屎尿しにょう

屎尿しにょう（しにょう）とは、人間にんげんの大だい小便しょうべんを合あわせた呼よび方かたで、主おもに工学こうがく、行政ぎょうせい、法律ほうりつ分野ぶんやで使つかわれる。「屎」が常用漢字じょうようかんじに含ふくまれていないため、し尿にょうと表記ひょうきすることが多おおい。

現代げんだいでは無む価値かちな廃棄はいき物ぶつとして、また不衛生ふえいせいで汚きたないもののイメージが定着ていちゃくしているが、近世きんせい以前いぜんでは、肥料ひりょう（有機ゆうき質しつ肥料ひりょう）として、長屋ながやなどで汲くみとられ有価ゆうかで取引とりひきされる金肥かねごえ（きんぴ）という商品しょうひんであった。こういった肥料ひりょうとしての使つかわれ方かたは、古代こだいギリシャのアテネでは一般いっぱん的てきに行おこなわれていた。

概要がいよう

屎（し）は食たべた米べいが排泄はいせつされたものとして大便だいべんを、尿にょう（にょう）は飲のんだ水みずが排泄はいせつされたものとして小便しょうべんを示しめす文字もじで、殷いん代だいの甲骨文字こうこつもじに起源きげんし、『古事記こじき』や『万葉集まんようしゅう』にも登場とうじょうしていて、人間にんげんの排泄はいせつ物ぶつと家畜かちくなどのそれとを屎と糞くその字じで区別くべつする傾向けいこうも見みられる（あえて人糞じんぷんと表記ひょうきするなど）。

現代げんだい日本にっぽんでは屎の文字もじを単独たんどくで使用しようすることはなく、主おもに「大便だいべん」が使つかわれる（この文章ぶんしょう中ちゅうでもそのようにしている）。

英語えいご

外国がいこくのトイレの事情じじょうから土どを被こうむっていることが多おおく、そこから night soil という呼よび名なになったという説せつや、Gong farmer（別名べつめい：nightmen）という糞尿ふんにょう回収かいしゅう作業さぎょう者しゃが収集しゅうしゅうするのが夜よるであったことから付つけられたという説せつがある。近代きんだいでは、 night soil という呼よび名なはせず fecal sludge という呼よび名なが一般いっぱん的てきである。

利用りよう法ほう

屎尿しにょうは東ひがしアジア（中国ちゅうごく東部とうぶ、朝鮮半島ちょうせんはんとう、日本にっぽん）で肥料ひりょう（下肥しもごえ）として農地のうち還元かんげんされる文化ぶんかがあり、日本にっぽんでは江戸えど時代じだい後期こうきに都市とし部ぶと農村のうそんの間あいだに流通りゅうつう経路けいろが確立かくりつしたという。江戸えどの場合ばあい、堆肥たいひの元もととなる里山さとやまが多おおかった西側にしがわ（多摩たま）では需要じゅようが薄うすく、逆ぎゃくに低湿ていしつ地ちが多おおく舟運しゅううんに適てきした東側ひがしがわ（葛西かさい）で利用りようが進すすんだという。肥料ひりょうとしての屎尿しにょうは肥料ひりょうの三さん要素ようそにおけるN（窒素ちっそ）が過剰かじょうであるため葉は物ぶつ野菜やさいの栽培さいばいに適てきし、現在げんざいの東京とうきょう特産とくさんである小松菜こまつなの栽培さいばいにも多用たようされたと考かんがえられる。化学かがく肥料ひりょうが安価あんかで大量たいりょうに生産せいさんされ始はじめた1950年代ねんだいまで、屎尿しにょうは主要しゅような肥料ひりょうであった。当時とうじは、新聞しんぶんの廃品はいひん回収かいしゅうの様ように有料ゆうりょうで農家のうかが買かい取とっていた。 下記かきの輸送ゆそうに詳細しょうさいするが、旧きゅう武蔵野むさしの鉄道てつどう(現在げんざいの西武鉄道せいぶてつどう)には、東ひがし長崎ながさき駅えきと江古田えごた駅えきの中間ちゅうかんに長江ちょうこう駅えきと云いう貨物かもつ駅えき(西武百貨店せいぶひゃっかてんの配送所はいそうしょ)が在あり、都内とないで集あつめられた屎尿しにょうを貨車かしゃ積つみして、多摩たま地区ちくや狭山さやま地区ちくの農家のうかへ届とどける為ために輸送ゆそうをしていて､黄金おうごん列車れっしゃと呼よばれていた｡(西武鉄道せいぶてつどう特集とくしゅう号ごうの鉄道てつどう雑誌ざっし各かく書しょ｢鉄道てつどうピクトリアル､鉄道てつどうジャーナル､鉄道てつどうファン､レイルマガジン｣｡) 衛生えいせい面めんから見みると、大便だいべん中ちゅうには寄生虫きせいちゅう卵たまごや大腸菌だいちょうきんなど病原びょうげん体たいが含ふくまれ、リスクがある。一方いっぽう、尿にょうは腎臓じんぞうで濾過ろかされるため排泄はいせつ時じは無菌むきんであり、それらのリスクは低ひくく、しかも尿素にょうそ（窒素ちっそ）とリンを多おおく含ふくんでおり使つかいやすい。いずれにしろ、こうした屎尿しにょうの処理しょりシステムの存在そんざいは、十分じゅうぶんな屎尿しにょう処理しょりができず度々どどペストなどの疫病えきびょうが蔓延まんえんした同どう時代じだいのヨーロッパの都市としに対たいし、江戸えどが大おおきな疫病えきびょうもなく長期ちょうきにわたり繁栄はんえいした理由りゆうの一ひとつであった。

回収かいしゅう・輸送ゆそう

江戸えどの下肥しもごえは屎尿しにょうを混合こんごうしていたが、京きょうと大坂おおさかでは両者りょうしゃを分わけ、売却ばいきゃくも別べつだったという。現在げんざい、発展はってん途上とじょう国こく向むけに主おもに公衆こうしゅう衛生えいせい改善かいぜん策さくとして伝染でんせん病びょうリスクの少すくない便所べんじょを広ひろめる運動うんどうがあり、そこでも大便だいべんは分割ぶんかつ貯留ちょりゅうし、尿にょうを作物さくもつに施肥せひする方策ほうさくを採とっている。

• 下肥しもごえの水増みずまし

舟ふねで運はこばれたことも相あいまってか、屎尿しにょうを水みずで薄うすめ嵩かさ増ぞうしする行為こういが横行おうこうしていたという。農家のうかは貴重きちょうな下肥しもごえの品質ひんしつを確認かくにんするため、時ときには舐なめて味あじを見みたといい、これは屎尿しにょう中ちゅうの塩分えんぶんが川かわ水すいで薄うすめられていないか調しらべたものと推測すいそくされる。現在げんざいのし尿にょう処理しょり施設しせつでも塩化えんか物ぶつイオン濃度のうどを測定そくていして、処理しょり負荷ふかなどをコントロールする目安めやすとしている。

• 汚水おすい・排水はいすい
• 汚物おぶつ車しゃ・バキュームカー
• 鉄道てつどうによる糞尿ふんにょう輸送ゆそう

第だい二に次じ世界せかい大戦たいせん以前いぜんも鉄道てつどうによる糞尿ふんにょう輸送ゆそうは各地かくちで小規模しょうきぼながら実施じっしされていたが、1944年ねん、戦争せんそうが激化げきかすると東京とうきょう都下とかの豊島としま区く、淀橋よどばし区く、中野なかの区く、杉並すぎなみ区くでは屎尿しにょうの汲くみ取とりの遅おくれ、輸送ゆそう難なんが深刻しんこくな問題もんだいとなり、東京とうきょうの西部せいぶの農村のうそん地帯ちたいへ向むけて鉄道てつどうによる輸送ゆそうが大だい規模きぼに行おこなわれることとなった。

廃棄はいき物ぶつ

日本にっぽんで屎尿しにょうを廃棄はいき物ぶつとして規定きていしたのは、1900年ねん（明治めいじ33年ねん）に公布こうふされた汚物おぶつ掃除そうじ法ほうからである。ただしこれは、公衆こうしゅう衛生えいせいが目的もくてきであり、有価ゆうか物ぶつとしての売却ばいきゃくは続つづいていた。

しかし、大正たいしょう期きに入はいると経済けいざい成長せいちょうが労賃ろうちん高騰こうとうを招まねき、農村のうそん還元かんげん（都市とし部ぶで発生はっせいした屎尿しにょうを農地のうちへ運搬うんぱん・施肥せひする）が経済けいざい的てきに引ひき合あわなくなって行いく。さらに即効そっこう性せいが高たかく施肥せひも効率こうりつ的てきな硫安りゅうあん（化学かがく肥料ひりょう）が食糧しょくりょう増産ぞうさんへの国策こくさくとして奨励しょうれいされた事こともあり、ついにサイクルは崩くずれ、大正たいしょう期き半なかば以降いこうは収集しゅうしゅう料りょうを住民じゅうみんが負担ふたんし、屎尿しにょう収集しゅうしゅうとその処理しょりを地方ちほう行政ぎょうせいが担になう現代げんだいの姿すがたとなった。

現在げんざいでは廃棄はいき物ぶつ処理しょり法ほうにおける一般いっぱん廃棄はいき物ぶつに該当がいとうし、汚泥おでい、ふん尿にょうの区分くぶんに該当がいとうする。

• し尿にょう処理しょり施設しせつ、海洋かいよう投入とうにゅう

関連かんれん項目こうもく

• 排泄はいせつ・排泄はいせつ物ぶつ（汚物おぶつ）
• 便所べんじょ
  • 汲くみ取とり式しき便所べんじょ
  • 水洗すいせん便所べんじょ
  • 浄化槽じょうかそう
  • バイオトイレ
• リサイクル
• 肥溜こえだめ