サイバーパンク

サイバーパンク（cyberpunk）とは、レトロフューチャーや、1980年代ねんだいに流行りゅうこう・成立せいりつしたサイエンス・フィクションのサブジャンルまたは特定とくていの思想しそう・運動うんどう。

サイバーパンク風ふうの近きん未来みらい都市としのイメージ

ウィリアム・ギブスンとブルース・スターリングがこのジャンルの作家さっかとして知しられる。

概要がいよう

漢字かんじ，ひらがな，カタカナの看板かんばんやネオンサインが所ところ狭せましと並ならぶ日本にっぽんの繁華はんか街がい（東京とうきょう都との新宿しんじゅく歌舞伎町かぶきちょう）。ブレードランナーにおけるスピナーで移動いどうするシーンに酷似こくじしている。ニューロマンサーの作者さくしゃであるウィリアム・ギブスンが"modern Japan simply was cyberpunk."と説明せつめいするように、SFのサブジャンルであるサイバーパンクの原げん風景ふうけいにもなっている。

「サイバーパンク」という単語たんごの初出しょしゅつは1980年代ねんだいにブルース・ベスキが発表はっぴょうした短編たんぺん小説しょうせつのタイトルであり、未成年みせいねんのハッカーを描えがいた内容ないようであった。

1984年ねん、新人しんじん作家さっかウィリアム・ギブスンが第だい一いち長編ちょうへん『ニューロマンサー』を発表はっぴょうし、ヒューゴー賞しょう、ネビュラ賞しょうなど多おおくのSF賞しょうを受賞じゅしょうした。ギブスンの友人ゆうじんであったブルース・スターリング、ルイス・シャイナーといった作家さっかたちも次々つぎつぎと新作しんさくを発表はっぴょうし、大おおきな注目ちゅうもくを集あつめた。

こうした動うごきを受うけて、1985年ねんにSF誌しの編集へんしゅう者しゃであり評論ひょうろん家かであったガードナー・ドゾワによって、1980年代ねんだいのSF界かいにおける思想しそう、運動うんどう、スタイルを指さす新語しんごとして「サイバーパンク」が用もちいられ、定着ていちゃくした。このため、従来じゅうらいのサイエンス・フィクションに対たいするカウンターとして登場とうじょうした若手わかて作家さっかたちを指さして呼よぶことが多おおい。

1985年ねんにアメリカで開催かいさいされたローカルSFコンベンションでのパネルディスカッションで、これらの若手わかて作家さっかたちが司会しかい者しゃに抗議こうぎして退場たいじょうするという騒さわぎを起おこすなど、旧来きゅうらいのSFに対たいする反抗はんこう心しんが強つよいものだった。また『ブレードランナー』や『ターミネーター』といった当時とうじ公開こうかいされたSF映画えいがのイメージとの関連かんれん性せいも指摘してきされている。

典型てんけい的てきなサイバーパンク作品さくひんでは、非ひ現実げんじつ性せいへのカウンターとしてよりリアルな現実げんじつ性せいが意識いしきされ、最もっとも現実げんじつ性せいを体現たいげんするモチーフとして人間にんげんや心理しんりの描写びょうしゃに力点りきてんが置おかれた作品さくひんが多おおい。作中さくちゅうでは人間にんげんが持もつ生体せいたい機能きのうとしての人体じんたいと、脳のう機能きのうに基もとづく認知にんち、思考しこう、心理しんりなどを機械きかい的てきないし生物せいぶつ工学こうがく的てきに拡張かくちょうし、それらのギミック、ないしはコンピュータやネットワークによる模倣もほうが普遍ふへん化かした世界せかい・社会しゃかいの描写びょうしゃを主題しゅだいのひとつの軸じくとしている。さらに心理しんり描写びょうしゃについても現実げんじつ性せいをもたせるため、社会しゃかい心理しんり学がくや異常いじょう心理しんり学がくで現あらわれる「対立たいりつ」や「葛藤かっとう」の発展形はってんけいと看做みなされる構造こうぞう・機構きこう・体制たいせいに対たいする反発はんぱつ（いわゆるパンク）や反はん社会しゃかい性せいを、主人公しゅじんこうの言動げんどうや作品さくひん自体じたいの主題しゅだいのもう一ひとつの軸じくとして好このんで多用たようされている。これらを内包ないほうする社会しゃかいや経済けいざい・政治せいじなどを俯瞰ふかんするメタ的てきな視野しやの背景はいけいの提供ていきょうと描写びょうしゃが加くわえられることで、作品さくひんをサイバーかつパンクたらしめ、既存きそんのSF作品さくひんとは一線いっせんを画かくすことが認識にんしきされて成立せいりつし確立かくりつされている。

小説しょうせつ『ブラッド・ミュージック』や『アンドロイドは電気でんき羊ひつじの夢ゆめを見みるか?』等とうの作品さくひんもサイバーパンク（ないしはその前駆ぜんく的てき作品さくひん）として列れっせられる。これらは根源こんげん的てきな意味いみでサイバーパンクであるとされており、疲弊ひへいした技術ぎじゅつやコンピュータとの融合ゆうごうなどの「サイバーパンク的てきガジェット」は登場とうじょうしないが、前述ぜんじゅつの要素ようそを持もつためサイバーパンク（または前駆ぜんく的てきサイバーパンク）と解釈かいしゃくされる場合ばあいがある。

チバシティなど、日本にっぽんの地名ちめいが作中さくちゅうに登場とうじょうするニューロマンサーの作者さくしゃであるウィリアム・ギブスンが"modern Japan simply was cyberpunk."と説明せつめいするように、ブレードランナーやニューロマンサーの発表はっぴょうを経へて完成かんせい形がたとなったサイバーパンクは、日本にっぽんの大都市だいとしの景観けいかんに大おおきな影響えいきょうを受うけている。これは日本にっぽんにおいても「日本にっぽんの都市としはダサい」というイメージを変かえることにもつながった。特とくに暗くらく雑然ざつぜんとした繁華はんか街がいのイメージは登場とうじょう人物じんぶつの移動いどうシーンなどで頻繁ひんぱんに登場とうじょうしている。

由来ゆらいと分類ぶんるい

サイバーパンクの語源ごげんとなるサイバネティクス（cybernetics）とは、本来ほんらいはフィードバックの概念がいねんを核かくにして生理学せいりがくと機械きかい工学こうがく、システム工学こうがく、情報じょうほう工学こうがくを統一とういつ的てきに扱あつかう学問がくもん領域りょういきであるが、これが転てんじて脳神経のうしんけい機能きのうの電子でんし的てき・機械きかい的てき補完ほかん拡張かくちょうやコンピューターへの接続せつぞく技術ぎじゅつを指さすようになった。さらに、人体じんたいの機能きのうの一部いちぶを機械きかい的てき・電子でんし的てきに拡張かくちょうないし置おき換かえたサイボーグ（cyborg: cybernetic organからの造語ぞうご）という概念がいねんがSFで盛さかんに用もちいられるようになっていた。サイバーパンクではこれらの人体じんたいと機械きかいが融合ゆうごうし、脳のう内ないとコンピューターの情報処理じょうほうしょりの融合ゆうごうが「過剰かじょうに推おし進すすめられた社会しゃかい」を描写びょうしゃする。さらに、社会しゃかい機構きこうや経済けいざい構造こうぞう等とうのより上位じょういの状況じょうきょうを考察こうさつし、それらを俯瞰ふかんするメタ的てきな視点してん・視野しやを提供ていきょうするという点てんで従来じゅうらいのSFと一線いっせんを画かくする。

これらサイバーパンクを含ふくむ「テクノロジーの過剰かじょうな発達はったつを土台どだいとした世界せかいや作品さくひん」は、一部いちぶではテックパンクスとも呼よばれ、蒸気じょうき機関きかんが現実げんじつの絶頂ぜっちょう期きの様相ようそうを越こえて発展はってんした社会しゃかいや世界せかいを描えがくスチームパンクや、電気でんき機器ききの（現実げんじつを越こえた、過剰かじょうな）発展はってんによる社会しゃかいや状況じょうきょう、鉄塔てっとうや電線でんせん、碍子がいし、真空しんくう管かんなどのガジェットへの傾倒けいとうを描えがいたエレクトリックパンクなどといった類型るいけいも存在そんざいするが、これらはサイバーパンクからの派生はせいジャンルとみなされ、共ともに広義こうぎのSFに内包ないほうされるものとして取とり扱あつかわれている。

サイバーパンクが成立せいりつした1980年代ねんだい前半ぜんはんは、北米ほくべいや欧州おうしゅうを中心ちゅうしんにパーソナルコンピュータが一般いっぱん家庭かていにも普及ふきゅうを開始かいしし、原始げんし的てきなネットワーク（パソコン通信つうしん）を伴ともなって身近みぢかなものとなり、また各種かくしゅの電子でんし機器ききが民生みんせい機器ききとして隆盛りゅうせいしていた時代じだいでもあり、一方いっぽうで軍学ぐんがく共同きょうどうの広域こういきネットワーク（インターネットの直接ちょくせつのルーツとなるARPAネットなど）の研究けんきゅうと普及ふきゅうも始はじまっていた。これら実在じつざいのガジェットや概念がいねんに触ふれる機会きかいが増大ぞうだいしたことで、それらが「過剰かじょうに発展はってんした（近こん）未来みらいへの着想ちゃくそう」をもたらしたという点てんでも、同どう時代じだいの社会しゃかいおよび科学かがく・民生みんせい技術ぎじゅつの状況じょうきょうがサイバーパンク成立せいりつの母体ぼたいとなったことは確たしかである。

一方いっぽう、1990年代ねんだいに入はいりインターネットの商用しょうよう利用りよう解禁かいきんや、ITバブルによるパーソナルコンピュータや携帯けいたい電話でんわなどの普及ふきゅうによってこれらが身近みぢかなものとなり陳腐ちんぷ化かすると、サイバーパンク・ムーブメントの存在そんざい感かんや刺激しげきは相対そうたい的てきに後退こうたいし、沈静ちんせい化かする。現在げんざいではギブスンらの元祖がんそサイバーパンク的てきな作品さくひん世界せかいやガジェットはレトロフューチャーの文脈ぶんみゃくで語かたられる物ものとなっている。しかしこれはい換いかえれば、90年代ねんだい以降いこうは、サイバーパンクの着想ちゃくそうが大衆たいしゅう的てきに広ひろく浸透しんとうし、あえてジャンル化かする意義いぎが見みいだせないほど当あたり前まえなものになった時代じだいでもあるということである。さらにインターネットの普及ふきゅう、ユビキタス社会しゃかい、AI社会しゃかいの進展しんてんにより、サイバーパンク的てきな感覚かんかくは一般いっぱん的てきになった。

サイバーパンクの系譜けいふ

「サイバーパンク」というジャンルを打うち立たてた作品さくひんとしては、前出ぜんしゅつのギブスン『ニューロマンサー』を始はじめとするスプロール・シリーズ（電脳でんのう空間くうかん三さん部ぶ作さく）がまず挙あげられる。

日本語にほんごへの翻訳ほんやくでは、黒丸くろまる尚しょうがルビを多用たようした独特どくとくの文体ぶんたいを用もちいた。また柾まさき悟さとる郎ろうはこの特徴とくちょう的てきな文体ぶんたいを活用かつようして『ヴィーナスシティ』を書かいた。

ジェイムズ・ティプトリー・Jr.の短編たんぺん「接続せつぞくされた女おんな」はサイバーパンクの成立せいりつ以前いぜん（1974年ねん）に書かかれた作品さくひんだが、後のちにサイバーパンクの先駆せんく的てき作品さくひんとして認みとめられるようになった。また、フィリップ・K・ディックの小説しょうせつ『アンドロイドは電気でんき羊ひつじの夢ゆめを見みるか?』も同様どうように作品さくひん（小説しょうせつ）自体じたいはサイバーパンクとは見みなされていないが、これを原作げんさくとした1982年ねんの映画えいが『ブレードランナー』において描えがかれた退廃たいはい的てきで無む国籍こくせきな人口じんこう過密かみつの大都市だいとし、空そら飛とぶ車くるま（スピナー）、高度こうどな科学かがく技術ぎじゅつで作つくられた人造じんぞう人間にんげん（レプリカント）等とうのビジュアル・舞台ぶたい設定せっていは、後発こうはつの創作そうさくに多大ただいな影響えいきょうを与あたえ、「サイバーパンクとは『ブレードランナー』のような近きん未来みらい社会しゃかいを描えがいた作品さくひんである」と形容けいようされることもある。

トマス・ピンチョンの『V.』『重力じゅうりょくの虹にじ』なども前ぜんサイバーパンク的てき小説しょうせつといえる。これらは時代じだい設定せってい的てきに高度こうどネットワークをもたない世界せかいを描えがいた作品さくひんであるが、機械きかいとの半はん融合ゆうごう、システムと人間にんげんなど、サイバーパンクのテーマに連つらなる内容ないようが特徴とくちょうである。

テレビゲームにおけるサイバーパンク作品さくひんには『サイバーパンク2077』がある。

日本にっぽんのサイバーパンク

詳細しょうさいは「日本にっぽんのサイバーパンク」を参照さんしょう

日本にっぽんのサイバーパンクとしては、冲方丁ひのとのマルドゥック・スクランブルシリーズを挙あげることができる。漫画まんが・アニメにおいては、士郎しろう正宗まさむねの漫画まんが『攻殻機動隊こうかくきどうたい』およびそのメディアミックス作品さくひんが挙あげられる。

脚注きゃくちゅう

参考さんこう文献ぶんけん

• 巽たつみ孝之たかゆき『サイバーパンク・アメリカ』勁草書房しょぼう〈Keiso books〉、1988年ねん12月。ISBN 978-4-326-09824-8。 
• 池田いけだ光穂みつほ、井上いのうえ大介だいすけ「サイバーパンクに倫理りんりは可能かのうか？ : 新あたらしいネットワーク心性しんせいとしてのサイバーパンクの人類じんるい学がく的てき研究けんきゅう序説じょせつ」『Co＊Design』第だい9号ごう、大阪大学おおさかだいがくCOデザインセンター、2021年ねん1月がつ、31-45頁ぺーじ、doi:10.18910/78964、ISSN 2434-9593、NAID 120006980209。 

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• レトロフューチャー
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