原文げんぶん

原文げんぶん（げんぶん、英語えいご：original, the original, original sentence, etc.）とは、（翻訳ほんやく・訂正ていせい・改作かいさく・加筆かひつなどをする前まえの、）もとの文章ぶんしょう。

白文はくぶん

日本語にほんごでは、漢文かんぶんが原文げんぶんである場合ばあい、本文ほんぶんだけで注釈ちゅうしゃくの付ついていない漢文かんぶん、句読くとう・訓点くんてんを施ほどこさない漢文かんぶんを、白文はくぶん（はくぶん）と言いう。

また、現代げんだいにおける原文げんぶんの表記ひょうきは、想定そうてい読者どくしゃが日本語にほんご話者わしゃであれ中国ちゅうごく語ご話者わしゃであれ、真しんの原文げんぶんには無ない約やく物もの（句読点くとうてん、括弧かっこなど）を書かき加くわえることが多おおい（※用例ようれいを参照さんしょうのこと）。

原文げんぶんの引用いんよう

欧米おうべい文化ぶんか圏けんでは、文書ぶんしょの編集へんしゅうに関かんして、「原文げんぶんのままで引用いんようする」ことを "sic" (en, wikt) と記しるすことで表あらわす。これは "thuus" "so"、「このように」「かくのごとし」を意味いみするラテン語らてんごである。これは、原文げんぶんを引用いんようするにあたって、誤字ごじや事実じじつ誤認ごにんと思おもわれる記述きじゅつが含ふくまれている部分ぶぶんをあえて訂正ていせいせずに掲載けいさいする場合ばあいに「原文げんぶんをそのまま載のせていること」を明示めいじする表示ひょうじであり、そのまま引用いんようした語句ごくの後のちに [sic] と記しるすことになっている。

同おなじく日本語にほんごでは、「原文げんぶんのままで引用いんようする」ことを、「原文げんぶんの儘（まま）引用いんよう」の省略しょうりゃく形かたちで、「原文げんぶんママ」「原文げんぶんノママ（江戸えど時代じだいに由来ゆらいする古形こけい）」、あるいは、さらに略りゃくして「ママ」と記しるす。用法ようほうにおいて "sic" との違ちがいは無ない。

書かき下おろし

日本語にほんごでは、漢文かんぶんが原文げんぶんである場合ばあい、白文はくぶんを訓読くんどく（漢文かんぶん訓読くんどく）することになるが、それを記しるす場合ばあいには訓読くんどく文ぶん（訓読くんどくして漢字かんじ仮名かめい交まじり文ぶん〈仮名かめい交文〉に書かき直なおした文ぶん）に変換へんかんすることとなる。訓読くんどくは訓くんみ下おろし（よみくだし。訓くん下くだしとも綴つづる）とも言いうが、訓読くんどくした内容ないようを文ぶんに書かき起おこすことは書かき下おろし（かきくだし。書下かきおろしとも綴つづる）と言いう。訓くんみ下おろしと書かき下おろしは似にて否いやなるものであるが、訓くんみ下おろし文ぶんと書かき下くだし文ぶんは同おなじものとなるので、一般いっぱん的てきに両者りょうしゃは同おなじと見みなされる。

同おなじ日本語にほんごでも古語こご等ひとしが原文げんぶんである場合ばあい、これも、訓読くんどく・書かき下おろし・現代げんだい日本語にほんご訳やくが必要ひつようとなる。

ただし、書かき下くだし文ぶんは省略しょうりゃくされることも多おおい。

現代げんだい日本語にほんご訳やく

書かき下くだし文ぶん（訓くんみ下おろし文ぶん）の形式けいしきは、現代げんだい日本語にほんご（現代げんだい日本にっぽんの口語こうご）とは乖離かいりした古典こてん的てき文体ぶんたい、すなわち文語ぶんご体たいとなっているため、最終さいしゅう的てきに現代げんだい日本語にほんご訳やく（口語こうご訳わけ）することになる。したがって、漢文かんぶんを解説かいせつする際さいは、原文げんぶん・書かき下くだし文ぶん・現代げんだい日本語にほんご訳文やくぶん（口語こうご訳文やくぶん）の3段階だんかいで記しるされることが多おおい。ただし、書かき下くだし文ぶんの段階だんかいで文語ぶんご体たいを口語体こうごたいに直なおす例れい（用例ようれい：言げんふ→言いう）も多おおく見みられる。

用例ようれい

• 漢文かんぶんの解説かいせつ ：「水魚すいぎょの交まじわり」

原文げんぶん（抜粋ばっすい） ≪…前後ぜんこう文ぶん省略しょうりゃく…≫　先さき主しゅ曰　善ぜん　於是與あずか亮あきら情じょう好日こうじつ密みつ　關せき羽はね張ちょう飛ひ等とう不ふ悅えつ　先さき主ぬし解かい之の曰　孤こ之の有ゆう孔明こうめい　猶なお魚さかな之の有水ありみず也　願ねがい諸君しょくん勿復言ごと　羽はね飛ひ乃止 約やく物ものつきの原文げんぶん（抜粋ばっすい）：中国ちゅうごく語ご表記ひょうきの一いち例れい ≪…前後ぜんこう文ぶん省略しょうりゃく…≫　先さき主しゅ曰：「善よし！」於是與あずか亮あきら情じょう好日こうじつ密みつ。關せき羽はね、張ちょう飛ひ等とう不ふ悅えつ，先さき主ぬし解かい之の曰：「孤こ之の有ゆう孔明こうめい，猶なお魚さかな之の有水ありみず也。願ねがい諸君しょくん勿復言ごと。」羽はね、飛ひ乃止。 約やく物ものつきの原文げんぶん（抜粋ばっすい）：日本語にほんご表記ひょうきの一いち例れい ≪…前後ぜんこう文ぶん省略しょうりゃく…≫　先さき主しゅ曰、善ぜん。於是與あずか亮あきら情じょう好日こうじつ密みつ。關せき羽はね張ちょう飛ひ等とう不ふ悅えつ。先さき主ぬし解かい之の曰、孤こ之の有ゆう孔明こうめい、猶なお魚さかな之の有水ありみず也。願ねがい諸君しょくん勿復言ごと。羽はね飛ひ乃止。 書かき下くだし文ぶん（一いち例れい） 先さき主ぬし曰いわく、善よし、と。是ぜに於おいて亮あきらと情じょう好日こうじつに密みつなり。関せき羽はね張ちょう飛ひ等とう悦よろこばず。先さき主ぬしこれを解ときて曰いわく、孤この孔明こうめい有あるは、なお魚さかなの水みず有あるが如ごときなり。願ねがいわくば諸君しょくん復ふくた言げんふ勿れ、と。羽はね飛ひ乃すなわち止やむ。 書かき下くだし文ぶん（一いち例れい） 先さき主ぬし曰いわく、善よし、と。是これ（ここ）に於おいて亮あきらと情じょう好日こうじつに密みつなり。関せき羽はね張ちょう飛ひ等とう悦えつ（よろこ）ばず。先さき主ぬしこれを解ときて曰いわく、孤こ（こ）の孔明こうめい有あるは、なお魚さかな（うお）の水みず有あるが如ごときなり。願ねがいわくば諸君しょくん復ふく（ま）た言いう勿（なか）れ、と。羽はね飛ひ乃（すなわ）ち止とめ（や）む。 口語こうご訳文やくぶん 先さき主あるじ（劉りゅう備）は「善よし」と言いった。こうして先さき主ぬしと亮あきら（諸しょ葛かずら亮あきら、孔明こうめい）の仲なかは日ひごと密みつになっていった。関せき羽はね・張ちょう飛ひ等ひとしはそれを快こころよく思おもわなかった。先さき主ぬしは彼等かれらを説得せっとくし、「私わたしにとって孔明こうめいがいるのは、言いうなればちょうど、魚さかなに水みずがあるようなものである。どうか諸君しょくんには二に度どと言いってくれないよう願ねがう」と言いった。関せき羽わ・張ちょう飛ひはただちに止とめた。 　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　───陳ちん寿ひさし, 『三国志さんごくし』 巻まき35「蜀しょく書しょ 諸しょ葛かずら亮あきら伝でん」

• 漢文かんぶんの解説かいせつ ：「貞さだ観かん地震じしん#歴史れきし書しょにおける記述きじゅつ」

原文げんぶん（抜粋ばっすい） 貞さだ觀かん十じゅう一いち年ねん五ご月がつ　≪…省略しょうりゃく…≫　廿にじゅう六ろく日にち癸みずのと未み　陸奧みちのく國こく地ち大だい震動しんどう　流りゅう光こう如晝隱かくれ映うつ　頃ころ之の　人民じんみん叫さけべ呼よび　伏ふく不能ふのう起おこり　或ある屋や仆壓死し　或ある地ち裂きれ埋うめ殪　馬うま牛うし駭奔　或ある相あい昇のぼり踏　城しろ（郭かく）倉庫そうこ　門もん櫓ろ墻壁　頽くずおれ落顛覆てんぷく　不知ふち其數　海うみ口こう哮たけ吼ほえ　聲こえ似に雷霆らいてい　驚おどろき濤涌潮しお　泝洄漲長ちょう　忽ゆるがせ至いたり城下じょうか　去さ海うみ數すう十じゅう百ひゃく里り　浩ひろし々不辨ふべん其涯諸しょ　原野はらの道路どうろ　惣そう爲ため滄溟そうめい　乘船じょうせん不ふ遑　登山とざん難なん及　溺死できし者しゃ千せん許もと　資産しさん苗なえ稼　殆無孑遺焉 約やく物ものつきの原文げんぶん（抜粋ばっすい）：日本語にほんご表記ひょうき （貞さだ觀かん十じゅう一いち年ねん五ご月がつ）　≪…省略しょうりゃく…≫　廿にじゅう六ろく日にち癸みずのと未ひつじ。陸奧みちのく國こく地ち大だい震動しんどう。流りゅう光こう如晝隱かくれ映うつ。頃ころ之の。人民じんみん叫さけべ呼よび。伏ふく不能ふのう起おこり。或ある屋や仆壓死し。或ある地ち裂きれ埋うめ殪。馬うま牛うし駭奔。或ある相あい昇のぼり踏。城しろ（郭かく）倉庫そうこ。門もん櫓ろ墻壁。頽くずおれ落顛覆てんぷく。不知ふち其數。海うみ口こう哮たけ吼ほえ。聲こえ似に雷霆らいてい。驚おどろき濤涌潮しお。泝洄漲長ちょう。忽ゆるがせ至いたり城下じょうか。去さ海うみ數すう十じゅう百ひゃく里さと。浩ひろし々不辨ふべん其涯諸もろ。原野げんや道路どうろ。惣そう爲ため滄溟そうめい。乘船じょうせん不ふ遑。登山とざん難なん及。溺死できし者しゃ千せん許もと。資産しさん苗なえ稼。殆無孑遺焉。 書かき下くだし文ぶん（一いち例れい） 貞さだ観かん十じゅう一いち年ねん五ご月がつ　≪…省略しょうりゃく…≫　廿にじゅう六ろく日にち（にじゅうろくにち）癸みずのと未ひつじ（きび）、陸奥みちのく国こく（みちのくのくに）、地ち（ち）大おおいに震ふるえ（ふ）り動どう（ふる）へ、流ながれ光こう（りゅうこう）昼ひるの如ごとく陰かげ映うつ（いんえい）す。頃ころ之の（しばらくのあいだ）に、人民じんみん（たみ）叫さけべ呼よび（さけ）び、伏ふして起おこり（た）つこと能のう（あたわ）ず。或ある（ある）いは屋や（いえ）仆（たお）れて壓あつ（お）され死しに、或あるいは地ち裂さけて埋うめ（うづも）れ殪（し）にき。馬うま牛うしは駭（おどろ）き奔（はし）りて、或あるいは相あい昇のぼる（あいのぼ）りて踏ふむ。城郭じょうかく・倉庫そうこ・門もん・櫓ろ（やぐら）・墻壁（しょうへき）頽くずおれ（くずれ）落おち、顛覆てんぷく（くつがえ）ること、其（そ）の数かずを知しらず。海うみ口こう（みなと）哮たけ吼ほえ（ほ）え、声こえ雷霆らいてい（いかづち）に似にたり。驚おどろき濤（さかまくなみ）涌潮（うしおわきあが）り、泝洄（くるめ）き漲みなぎ長なが（みなぎ）りて、忽ゆるがせ（たちま）ち城下じょうかに至いたり、海うみを去さること数すう十じゅう百ひゃく里り、浩ひろし々（こうこう）として其（そ）の涯諸（はて）を辨べん（わきま）えず、原野げんや（はら）も道路どうろ（みち）も惣そう（すべ）て滄溟そうめい（うみ）と為ため（な）り、船ふねに乗のるに遑（いとま）あらず。山やまに登のぼるも及および難なん（がた）くして、溺おぼれ死じにぬる者しゃ千せんばかり。資産しさん（たから）も苗なえ稼（なえ）も殆（ほとほ）と孑（ひとつ）遺のこ（のこるもの）無むかりき。 書かき下くだし文ぶん（一いち例れい） 貞さだ観かん十じゅう一いち年ねん五ご月がつ　≪…省略しょうりゃく…≫　廿にじゅう六ろく日にち（にじゅうろくにち）癸みずのと未ひつじ（きび）、陸奥みちのく国こく（むつのくに）の地ち、大だい震動しんどうす。流ながれ光こう（りゅうこう）昼ひるの如ごとく陰かげ映うつ（いんえい）す。頃ころ之の（このころ）、人民じんみん（たみ）叫さけべ呼よび（きょうこ）し、伏ふして起おこり（た）つこと能のう（あたわ）ず。或ある（ある）は屋や（おく）仆（たお）れて圧死あっしに、或あるいは地ち裂さけ埋うめ殪（うめたお）し、馬うま牛うし駭（おどろ）き奔（はし）り、或あるいは相あい昇のぼる（あいのぼ）り踏ふむ。城郭じょうかく・倉庫そうこ・門もん・櫓ろ（やぐら）・墻壁（しょうへき）、頽くずおれ（くずれ）落おち顛覆てんぷく（てんぷく）す。其（そ）の数かずを知しらず。海うみ口こう（みなと）哮たけ吼ほえ（ほうこう）し、声こえ、雷霆らいてい（らいてい）に似にたり。驚おどろき濤（きょうとう）涌潮（ようちょう）、泝洄（そかい）漲みなぎ長なが（ちょうちょう）し、忽ゆるがせ（たちま）ち城下じょうかに至いたる。海うみを去さること数すう十じゅう百ひゃく里さと。浩ひろし々（こうこう）として其（そ）の涯諸（がいしょ）を弁べんぜず。原野げんや道路どうろ、惣そう（そう）じて滄溟そうめい（そうめい）と為ため（な）る。船ふねに乗のるに遑（いとま）あらず。山やまに登のぼるも及および難なん（がた）し。溺死できしせる者しゃ千せんばかり。資産しさん苗なえ稼（びょうか）、殆（ほとん）ど孑遺（げつい）無なし。 口語こうご訳文やくぶん 貞さだ観かん11年ねん5月26日にち癸みずのと未ひつじの日ひ、陸奥みちのく国こくで大だい地震じしんが起おきた。（空そらを）流ながれる光ひかりが（夜よるを）昼ひるのように照てらし、人々ひとびとは叫さけび声ごえを挙あげて身みを伏ふせ、立たつことができなかった。ある者ものは家屋かおくの下敷したじきとなって圧死あっしし、ある者ものは地割じわれに呑のまれた。驚おどろいた牛うしや馬うまは奔走ほんそうしたり互たがいに踏ふみつけ合あい、城しろや倉庫そうこ・門もん櫓ろ・牆壁しょうへきなどが多数たすう崩くずれ落おちた。雷鳴らいめいのような海鳴うみなりが聞きこえて潮しおが湧わき上あがり、川かわが逆流ぎゃくりゅうし、海嘯つなみが長ながく連つらなって押おし寄よせ、たちまち城下じょうかに達たっした。内陸ないりく部ぶまで果はてても知しれないほど水浸みずびたしとなり、野原のはらも道みちも大だい海原うなばらとなった。船ふねで逃にげたり山やまに避難ひなんしたりすることができずに千せん人にんほどが溺おぼれ死じに、後のちには田畑たはたも人々ひとびとの財産ざいさんも、ほとんど何なにも残のこらなかった。 　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　───『日本にっぽん三さん代だい実録じつろく』（日本にっぽん紀き略りゃく 類聚るいじゅう国史こくし一いち七なな一いち）

関連かんれん項目こうもく

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• en:List of Latin phrases.
• 資料しりょう / 史料しりょう