶっきょうに熱心ねっしんだった天武天皇てんむてんのうが肉食にくしょくを禁きんずる勅みことのり令れい（675年ねんに公布こうふされた「天武てんむの勅みことのり令れい」）を出だしたことで、日本人にっぽんじんは長ながきにわたりほとんどの動物どうぶつ性せい食品しょくひんを公おおやけには食たべられなくなった。

ただし修行しゅぎょうの一環いっかんである「托鉢たくはつ」（「たくはつ」、修行しゅぎょうの一環いっかんとして行おこなう物乞ものごい）においては、他人たにんが取とっていた食事しょくじで余あまったものを物乞ものごいし、頂いただいたものを食たべる。あくまで余あまりものを食たべるのであり、それが肉にくであったとしても問題もんだいにはならない。他人たにんに物乞ものごいする以上いじょう、好すき嫌きらいを示しめしてはならない、という教おしえである。相手あいてから施ほどこされたものは、肉にくであれ、魚さかなであれ、選えり好ごのみをせずに食たべるのが原則げんそくであり、鉢はちに入いれたものを日々ひびの糧かてとし、僧侶そうりょによる肉食にくしょくは禁止きんしされてはいなかった^[5]。

日本にっぽんの仏教ぶっきょう（の僧侶そうりょ）においては、早朝そうちょうの乞食こじき行ぎょうを経へて午前ごぜん中ちゅうのみ食事しょくじし、午後ごごには固形こけい物ぶつを一切いっさい食たべない^[6]。

「食しょく文化ぶんか」も参照さんしょう

「食しょくのタブー」も参照さんしょう

回数かいすう

西洋せいようでは、1800年ねんごろまで1日にち2食しょくであったという^[7]。

食事しょくじの回数かいすう自体じたいには固執こしつせず、「空腹くうふくを感かんじたら食たべる」ようにする場合ばあいもある。

日本にっぽん

20世紀せいき前半ぜんはん、国立こくりつ栄養えいよう研究所けんきゅうじょでの実験じっけんと、栄養えいよう学がくに基もとづく研究けんきゅうから、「1日にち3食しょく」が推奨すいしょうされた^[8]。それまでは「1日にち2食しょく」であり、それぞれ「朝餉あさげ」と「夕餉ゆうげ」と呼よんだ^[8]。

フランシスコ・ザビエルが1549年ねん頃ころに書かいた報告ほうこく書しょには「日本人にっぽんじんは1日にちに食事しょくじを3回かいする」とある^[9]。戦国せんごく期き当時とうじ、戦場せんじょうでは1日にち3食しょくであった。30日間にちかんまでは、食料しょくりょうは自己じこ負担ふたんだが、30日にちを過すぎて長期ちょうき戦せんとなると、軍ぐん＝大名だいみょうからの支給しきゅう制せいへと移うつり、1日にちの消費しょうひ量りょうは、1人ひとりにつき6合ごう分ぶん（約やく900グラム）支給しきゅうされていた^[10]。一回いっかいの食事しょくじにつき、米べい2合ごう分ぶん（約やく300グラム）ということになる（米べいだけで1日にちの摂取せっしゅエネルギーが3204kcalにもなり、塩しおも支給しきゅうされていた）。夜戦やせんの際さいには増配ぞうはいされた^[10]。

江戸えど時代じだいに庶民しょみんが1日にち3食しょくを取とるようになったのは元禄げんろく年間ねんかん（17世紀せいき末すえ）からとされる^[11]。牢ろう中ちゅうの囚人しゅうじんに対たいする食事しょくじの回数かいすうは身分みぶんによって違ちがい、江戸えど市し中小ちゅうしょう伝馬てんま町まち牢ろう屋敷やしきでは、庶民しょみんは朝夕あさゆうの2回かいに対たいし、武士ぶしは朝あさ昼ひる夕ゆうの3回かいで、罪人ざいにんであっても地位ちいによって待遇たいぐうに差さがあった^[12]。17世紀せいきの日本にっぽんにおいて1日にち3食しょくが広ひろまった理由りゆうとして、「照明しょうめいが明あかるくなった町まちの商しょう舗経営けいえいの長時間ちょうじかん化かが刺激しげきになった」とも考かんがえられており^[13]、身分みぶん・職種しょくしゅ（力士りきし）によっては2食しょくが残のこった^[14]。庶民しょみん3食しょく化かのきっかけについては、「明あかり暦れきの大火たいか（17世紀せいき中頃なかごろ）後ごの復旧ふっきゅう工事こうじに駆かり出だされた職人しょくにんに昼食ちゅうしょくを出だしたところ、広ひろまった」ともいわれている^[15]。他ほかにも1日にち3食しょくを記録きろくした例れいとして、幕末ばくまつの忍にん藩はん下級かきゅう藩士はんしが記しるした絵日記えにっきである『石城せきじょう日記にっき』があり、朝あさ昼ひる夕ゆうとその日ひに食くえした内容ないようが細こまかく記述きじゅつされている（日にち付づけによっては、3食しょくとも茶漬ちゃづけとある）。なお『石城せきじょう日記にっき』では昼食ちゅうしょくを「午うま飯めし」と記しるしている。

農家のうかにおいては農繁期のうはんきになると、1日にちの食事しょくじが4 - 5回かいに増ふえる（後述こうじゅつ書しょ p.37.）。一いち例れいとして、昭和しょうわ期きの埼玉さいたま県けん秩父ちちぶ地方ちほうでは、朝飯前あさめしまえの「茶ちゃがし」、次ついで「朝飯あさめし」、午前ごぜん10時じに「四よっつ飯めし」、「昼飯ひるめし」、午後ごご3時じのお茶ちゃを「こじゅうはん」（オチャゾッペエ・ニハチとも）、「ようめし」、夜よなべの後のちの「夜食やしょく」といった具合ぐあいに、3食しょく以上いじょうとなっており、3度どの食事しょくじは「ご飯はん、または、おまんま」と呼よんで区別くべつしている（倉林くらばやし正次まさつぐ『11日本にっぽんの民俗みんぞく埼玉さいたま』第だい一いち法規ほうき 1972年ねん p.37.）。

現代げんだいでは、朝食ちょうしょく、昼食ちゅうしょく、夕食ゆうしょく、計けい3回かい食事しょくじを摂とる習慣しゅうかんが一般いっぱん的てきとなっている。昼間ひるまに活動かつどうし、夜間やかんは眠ねむるという通常つうじょうの生活せいかつサイクルに合あわせたものであるが、夜食やしょくを摂とる場合ばあいや、朝食ちょうしょくや昼食ちゅうしょくの間あいだ、昼食ちゅうしょくから夕食ゆうしょくの間あいだに間食かんしょくを摂とる場合ばあいもある。