環境かんきょう法ほう

環境かんきょう法ほう（かんきょうほう、英語えいご: environmental law）とは、環境かんきょう（生活せいかつ環境かんきょう・自然しぜん環境かんきょう）の保護ほごに関連かんれんする法ほう、ないしそれを扱あつかう法学ほうがく上うえの分野ぶんや。

体系たいけい

環境かんきょう法ほうの扱あつかう法令ほうれいないし条約じょうやくについては、様々さまざまな分類ぶんるいがなされる。規制きせいの対象たいしょうに着目ちゃくもくすれば、公害こうがい法ほうと自然しぜん保護ほご法ほうに大別たいべつされるとされる。各かく環境かんきょう法ほうは整合せいごう性せいを保たもつため規制きせい基準きじゅん等とうは同一どういつ性せいが高たかい。また、環境かんきょう問題もんだいに対たいする国際こくさい的てきな取組とりくみを目指めざす条約じょうやくなどを扱あつかうものは、国際こくさい環境かんきょう法ほうと呼よばれる。さらに、環境かんきょう問題もんだい（環境かんきょう犯罪はんざい）に対たいして刑罰けいばつ権けんを発動はつどうする場合ばあいを扱あつかう環境かんきょう刑法けいほうという分野ぶんやや、企業きぎょうが主しゅたる環境かんきょう汚染おせんの主体しゅたいとなっている事実じじつから、環境かんきょう問題もんだいに企業きぎょう法ほうから検討けんとうを加くわえる企業きぎょう環境かんきょう法ほうという分野ぶんやも生うまれている。なお、現実げんじつの係争けいそう案件あんけんについては既存きそんの刑法けいほうや、民法みんぽうの不法ふほう行為こういにおける損害そんがい賠償ばいしょう請求せいきゅう、国家こっか賠償ばいしょう法ほうなどの法律ほうりつで争あらそわれている場合ばあいがある。

歴史れきし

環境かんきょう法ほうとは、環境かんきょう問題もんだいに対処たいしょするための法ほうである。そのような法ほうのうち最もっとも古ふるいものが1273年ねんのイギリスにおいて制定せいていされた煤煙ばいえん規制きせい法ほうであるといわれる。これは、石炭せきたんの煤煙ばいえんによる悪臭あくしゅうなどによって首都しゅとロンドンの環境かんきょうが悪化あっかしたため、当時とうじの国王こくおうであったエドワード1世せいが石炭せきたんの燃焼ねんしょうを禁止きんししたものである。これによってもロンドンの大気たいき汚染おせんは解消かいしょうせず、1661年ねんに発表はっぴょうされたジョン・イベリン (John Evelyn) の著書ちょしょ“Fumifugium”にも、その惨状さんじょうが記録きろくされている。しかし、彼かれ以降いこうこうした大気たいき汚染おせんに対たいして真摯しんしに取とり組くむ研究けんきゅう者しゃはほとんど現あらわれず、よって法ほう規制きせいが行おこなわれることも稀まれであった。その後ご、イギリスでは産業さんぎょう革命かくめいの進展しんてんによって大気たいき汚染おせんなどの公害こうがい問題もんだいが深刻しんこく化かし、これによる死亡しぼう率りつの上昇じょうしょうという事態じたいに至いたるが、それでもなお、環境かんきょう法ほう規制きせいの整備せいびは進すすまなかった。

20世紀せいきになると、公害こうがいが国境こっきょうを越こえる事例じれいが、裁判さいばんにおいて争あらそわれるようになる。その先駆さきがけともいえるのがトレイル溶鉱炉ようこうろ事件じけん (Trail Smelter Case) である。これはカナダブリティッシュコロンビア州しゅうにある溶鉱炉ようこうろから排出はいしゅつされた亜硫酸ありゅうさんガスの影響えいきょうが、国境こっきょうを越こえたアメリカ合衆国あめりかがっしゅうこくワシントン州しゅうにまでおよび、そこの農作物のうさくもつや自然しぜん環境かんきょうに被害ひがいを与あたえた事件じけんである。この事件じけんは仲裁ちゅうさい裁判さいばんに付託ふたくされ、1941年ねんに判決はんけつされた。判決はんけつでは、国家こっかが他国たこくに公害こうがいによる被害ひがいを与あたえるような方法ほうほうで国土こくどを使用しようしたり、その使用しようを許容きょようしたりすることはできないというものであった。

しかし、本格ほんかく的てきな環境かんきょう法ほうが登場とうじょう・発展はってんするのは、第だい二に次じ世界せかい大戦たいせんが終おわり、世界せかいが経済けいざい発展はってんを始はじめたために環境かんきょう問題もんだいが地球ちきゅう的てき規模きぼで深刻しんこく化かする20世紀せいきに入はいってからである。前述ぜんじゅつしたように古ふるくから大気たいき汚染おせんに悩なやまされてきたロンドンの状況じょうきょうは、さらに悪化あっかした。特とくに1952年ねん 12月4日にちのロンドン・スモッグは有名ゆうめいで、2週間しゅうかんに4,000人にんが死亡しぼうし、それ以上いじょうの人々ひとびとが呼吸こきゅう器き障害しょうがいに陥おちいった。これは1956年ねんに大気たいき浄化じょうか法ほうが制定せいていされてからもしばらく続つづいた。これよりも少すこし前まえに規模きぼは小ちいさいものの同様どうようの公害こうがいを経験けいけんしたアメリカ合衆国あめりかがっしゅうこくでは1955年ねんに大気たいき浄化じょうか法ほうが制定せいていされ、大気たいき汚染おせん解消かいしょうの技術ぎじゅつ開発かいはつ促進そくしんを図はかった。同どう法ほうはその後ご幾いく度どか改正かいせいされ、1970年ねん大気たいき浄化じょうか法ほう改正かいせい法ほう（マスキー法ほう）による国家こっか的てきな取組とりくみにより大気たいき汚染おせんの解消かいしょうを図はかった。

こうした公害こうがいは、石炭せきたんから石油せきゆへとエネルギー源げんが交代こうたいするエネルギー革命かくめいによって拍車はくしゃがかかり、地球ちきゅう規模きぼの国際こくさい問題もんだいとなった。こうした状況じょうきょうを受うけ、スウェーデンが提案ていあんした国連こくれん人間にんげん環境かんきょう会議かいぎが1972年ねん6月5日にちから16日にちにかけてストックホルムにおいて開催かいさいされた。「かけがえのない地球ちきゅう」を合言葉あいことばに、国際こくさい連合れんごうという国際こくさい的てきな枠組わくぐみにおいて開催かいさいされたこの会議かいぎは、各国かっこく政府せいふが環境かんきょう問題もんだいに関かんしての国際こくさい協力きょうりょくを目指めざした史上しじょう初はじめての国際こくさい会議かいぎであったといえる。同どう会議かいぎは環境かんきょう保全ほぜんのために世界せかいが共有きょうゆうすべき26の原則げんそくからなる人間にんげん環境かんきょう宣言せんげん（Delaration of the United Nations Conference of the Human Environment）を採択さいたくして閉幕へいまくした。この宣言せんげんでは環境かんきょう問題もんだいの改善かいぜんが全ぜん人類じんるいの願ねがいであるとし、天然てんねん資源しげんの枯渇こかつやリサイクル問題もんだい、野生やせい動物どうぶつ保護ほご、有害ゆうがい物質ぶっしつの排出はいしゅつ規制きせい、途上とじょう国こくの環境かんきょう対策たいさくに対たいする援助えんじょ、そして兵器へいきによる環境かんきょう汚染おせんといった、その後ごの世界せかいにおいて主要しゅような論点ろんてんとなる問題もんだいの多おおくを含ふくむものであった。

1972年ねん12月には、上記じょうき宣言せんげんを具体ぐたい化かするために、国連こくれん環境かんきょう計画けいかく（United Nations Environment Programme、略称りゃくしょうはUNEP）が設立せつりつされた。

1982年ねん、国連こくれん人間にんげん環境かんきょう会議かいぎ開催かいさい10周年しゅうねんを記念きねんしてナイロビで行おこなわれた会議かいぎ（ナイロビ会議かいぎ）では、公害こうがい輸出ゆしゅつや核かく廃棄はいき物ぶつの海洋かいよう投棄とうきといった新あらたな問題もんだいを指摘してきしたナイロビ宣言せんげん（英語えいご版ばん）（Nairobi Declaration）が採択さいたくされた。この間あいだ、フロンガスによるオゾン層そうの破壊はかいという新あらたな問題もんだいも提起ていきされた。これを受うけて、国連こくれん環境かんきょう計画けいかくはオゾン問題もんだい調整ちょうせい委員いいん会かいを発足ほっそくさせ、1985年ねん、オゾン層そうの保護ほごのためのウィーン条約じょうやくを採択さいたくするに至いたった。この条約じょうやくは後のちに、1989年ねんのモントリオール議定ぎてい書しょという形かたちで結実けつじつする。

1992年ねん、ブラジルのリオデジャネイロにて行おこなわれた環境かんきょうと開発かいはつに関かんする国連こくれん会議かいぎ（United Nation Conference on Environment and Development、地球ちきゅうサミットともいわれる）は、史上しじょう最大さいだいの国際こくさい会議かいぎとなり、環境かんきょうと開発かいはつに関かんするリオ宣言せんげん (Rio Declaration on Environment and Development)、アジェンダ21（Afenda 21）、森林しんりん原則げんそく声明せいめい（Statment of Forest Principles）が採択さいたくされた。

その後ご、地球ちきゅう温暖おんだん化か問題もんだいが注目ちゅうもくを集あつめ、二酸化炭素にさんかたんそをはじめとする温室おんしつ効果こうかガスの排出はいしゅつ規制きせいに対たいする国際こくさい的てき取組とりくみが切望せつぼうされることとなった。これには1997年ねんの京都きょうと議定ぎてい書しょによって一いち応おうの解決かいけつ策さくが示しめされたものの、アメリカやオーストラリアが批准ひじゅんをしていないことから、その効果こうかについては疑問ぎもんの声こえも多おおい。