液 えき 胞 (えきほう、英 えい : vacuole )は、生物 せいぶつ の細胞 さいぼう 中 なか にある構造 こうぞう のひとつである。
植物 しょくぶつ 細胞 さいぼう の模 も 式 しき 図 ず 。液 えき 胞 (vacuole) と液 えき 胞膜 (tonoplast) にラベルを付与 ふよ した。
ムラサキオモト (Rhoeo spathacea )の表皮 ひょうひ 組織 そしき 。紫色 むらさきいろ の液 えき 胞が細胞 さいぼう の大 だい 部分 ぶぶん を占 し める。この色 いろ はアントシアニン などによる。
電子 でんし 顕微鏡 けんびきょう で観察 かんさつ したときのみ、動物 どうぶつ 細胞 さいぼう 内 ない にもみられる。主 おも な役割 やくわり として、ブドウ糖 ぶどうとう のような代謝 たいしゃ 産物 さんぶつ の貯蔵 ちょぞう 、無機 むき 塩類 えんるい のようなイオンを用 もち いた浸透 しんとう 圧 あつ の調節 ちょうせつ ・リゾチーム を初 はじ めとした分解 ぶんかい 酵素 こうそ による不用 ふよう 物 ぶつ の細胞 さいぼう 内 ない 消化 しょうか 、不用 ふよう 物 ぶつ の貯蔵 ちょぞう がある。ちなみに、不用 ふよう 物 ぶつ の貯蔵 ちょぞう についてであるが、秋 あき 頃 ごろ の紅葉 こうよう が赤 あか や黄色 おうしょく をしているのは、液 えき 胞内に色素 しきそ が不用 ふよう 物 ぶつ として詰 つ め込 こ まれているからである。
液 えき 胞は、細胞 さいぼう 内 ない にある液 えき 胞膜と呼 よ ばれる膜 まく につつまれた構造 こうぞう であり、その内容 ないよう 物 ぶつ を細胞 さいぼう 液 えき と呼 よ ぶ。若 わか い細胞 さいぼう では小 ちい さいが、細胞 さいぼう の成長 せいちょう につれて次第 しだい に大 おお きくなる。これは、成長 せいちょう する過程 かてい で排出 はいしゅつ された老廃 ろうはい 物 ぶつ をため込 こ むためである。良 よ く育 そだ った細胞 さいぼう では、多 おお くの場合 ばあい 、細胞 さいぼう の中央 ちゅうおう の大 おお きな部分 ぶぶん を液 えき 胞が占 し める。植物 しょくぶつ 細胞 さいぼう を見 み ると、往々 おうおう にして葉 は 緑 みどり 体 たい が細胞 さいぼう の表面 ひょうめん に張 は り付 つ いたように並 なら んでいるのは、内部 ないぶ を液 えき 胞が占 し めているためでもある。蜜柑 みかん などの酸味 さんみ や花 はな の色 いろ は、この液 えき 胞中にある色素 しきそ (アントシアンなど)に由来 ゆらい している。
液 えき 胞の機能 きのう と重要 じゅうよう 性 せい はそれらが存在 そんざい する細胞 さいぼう 種 しゅ によって大 おお きく変 か わり、動物 どうぶつ や細菌 さいきん の細胞 さいぼう よりも、植物 しょくぶつ や菌類 きんるい 、ある種 しゅ の原生 げんせい 生物 せいぶつ の細胞 さいぼう において顕著 けんちょ である。一般 いっぱん 的 てき に、液 えき 胞の機能 きのう には次 つぎ のようなものが含 ふく まれる。
細胞 さいぼう に有害 ゆうがい または脅威 きょうい となる物質 ぶっしつ の隔離 かくり
不要 ふよう 物 ぶつ の保管 ほかん
植物 しょくぶつ 細胞 さいぼう において水分 すいぶん の保持 ほじ
内部 ないぶ の静水 せいすい 圧 あつ または細胞 さいぼう の膨圧 の維持 いじ
内部 ないぶ のpH を酸性 さんせい に維持 いじ
低 てい 分子 ぶんし の保管 ほかん
不要 ふよう 物 ぶつ の細胞 さいぼう からの排出 はいしゅつ
植物 しょくぶつ において、葉 は や花 はな のような構造 こうぞう の中央 ちゅうおう 液 えき 胞 (central vacuole) による支持 しじ
細胞 さいぼう のサイズを大 おお きくし、出芽 しゅつが する植物 しょくぶつ や器官 きかん (葉 は など) が水 みず だけを用 もち いた迅速 じんそく な成長 せいちょう を可能 かのう にする[ 1]
種子 しゅし 中 ちゅう において、出芽 しゅつが に必要 ひつよう なタンパク質 たんぱくしつ は プロテインボディ (protein body) という特殊 とくしゅ な液 えき 胞に保管 ほかん されている[ 2]
液 えき 胞はオートファジー においても主要 しゅよう な役割 やくわり を果 は たし、多 おお くの物質 ぶっしつ や細胞 さいぼう 内 ない 構造 こうぞう 体 たい の生 なま 合成 ごうせい と分解 ぶんかい の平衡 へいこう を維持 いじ している。また、細胞 さいぼう 内 ない に蓄積 ちくせき し始 はじ めた、誤 あやま って折 お り畳 たた まれたタンパク質 たんぱくしつ の分解 ぶんかい とリサイクルを手助 てだす けしている。Thomas Boller[ 3] らは、液 えき 胞は侵入 しんにゅう した細菌 さいきん の破壊 はかい に参加 さんか していると提唱 ていしょう しており、Robert B. Mellorは、組織 そしき 特異 とくい 的 てき な形態 けいたい の液 えき 胞が共生 きょうせい 細菌 さいきん の「収容 しゅうよう 」に関与 かんよ していると提唱 ていしょう している。原生 げんせい 生物 せいぶつ では、液 えき 胞は、生物 せいぶつ が吸収 きゅうしゅう した食物 しょくもつ を保管 ほかん し、消化 しょうか と不要 ふよう 物 ぶつ 管理 かんり のプロセスを補助 ほじょ するという、別 べつ の機能 きのう も持 も っている (プラスモジウム属 ぞく Plasmodium の食 しょく 胞 え など )[ 4] 。
液 えき 胞はおそらく緑色 みどりいろ 植物 しょくぶつ 亜 あ 界 かい の中 なか で複 ふく 数 すう 回 かい 独立 どくりつ して進化 しんか したと考 かんが えられる[ 5] 。
原 はら 形質 けいしつ 分離 ぶんり を起 お こしたムラサキオモトの細胞 さいぼう 。
ほとんどの成熟 せいじゅく した植物 しょくぶつ 細胞 さいぼう は1つの大 おお きな液 えき 胞を持 も っている。液 えき 胞は典型 てんけい 的 てき には細胞 さいぼう の体積 たいせき の30%以上 いじょう を占 し めるが、細胞 さいぼう 種 しゅ や条件 じょうけん によっては80%にまで達 たっ することもある[ 13] 。しばしば、細胞 さいぼう 質 しつ 糸 いと (cytoplasmic strand) が液 えき 胞を通過 つうか している (フラグモソーム (英語 えいご 版 ばん ) を参照 さんしょう )。
液 えき 胞は液 えき 胞膜 (tonoplast, vacuolar membrane) と呼 よ ばれる膜 まく に囲 かこ まれ、細胞 さいぼう 液 えき (cell sap) で満 み たされている。液 えき 胞膜は液 えき 胞の内容 ないよう 物 ぶつ を細胞 さいぼう 質 しつ から分離 ぶんり するほか、細胞 さいぼう 周辺 しゅうへん のイオンの移動 いどう の調節 ちょうせつ や、細胞 さいぼう に有害 ゆうがい または脅威 きょうい となる物質 ぶっしつ の隔離 かくり を行 おこな っている[ 14] 。
細胞 さいぼう 質 しつ から液 えき 胞へのプロトン の輸送 ゆそう によって細胞 さいぼう 質 しつ のpH が安定 あんてい する一方 いっぽう で、液 えき 胞の内側 うちがわ はより酸性 さんせい となり、物質 ぶっしつ を液 えき 胞の内外 ないがい へ輸送 ゆそう するためのプロトン駆動 くどう 力 りょく が作 つく り出 だ されている[ 15] 。また、液 えき 胞の低 ひく いpHは消化 しょうか 酵素 こうそ の作用 さよう を可能 かのう にしている。液 えき 胞は大 おお きなものが1つだけ存在 そんざい する (中央 ちゅうおう 液 えき 胞) のが一般 いっぱん 的 てき であるが、数 かず やサイズは組織 そしき や発生 はっせい の段階 だんかい によって変化 へんか する。例 たと えば、メリステム で成長 せいちょう している細胞 さいぼう は小 ちい さなprovacuoleを持 も っており、維管束 たば 形成 けいせい 層 そう の細胞 さいぼう は冬季 とうき には小 ちい さな液 えき 胞を多 おお く持 も ち、夏季 かき には大 おお きな液 えき 胞を1つ持 も つ[ 16] 。
中央 ちゅうおう 液 えき 胞の貯蔵 ちょぞう 以外 いがい の主要 しゅよう な役割 やくわり は、細胞 さいぼう 壁 かべ に対 たい する膨圧 の維持 いじ である。液 えき 胞膜に存在 そんざい するタンパク質 たんぱくしつ によって、水分 すいぶん 子 こ やカリウムイオン の出入 でい りは調節 ちょうせつ されている。浸透 しんとう によって水 みず は液 えき 胞内へ拡散 かくさん しようとするため、細胞 さいぼう 壁 かべ へ圧力 あつりょく がかかる。水分 すいぶん が失 うしな われると膨圧は大 おお きく低下 ていか し、細胞 さいぼう は原 はら 形質 けいしつ 分離 ぶんり を起 お こす。液 えき 胞による膨圧は細胞 さいぼう の伸長 しんちょう にも必要 ひつよう とされる。細胞 さいぼう 壁 かべ はエクスパンシン (英語 えいご 版 ばん ) の作用 さよう によって部分 ぶぶん 的 てき に分解 ぶんかい されており、比較的 ひかくてき 強固 きょうこ でない部分 ぶぶん が液 えき 胞からの圧 あつ 力 りょく によって拡張 かくちょう される[ 17] 。液 えき 胞による膨圧は、植物 しょくぶつ が直立 ちょくりつ した状態 じょうたい を保 たも つのにも必須 ひっす である。中心 ちゅうしん 液 えき 胞の別 べつ の役割 やくわり は、細胞 さいぼう 質 しつ のすべての内容 ないよう 物 ぶつ を細胞 さいぼう 膜 まく のほうへ押 お しやることであり、これによって葉 は 緑 みどり 体 たい は細胞 さいぼう の表面 ひょうめん に張 は り付 つ いて光 ひかり に近 ちか づく[ 18] 。
多 おお くの植物 しょくぶつ は、細胞 さいぼう 質 しつ の物質 ぶっしつ と反応 はんのう する物質 ぶっしつ を液 えき 胞に貯蔵 ちょぞう している。草食 そうしょく 動物 どうぶつ などによって細胞 さいぼう が破壊 はかい されると、2つの物質 ぶっしつ が反応 はんのう して有毒 ゆうどく な物質 ぶっしつ が形成 けいせい される。ニンニク の場合 ばあい 、アリイン と酵素 こうそ アリナーゼ は通常 つうじょう 隔離 かくり されているが、液 えき 胞が破壊 はかい されると酵素 こうそ 反応 はんのう によってアリシン が形成 けいせい される。タマネギ を切 き ったときの、syn-プロパンチアール-S-オキシド の生成 せいせい も同様 どうよう の反 はん 応 おう である[ 19] 。
菌類 きんるい の細胞 さいぼう の液 えき 胞も植物 しょくぶつ と同様 どうよう の機能 きのう を果 は たすが、1つの細胞 さいぼう に複数 ふくすう の液 えき 胞が存在 そんざい することもある。酵母 こうぼ の細胞 さいぼう の液 えき 胞は、形態 けいたい が迅速 じんそく に変化 へんか する動的 どうてき な構造 こうぞう である。液 えき 胞は、細胞 さいぼう のpHやイオン濃度 のうど の恒常 こうじょう 性 せい の維持 いじ や、浸透 しんとう 圧 あつ 調節 ちょうせつ 、アミノ酸 あみのさん とポリリン酸 さん の貯蔵 ちょぞう 、消化 しょうか などの多 おお くの過程 かてい に関与 かんよ している。有毒 ゆうどく なイオン (ストロンチウム イオン (Sr2+ )、コバルト (II)イオン (Co2+ )、鉛 なまり (II)イオン (Pb2+ ) など) は液 えき 胞に輸送 ゆそう され、細胞 さいぼう の残 のこ りの部分 ぶぶん から隔離 かくり される[ 20] 。
動物 どうぶつ 細胞 さいぼう では、液 えき 胞はほとんど副次的 ふくじてき な機能 きのう を果 は たしており、エキソサイトーシス やエンドサイトーシス の過程 かてい を補助 ほじょ している。動物 どうぶつ 細胞 さいぼう の液 えき 胞は植物 しょくぶつ のものよりも小 ちい さく、通常 つうじょう は多数 たすう が存在 そんざい するが[ 5] 、液 えき 胞が存在 そんざい しない細胞 さいぼう もある[ 21] 。
エキソサイトーシスは、細胞 さいぼう からタンパク質 たんぱくしつ や脂質 ししつ を放出 ほうしゅつ する過程 かてい である。これらの物質 ぶっしつ は、ゴルジ体 たい で分泌 ぶんぴつ 小 しょう 胞 に取 と り込 こ まれ、細胞 さいぼう 膜 まく へ輸送 ゆそう されて細胞 さいぼう 外 がい 環境 かんきょう へ分泌 ぶんぴつ される。液 えき 胞は、選 えら ばれたタンパク質 たんぱくしつ や脂質 ししつ を保持 ほじ し、輸送 ゆそう し、細胞 さいぼう 外 がい 環境 かんきょう へ排出 はいしゅつ するための貯蔵 ちょぞう 小 しょう 胞である。
エンドサイトーシスはエキソサイトーシスの反対 はんたい の過程 かてい であり、さまざまな形 かたち で起 お こる。食 しょく 作用 さよう (ファゴサイトーシス) は、細菌 さいきん や死 し んだ組織 そしき など、顕微鏡 けんびきょう 下 か で観察 かんさつ 可能 かのう な物質 ぶっしつ の欠片 かけら が細胞 さいぼう に取 と り込 こ まれる過程 かてい である。これらの物質 ぶっしつ が細胞 さいぼう 膜 まく と接触 せっしょく すると、細胞 さいぼう 内 ない への陥 おちい 入 いれ が引 ひ き起 お こされる。陥 おちい 入部 にゅうぶ はくびれ切 き れて、物質 ぶっしつ を内包 ないほう する、膜 まく で閉 と じた小 しょう 胞となり、細胞 さいぼう 膜 まく は再 ふたた び完全 かんぜん な状態 じょうたい となる。飲 いん 作用 さよう (ピノサイトーシス) も本質 ほんしつ 的 てき には同様 どうよう の過程 かてい で、違 ちが いは取 と り込 こ まれる物質 ぶっしつ が液体 えきたい などの顕微鏡 けんびきょう 下 か で観察 かんさつ できないものであることである[ 22] 。食 しょく 作用 さよう と飲 いん 作用 さよう はどちらもリソソーム と関連 かんれん して行 おこな われる過程 かてい であり、取 と り込 こ まれた物質 ぶっしつ の完全 かんぜん な分解 ぶんかい はリソソームで行 おこな われる[ 23] 。
サルモネラ はいくつかの種 たね の哺乳類 ほにゅうるい の液 えき 胞に取 と り込 こ まれた後 のち 、そこで生存 せいぞん して増殖 ぞうしょく することができる[ 24] 。
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