壺つぼ坂ざか霊験れいけん記き

『壺つぼ坂ざか霊験れいけん記き』（つぼさかれいげんき）は、明治めいじ時代じだいに作つくられた浄瑠璃じょうるりの演目えんもく。盲人もうじんとその妻つまの夫婦ふうふ愛あいを描えがいた世話物せわもの、一段いちだん。歌舞伎かぶきや講談こうだん、浪曲ろうきょくの演目えんもくにもなり、人気にんきを集あつめた。『壺つぼ坂ざか観音かんのん霊験れいけん記き』『壺つぼ坂ざか』とも言いう（「阪ばん」を使つかう場合ばあいも)。

概要がいよう

1875年ねんごろに書かかれた原作げんさく者しゃ未み詳しょうの浄瑠璃じょうるり『観音かんのん霊場れいじょう記き』に2世せい豊沢とよさわ団だん平たいら・加古かこ千賀せんが夫妻ふさいが加筆かひつ・作曲さっきょくし、1879年ねんに大阪おおさか大江橋おおえばし席せきにて初演しょえんされた（大江橋おおえばし席せき初演しょえんは1883年ねんとする説せつも）。主人公しゅじんこうは座頭ざがしらの三味線しゃみせん弾びきである沢さわ市しとその妻つま・お里さと。お互たがいを思おもいやるがゆえに生しょうじた悲劇ひげきを、壺阪つぼさか寺てらの本尊ほんぞんである十じゅう一いち面めん観音かんのんが救済きゅうさいする話はなしである。「三みっつ違ちがいの兄にいさんと～」の下くだりが巷ちまたで流行はやるほど人気にんきを博はくし、歌舞伎かぶき、講談こうだんでも演えんじられ、1921年ねんには東家あずまや三さん笑わらいが歌うたったのを皮切かわきりに浪曲ろうきょくにも取とり入いれられ、浪花なにわ亭ちん綾あや太郎たろうによる「妻つまは夫おっとをいたわりつ、夫おっとは妻つまに慕したいつつ～」の名めい調子ちょうしで一躍いちやく有名ゆうめいになった。

壺阪つぼさか寺てらには、もうひとつの壺つぼ坂ざか霊験れいけん記きとして、親孝行おやこうこうの姫ひめが大蛇おろちとともに昇天しょうてんする「さよ姫ひめ伝説でんせつ」も伝承でんしょうされている。こちらは、唐津からつに伝つたわる「松浦まつうら佐たすく用よう姫ひめ伝説でんせつ」や説教せっきょう節ぶしの「松浦まつうら長者ちょうじゃ」と同おなじあらすじ。

あらすじ

盲目もうもくの沢さわ市しは、妻つまのお里さとが明あけ方がたになると出掛でかけていくのに気付きづき、男おとこができたのではと疑うたがい妻つまを問とい詰つめる。お里さとはこの三さん年間ねんかん、沢さわ市しの目めが治なおるようにと壷阪寺つぼさかでらの観音かんのん様さまに願掛がんかけに行いっていたと打うち明あける。邪推じゃすいを恥はじた沢さわ市しは、お里さととともに観音かんのん詣まいりを始はじめるが、目めの見みえない自分じぶんがいては将来しょうらいお里さとの足手あしてまといになると考かんがえ、満願まんがんの日ひにお里さとに隠かくれて滝たき壺つぼに身みを投なげる。夫おっとの死しを知しり悲かなしんだお里さとも、夫おっとのあとを追おって身みを投なげてしまう。二人ふたりの夫婦ふうふ愛あいをき届きとどけた観音かんのんの霊験れいけんにより奇跡きせきが起おこり、二人ふたりは助たすかり、沢さわ市しの目めも再ふたたび見みえるようになる。

備考びこう

• 沢さわ市しが盲目もうもくになったのは実じつは白内障はくないしょうであり、滝たきに飛とび込こんだ衝撃しょうげきで治なおったのであろう、とする説せつがある。
• 文楽ぶんらく義太夫ぎだゆう節ぶし三味線しゃみせん方ほうである2世せい豊澤とよさわ團だん平たいら・加古かこ千賀せんが夫妻ふさいによる「壺つぼ坂ざか霊験れいけん記き」制作せいさく秘話ひわをモデルに、溝口みぞぐち健二けんじ監督かんとく映画えいが『浪花なにわ女おんな』が製作せいさくされた。
• 壺阪つぼさか寺てらの本堂ほんどう横手よこてには、お里さとと沢さわ市しが身みを投なげたとされる谷たにがある。

参考さんこう文献ぶんけん

• [1]『壺阪つぼさか寺てら』（竹たけ二に筆記ひっき）、 森もり鴎外おうがいによる「壺つぼ坂ざか霊験れいけん記き」評ひょう、鴎外おうがい全集ぜんしゅう　第だい3巻かん、 p.293

外部がいぶリンク

• 壷つぼ坂ざか霊験れいけん記きプロマイド - 文化ぶんかデジタルライブラリー