(Translated by https://www.hiragana.jp/)
塩化ホスホリル - Wikipedia

塩化えんかホスホリル(えんかホスホリル、phosphoryl chloride)はさん塩化えんかリン酸素さんそ原子げんし付加ふかした化合かごうぶつである。オキシ塩化えんかリン (phosphorus oxychloride)、リンさんトリクロリド (phosphoric trichloride) ともばれる。分子ぶんししきは POCl3 である。湿気しっけふくんだ空気くうき加水かすい分解ぶんかいされてリンさん塩化えんか水素すいそけむりしょうじる。さん塩化えんかリンと酸素さんそ、あるいは塩化えんかリンから工業こうぎょうてきだい規模きぼ生産せいさんされており、リンさんトリクレジルのようなリンさんエステルをつくるのにもちいられる。毒物どくぶつおよげきぶつ取締とりしまりほうにより毒物どくぶつ指定していされている[1]

塩化えんかホスホリル
{{{画像alt1}}}
識別しきべつ情報じょうほう
CAS登録とうろく番号ばんごう 10025-87-3 チェック
EC番号ばんごう 233-046-7
国連こくれん/北米ほくべい番号ばんごう 1810
RTECS番号ばんごう TH4897000
特性とくせい
化学かがくしき POCl3
モル質量しつりょう 153.33 g/mol
外観がいかん 無色むしょく液体えきたい
密度みつど 1.645 g/cm3, 液体えきたい
融点ゆうてん

1.25 ℃ (274.4 K)

沸点ふってん

105.8 ℃ (379.0 K)

みずへの溶解ようかい みず反応はんのう
構造こうぞう
分子ぶんしかたち 四面しめん体形たいけい
双極そうきょくモーメント 2.54 D
危険きけんせい
安全あんぜんデータシート(外部がいぶリンク) ICSC 0190
EU分類ぶんるい 猛毒もうどく (T+)
有害ゆうがい (Xn)
腐食ふしょくせい (C)
EU Index 015-009-00-5
NFPA 704
0
3
2
W
Rフレーズ R14, R22, R26, R35, R48/23
Sフレーズ (S1/2), S7/8, S26, S36/37/39, S45
関連かんれんする物質ぶっしつ
関連かんれん物質ぶっしつ 塩化えんかチオホスホリル
においホスホリル
さん塩化えんかリン
塩化えんかリン
特記とっきなき場合ばあい、データは常温じょうおん (25 °C)・つねあつ (100 kPa) におけるものである。

構造こうぞう

編集へんしゅう

リンさんエステルなどの類縁るいえんたい同様どうようよん面体めんてい構造こうぞうをとる。3つの P-Cl 結合けつごうと1つの非常ひじょうつよい P=O 結合けつごうち、P=O 結合けつごう結合けつごう解離かいりエネルギーは 533.5 kJ/mol と見積みつもられている。結合けつごう強度きょうど電気でんき陰性いんせいもとづき、ショーメーカー・スチーブンソンそく (Schomaker-Stevenson rule) は POF3 よりもじゅう結合けつごう寄与きよ非常ひじょうおおきいことをしめしている。この P=O 結合けつごうケトンなどのカルボニルもとにおけるπぱい結合けつごうとはことなる。P-O あいだ相互そうご作用さよう適切てきせつ記述きじゅつほうについてはながらく論争ろんそうつづいている。ふる教科書きょうかしょでは、リン原子げんしじょうd軌道きどう関与かんよもちいた記述きじゅつ、すなわちいくつかのd軌道きどう酸素さんそ原子げんしかってひろがり、酸素さんそp軌道きどうかさなっている、という記述きじゅつがよくられる。よりあたらしい教科書きょうかしょでは、 P-Cl σしぐま* 軌道きどうに O 原子げんし孤立こりつ電子でんしたい供与きょうよされて P-O πぱい 結合けつごうしょうじるという記述きじゅつこのんでもちいられ、d軌道きどうかんしては考慮こうりょされない。   

化学かがくてき性質せいしつ

編集へんしゅう

みずやアルコールと反応はんのうしてリンさんやリンさんエステルをあたえる。

 

アルコールと反応はんのうさせる場合ばあい生成せいせいぶつであるアルキルリンさんエステルは HCl にたいして不安定ふあんていなので、ピリジンアミンなど HCl と反応はんのうしてこれをける試薬しやく共存きょうぞんさせる。塩化えんかホスホリルを塩化えんかマグネシウムなどのルイスさん存在そんざい過剰かじょうフェノール加熱かねつすると、トリアリールリンさんエステルが生成せいせいする。

 

ルイス塩基えんきとしてもはたらき、よん塩化えんかチタンなど、様々さまざまなルイスさん反応はんのうして付加ふかぶつ形成けいせいする。

 

塩化えんかアルミニウムとの付加ふかぶつ非常ひじょう安定あんていなので、フリーデル・クラフツ反応はんのうおこなったのち混合こんごうぶつから完全かんぜん塩化えんかアルミニウムをのぞくことができる。また、塩化えんかアルミニウムの存在そんざいにおい水素すいそ反応はんのうして POBr3あたえる。

合成ごうせいほう

編集へんしゅう

さん塩化えんかリンと酸素さんその20–50 ℃における反応はんのうによってられる。空気くうきもちいると反応はんのう効率こうりつわるい。

 

もう1つは塩化えんかリンと酸化さんかリン反応はんのうによるものである。これらの化合かごうぶつとも固体こたいなので混合こんごうしにくい。そこで、液体えきたいであるさん塩化えんかリンを原料げんりょうけん溶媒ようばいとして使つかう。酸化さんかリンとの混合こんごうぶつ塩素えんそし、塩化えんかリンをけいちゅう発生はっせいさせ、反応はんのうおこなう。さん塩化えんかリンが消費しょうひされると、生成せいせいぶつである塩化えんかホスホリルが溶媒ようばいとなる。

 
 

塩化えんかリンをみず反応はんのうさせても塩化えんかホスホリルが生成せいせいするが、この反応はんのう上記じょうきのものより制御せいぎょするのがむずかしい。

もっと重要じゅうよう用途ようとリンさんトリフェニルやリンさんトリクレジルといったリンさんトリアリールエステルの製造せいぞうである。これらのエステルるいなんもえざいポリ塩化えんかビニル可塑かそざいとして長年ながねんもちいられている。一方いっぽうリンさんトリブチル(TBP)などのアルキルエステルはかく燃料ねんりょうさい処理しょりにおいてえき-えき抽出ちゅうしゅつ溶媒ようばいとして使つかわれる。

実験じっけんしつにおいては脱水だっすい試薬しやくとしてひろもちいられる。れいとしてアミドニトリルへの変換へんかんげられる。ビシュラー・ナピエラルスキー反応はんのう (Bischler-Napieralski reaction) ではアミド前駆ぜんくたいの閉環によってジヒドロイソキノリン誘導体ゆうどうたい合成ごうせいする。

 

上記じょうき反応はんのう塩化えんかイミドイル中間なかまたい経由けいゆするとかんがえられている。十分じゅうぶん安定あんてい場合ばあいは、塩化えんかイミドイルが最終さいしゅう生成せいせいぶつとなる。たとえば、ピリドンピリミドンはピリジンやピリミジン塩化えんかぶつ誘導体ゆうどうたいへと変換へんかんでき、これらは製薬せいやく工業こうぎょうにおける重要じゅうようなかあいだたいである。同様どうようにして、バルビツールさん塩化えんかホスホリルと140 ℃で反応はんのうさせることにより、2,4,6-トリクロロピリミジンに変換へんかんされる。

 

また、これと関連かんれんする反応はんのうとして、塩化えんかホスホリルをもちいて活性かっせいされた芳香ほうこうたまきをアシルし、芳香ほうこうぞくアルデヒド芳香ほうこうぞくケトンを反応はんのうビルスマイヤー・ハック反応はんのう)がある。この反応はんのうには DMFN-フェニル-N-メチルホルムアミドといったホルムアミド誘導体ゆうどうたいもっともよく使つかわれる。これらはイミニウムしお生成せいせいしたあと、簡単かんたん加水かすい分解ぶんかいされてアルデヒドをあたえる。たとえばアントラセンとの反応はんのうでは 9-アントラアルデヒドをあたえる。

 
ビルスマイヤー・ハック反応はんのう

脚注きゃくちゅう

編集へんしゅう

参考さんこう文献ぶんけん

編集へんしゅう
  1. Earnshaw, A.; Greenwood, N. Chemistry of the Elements; Butterworth-Heinemann: Oxford, 1997; 2nd ed. ISBN 0-7506-3365-4
  2. Handbook of Chemistry and Physics; CRC Press: Ann Arbor, Michigan, 1990; 71st ed.
  3. March, J. Advanced Organic Chemistry; Wiley: New York, 1992; 4th ed., p. 723. ISBN 0-471-58148-8
  4. The Merck Index; Merck & Co: Rahway, New Jersey, 1960; 7th ed.
  5. Toy, A. D. F. The Chemistry of Phosphorus; Pergamon Press: Oxford, UK, 1973.
  6. Wade, L. G., Jr. Organic Chemistry; Prentice Hall: Upper Saddle River, New Jersey, 2005; 6th ed., p. 477. ISBN 0-13-169957-1
  7. Walker, B. J. Organophosphorus Chemistry; Penguin: Harmondsworth, UK, 1972; pp. 101-116.
  8. Elderfield, R. C. Heterocyclic Compounds; Wiley: New York, 1957; Vol. 6, pp. 265-266. トリクロロピリミジンの合成ごうせいについては: Gabriel, S.; Colman J. "Zur Darstellung des 2.4.6-Trichlor-pyrimidins." Chem. Ber. 1904, 37, 3657-3658.
  9. 9-Anthraldehyde; 2-Ethoxy-1-naphthaldehyde. Organic Syntheses, Coll. Vol. 3, p. 98 (1955); Vol. 20, p. 11 (1940). アントラセンのホルミル英語えいご