生物せいぶつ地理ちり区く

生物せいぶつ地理ちり区く（せいぶつちりく、Ecozone / Biogeographical Region）とは、地球ちきゅう上じょうの地理ちり区分くぶんのひとつ。生物せいぶつの分布ぶんぷをとらえて、地理ちり区分くぶんを行おこなったものである。

概説がいせつ

古代こだいから、生物せいぶつの分布ぶんぷは地域ちいきにより異ことなることが知しられており、気候きこうや生物せいぶつの移動いどうを遮断しゃだんする海うみや高たかい山脈さんみゃくなどが要因よういんとしてあげられてきた。現代げんだいのプレートテクトニクス理論りろんによる大陸たいりくの移動いどう（合同ごうどうや分散ぶんさん）、孤立こりつした地域ちいきでの独自どくじ進化しんかや分岐ぶんきなどを考慮こうりょすると、生物せいぶつ地理ちり区くの生物せいぶつ分布ぶんぷの違ちがいは地球ちきゅう規模きぼの大陸たいりく移動いどうや数すう億おく年ねんの生物せいぶつ史しの現在げんざいにおけるスナップショットを示しめしているものといえる。

また、生物せいぶつ地理ちり区くは生物せいぶつ多様たよう性せいの保持ほじの目的もくてきのため、環境かんきょう保護ほごの分野ぶんやでも重要じゅうような概念がいねんである。例たとえば、世界せかい自然しぜん保護ほご基金ききん（WWF）では、これを基礎きそとして陸上りくじょう・淡水たんすい域いき・海水かいすいの3種類しゅるいの生物せいぶつ環境かんきょうを保全ほぜんするために利用りようされている（グローバル200（英語えいご版ばん））。

8つの生物せいぶつ地理ちり区くの概略がいりゃく

旧きゅう北きた区く

旧きゅう北きた区く (Palearctic ecozone) は、東ひがしアジアの大だい部分ぶぶん（日本にっぽんのトカラ列島れっとう悪石島あくせきじま以北いほく、中国ちゅうごくの秦はた嶺みね山脈さんみゃく以北いほく、朝鮮半島ちょうせんはんとう）、北きたアジアおよび中央ちゅうおうアジア、中東ちゅうとう（アラビア半島はんとう南部なんぶおよびイラン南部なんぶは除のぞく）、ヨーロッパを含ふくむヒマラヤ山脈ひまらやさんみゃく以北いほくのユーラシア大陸たいりくと、北きたアフリカ（サハラ砂漠さはらさばく以北いほく）から成なるエリア。区内くないは、亜熱帯あねったい・温帯おんたい・冷ひや帯たい・寒帯かんたいと様々さまざまで、四季しきの変化へんかがはっきりしている。代表だいひょう的てきな動物どうぶつは、ラクダ、ヒツジ、ウマ、ノガンなど。ユーラシア大陸たいりくはローラシア大陸たいりくの一部いちぶとして北きたアメリカ大陸あめりかたいりくとつながっていた時期じきがあり、特とくに植物しょくぶつ相しょうは両者りょうしゃで共通きょうつうするグループが多おおい。植物しょくぶつ地理ちり区くでは新北しんきた区くと旧きゅう北きた区くを合あわせて全ぜん北きた区くとして区分くぶんする。面積めんせきは5410万まん平方へいほうキロメートル。

東洋とうよう区く

東洋とうよう区くとオーストラリア区くの境界きょうかい線せん。最もっとも左ひだりに位置いちしているのがウォレス線せんである。

東洋とうよう区く (Indomalaya ecozone) は、東ひがしアジアの一部いちぶ（日本にっぽんのトカラ列島れっとう小宝島こだからじま以南いなんの南西諸島なんせいしょとう、台湾たいわん、中国ちゅうごくの秦はた嶺みね山脈さんみゃく以南いなん）、東南とうなんアジアの大だい部分ぶぶん、インド亜あ大陸たいりくを含ふくむエリア。このうちインド亜あ大陸たいりくは、ゴンドワナ大陸たいりくから分離ぶんりし、始はじめ新しん世よにユーラシア大陸たいりくと合体がったいした。合体がったい後ごも、形成けいせいされたヒマラヤ山脈ひまらやさんみゃくが障壁しょうへきとなったため、ユーラシア大陸たいりくの他ほかの地域ちいきとは生物せいぶつ相しょうが異ことなる。そのほとんどが亜熱帯あねったいや熱帯ねったい地域ちいきである。オーストラリア区くとの境界きょうかいはウォレス線せんと呼よばれる。面積めんせきは750万まん平方へいほうキロメートル。

エチオピア区く

エチオピア区く (Afrotropic ecozone) は、アラビア半島はんとう南部なんぶ、イラン南部なんぶ、アフリカ大陸たいりくのサハラ砂漠さはらさばく以南いなん（サブサハラアフリカ）を占しめるエリア。そのうち、マダガスカルは約やく8000万まん年ねん前まえにゴンドワナ大陸たいりくから分離ぶんりし、それ以来いらいアフリカ大陸たいりくとは海峡かいきょうで隔へだてられているので、生物せいぶつ相しょうが異ことなっている。固有こゆうの鳥類ちょうるいは、ダチョウ、ヘビクイワシ、タイヨウチョウ科か、ホロホロチョウ科か、ネズミドリ目めの6グループが挙あげられる。新しん熱帯ねったい区くに対たいして、旧きゅう熱帯ねったい区くと呼よばれることもある。面積めんせきは2210万まん平方へいほうキロメートル。

オーストラリア区く

オーストラリア区く (Australasia ecozone) は、オーストラリア、ニュージーランド、ニューギニア島とうおよび周辺しゅうへん諸島しょとう（オーストララシア）と、東南とうなんアジアのうちロンボク海峡かいきょう、マカッサル海峡かいきょう以東いとうのエリアで、ウォレス線せんによって東洋とうよう区くと分離ぶんりしている。さらにオーストラリア大陸たいりくは、長期間ちょうきかん、孤立こりつした大陸たいりくであるため、特異とくいな生物せいぶつグループが生息せいそくしている。チロエオポッサムとアメリカ有ゆう袋ぶくろ大目おおめ以外いがいの有ゆう袋ぶくろ類るいと、単たん孔あな類るいはオーストラリア区くのみに生息せいそくしている。オーストラリア区く固有こゆう科かの鳥類ちょうるいは、エミュー科か、カグー科か、クサムラドリ科か、クビワミフウズラ科か、コトドリ科か、ツチスドリ科か、フエガラス科かなどが挙あげられる。面積めんせきは770万まん平方へいほうキロメートル。

オセアニア区く

オセアニア区く (Oceania ecozone) は、太平洋たいへいようの島々しまじまのうち、オーストラリア、ニュージーランド、ニューギニア島とうおよびそれらの周辺しゅうへん諸島しょとうをのぞいた残のこりの島々しまじまのエリアである。ミクロネシア、ニュージーランドを除のぞくポリネシアおよびフィジー諸島しょとうから成なり、日本にっぽんの小笠原諸島おがさわらしょとうも含ふくまれる^[1]。孤島ことうにはクイナ類るいなど固有こゆう種しゅが多おおい。面積めんせきは100万まん平方へいほうキロメートル。

新北しんきた区く

新北しんきた区く (Nearctic ecozone) は、北きたアメリカ大陸あめりかたいりくのうちメキシコ高地こうち以北いほくのエリアで、グリーンランドを含ふくむがフロリダ半島はんとう南部なんぶは除のぞかれる。現在げんざいは北きたアメリカ大陸あめりかたいりくと南みなみアメリカ大陸あめりかたいりくはパナマ地峡ちきょうで繋つながっているが、数すう百ひゃく万まん年ねん前まえまでは海うみで隔へだてられていた。そのため、両者りょうしゃでは生物せいぶつ相しょうがかなり異ことなる。南みなみアメリカ大陸あめりかたいりくは新しん熱帯ねったい区くに区分くぶんされている。北きたアメリカ大陸あめりかたいりくはローラシア大陸たいりくの一部いちぶとしてユーラシア大陸たいりくとつながっていた時期じきがあり、特とくに植物しょくぶつ相しょうは両者りょうしゃで共通きょうつうするグループが多おおい。植物しょくぶつ地理ちり区くでは新北しんきた区くと旧きゅう北きた区くを合あわせて全ぜん北きた区くとして区分くぶんする。面積めんせきは2290万まん平方へいほうキロメートル。

新しん熱帯ねったい区く

新しん熱帯ねったい区く (Neotropic ecozone) は、南みなみアメリカ大陸あめりかたいりくおよび中央ちゅうおうアメリカ、さらに西にしインド諸島しょとうとフロリダ半島はんとう南部なんぶを含ふくむエリア。異い節ふし上目うわめ(被ひ甲かぶと目め・有毛ありげ目め)は、この地域ちいきのみに分布ぶんぷする。新しん世界せかいザル類るいは、パナマ地峡ちきょう形成けいせいよりはるか以前いぜんに南みなみアメリカとアフリカがつながっていた（或あるいは渡わたれるほど近ちかかった）時期じきに渡わたってきた猿さる類るいが独自どくじに進化しんかしたグループである。また、その他た有ゆう胎盤たいばん類るいの多おおくは、パナマ地峡ちきょうが形成けいせいされた後のちに新北しんきた区くから地峡ちきょうを通とおってきた。面積めんせきは1900万まん平方へいほうキロメートル。

南極なんきょく区く

南極なんきょく区く (Antarctic ecozone) は、南極大陸なんきょくたいりくおよび南極なんきょく海かいを含ふくむエリア。南極大陸なんきょくたいりくはゴンドワナ大陸たいりくから分裂ぶんれつして以来いらい、独立どくりつ大陸たいりくである。気候きこうが過酷かこくであるため、特別とくべつに環境かんきょう順応じゅんのうした種たねのみが生息せいそくし、大型おおがた生物せいぶつは沿岸えんがん部ぶに留とまる。代表だいひょう的てきな動物どうぶつは、ペンギン、アザラシ、クジラなどである。面積めんせきは30万まん平方へいほうキロメートル。

区割くわり見直みなおしの提唱ていしょう

これらの伝統でんとう的てきな区割くわりに対たいし、動物どうぶつ地理ちり区くについてのみではあるが、2013年ねん 1月がつ4日にち号ごうの『サイエンス』に、Ben G. Holtらによる区割くわりの見直みなおしを提唱ていしょうする論文ろんぶんが掲載けいさいされた。これは単たんに生物せいぶつの分布ぶんぷのみならず、計けい21037種しゅの両生類りょうせいるい・鳥類ちょうるい・哺乳類ほにゅうるいについてそれぞれの中なかでの系統けいとう関係かんけいも考慮こうりょに入いれられたものである。新あたらしい見直みなおしでは区くは11に増ふえている（南極なんきょく区くは除のぞく）^[2]。新設しんせつされた区くは、Sino-Japanese、Saharo-Arabian、Madagascan、Panamanianである。なお、区くの境界きょうかいにも若干じゃっかんの変更へんこう点てんがある（アラビア半島はんとうがエチオピア区くと旧きゅう北きた区くに分わかれていたのが全域ぜんいきがSaharo-Arabianになったこと、ニューギニア島とうのオセアニア区くへの移動いどうなど）^[3]。

脚注きゃくちゅう

[脚注きゃくちゅうの使つかい方かた]

外部がいぶリンク

『生物せいぶつ地理ちり区く』 - コトバンク
『動物どうぶつ地理ちり区く』 - コトバンク
『植物しょくぶつ区く系けい』 - コトバンク
WWF日本にっぽんジャパングローバル200^{[リンク切きれ]}（日本語にほんご）
“生物せいぶつ地理ちり区くの図ず” (英語えいご). panda.org. 2004年ねん6月がつ11日にち時点じてんのオリジナルよりアーカイブ。2004年ねん6月がつ19日にち閲覧えつらん。

[1] 世界せかい遺産いさん条約じょうやく暫定ざんていリスト環境省かんきょうしょう、林野庁りんやちょう

[2] An Update of Wallace’s Zoogeographic Regions of the World | Science

[3] Scientists nearly double the number of biogeographic realms

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