事業じぎょう譲渡じょうと

事業じぎょう譲渡じょうと（じぎょうじょうと）とは、日本にっぽんにおいて会社かいしゃがその事業じぎょうを譲渡じょうとすることをいう。譲渡じょうとについては、譲渡じょうと会社かいしゃの競きおい業ぎょう禁止きんしや、譲渡じょうと会社かいしゃ又または譲受じょうじゅ会社かいしゃの内部ないぶ手続てつづきに関かんし、会社かいしゃ法ほうが規定きていを置おいている。

旧きゅう商法しょうほうにおいては、商人しょうにん一般いっぱんについてだけでなく会社かいしゃについても「営業えいぎょう譲渡じょうと」という用語ようごを使用しようしていた。しかし、商人しょうにんが個人こじんで営業えいぎょうする場合ばあい、営業えいぎょうごとに複数ふくすうの商号しょうごうを使つかい分わけることができ、営業えいぎょうの譲渡じょうとには商号しょうごうの譲渡じょうとが伴ともなうことがある（商法しょうほう15条じょう1項こう）。一方いっぽう、会社かいしゃについては、商号しょうごうは「○○株式会社かぶしきがいしゃ」といったいわゆる社名しゃめいひとつであり、特定とくていの事業じぎょうを譲渡ゆずりわたしても商号しょうごうの移転いてんは伴ともなわない。そのため、会社かいしゃ法ほうでは商人しょうにん一般いっぱんについての「営業えいぎょう譲渡じょうと」とは区別くべつし、会社かいしゃについては「事業じぎょう譲渡じょうと」という用語ようごを使用しようしている。

会社かいしゃ法ほうは、以下いかで条じょう名めいのみ記載きさいする。

事業じぎょうの意義いぎ

「事業じぎょう」の意義いぎ（事業じぎょう譲渡じょうとの意義いぎ）については、争あらそいがある。

会社かいしゃ法ほう制定せいてい前まえの判例はんれいは、商法しょうほうの「営業えいぎょうの譲渡じょうと」（＝営業えいぎょうそのものの全部ぜんぶまたは重要じゅうような一部いちぶを譲渡じょうとすること）について、「一定いっていの営業えいぎょう目的もくてきのため組織そしき化かされ、有機ゆうき的てき一体いったいとして機能きのうする財産ざいさん（得意とくい先さき関係かんけい等とうの経済けいざい的てき価値かちのある事実じじつ関係かんけいを含ふくむ。）の全部ぜんぶまたは重要じゅうような一部いちぶを譲渡じょうとし、これによって、譲渡じょうと会社かいしゃがその財産ざいさんによって営いとなんでいた営業えいぎょう的てき活動かつどうの全部ぜんぶまたは重要じゅうような一部いちぶを譲受人ゆずりうけにんに受うけ継つがせ、譲渡じょうと会社かいしゃがその譲渡じょうとの限度げんどに応おうじ法律ほうりつ上じょう当然とうぜんに同どう法ほう25条じょう（現在げんざいの商法しょうほう16条じょう）に定さだめる競きおい業ぎょう避止義務ぎむを負おう結果けっかを伴ともなうものをいうもの」と定義ていぎしていた。

会社かいしゃ法ほうの事業じぎょう譲渡じょうとにおいても、この定義ていぎが（必要ひつような修正しゅうせいを受うけた上うえで）なお受うけ継つがれていると解ほぐされている。単たんなる物質ぶっしつ的てきな財産ざいさん（商品しょうひん、工場こうじょうなど）だけではなく、のれんや取引とりひき先さきなどを含ふくむ、ある事業じぎょうに必要ひつような有形ゆうけい的てき・無形むけい的てきな財産ざいさんを一体いったいとした上うえでの譲渡じょうとを指さす。

この見解けんかいは、事業じぎょう活動かつどうの承継しょうけいの有無うむにより株主かぶぬし総会そうかいの特別とくべつ決議けつぎの要よう否ひが明確めいかくにされ、取引とりひきの安全あんぜんは保護ほごされるが、承継しょうけいが無ない場合ばあいは代表だいひょう取締役とりしまりやく等とう代表だいひょう者しゃの裁量さいりょうでおこなわれ、株主かぶぬしの保護ほごには欠かけると批判ひはんされている。

事業じぎょう譲渡じょうと等とう

下記かきに掲かかげる行為こういをいう（468条じょう、467条じょう）。

事業じぎょうの全部ぜんぶの譲渡じょうと
事業じぎょうの重要じゅうような一部いちぶの譲渡じょうと（当該とうがい譲渡じょうとにより譲ゆずり渡わたす資産しさんの帳簿ちょうぼ価額かがくが当該とうがい株式会社かぶしきがいしゃの総そう資産しさん額がくとして法務省ほうむしょう令れいで定さだめる方法ほうほうにより算定さんていされる額がくの五ご分ぶんの一いち（これを下回したまわる割合わりあいを定款ていかんで定さだめた場合ばあいにあっては、その割合わりあい）を超こえないものを除のぞく。）
他たの会社かいしゃ（外国がいこく会社かいしゃその他たの法人ほうじんを含ふくむ。）の事業じぎょうの全部ぜんぶの譲受ゆずりうけ
事業じぎょうの全部ぜんぶの賃貸ちんたい、事業じぎょうの全部ぜんぶの経営けいえいの委任いにん、他人たにんと事業じぎょう上じょうの損益そんえきの全部ぜんぶを共通きょうつうにする契約けいやくその他たこれらに準じゅんずる契約けいやくの締結ていけつ、変更へんこう又または解約かいやく
株式会社かぶしきがいしゃの成立せいりつ後ご二に年ねん以内いないにおけるその成立せいりつ前まえから存在そんざいする財産ざいさんであってその事業じぎょうのために継続けいぞくして使用しようするものの取得しゅとく。

事業じぎょう譲渡じょうと等とうの手続てつづき

取締役とりしまりやく会かい設置せっち会社かいしゃでは、重要じゅうような財産ざいさんの処分しょぶんである（362条じょう4項こう1号ごう）から取締役とりしまりやく会かいで事業じぎょう譲渡じょうとの決議けつぎがなされる。
事業じぎょう譲渡じょうと会社かいしゃにおいて、事業じぎょうの全部ぜんぶの譲渡じょうとや重要じゅうような一部いちぶの譲渡じょうとをするには、株主かぶぬし総会そうかいの特別とくべつ決議けつぎが必要ひつようである（467条じょう1項こう1号ごう・2号ごう、309条じょう2項こう11号ごう）。
事業じぎょう譲受じょうじゅ会社かいしゃにおいて、事業じぎょうの全部ぜんぶの譲受じょうじゅをするには、株主かぶぬし総会そうかいの特別とくべつ決議けつぎが必要ひつようである（467条じょう1項こう3号ごう、309条じょう2項こう11号ごう）。
なお、会社かいしゃの規模きぼに比くらべて小規模しょうきぼな事業じぎょう譲渡じょうとは、株主かぶぬし総会そうかい決議けつぎを省略しょうりゃくできる。
詳細しょうさいは「簡易かんい事業じぎょう譲渡じょうと」を参照さんしょう
- 譲受じょうじゅ会社かいしゃの規模きぼが大おおきい場合ばあい467条じょう1項こう2号ごう括弧かっこ書がき、譲受じょうじゅ会社かいしゃが譲渡じょうと会社かいしゃの特別とくべつ支配しはい会社かいしゃの場合ばあい468条じょう。
株主かぶぬし総会そうかい決議けつぎの後のち、反対はんたい株主かぶぬしは、譲渡じょうとと同時どうじに解散かいさんする場合ばあいを除のぞいて株式かぶしき買取かいとり請求せいきゅう権けんの行使こうしが認みとめられる（469条じょう）。
株式かぶしきの価格かかくの決定けってい等とう（470条じょう）

営業えいぎょう譲渡じょうと

会社かいしゃ以外いがいの商人しょうにんの場合ばあい、会社かいしゃ法ほう上じょうの事業じぎょう譲渡じょうとに当あたるものに商法しょうほう上じょうの営業えいぎょう譲渡じょうとがある。商法しょうほうは営業えいぎょう譲渡じょうとについて次つぎのような規定きていを置おいている。

競きおい業ぎょう禁止きんし義務ぎむ

営業えいぎょうを譲渡じょうとした商人しょうにん（譲渡じょうと人じん）は、当事とうじ者しゃの別段べつだんの意思いし表示ひょうじがない限かぎり、同どう一いち市区しく町村ちょうそん及および隣接りんせつ市区しく町村ちょうそんの区域くいき内ないにおいては、営業えいぎょう譲渡じょうとの日ひから20年間ねんかん、同一どういつの営業えいぎょうを行おこなうことが禁止きんしされる（商法しょうほう16条じょう1項こう）。譲渡じょうと人じんが同一どういつの営業えいぎょうを行おこなわない旨むねの特約とくやくをした場合ばあいには、その特約とくやくの効力こうりょくは営業えいぎょう譲渡じょうとの日ひから30年ねんの期間きかん内ないに制限せいげんされる（商法しょうほう16条じょう2項こう）。また、これらの規定きていにかかわらず、譲渡じょうと人じんは不正ふせい競争きょうそうの目的もくてきをもって同一どういつの営業えいぎょうを行おこなうことが禁きんじられる（商法しょうほう16条じょう3項こう）。

譲受人ゆずりうけにんの責任せきにん

商号しょうごうの続ぞく用ようがある場合ばあい: 営業えいぎょうを譲ゆずり受うけた商人しょうにん（譲受人ゆずりうけにん）が譲渡じょうと人じんの商号しょうごうを続つづけ用ようする場合ばあいには、営業えいぎょう譲渡じょうと後ごに遅滞ちたいなく譲受人ゆずりうけにんが譲渡じょうと人じんの債務さいむを弁済べんさいする責任せきにんを負おわない旨むねを登記とうきし、あるいは営業えいぎょう譲渡じょうと後ごに遅滞ちたいなく譲受人ゆずりうけにん及および譲渡じょうと人じんから第三者だいさんしゃに対たいしてその旨むねの通知つうちをしない限かぎり、その譲受人ゆずりうけにんは譲渡じょうと人じんの営業えいぎょう時じに生しょうじた債務さいむを弁済べんさいする責任せきにんを負おわなければならない（商法しょうほう17条じょう1項こう・2項こう）。; 商号しょうごうの続ぞく用ようがある場合ばあいには、譲渡じょうと人じんの営業えいぎょうによって生しょうじた債権さいけんについて、その営業えいぎょうを譲ゆずり受うけた譲受人ゆずりうけにんに対たいして弁済べんさい者しゃが善意ぜんい・無む重じゅう過失かしつで弁済べんさいした場合ばあいには有効ゆうこうな弁済べんさいとして効力こうりょくを生しょうじる（商法しょうほう17条じょう4項こう）。
商号しょうごうの続ぞく用ようのない場合ばあい: 商号しょうごうの続ぞく用ようのない場合ばあいでも譲渡じょうと人じんの営業えいぎょうによって生しょうじた債務さいむを引ひき受うける旨むねの公告こうこくをしたときは、譲渡じょうと人じんの債権さいけん者しゃは、その譲受人ゆずりうけにんに対たいして弁済べんさいの請求せいきゅうをすることができる（商法しょうほう18条じょう1項こう）。