インターネット・バブル

インターネット・バブル（英えい: Internet bubble）とは、1990年代ねんだい前期ぜんきから2000年代ねんだい初期しょきにかけて、アメリカ合衆国あめりかがっしゅうこくの市場いちばを中心ちゅうしんに起おこった、インターネット関連かんれん企業きぎょうの実需じつじゅ投資とうしや株式かぶしき投資とうしが、実態じったいを伴ともなわない異常いじょうな高値たかねになったことである。

NASDAQ総合そうごう指数しすうの変遷へんせん（1994年ねん～2005年ねん）

ハイテクバブル、ITバブルとも呼よばれるが、英語えいごでは「dot-com bubble（ドットコム・バブル）」と言いう。

「ドットコム会社かいしゃ」と呼よばれる多おおくのIT関連かんれんベンチャーが設立せつりつされ、1999年ねんから2000年ねんまでの足掛あしかけ2年間ねんかんに亘わたって株価かぶかが異常いじょうに上昇じょうしょうしたが、2001年ねんには完全かんぜんにバブルは弾ひけた。

日本にっぽんでは、1993年ねん11月から1997年ねん5月がつまでの、インターネット・バブルによる影響えいきょうでの景気けいき拡張かくちょう期きを、景気けいきの名称めいしょう（通称つうしょうまたは俗称ぞくしょう）で、「復興ふっこうモバイル景気けいき」、1999年ねん2月がつから2000年ねん11月がつまでの景気けいき拡張かくちょう期きの名称めいしょうで、「ITバブル」や「IT景気けいき」、「ITブーム」などと呼よばれることもあり、また、2000年ねん12月から2002年ねん1月がつまでの景気けいき後退こうたい期きを、不ふ況きょうの名称めいしょう（通称つうしょう・俗称ぞくしょう）で、「ITバブル崩壊ほうかい」や「IT不ふ況きょう」などと呼よばれることもある。

背景はいけい

1990年代ねんだい末期まっきに、消費しょうひ者しゃと直接ちょくせつの双方向そうほうこう通信つうしんを大量たいりょうに処理しょりできる電子でんし商取引しょうとりひきの可能かのう性せいが現実げんじつ化かし、既存きそんのビジネスモデルを揺ゆるがせた。このため、多おおくの会社かいしゃがインターネット関連かんれん投資とうしに走はしり、これらのサービスを提供ていきょうする情報じょうほう技術ぎじゅつ関連かんれん企業きぎょうに注目ちゅうもくが集あつまった。さらに1998年ねんから1999年ねんにかけて持続じぞくした、連邦れんぽう準備じゅんび理事りじ会かいのアメリカ合衆国あめりかがっしゅうこくドル低てい金利きんり政策せいさくが、ベンチャー創業そうぎょう資金しきんや投資とうし資金しきんの調達ちょうたつを容易よういにした。

アメリカ合衆国あめりかがっしゅうこくの大学だいがくを卒業そつぎょうしたばかりの技術ぎじゅつ者しゃやベンチャー起業きぎょう家かたちは、プレゼンテーションを配布はいふするだけで多おおくの資金しきんが集あつめられるようになり、その企画きかく書しょの多おおくは、投資とうし家か達たちにとって聞きいたことの無なく、説明せつめいされても理解りかいできない語句ごくで埋うめ尽つくされていた。多おおくの起業きぎょう主旨しゅし書しょは商業しょうぎょう的てき可能かのう性せいが疑うたがわしく、あるいは技術ぎじゅつ的てき可能かのう性せいについて疑うたがわしいものが含ふくまれていた。

株価かぶか

通信つうしん関連かんれん銘柄めいがらが多おおいNASDAQのナスダック総合そうごう指数しすうは、1996年ねんには1000前後ぜんこうで推移すいいしていたが、1998年ねん9月がつに1500を、1999年ねん1月がつには2000を突破とっぱし、2000年ねん3月がつ10日とおかには絶頂ぜっちょうの5048を示現じげんした。同様どうようの傾向けいこうはアメリカの株式かぶしき市場いちばだけでなく、ヨーロッパやアジアや日本にっぽんの株式かぶしき市場いちばでも見みられた。

このような中なかで、株式かぶしきを公開こうかいしたベンチャー企業きぎょう創業そうぎょう者しゃは莫大ばくだいな富とみを手てにし、シリコンバレーを中心ちゅうしんに、ベンチャー設立せつりつブームに拍車はくしゃをかけた。アメリカ合衆国あめりかがっしゅうこくではドットコム・ブーム、またはドットコム・バブルと呼よぶ。

当時とうじアメリカの経済けいざい学者がくしゃは、このような現象げんしょうを「ニューエコノミー」としてもてはやしたが、その後ご、連邦れんぽう準備じゅんび制度せいど理事りじ会かいの米あめりかドル利上りあげと、2000年ねん3月がつ13日にちに当時とうじ世界せかい2位いの経済けいざい大国たいこくであった日本にっぽんが再ふたたび景気けいき後退こうたいに入はいったというニュースが報道ほうどうされると、世界せかい的てきな売うり浴あびせが引ひき起おこされ、3月10日にち金曜日きんようびに最さい高値たかね(5,048.62)を付つけた株価かぶかは大おおきく下落げらくしていった。2000年ねん5月がつには一旦いったん底値そこねを付つけ、8月がつまで再度さいど上昇じょうしょうしたものの、日本にっぽんでのゼロ金利きんり政策せいさく解除かいじょの影響えいきょうも重かさなり、再ふたたび株価かぶかは急速きゅうそくに崩壊ほうかいしていった。

その後ご、株価かぶかは2001年ねん9月がつ11日にちのアメリカ同時どうじ多発たはつテロ事件じけんもあって、2002年ねんには1000台だいまで下落げらくした。

ITバブル崩壊ほうかい

このような株価かぶかの崩壊ほうかいのなかで、多おおくのIT関連かんれんベンチャーは倒産とうさんに追おい込こまれ、2002年ねんの米国べいこくIT関連かんれん失業しつぎょう者しゃ数すうは56万まん人にんに達たっした。シリコンバレーを中心ちゅうしんとしたインキュベーター (起業きぎょう)は一時いちじ的てきにではあれ縮小しゅくしょうや廃止はいしを余儀よぎなくされ、Google・Amazon.com・eBayなど、一部いちぶのベンチャー企業きぎょうのみが生いき残のこった。崩壊ほうかい後ごの不ふ況きょうの最中さいちゅう、2001年ねん9月がつ11日にちにアメリカ同時どうじ多発たはつテロ事件じけんが発生はっせいし、アメリカ合衆国あめりかがっしゅうこくの経済けいざいは深刻しんこくな不ふ況きょうへ突入とつにゅうした。

マイクロソフトやインテル、デルやヒューレット・パッカードなど既存きそんのIT関連かんれん事業じぎょう者しゃ、あるいはベライゾンやAT&Tモビリティなど通信つうしん事業じぎょう者しゃなどの株価かぶかも大幅おおはばに下落げらくしたが、本業ほんぎょうが与あたえられた影響えいきょうは軽微けいびなものであった。光ひかりケーブルの過剰かじょう敷設ふせつ問題もんだい（ダークファイバ）の再燃さいねんも懸念けねんされたが、すでに90年代ねんだい後半こうはんの過剰かじょう投資とうしの経験けいけんから、抑制よくせい的てきに投資とうしされていたこともあり、ITバブル崩壊ほうかいにともなうダークファイバの不良ふりょう債権さいけん化かについては懸念けねんされるほどの問題もんだいは生しょうじなかった。

世界せかい的てき影響えいきょう

欧州おうしゅう諸国しょこくのなかでも英語えいご圏けんで賃金ちんぎんコストが低ひくかった小国しょうこくアイルランドにIT関連かんれん企業きぎょうの直接ちょくせつ投資とうしが相継あいつぎ、アイルランドはこのブームに乗のって「ケルトの奇跡きせき」と呼よばれる経済けいざい成長せいちょうを達成たっせいした。バブル崩壊ほうかいのアイルランド経済けいざいへの打撃だげきは決定的けっていてきではなかった。

英語えいご人口じんこうが多おおいインドにもソフトウェア関連かんれんの投資とうしが増加ぞうかし、バンガロールのベンチャーに支ささえられたインド経済けいざいに好影響こうえいきょうを与あたえた。

中華人民共和国ちゅうかじんみんきょうわこくでも、当時とうじ株式かぶしき公開こうかいを行おこなったレノボなどのIT企業きぎょうの株価かぶかはいきなり高値たかねを付つけ、ハードウェア関連かんれんのスタートアップや工場こうじょうが増ふえた深ふか圳は「ハードウェアのシリコンバレー」と呼よばれるようになった。当時とうじ中国ちゅうごくのITブームはようやく緒いとぐちに付ついたばかりでネットワーク効果こうかによって市場いちばが世界せかい最大さいだい規模きぼまでになり、大おおきな打撃だげきを受うけることはなかった。

その後ご、ネット空間くうかんはグレート・ファイアウォールによって進出しんしゅつを阻はばまれた英語えいご圏けんのGAFAから保護ほごされてBATが台頭たいとうした。

日本にっぽん

ヤフーをはじめとするソフトバンクグループ、楽天らくてんやサイバーエージェント、ライブドア（オン・ザ・エッヂ）などが、インターネット企業きぎょうとして興隆こうりゅうした。また米国べいこくハイテク株かぶに投資とうしすることを謳うたい文句もんくとした投資とうし信託しんたく商品しょうひんが組成そせいされた。

一方いっぽうで日本にっぽんでは、半導体はんどうたいや国産こくさんPC製造せいぞうなど1980年代ねんだいに全盛ぜんせいを誇ほこったハード面めんが急激きゅうげきに衰退すいたいしており、ウェブブラウザや検索けんさくエンジン開発かいはつなどのソフト面めんでも、多おおくの分野ぶんやがすでに米国べいこく企業きぎょうの後塵こうじんを拝はいしていたため、投資とうし対象たいしょうとなったのは、主おもに既存きそんの通信つうしん・携帯けいたい電話でんわ関連かんれん株かぶ（NTT、NTTドコモ、KDDI）、コンピュータ関連かんれん株かぶ（NEC、富士通ふじつう、東芝とうしば、ソニーなど）、半導体はんどうたい、通信つうしんケーブル、あるいは光通信ひかりつうしん、大阪おおさか有線ゆうせん（現げん：USEN）、ソフマップなど新規しんき上場じょうじょう株かぶであった。

また日本国にっぽんこく政府せいふによる起業きぎょう支援しえん、ストックオプションの規制きせい緩和かんわなどが相俟あいまってベンチャーキャピタルが増加ぞうかし、なかには詐欺さぎまがいの問題もんだい企業きぎょうも発生はっせいした（アイ・エックス・アイ。非ひ上場じょうじょうでは平成へいせい電電でんでんや近きん未來みらい通信つうしんなど）。市況しきょう全体ぜんたいも投資とうしの活発かっぱつ化かにより刺激しげきされ、トヨタやファナック、キヤノン、任天堂にんてんどうなどといった主力しゅりょく銘柄めいがらの一部いちぶもそれなりの株価かぶか上昇じょうしょうが見みられた。1999年ねんに全米ぜんべい証券しょうけん業ぎょう協会きょうかいとソフトバンクがNASDAQ JAPANを発表はっぴょう、iモードがサービスを開始かいしした。

こうした中なかで、世界せかい的てきなITバブルの最中さいちゅうであった当時とうじ、e-japan構想こうそうやインパクが計画けいかくされ、「情報じょうほう革命かくめい」が流行りゅうこう語ごになった。しかし日本にっぽんのITバブルは長ながくは続つづかず、2000年ねん3月がつに文藝春秋ぶんげいしゅんじゅうが光通信ひかりつうしんの携帯けいたい電話でんわ売買ばいばいを巡めぐる不正ふせいを報ほうじたことをきっかけに、同社どうしゃの株かぶは20日間にちかんストップ安すとっぷやすで最さい高値たかねの100分ぶんの1近ちかくまで下落げらく、他たのネット関連かんれん銘柄めいがらもほぼ時期じきを同おなじくして大幅おおはばに値ねを下さげ、日本にっぽんのネットバブルはあっけなく崩壊ほうかいした。

この影響えいきょうで日本にっぽん社会しゃかいのデジタル化かは約やく20年ねん後ごのコロナ禍かまで停滞ていたいしたといわれる。孫まご正義まさよしによると当時とうじの日本にっぽん社会しゃかいはインターネットの登場とうじょうに嫌悪けんお感かんがあり、ソフトバンクも偉えらい人達ひとたちから相当そうとう馬鹿ばかにされたという。

一方いっぽうで日本にっぽんの経済けいざいは、もともと1991年ねんのバブル崩壊ほうかい以来いらいの平成へいせい不況ふきょうと就職しゅうしょく氷河期ひょうがきが続つづいており、IT関連かんれん投資とうしが部分ぶぶん的てきだったため、米国べいこくを中心ちゅうしんとしたITバブル崩壊ほうかいの日本にっぽんへの影響えいきょうは極きわめて限定げんてい的てきだった が、失業しつぎょうは失うしなわれた20年ねんの影響えいきょうもあって日本にっぽんのバブル崩壊ほうかい時じよりも高たかかった。

インターネット・バブル崩壊ほうかいを乗のり切きったIT企業きぎょうの一部いちぶは順調じゅんちょうに成長せいちょうし、中なかでも時代じだいの寵児ちょうじとなったのがライブドアであったが、2006年ねんにライブドア・ショックが起おこることになる。

再ふたたび成長せいちょうへ

バブル崩壊ほうかい後ごの情報じょうほう通信つうしん産業さんぎょうは冬ふゆの時代じだいが続つづいたが、2008年ねん頃ごろからスマートフォンの普及ふきゅうが進すすみアプリケーションの開発かいはつが進すすんだこと、 2012年ねん頃ごろからビッグデータを活用かつようした人工じんこう知能ちのうの研究けんきゅうが盛さかんになると、それを応用おうようした仮想かそう通貨つうかや自動じどう運転うんてん技術ぎじゅつが開発かいはつされるようになり、再ふたたび情報じょうほう通信つうしん産業さんぎょうへの投資とうしが進すすむようになった。 その結果けっか、ナスダック総合そうごう指数しすうは上昇じょうしょうを続つづけており、2017年ねんにはITバブル絶頂ぜっちょう期きだった2000年ねんの数値すうちを抜ぬいて更さらに上昇じょうしょうがつづいている。

文献ぶんけん情報じょうほう

• 「ITバブルの崩壊ほうかいと2000年代ねんだいの経済けいざい」野田のだ哲夫てつお（島根大学しまねだいがく 情報じょうほう化か社会しゃかいと経済けいざい2009年度ねんど共通きょうつう教養きょうよう科目かもく）[1][2]
• 「デジタルコンペティション」武石たけいし彰あきら、ジェフリーLファンク（一いち橋きょうビジネスレビュー2004SUM）[3]
• 「ITバブルの崩壊ほうかいとテロ事件じけん発生はっせい後ごの米国べいこく経済けいざい」ロバート･J･シャピロ（富士通ふじつう総研そうけんEconomicReview2002.1）[4]
• 「｢IT革命かくめい｣と「ITバブル」」篠しの﨑彰彦あきひこ（2003年ねん9月がつ8日にち司法しほう研究所けんきゅうじょ平成へいせい15年度ねんど専門せんもん研究けんきゅう会かい 九州大学きゅうしゅうだいがくシステムLSI研究けんきゅうセンター）[5][6]
• 「ＩＴバブル崩壊ほうかい後ごの米国べいこく経済けいざいの変貌へんぼう」篠しの﨑彰彦あきひこ（2004年ねん2月がつ23日にち九州きゅうしゅうクロスフォーラム 九州大学きゅうしゅうだいがくシステムLSI研究けんきゅうセンター）[7][8]
• 「恐慌きょうこう･不ふ況きょうの経済けいざい学がく」林はやし直道なおみち（新しん日本にっぽん出版しゅっぱん社しゃ）[9]
• 「インターネットバブル」アンソニーパーキンス兄弟きょうだい（日本経済新聞にほんけいざいしんぶん）

関連かんれん項目こうもく

• 2000年ねん問題もんだい
• 情報じょうほう革命かくめい
• インターネットビジネス
• バブル経済けいざい
• ミューチュアル・ファンド
• Microsoft Windows 95
• e-Japan

外部がいぶリンク

• NASDAQ平均へいきん株価かぶかチャート（英語えいご）
• インターネットバブル崩壊ほうかい後ごのネット企業きぎょう-企業きぎょうとクラスターの現状げんじょうに関かんする分析ぶんせき 湯川ゆかわ抗こう（富士通ふじつう総研そうけん2004年ねん）