ミュージック・ビデオ

ミュージック・ビデオ（英えい: music video、略称りゃくしょう：MV）は、宣伝せんでんや芸術げいじゅつ目的もくてきで制作せいさくされた、曲きょくとイメージを統合とうごうした短編たんぺん映画えいがである^[1]。現代げんだいのミュージック・ビデオは、主おもに音楽おんがく録音ろくおんの販売はんばいを促進そくしんするためのマーケティング手段しゅだんとして制作せいさくされ、使用しようされている。また、マーケティングキャンペーンで曲きょくを使用しようし、単たんなる曲きょく以上いじょうのものにすることも可能かのうである。食品しょくひんやその他たの製品せいひんの玩具おもちゃやマーケディングキャンペーンでは、マーチャンダイジングとして使用しようされている。

概要がいよう

ミュージック・ビデオの起源きげんは1920年代ねんだいに登場とうじょうしたミュージカル短編たんぺん映画えいが（英語えいご版ばん）にまで遡さかのぼるが、1980年代ねんだいにはMTVがこのメディアを中心ちゅうしんとしたフォーマットを採用さいようしたことで有名ゆうめいになった。これらの作品さくひんは、1980年ねん以前いぜんには「イラストレイテッド・ソング」、「フィルムド・インサート」、「プロモーション（プロモ）フィルム」、「プロモーション・クリップ」、「プロモーション・ビデオ」、「ソング・ビデオ」、「ソング・クリップ」、「フィルム・クリップ」などと呼よばれていた。

現代げんだいのミュージック・ビデオは、アニメーション、実写じっしゃ、ドキュメンタリー、抽象ちゅうしょうアニメーション（英語えいご版ばん）など非ひ物語ものがたり的てきなアプローチを含ふくむ幅広はばひろい撮影さつえい技術ぎじゅつが使用しようされている。いくつかのミュージック・ビデオは、アニメーション、音楽おんがく、実写じっしゃなど異ことなるスタイルを混合こんごうしている。これらのスタイルと技術ぎじゅつを組くみ合あわせることは、観客かんきゃくに変化へんかを示しめすために、より一般いっぱん的てきになってきた。多おおくのミュージック・ビデオは、曲きょくの歌詞かしからイメージや場面ばめんを解釈かいしゃくするが、別べつのテーマのアプローチが採用さいようされる場合ばあいもある。また、必かならずしも曲きょくのライブパフォーマンスを撮影さつえいしたビデオである必要ひつようはない^[2]。プロダクトプレイスメントは、ミュージック・ビデオでは一般いっぱん的てきな技巧ぎこうであり、多おおくのヒップホップのビデオにはビーツピル（英語えいご版ばん）が登場とうじょうする。

歴史れきし

ミュージック・ビデオの概念がいねんは1970年代ねんだい以前いぜんから存在そんざいしており、ポップミュージック以前いぜんではディズニー制作せいさくの『ファンタジア』などが音楽おんがくと映像えいぞうを融合ゆうごうさせた作品さくひんとして著名ちょめいである。

1894年ねん、楽譜がくふ出版しゅっぱん社しゃであるエドワード・B・マークスとジョー・スターンが電気でんき技師ぎしのジョージ・トーマスと様々さまざまな演奏えんそう家かを雇やとい、曲きょく「ザ・リトル・ロスト・チルド（英語えいご版ばん）」の販売はんばいを促進そくしんした^[3] 。幻灯げんとう機きを使用しようして、トーマスはライブパフォーマンスと同時どうじにスクリーンに一連いちれんの静止せいし画がを投影とうえいした。これは、ミュージック・ビデオに向むけた最初さいしょのステップとして知しられるイラストレイテッド・ソングとして人気にんきになった^[3]。

トニー・ベネットは自伝じでんで、1956年ねんにロンドンのハイド・パークにあるサーペンタイン・レイクに沿そって歩あるいて撮影さつえいされた「最初さいしょのミュージック・ビデオ」を制作せいさくしたと主張しゅちょうしている。それは、「ストレンジャー・イン・パラダイス」のビデオである^[4]。ビデオは、イギリスとアメリカ合衆国あめりかがっしゅうこくのテレビ局てれびきょくに送おくられ、ディック・クラークの「アメリカン・バンドスタンド（英語えいご版ばん）」などの番組ばんぐみで放送ほうそうされた^[5]。より抽象ちゅうしょう的てきな現代げんだい的てきなビデオと似にているプロモーション・ミュージック・ビデオの最もっとも古ふるい例れいは、1958年ねんに制作せいさくされ、ラディスラフ・リュヒマン（英語えいご版ばん）によって監督かんとくされた「Dáme si do bytu」である^[6]^[7]。

イギリスのロックバンド、ザ・ビートルズは1966年ねん以降いこうにツアーを行おこなわず、ロンドン周辺しゅうへんで創作そうさく活動かつどうを続つづけていた。そのため、新曲しんきょくリリースのたびに、さまざまなテレビ番組ばんぐみに依頼いらいされ、出演しゅつえんしなければならない事ことを疎うとましく思おもい、演奏えんそうシーンとイメージ映像えいぞうを組くみ合あわせた映像えいぞう作品さくひんを予あらかじめ作成さくせいし、テレビ局てれびきょくへ提供ていきょうしたのが始はじまりという説せつが一般いっぱん的てきに浸透しんとうしている。実際じっさい、ビートルズのメンバーでギタリストのジョージ・ハリスンは「MTVは僕ぼくたちの発明はつめい品ひんだよ（笑）」と、冗談じょうだん半分はんぶん、本気ほんき半分はんぶんで語かたっている他ほか、ビートルズの主演しゅえん映画えいが『ビートルズがやって来くるヤァ!ヤァ!ヤァ!』『ヘルプ!4人にんはアイドル』の監督かんとくを務つとめたリチャード・レスターは、MTVから「あなたはMTVの父ちちだ」と賞状しょうじょうを贈おくられている^[8]。アメリカ合衆国あめりかがっしゅうこくで1980年代ねんだいにMTVの登場とうじょうによって急速きゅうそくに一般いっぱん化かした。特とくにマイケル・ジャクソンやマドンナはミュージックビデオを駆使くしした例れいである（マイケル・ジャクソンの「スリラー」や「今夜こんやはビート・イット」、「バッド」などは当時とうじ非常ひじょうに話題わだいを呼よんだ）。

2000年ねん以降いこう

一般いっぱんにシングル曲きょくのプロモーションのために制作せいさくされることが多おおいが、2000年代ねんだいに入はいるとシングルCD市場いちばの衰退すいたいなどの要因よういんによりアルバム収録しゅうろく曲きょくのミュージック・ビデオが制作せいさくされるケースが多おおくなった。50セントの2005年ねんのアルバム『The Massacre』のスペシャルエディション（再発さいはつ盤ばん）やベックの2006年ねんのアルバム『The Information』には収録しゅうろく曲きょく全曲ぜんきょくのビデオを収録しゅうろくしたDVDが付属ふぞくされた。日本にっぽんでも海外かいがいの手法しゅほうを取とり入いれる形かたちで、アルバム発売はつばいに際さいしてそのリードトラックをシングルCDとしては発売はつばいしないままビデオのみ制作せいさくするケースも増ふえてきている。

ミュージック・ビデオにストーリー性せいを加味かみする物ものも多おおく、最もっとも有名ゆうめいなものにマイケル・ジャクソンの「Thriller」（1983年ねん）がある。ユニークな例れいでは、同おなじ曲きょくで違ちがう歌詞かしの全ぜん12曲きょく（12章しょう、約やく40分ふん）でストーリーを展開てんかいしたR・ケリーの「トラップト・イン・ザ・クローゼット」（DVDとして纏まとめられている）がある。

ミュージック・ビデオは、日本にっぽん国内こくないではスカパー!やケーブルテレビ局きょくなどを介かいしたCS 音楽おんがく専門せんもんチャンネル（MUSIC ON! TV、スペースシャワーTVなど）で視聴しちょうできる。また2000年代ねんだい後半こうはん以降いこうは、YouTubeやGYAO!などのインターネットの動画どうが配信はいしんウェブサイトやiTunes Storeなどでも視聴しちょうできるようになった。他ほかにも、テレビ神奈川てれびかながわ（tvk）が『ミュージックトマトJAPAN』などの番組ばんぐみで古ふるくからミュージック・ビデオを多数たすう放送ほうそうしている。また邦楽ほうがくのミュージック・ビデオについては、1990年代ねんだい中頃なかごろからバラエティ番組ばんぐみなどのエンディング時じのスタッフロールのバックにタイアップ曲きょくのミュージック・ビデオを流ながす手法しゅほうが見みられはじめ、2000年代ねんだい以降いこうには同様どうようの手法しゅほうを取とる番組ばんぐみが数多かずおおく見みられるようになった。ただしこの場合ばあい、サビ部分ぶぶんのみの30秒びょう前後ぜんこうだけ流ながされることが大半たいはんである。

また、ハイビジョン撮影さつえいされる作品さくひんも増ふえている。ミュージック・ビデオが収録しゅうろくされたBlu-ray Discが付録ふろくに付ついたCDがリリース^{[注釈ちゅうしゃく 1]}されることは稀まれで、放送ほうそう技術ぎじゅつ上じょうの問題もんだいから公開こうかいされる際さいに標準ひょうじゅん画質がしつに落おとされて放送ほうそうされたり、DVD収録しゅうろく時じにレターボックスで収録しゅうろくされる形かたちがほとんどである。近年きんねんでは主おもに2010年代ねんだいから16:9で収録しゅうろくされる作品さくひんも増ふえているが、アルバム付属ふぞくDVDやプロモーション・ビデオ（PV）集しゅうで以前いぜんの作品さくひんと同時どうじに収録しゅうろくされると、それらとの兼かね合あいからレターボックスに落おとされて収録しゅうろくされる事ことが多おおい。

替かえ歌うたに合あわせてミュージック・ビデオもパロディ化かしているアル・ヤンコビックは、必かならず元もとの歌うたい手てやレコード会社かいしゃなどの版権はんけん者しゃから許可きょかを得えて製作せいさく・公開こうかいしている。

日本にっぽん

日本にっぽんにおけるミュージック・ビデオの発展はってんは、生放送なまほうそうの音楽おんがく番組ばんぐみが衰退すいたいした1980年代ねんだい後半こうはんから1990年代ねんだい初頭しょとう以降いこう、アーティストの音楽おんがく番組ばんぐみ出演しゅつえんに代かわるプロモーション手段しゅだんの一ひとつとして、また洋楽ようがくシーンの影響えいきょうも受うけ増ふえていくようになる。この頃ころミュージック・ビデオを積極せっきょく的てきに使つかったアーティストにはオフコース、TM NETWORK、小泉こいずみ今日子きょうこ、サザンオールスターズ、CHAGE and ASKAなどがいる。EPICソニー（現げんエピックレコードジャパン）は所属しょぞくするアーティストのミュージック・ビデオやライブ映像えいぞうをメインにした音楽おんがく番組ばんぐみ『eZ』を放送ほうそうするなど、レーベル独自どくじの展開てんかいも見みられるようになった。

従来じゅうらいはカセットやCDなどの販促はんそく（プロモーション）のみが目的もくてきであったので、PV（プロモーション・ビデオ）とよばれ、店頭てんとうでの視聴しちょうや音楽おんがく番組ばんぐみ（洋楽ようがくでは『ベストヒットUSA』や『SONY MUSIC TV』が有名ゆうめい）での放映ほうえいに限定げんていされていたが、1990年代ねんだい中頃なかごろからは、アーティストが映像えいぞう作家さっかと共ともに作品さくひんの世界せかい観かんを表現ひょうげんし、一般いっぱんに伝つたえる手段しゅだんのひとつとして重視じゅうしされるようになっていった。ミュージック・ビデオから切きり出だされた映像えいぞうが、CMや出演しゅつえんしない音楽おんがく番組ばんぐみでのスポットで使用しようされることも多おおくなっていった。また、関東かんとう・中部ちゅうぶ・関西かんさい地区ちくの独立どくりつ県域けんいきテレビ局てれびきょくの一部いちぶ（千葉ちばテレビ放送ほうそう、テレビ神奈川てれびかながわ、KBS京都きょうとほか）が日にち中ちゅうの休止きゅうし枠わくにて流ながす埋うめ草くさ（うめくさ）や、TBSテレビなどの一部いちぶ系列けいれつで行おこなわれた天気てんき予報よほう（歌うたう天気てんき予報よほうと呼よばれる）で、これらのビデオクリップを使つかった放送ほうそうが実施じっしされたことがある。

この頃ころにはすでにビデオデッキの普及ふきゅうが成なされていたこともあり、パッケージ販売はんばいされる機会きかいも増加ぞうかした。現在げんざいではDVD-Videoによる販売はんばいが主流しゅりゅうであるが、CDとDVDをセットにして割安わりやすな価格かかくで販売はんばいする商品しょうひんが売上うりあげを伸のばすケースが多おおい。ミュージック・ビデオは音楽おんがく以外いがいの販売はんばい促進そくしんのための宣伝せんでん資料しりょうなどの意味いみもある。1993年ねんの『第だい35回かい日本にっぽんレコード大賞たいしょう』に初はじめて「ミュージックビデオ賞しょう」が登場とうじょうした。受賞じゅしょうしたのはtrf「EZ DO DANCE」と米べい米べいクラブ「THE 8TH OF ACE」。ただしこの賞しょうが設置せっちされていたのは、この年としと翌よく1994年ねんの『第だい36回かい日本にっぽんレコード大賞たいしょう』のみである。

YouTubeが誕生たんじょうしてからは公式こうしきチャンネルからMVが投稿とうこうされ、無料むりょうで観みられる事ことが増ふえている。また、YouTubeでのMVの視聴しちょう回数かいすうがストリーミングやダウンロードと並ならんで、曲きょくの人気にんきの指標しひょうとされることも多おおい。

著名ちょめいな作品さくひん

ボヘミアン・ラプソディ（クイーン） - 明確めいかくにプロモーションを前提ぜんていとして制作せいさくされた最初さいしょのミュージック・ビデオ作品さくひんとされる^[9]。1970年代ねんだい。
スリラー（マイケル・ジャクソン） - MTVにおける「今いままで作つくられたミュージック・ビデオの中なかで最もっとも偉大いだいなベスト100」で第だい一いち位い^[10]。ミュージック・ビデオとしては唯一ゆいいつアメリカ議会ぎかい図書館としょかんに永久えいきゅう保存ほぞんされている^[11]^{[注釈ちゅうしゃく 2]}。1980年代ねんだい。
スクリーム（マイケル・ジャクソン、ジャネット・ジャクソン） - 史上しじょう最もっとも費用ひようのかかったミュージック・ビデオとしてギネス・ワールド・レコーズに認定にんていを受うけている^[10]。1990年代ねんだい。